虐待による自宅軟禁、保護者の介護、ホームレス生活…学校や行政も把握していない「消えた子ども」が急増中!

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『ルポ 消えた子どもたち 虐待・監禁の深層に迫る』(NHK出版新書)

「日本は裕福な国」「全ての女性が輝く社会」──。日本の総理大臣・安倍晋三は常々こう胸を張っているが、本当に現実を見ているのだろうか。

 今や日本社会では貧困や格差が確実に定着化しつつある。そして、そのしわ寄せは弱者の中の弱者といえる子どもたちに向かっている。

『ルポ 消えた子どもたち』(NHKスペシャル「消えた子どもたち」取材班/NHK出版新書)に登場する子どもたちは、何らかの理由で社会から隔絶され、学校にも通えず、虐待され、学校や行政からも把握されることなく社会から抹殺されようとした存在だ。なかでも幼少期から18歳まで自宅で監禁状態にあったナミさん(28)のケースは様々な問題を投げかけるものだ。

 ナミさんは保育園時代、隣の友だちの給食を食べたこという些細な出来事がきっかけで母親によって事実上“監禁”された。両親に加えきょうだいの5人家族だったが、なぜかナミさんだけが母親から虐待を受け続けたという。

「隣には監視を続ける母親がいて、本当に気が抜けなくて。いつもびくびくしていて、ちょっとでも何か視線を逸らすと、どこ見てるのよって、耳をつねられたり、たたかれたりして…」(前掲書より。以下同)

 父親やきょうだいはそれを見て見ぬふり。そして小学校にも中学校にも通えないだけでなく、自宅でも普通の生活をすることさえ許されなかった。

〈着替えも用意されず、物置のように使われていた一室が彼女の居場所になった。窓には黒いカーテンが引かれ、ベランダに出ることも外を見ることも許されなかった〉

 座って食事をすることも許されず、風呂やトイレを使うことも許されない。こうして“消えた”ナミさんは18歳の時「死ぬか逃げるか」と決意し、母親が家を出た隙に逃げ出し警察に保護された。

 だが、問題は学校や行政など周囲の対応だ。本書ではナミさんの存在に周囲の“大人”たちがどう反応したかを追跡している。

 ナミさんが監禁されていた団地の住民たちは、そんな子どもがいたことすら把握していなかったというが、教育委員会や学校は住民票を通してナミさんの存在を把握していた。そのため何度か家庭訪問が行われていた。

〈ナミさんは、学校の教員が自宅を何度も訪れていたことを知っていた。しかし、多くの場合は母親が居留守を使うか、玄関先で対応した〉

 結局ナミさん本人の面談もできないまま、「障害がある」と通学を拒否する母親の言葉を信じ、それ以上は踏み込んだ対応はしなかった。これについて対応に関わった元教員はこう証言している。

「警察のように強制的な調査権があるのではないので、親御さんが入らないでくれと言ったらそれ以上は入れない。なので説得するしかないのです。でも説得してもダメだということになれば、そこであきらめざるを得ない。たとえば、こちらが虐待だと思って踏み込んで、もし違った場合、非常に問題になるわけですよね」

 その後、ナミさんが中学2年生に相当する時期には学校と教育委員会、児童相談所、民生委員らで協議がもたれたが、虐待のリスクはないと判断され、ナミさんは自ら逃げて保護される18歳まで“発見”されることはなかった。

 このように、消えた子どもはこの10年で少なくとも1039人が確認されているという。ナミさんのように虐待されて監禁されたり、逆に置き去りにされた子ども、保護者の経済状態が悪化し車上生活やホームレス生活を余儀なくされた子ども、そしてもうひとつが保護者の精神疾患だ。本書ではこう指摘されている。

〈子どもを虐待した親に何らかの精神的問題が見られる割合は五〇パーセントから七〇パーセント程度と高い傾向にあるという〉

 もちろんそれだけが原因ではなく、貧困、孤立、子どもの障がいなどによる育てにくさなど、いくつかの複合的要因がこれに重なるという。

 中学3年生の時、施設に保護されたマオさん(19)も、母親がうつ病で、そのため学校へ通えなくなった“消えた子ども”だった。

 マオさんが10歳の時、母親が離婚などがきっかけでうつ病となった。母親が朝起きられないなどの理由から、家事なども幼いマオさんが代わって担っていたが、中学生になって母親はこう言い出したという。

「家に1人でいるのは不安なのでずっと一緒にいてほしい」

 学校には行きたいが、しかし母親をひとりにしておくわけにはいかない。こうして学校には行かず母親の面倒を見ることになったマオさんだが、その生活は中学生のものとは思えないものだった。働くことも出来ず、入退院を繰り返し生活保護を受けていた母親だが、しかし生活は困窮を極めた。

〈母親は不安を紛らわせるため酒に頼るようになり、マオさんが目を離したすきに外にお酒を飲みに出かけて散財してきてしまう〉

 時にはタクシーに無銭乗車し、マオさんが運転手に怒鳴られることもあった。トラブルを繰り返す母親に、周囲も関わりを避け、誰にも助けてもらえず孤立するマオさん。学校はマオさんを単なる不登校と判断した。その後、母親が無銭乗車を繰り返したことで逮捕され、マオさんは施設に保護された。

 虐待、貧困や離婚、それに伴う保護者の精神疾患、育児放棄──。そのため義務教育も受けられず、時には家に閉じ込められ、時には逃げるように放浪生活を送り、虐待され、社会から抹殺される。しかもこうした事例が公になるのは何らかのきっかけで無事保護されるという“幸運な氷山の一角”か、または瀕死の重傷や、最悪の場合、殺されてしまったことで事件化し発覚する。そう考えると現在でも“消えた子ども”の多くが、その居所や実態さえ把握されず、闇に消されたままだと容易に想像できる。

 安倍首相がいくら「日本はかなり裕福な国」と強弁し「アベノミクスの成果」を喧伝しようが、これが日本のひとつの現実だ。そして残念ながら問題を完全に解決する道筋は、現在もない。

 本書でもこうした現状について「第一は親の問題」としながらも、こう記している。

〈多くの子どもが傷つき小さな命が失われていく。「消えた子ども」は、社会が、政治家が、官僚が、行政が、マスコミが、大人一人ひとりがその親も含めて彼らの存在をネグレクトしてきたことで生まれた存在だろう〉

 政治の、行政の、そして大人全員の不作為が「消えた子ども」を生み出し、そして放置したままになっている。憲法改正などの前に、やるべきことはもっとあるはずだ。
(伊勢崎馨)

最終更新:2017.11.24 09:38

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