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NHKが“森友スクープ記者”告発本に卑劣攻撃! 圧力暴露を「虚偽」「ルール違反」とイチャモン恫喝、内部では口止め会議
相澤冬樹著『安倍官邸vs.NHK 』(文藝春秋)
あの“森友スクープ記者”相澤冬樹氏が上梓した著書をめぐり、さっそく、古巣のNHKが“攻撃”を展開し始めた。
本サイトでも“NHKの政権忖度人事”とお伝えしたように、相澤氏はNHKの記者として森友問題発覚当初から継続して取材にとりくみ、スクープを連発してきた敏腕記者。ところが今年5月の局内人事の内々示で、本人の「記者を続けたい」という希望を無視するかたちで考査部への異動を告げられ、8月にNHKを退社。現在は大阪日日新聞に転職し、記者活動を続けている。
その相澤氏が、今月13日、森友問題をめぐるNHK内部の“圧力”などを暴露したノンフィクション本『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)を出版したのだが、これに対して、NHKは19日の定例会見で、同書と相澤氏を公然と批判したのである。
定例会見では、担当の編成局計画管理部長がNHKのコメントとして「主要な部分において虚偽の記述が随所に見られる上、未放送原稿を規則に反して持ち出し、加工した上で公表もしており、極めて遺憾である」と発表。さらに、「記者が守るべきルールを守っていないということを鑑み、必要に応じて対応を検討していく」としたのだ。
「必要に応じて対応を検討」などと言っているが、これは暗に訴訟をチラつかせた圧力としか言いようがない。しかも、NHKは相澤氏の著書のどの部分が「虚偽」と主張しているのかさえ明かしていないのだ。こんなことが許されるのか。
本サイトは20日、すでに新聞等が報じている19日定例会見の内容について、あらためてNHKに問い合わせ、相澤氏の著書のいかなる具体的記述が「虚偽の記載」や「記者が守るべきルールを逸脱」にあたるのか、その理由も含めて質問した。しかし、同日夜、NHK広報部からファクスで送られてきた返答は〈取材や制作に関することにはお答えしていません〉の一点張りだった。
「虚偽の記述」などと公然と批判しながら、一切具体的なことを言おうとしないNHKの姿勢は、あきらかにおかしい。裏を返せば、相澤氏の著書には、NHKがここまで隠し通さねばならないような、核心をついた記述があるということではないのか。
実際、同書では、相澤氏が「記者を外された」顛末以外にも、いびつとしか言いようがないNHK内部の圧力や軋轢が描かれている。
たとえば、森友問題のNHKでの第一報をめぐる“2本の原稿”。これは2017年2月8日、木村真・豊中市議が売却された国有地の金額について情報公開請求をしたのに、開示されなかったことは不当であるとして記者会見したことを報じたもの。同書には、記者会見を取材した相澤記者による〈元の原稿〉と、これを当時の司法担当デスクが〈書き換えた原稿〉が紹介されている。
実は、相澤記者の“元原稿”には、本文の早い段階で、問題の土地に建設中の小学校の名誉校長に安倍昭恵夫人が就任することが、地の文で記されていた。ところが、“デスクが書き換えた原稿”からは、昭恵氏に関する記述が本文の最後に追いやられ、しかも、木村市議の発言として、すなわちカッコつきに直されているのだ。これはどういうことなのか。相澤氏は同書でこう説明している。
〈現場のYデスクの判断で当たり障りのない原稿に書き換えたのである。Yデスクは私に言った。「この時点で昭恵夫人の名前をリードから出すのはちょっと……木村市議が語った言葉にすれば、差し支えないかと……」視聴者にわかりにくくなろうが構わない。というより、わかりにくくなった方がいい。まさに「忖度原稿」だ。〉(『安倍官邸vs.NHK』)
行政のトップ・総理大臣の夫人である昭恵氏の名前こそ“トップバリュー”であることは、報道に身を置く者なら誰しもが理解できるはずだ。にもかかわらず、NHK内部ではそれを微妙に弱めようという動きがあったというのである。しかも、この“NHKの第一報”は不可解にも全国放送にまわされず、関西でストップされたのだ(結果、森友問題はその翌日の朝日新聞朝刊の報道で全国的に知られることになる)。
渾身スクープを飛ばした夜、局上層部から「将来はないと思え」と怒りの電話
政権に対する忖度としか思えないが、さらに相澤氏は、局内上層部からの“圧力”を赤裸々に明かしている。たとえば、昨年7月26日の『NHKニュース7』で報じられた相澤記者のスクープ。これは、近畿財務局の担当者が森友側に、国有地の購入価格について「いくらまでなら支払えるか」と、購入可能な金額の上限を聞き出していた、という事実を伝える内容。それまで「森友側との事前交渉は一切なかった」と強弁してきた財務省のウソ、佐川理財局長(当時)の虚偽答弁を暴く特ダネで、すべての大手マスコミが後追いに走った。しかし、その渾身のスクープ当日の夜、NHK局内では──。
〈ところがその日の夜、異変が起きた。小池報道局長が大阪のA報道部長の携帯に直接電話してきたのだ。私はその時、たまたま大阪報道部のフロアで部長と一緒にいたので、すぐ横でそれを見ていた。報道局長の声は、私にも聞こえるほどの大きさだ。「私は聞いてない」「なぜ出したんだ」という怒りの声。〉(前掲書)
この「小池報道局長」というのは、政治部出身で安倍官邸とも強いパイプを持つとされる小池英夫氏のこと。国会でも取り上げられたように、森友問題関連のニュースで現場に細かく指示を出しているのは周知のとおりで、局内ではその頭文字から「Kアラート」なる異名がついている。相澤氏の著書によれば、小池報道局長からの大阪の報道部長への“怒りの電話”は、いったん切れてもなんども繰り返しかけてきたという。
〈最後に電話を切ったA報道部長は、苦笑いしながら言った。
「あなたの将来はないと思え、と言われちゃいましたよ」
その瞬間、私は、それは私のことだ、と悟った。翌年6月の次の人事異動で、何かあるに違いない……。〉(前掲書)
さらに、8億円値引きの根拠としたゴミ撤去費用をめぐり、財務省理財局職員が森友側に「トラック何千台も使ってゴミを撤去したと言ってほしい」との“口裏合わせ”を求めていたことをすっぱ抜いた特ダネも、なかなか放送させてもらえなかったという。財務省がいかに“森友ありき”で行政を歪めたかを示す決定的なスクープのひとつで、今年4月の『ニュース7』で報じられたのだが、このときもあわや“見送り”になりかけていたというのだ。
そもそも相澤記者は、このネタをまず、所属する大阪のデスクではなく、森友問題の取材で協力してきた東京社会部の「Xデスク」と相談。するとXデスクは「大阪のデスクに言ったらすぐに(小池)報道局長に伝わってしまう。そうなると、なんやかんやと介入されてネタを潰されてしまいます」という。そこで、Xデスクの上司である「K社会部長」が小池報道局長と駆け引きをしつつ、相澤氏は取材を続けることになった。
その後、相澤記者は完全な裏取りを成し遂げ、あとは4月4日の『ニュース7』と、同日に森友問題の特集を予定していた『クローズアップ現代+』の放送を待つ段階だった。ところが、放送予定当日の夕方、Xデスクから「放送が出せないかもしれません」という焦りの電話がかかってきたのだというのだ。
『安倍官邸vs.NHK』をめぐり、“Kアラート”報道局長が会議で…
「民進党(当時)のO議員がなぜか永田町で『きょうNHKが森友の特ダネを出すから見ろ』と言って回っているらしいんですよ。そのことが政治部を通して報道局長に伝わって、局長が『野党に』情報が漏れていると激怒しているんです。今、(K)社会部長が懸命に説得していますから、ちょっと待ってください」
結果として、放送開始10分前にXデスクから再び電話が入り、なんとか『ニュース7』で報じられた。しかし、これだけの特ダネにもかかわらず、トップではなく、なんと6番目の扱い。「東京で初夏日観測」という話題よりも後ろだった。それだけではない。その日の『クローズアップ現代+』には、結局、この特ダネは使われなかったのだ。相澤氏はXデスクから電話でこう告げられたという。
「クロ現にはこのネタは入りません。O議員が『ニュース7にもクロ現にも出る』と言っていたので、(小池)報道局長が『野党議員の言うままに放送できるか!』ということで、クロ現での放送は流れました」
このように、相澤氏の著書には、不可解にスクープを弱められたり、上層部からの圧力が相次いだことが克明に記されている。
しかし、前述のとおり、NHKは今回、同書に対して「虚偽の記述が随所に見られる」などと異例の攻撃を展開した一方、定例会見でも具体的な記述については一切触れず、本サイトの取材に対しても「お答えしていない」と突っぱねるだけだった。なぜなのか。NHK関係者が声をひそめる。
「どこが『虚偽』だなんて具体的に言えるわけがないんです。実は、相澤さんの本については、発売日の13日に報道局の編集会議で取りあげられていて、小池報道局長の『私の意向で報道内容が恣意的に歪められたことはない』という発言に続き、例の『虚偽の記述が随所に見られる』という発言があったんです。しかも発言したのは他ならぬ、本で、特ダネを出すために小池報道局長と駆け引きをした『K社会部長』とされている人。いまはその上の編集主幹というポストです。当然、相澤さんと一緒に仕事をし、苦楽をともにしてきた同僚は、小池報道局長からの圧力などを身をもって知っている。でも、組織の人間ですから……。上司から詰められて『はい、本の内容は事実です』とは口が裂けても言えない。編集主幹(元社会部長)の発言も、そう言わざるを得なかったんでしょう。会見で述べた計画管理部長のコメントはそれを繰り返しただけ。がんじがらめですよ」
巨大組織の同調圧力──。そのNHKの内情こそが、政治権力を忖度した上層部を、現場が忖度するという“負の連鎖”を生んでいる。こうした体制から変わらなければ、政権にマイナスな報道はどんどん“自粛”されていくばかりだ。なにが「公共放送」か。NHKを辞めざるをえなかった一人の記者の話ではない。このままでは、わたしたちの「知る権利」は完全に闇に葬られてしまうだろう。
(編集部)
最終更新:2018.12.21 12:49
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