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平和への思いを表現した平昌の開会式とは真逆に? 東京五輪の演出は安倍が大好きな特攻賛美映画『永遠の0』の監督
山崎貴の監督した映画『永遠の0』
ネトウヨや保守メディアはもちろん、ワイドショーまでが連日、底意地の悪いバッシングを繰り広げている平昌五輪。だが、日本からの「失敗しろ」コールも虚しく、一昨日の開会式は大きな盛り上がりをみせ、世界中に感動を与えた。
韓国と北朝鮮の合同チームによる統一旗をかかげての入場、南北の女子アイスホッケー選手が2人で聖火を運び、最終ランナーであるキム・ヨナへとつないだ聖火リレーはもちろんだが、中盤のショーも人種や民族を超えた融和、世界平和への強い思いを込めた素晴らしいものだった。韓国で平和な時代にしか現れないとされる「人面鳥」を登場させ、ジョン・レノンのイマジンを歌い上げながら、キャンドルで平和の象徴である鳩をかたちづくっていくクライマックス。朝鮮半島がいまも一触即発の状態にあるなかで、こうしたメッセージを発信したことは非常に大きな意味がある。
しかも、これらのショーは平和を希求する姿勢や韓国の伝統文化を表現しつつも、言語や国籍の壁を越え、誰もが愉しめるエンタテインメントとして成立していた。
これはおそらく、開会式の総合監督のソン・スンファン(宋承桓)、総合演出・のヤン・ジョンウン(梁正雄)コンビの手腕によるところが大きいだろう。
周知のように宋承桓は、韓国の伝統的なリズム「サムルノリ」をベースに、包丁やまな板などのキッチン道具を楽器として用いたミュージカル『NANTA』を生み出したことで知られる芸術監督。その言語の壁を超えてたのしめるパフォーマンスは韓国で史上最多の観客動員数を記録しただけでなく、日本をはじめアメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、ロシア、中国、オーストラリアなど世界各国で公演を成功させ、ブロードウェイにも進出するなど、国際的な評価を得てきた。
一方、ヤン・ジョンウン(梁正雄)も韓国で人気の演出家だが、日本やスペインなどでも演劇活動をした経験があり、2008年には、韓国の複合芸術センター・芸術の殿堂と日本の新国立劇場が共同で制作した『焼肉ドラゴン』を、在日韓国人の作者・鄭義信と共同演出。演劇賞を総なめにしたことで知られている。
民族主義、ナショナリズムが強いといわれる韓国だが、開会式はけっして“内向き”でなく、歴史への深い造詣をもちながら世界に通用するクリエイターをきちんと見極めて起用したことが、成功につながったといえるだろう。
東京五輪の演出は国際性のかけらもない『三丁目の夕日』の山崎貴監督
しかし、一方の日本はどうだろう。この状況で韓国側に「五輪が終わったら米韓軍事演習を実施しろ」と迫った安倍首相。韓国の歴史をふりかえるパートで、「外国からの度重なる侵略など苦難にさらされてきた韓国」とまるで他人事のように解説したNHKの中継。そのNHKを「反日」と攻撃し、プロジェクションマッピングを使っていたというだけで「リオ五輪閉会式の東京のプレゼンテーションのパクリだ」とがなりたてるネトウヨ……それこそ日本のことしか考えず、日本でしか通用しない主張をがなりたてる内向きなグロテスクさには辟易とさせられる。
さらにもうひとつ、この開会式を見ていて、改めて不安になったのが、2020年の東京五輪のことだ。昨年末、東京五輪の開会式・閉会式の演出チームが発表されたが、リオ五輪にひき続きの椎名林檎らに加え、山崎貴、川村元気、野村萬斎というなんともドメスティックな顔ぶれ。しかも、産経新聞などによると、構成とストーリーはあの山崎貴が担当するというのだ。
山崎貴といっても、普通の人はピンとこないだろうが、映画『永遠の0』や『ALWAYS 三丁目の夕日』の監督。作品はいずれもヒットしているが、映画監督としての評価は「CGの使い方がうまいだけで、演出は凡庸だし、物語のつくりかたも陳腐。まあそれが気楽に観れて、大衆受けする理由かもしれませんが」(映画評論家)と、けっして高くない。
当然、海外の知名度もほとんどない。アメリカでもヨーロッパでもアジアでもいいが、海外の劇場の前で映画ファンに「タカシヤマザキって知ってる?」と聞いてみたらいい。かけてもいいが、ほとんどの人は「だれ、それ」と答えるはずだ。
五輪の開会式・閉会式といえば、たとえば北京ではチャン・イーモウ、ロンドンではダニー・ボイル、リオではフェルナンド・メイレレスが、それぞれ演出を務めた。国際的な映画賞を受賞するなど世界的な評価も知名度も高く、日本人でも知っている監督ばかりだ。
冬季は夏季ほどビッグネームではないが、それでも、今回の平昌のように、世界に通用するということを意識して演出家を選んでいる。
それに比べて、東京五輪はこんな国際性のない内向きの人選でいいのか。『紅いコーリャン』『トレインスポッティング』『シティ・オブ・ゴッド』ときて、『永遠の0』。『初恋のきた道』『スラムドッグ$ミリオネア』『ブラインドネス』だったのに、『ALWAYS 三丁目の夕日』、これで本当に恥ずかしくないのか。
いや、国際性がないどころの話ではない。山崎は周知のように、あの百田尚樹原作の特攻礼賛愛国ポルノ映画『永遠の0』を監督した人物なのだ。いまはまだ話題になっていないが、東京五輪が近づいてもしその事実が知れ渡ったら、世界中の顰蹙を買う可能性だってある。
実際、少し前、南九州市が神風特攻隊を世界遺産に申請しようとした際、「日本は世界的には“狂った自爆行為”ととられている“神風特攻隊”を“国に命をささげた英雄”としている」と海外メディアから批判された。“特攻”を美化する映画の監督が、世界的イベントであるオリンピックの開会式・閉会式の演出を務めるなど、どう考えても正気の沙汰ではないだろう。
こういうと、「山崎監督には政治性はない。『永遠の0』も原作やテレビドラマ版にあった攻撃的な描写や政治的主張はすべてカット。誰もが感動できるエンタテインメント作品に仕上げていた」などという反論が返ってくるが、山崎作品はむしろヤバい部分や政治的な部分を脱臭しているからこそ問題なのだ。思想的偏向が前面に出ている百田尚樹よりもひろがりがあるぶん、悪質といえるかもしれない。
平昌五輪の演出家が演出した『焼肉ドラゴン』と『三丁目の夕日』の対照性
この“脱臭することの悪質さ”という山崎作品の特徴は出世作『ALWAYS三丁目の夕日』にも共通している。
同作は昭和30年代を徹底して「貧しくても、夢や希望に満ち溢れていた」「人と人の絆が深く、あたたかい人情に溢れていた」時代として描き、知らない若い世代に「日本の古き良き時代」として郷愁を感じさせる仕掛けになっている。
しかし、それは昭和30年代の本当の姿ではまったくない。この時代にあった、貧富の凄まじい格差や公害、犯罪率の高さ、麻薬の蔓延、むき出しの差別……そういった負の部分を全てスルーし、ファンタジーのように描いているだけなのだ。そういう意味では、『ALWAYS 三丁目の夕日』も、『永遠の0』と同じく本質は“日本スゴイ”の愛国ポルノでしかない。
実は、この『ALWAYS三丁目の夕日』の欺瞞性に怒り、そのアンチテーゼというべき作品をつくった人物がいる。その人物とは、先に紹介した平昌五輪の総合演出担当・梁正雄が演出した日韓共同制作の演劇『焼肉ドラゴン』の作者で、『月はどっちに出ている』『血と骨』などの映画脚本でも知られる在日韓国人の劇作家・鄭義信。そして、『ALWAYS三丁目の夕日』のアンチテーゼとして生み出されたのは、まさに、鄭と平昌五輪の総合演出担当・梁が共同演出した『焼肉ドラゴン』だった。
鄭は『焼肉ドラゴン』を公演するにあたって、そのコンセプトをこう説明していた。
「あの時代が美化されているが、そんなに美しいものではなかった。僕は一人だけでも“裏ALWAYS”をやりたい。在日を通じて日本の一つの裏社会、歴史の断片を感じてもらえればうれしい」(東京新聞2008/04/10)
「いわば、逆『ALWAYS 三丁目の夕日』の世界。暮らしが豊かになる裏で、僕より下の4世、5世には、自身が在日という実感すら持てない環境で育った人もいる。かつてこんな文化があったことを、どうしても書き留めておきたかった」(朝日新聞2008/04/17)
この『焼肉ドラゴン』は先日、真木よう子・井上真央・桜庭みなみ・大泉洋というキャストで、作者である鄭義信の監督で映画化されることが発表されたが、その内容は鄭のいうとおり、逆『ALWAYS 三丁目の夕日』というべき作品だ。
舞台は、大阪万博に向け急ピッチで開発が進み始めた時代の関西の地方都市。主人公は在日韓国人集落で小さな焼肉店を営む在日韓国人の一家。しかし、集落は立ち退きを迫られてしまう。コミュニティの崩壊によって、アイデンティティを失っていく人々……。そこには、『ALWAYS 三丁目の夕日』がスルーした、そして高度成長期の日本が隠そうとした、残酷な本質が描かれている。
しかし、こうしたアンチテーゼ的作品が生まれ、高い評価を受けたというのは、逆にいうと、『ALWAYS 三丁目の夕日』が、過去の日本をファンタジー化する過程で、いかにマイノリティを排除し、差別性を内包していたかの証明でもある。
そう考えると、山崎貴に東京五輪の総合演出をやらせるリスクは、特攻賛美映画の監督だったという経歴だけではない。それこそ、人種や民族、文化の多様性を最も尊重しなければならないオリンピックの開会式で、新たにこういう無自覚な差別をまきちらす可能性さえあるだろう。
安倍首相が山崎監督の『ALWAYS三丁目の夕日』『永遠の0』を絶賛
それにしても、いったいなぜ、こんな映画監督をよりにもよって、世界中から注目される祭典の演出責任者に選んだのか。日本に国際的な評価を獲得しているクリエイターがいないわけではない。ぱっと思いつくだけでも、宮崎駿、塚本晋也、坂本龍一、北野武……少なくとも、山崎貴のように「それ誰?」ってことにはならない映画監督や劇作家はけっこういるはずだ。
そこで思い出されるのが、安倍首相が山崎監督の映画を大のお気に入りだという事実だ。安倍首相は著書『美しい国へ』(文春新書)のなかで、『ALWAYS 三丁目の夕日』について「いまの時代に忘れられがちな家族の情愛や、人と人とのあたたかいつながりが、世代を超え、時代を超えて見るものに訴えかけてきた」「昭和30年代の日本では、多くの国民が貧しかったが、努力すれば豊かになれることを知っていた。だから希望がもてた」などと絶賛していた。
『永遠の0』についても、原作を愛読書としてたびたび大絶賛しているだけでなく、映画館にも足を運び「感動しました」と感極まってみせた。最近も山崎監督の新作である『DESTINY鎌倉物語』を観に行ったことがニュースになっていた。
たしかに、山崎監督のペラペラな作風は「映画好き」を公言するわりに映画的教養がまったく感じられない安倍首相が好みそうではある。
しかも、取り上げるテーマも、安倍首相大好きなものばかりだ。先の戦争と特攻を美化する『永遠のゼロ』は言うに及ばず、『ALWAYS 三丁目の夕日』が美化した昭和33年も、安倍の祖父である岸信介が総理だった時代である。安倍首相にとって、山崎貴は、偉大なおじいちゃんとおじいちゃんを愛する自分を全面肯定してくれる監督なのだ。
だからといって、安倍首相が直接、「山崎監督がいい」と圧力をかけたかどうかはわからないが、しかし、いまの東京五輪組織委員会やその周辺にいる官僚たちの様子を見る限り、“世界に通用するかいなか”よりも“安倍首相の趣味”を忖度して、人選をした可能性は十分あるだろう。
いずれにしても、この人選やリオ五輪閉会式での日の丸を多用した演出、“安倍マリオ”を見ていると、東京五輪の開会式ではもっとグロテスクな愛国ポルノショーを世界にさらすことになるのではないか。今から恐ろしくてしかたない。
(編集部)
最終更新:2018.02.11 10:05
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