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産経が「リベラルの男はキンタマ小さい」なる説を堂々掲載! 筆者の竹内久美子はデタラメ動物行動学でLGBT差別やレイプも正当化
「別冊正論」31号(産経新聞社)
産経に掲載された、エッセイスト・竹内久美子氏のコラムが話題になっている。なんでも竹内氏によれば、男性はいわゆる金玉の大小によってリベラルになるかどうかが決定づけられ、「睾丸が小さい日本人男性は『日本型リベラル』になりやすい」というのだ──。
もう、この時点で読者諸賢は凄まじいトンデモ感に面食らっていると思うが、実際、何度読み返しても、何から何までトンデモとしか言いようがなかった。どういうことか。まじめに解説してみよう。
そもそも、竹内久美子氏といえば、『男と女の進化論』(新潮社)、『そんなバカな! 遺伝子と神について』(文藝春秋)など多数の著書をもつ「動物行動学研究家」で、生物学“的”な観点から日本人論や恋愛論を手がけることで知られる。
そんな竹内氏が、「『日本型リベラル』の化けの皮 ガラパゴスなサヨクたち 知らずにはびこる反日洗脳と言論封殺」なる特集を組んだ3月26日発売の「別冊正論」(産経新聞社)31号に寄稿。「動物学で日本型リベラルを看ると──睾丸が小さい男はなりやすい!!」と題して、冒頭の“リベラル金玉小さい論”を展開した。
また、同月28日付の産経新聞紙上のオピニオン欄「正論」でも、論旨はそのままに、「睾丸」を男性ホルモンである「テストステロン」に言い換えてコンパクトにしたコラムを寄せている(「『日本型リベラル』の真相は何か」)。同じ趣旨の文章なので、以下にまとめて竹内氏の主張を紹介する(ヤマカッコ内は産経新聞あるいは「別冊正論」からの引用)。
はじめに竹内氏は、「日本型リベラル」とは〈共産主義、社会主義が失敗に終わり、所詮は絵空事でしかなかったと判明した今でも、その思想にしがみついている人々〉と定義し、〈日本に特有の存在である〉と断定。〈自分たちの思想に沿わせるために、思想に沿わない事柄に対し妨害行為をとる〉などと悪罵を連ねる。
その上で、後半に「本題」として“リベラル金玉小さい論”に取り掛かるのだが、これが偏見や誤謬にみちたヤバすぎる代物なのだ。
〈共産主義、社会主義では何より「貧富の差がないこと」や「平等」が重要視される。どちらも反論の余地のない、「政治的に正しい」主張のように思われる。しかし、こういう思想に強く惹かれる男がいるとしたら、そこにはこんな理由が隠されているのではないだろうか。
自分は稼ぎが多くない。稼ぎのいい男が女にモテるのはけしからん。自分は男としての魅力に欠け、女が寄り付かない。こういう自分にも「平等」に女を分け与えよ!
共産主義、社会主義とは要は女にモテない男にとって、このうえなく心地よい響きを放つ存在なのではないだろうか。〉
「モンゴロイドは睾丸が小さいからイクメン度が高い」とトンデモ主張、じゃあなんで日本は…
リベラル=共産主義・社会主義という浅薄すぎる理解もさることながら、それを通俗的な性愛論(下ネタ)と強引に結びつける……。これで「動物行動学研究家」を自称しているのだから呆然とする。
さらに竹内氏は〈睾丸サイズの大きい男は、女性関係も派手であり、モテるという傾向〉〈睾丸の小さい男は、子の世話をよくし、イクメン度が高い〉とする欧米の研究があるといい、それと、モンゴロイドはニグロイドやコーカソイドと比べて睾丸が小さいなる話を掛け合わせてこう書く。
〈共産主義、社会主義は睾丸サイズの小さい、つまり女にモテない男にフィットした思想であると私は考えるが、日本人の男は睾丸サイズの小ささという点においてそもそも、これらの思想に惹かれやすい要素を持っていると言えるだろう。〉
かくして、〈ともあれ日本型リベラルの男を発見したなら、彼はまず間違いなく、女にモテないタイプ〉などと主張するのだ。
控えめに言っても理解に苦しむ。こうした種類の疑似科学的論理に対しすべての反駁をはじめるとキリがないが、ひとつだけ端的な反例をあげておこう。
竹内氏に従えば、モンゴロイドが多数をしめる日本では、欧米に比べて男性の育児協力が進んでいるはずである。しかし、周知の通り、現実は真逆だ。
事実、日本で男性が子育てや家事に費やす時間は、先進国中で最低水準。内閣府によれば、6歳未満の子どもを持つ夫婦の1日あたりの「育児・家事関連時間」は、日本では妻が7時間41分(うち育児時間は3時間22分)に対し夫はわずか1時間7分(同0時間39分)。一方、他先進国の男性は、アメリカが2時間53分(同1時間9分)、ノルウェーが3時間12分(同1時間13分)など、あえて竹内氏の言い方を使えば「睾丸が大きいコーカソイド」のほうがよっぽど「イクメン」なのである。
つまるところ、竹内氏はさも「動物行動学の知見」に基づいているかのように述べているが、実際には、出典もデータもゼロか曖昧な部分が多いのはもちろん、ようは自説に都合の良い話のパッチワークで、科学的にも論理的にもデタラメなのだ。言い換えれば、「日本型リベラル」なるものをバッシングするために、やれ「睾丸」だの「モテない」などと訳のわからないことを書き散らしているとしか思えない。
他にも、唖然としたのが、〈共産党が未だに存在する国でよく知られるのが、中国、北朝鮮、そして日本だが、それはいずれもモンゴロイドの国であり、男の睾丸が小さい傾向にあるからではないだろうか〉というくだりだ。今さら説明するまでもないが、国会で共産党が議席を持つ国は、ロシアはもちろん、ポルトガルやギリシャ、ブラジルもそうだし、「共産党」という名前の付いてない政党も含めれば、急進左派政党は多くの民主主義国で議席を獲得している。それがなぜ、共産党が未だに存在するのは中国、北朝鮮、日本というモンゴロイドの国、という話になるのか。さっぱりわからない。ようするに、この人、政治のことも世界のことも何にも知らないのである。
ちなみに、キューバについては、竹内氏もさすがに共産党があることを知っていたらしいが、〈本物の共産主義ではない、“なんちゃって共産主義”のようなもの〉だから例外らしい。苦笑。
「進化論」「動物行動学」の皮をかぶったトンデモ説で、フェミニズムも民主主義も攻撃
もちろん、最初から言っているように、普通に教養のある人なら、こんな言説は一読するだけでデマと分かるわけで、本気で取り合う必要はないのかもしれない。
しかし、竹内氏が問題なのは、こうしたトンデモ説がただのトンデモで済まず、危険な政治的主張や差別肯定思想に利用されていることだ。
たとえば、竹内氏はそのバカげたトンデモを、無茶苦茶なフェミニズム・バッシングにも転用している。「別冊正論」版の最後に、竹内氏は〈女性で日本型リベラルとはどんな存在であるか〉に言及し、〈パートナーが日本型リベラルであり、その影響を受けている〉か〈本人が元々フェミニスト〉としてこう述べている。
〈人間も含めた動物界は、メスがオスを選ぶのが原則である。この点からしてすでにメスに主導権があるのは明らかだ。
もっとも動物界を見渡さなくても、少しばかり社会経験をつんだ女なら、社会を動かしているのは女だと、たちまち看破できるはずである。
要はフェミニストとは女は差別されているという先入観を持ち、現実を見ず、見たくない人々。この点で思想や理想を事実の前に置く、日本型リベラルとよく似ている。〉
もはや科学の濫用以前の問題だ。そもそも、生物学的差異だけでなく文化的・社会的な意味が付与された人間の性の問題にオス・メスの動物的特性をそのまま持ち込むことがナンセンスなのはもちろんだが、仮に、竹内氏の言うようにメスに主導権があるとしたら、なおさら、社会制度もメスの主導権が反映されるべきでメスが抑圧されるのはおかしい、となるのが普通だろう。この人、自分の論理が破綻していることに気づかないのか。
ちなみに、竹内氏は「動物行動学研究家」を名乗っているが、大学院修了後も学術論文を学会に発表するような「学者」ではない。だが、80年代から一般書のなかで、進化論(自然淘汰)や動物行動学を転用したトンデモな言説をばらまき続けてきた。
たとえば、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』の説を曲解し、社会福祉は貧乏人の子どもの遺伝子を増やすだけだという意味合いで〈福祉を子どもに適用するのを控えるという法案も提出してもらえれば明るい未来が約束される〉(『そんなバカな!』)などと主張。また、特権階級を〈庶民が知らず知らずに作り出した最高で最前の防衛システム〉(『男と女の進化論』)と賞賛する。
『賭博と国家と男と女』(文藝春秋)ではより過激になり、〈君主制、階級制は淘汰の産物。遺伝子の利己性が追求された結果がこれなのだ〉と主張し、〈君主制というものを、我々はもっと評価してもいいような気がする。民主主義ではなく、君主制である〉〈民主主義の次に来るべきものは、神々しさを湛えた君主の復活ではなかろうか〉などと書いた。
じゃあなんで君主制は歴史的に「淘汰」されていったの? そうツッコんだのは筆者だけではないだろう。
トンデモどころじゃない! LGBT差別も、レイプも、正当化する竹内久美子氏
ほかにも『小さな悪魔の背中の窪み』(新潮社)では、病気に対する抵抗力の差異などを根拠にして〈血液型と性格にはやっぱり関係がある!〉と、無数の専門家が根拠なしと否定してきた俗説を正当化し、「と学会」の山本弘氏からも晴れて「トンデモ本」のお墨付きをもらった。
さらに、疑似科学とかそういうレベルを超えて、ただただ酷い記述も多い。『BC!な話 あなたの知らない精子競争』(新潮社)では、娼婦になることを〈大変に優れた生物学的選択だろう。お金が儲かるのはもちろんだが、それ以上に、素晴らしい生存力を持った宝のような子が手に入る〉〈一部の女が売春にあまり抵抗を感じないとしたら、それは売春が人間の歴史の中で重大な意味を担ってきたから、最強の精子を捕まえる絶好の機会であり続けたからではあるまいか〉と記す。
そして、男性による女性のレイプについてこんな見解を述べるのだ。
〈どう考えたところで、女は被害者以外の何物でもないように思われる。しかしその生物学的意味を考えてみるとき、(中略)。レイプに関してだけは男に完敗、ただやられっ放しとはとても考えられないのである。〉
〈レイプのときの受胎率は通常よりも随分と高いのだ。(中略)これはもう女は、もし不幸にもレイプされてしまったなら、そこで一気に形勢を逆転し、むしろその機会を利用しようとする場合さえあるのではないか、とでも思わざるを得ないのである。〉
〈昔から言うように、「嫌よ、嫌よも好きのうち」である。女は抵抗しつつもその実、男に本当にその意志と実行力があるのかを試すことがままあるのである。そのエスカレートした形がレイプというわけなのだ。レイプで女が抵抗するのは、実は男を試しているということなのである。なるほど、そういうことだったのか……。〉(『BC!な話』)
言葉もない。また同性愛についても「兵役逃れ仮説」なるものを独自に思いついたとして、こんなトンデモを書きなぐっている。
〈同性愛は特に軍隊内では好ましからざる行為である。何しろ兵士さんたちの士気は弱まり、集団の秩序が乱れる。軍隊においては男の攻撃性をいかに束ね、敵へ転ずるかが最重要課題であるから、同性愛者は厄介者とみなされる(中略)。けれど、その男が同じ民族の人間であれば、まさか処刑まではされないだろう。彼は軍隊には不向きな人間だが、愛国心については十分である。そこで、たとえば傷病兵と同じような扱いを受け、最終的には故郷へ送還される。故郷では多少非国民扱いを受けるかもしれないが、戦場で死ぬという大きなリスクから彼はめでたく解放されたのである。〉(『男と女の進化論』)
〈同性愛者は戦争と兵役という、人間に特有の状況の中で有利に自分の遺伝子のコピーを残してきたのではないか。だから「兵役逃れ仮説」なのである。人々が彼らを“差別”し、白い眼で見たりする性質を持っているのは、彼らが兵役逃れという“国賊的”な方法で生き延び、子孫を残そうとしているからかもしれない。そのカラクリを潜在的に知っているからではないだろうか。〉(『BC!な話』)
ひっきょう、言っていることはLGBT差別の正当化でしかない。しかもタチが悪いのは、そのヘイトまがいの主張が論理的に穴だらけであると専門家でなくてもわかることだ。「動物行動学的に見ると〜」「進化論的には〜」と前置けば、“妄想書きなぐりノート”でも許されると思っているのか。科学を、いや人間を冒涜している。
というか、その差別性を考えると、生物学の皮を被ったヘイトクライムだったナチスの優生計画とほとんど変わりはないと言ってもいい。
動物行動学の専門家たちも、竹内久美子氏を「エセ生物学」「世界一の悪用」と批判
実際、こうした竹内氏の“暴走”については、本物の「動物行動学」を研究する専門家の間からも厳しい批判が浴びせられてきた。
一例をあげると、行動生態学を専門とする粕谷英一・九州大学理学研究院准教授は、竹内氏の著作の全体的な特徴について〈動物行動学や動物の社会生物学からの学問的な根拠があるわけではない〉〈竹内の論法では人間についておよそどんな結論でも導くことが可能〉〈生物学からの議論というよりはオールドタイプの日本人論の新型とでもいうもの〉などと喝破している(「現代思想」1992年5月号/青土社)。
また、生態学の権威である故・伊藤嘉昭名古屋大学名誉教授は〈世界で一番大胆といえる社会生物学の悪用が日本人によってなされている。これをしたのは竹内久美子である〉と極めて強く批判した(『新版 動物の社会 社会生物学・行動生態学入門』東海大学出版)。
ようするに、竹内久美子氏という人はまっとうな学問の世界ではとっくに、「エセ生物学」「世界で一番の悪用」と烙印をおされている人物なのだ。
しかし、こんなトンデモ学者のトンデモ言説を保守論壇はずっと重用してきた。あげくはルベラル叩きのために“リベラル金玉小さい論”である。
こんなトンデモでも信じるバカは確実に増えている。おそらく、産経周辺では、竹内氏の珍理論を真に受けて、いや、むしろ積極的に持ち出して「やっぱりサヨクはキンタマ小さいんだよ!」などと盛り上がっているのだろう。いや、冗談ではない。そもそも、こうした論理破綻が明らかなレベルの原稿を、一応とはいえ“保守系全国紙”の産経が掲載したことこそ、「保守」の劣化の証明なのだ。
そういえば、作家の百田尚樹センセイもよくこんなツイートをしていた。〈長いこと風呂入ってないから、キンタマがかゆい〉〈キンタマがかゆいのでボリボリかいてたら、血が出た(>_
あまりのトンデモにあてられたのかもしれない。愚にもつかないことを思い出してしまった。気持ち悪。
(小杉みすず)
最終更新:2018.10.18 04:57
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