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小保方晴子『あの日』出版で再燃! STAP 細胞報道を改めて検証する(前)
小保方氏の反論手記での告発「私は若山先生にSTAP細胞の捏造犯に仕立てられた」は真実なのか!
『NHKスペシャル 調査報告STAP細胞 不正の深層』番組サイトより
小保方晴子氏の手記『あの日』(講談社)出版をきっかけに、STAP細胞問題が再燃している。
本サイトの記事でも解説したように、小保方氏は同書の中で、STAP細胞「捏造」疑惑を〈仕組まれたもの〉と真っ向から反論し、STAP細胞の作製は論文の共著者である若山照彦・山梨大学教授が主導していた主張。ところが、若山氏は論文に不正が発覚すると、手のひらを返してマスコミに情報をリークし、自分を捏造犯に仕立てあげたと批判している。
これに対して、ほとんどのマスコミは「小保方氏は自分に都合よく事実を歪曲し、不利な事実にふれていない」「若山氏に罪を押し付け、自分をマスコミ報道の被害者として演出している」と反発、「この本もSTAP細胞同様、小保方氏の妄想と捏造でつくられている」と断じた。
一方、ネットでは、意外にも小保方支持が少なくない。もともと、ネット上では、一部の研究者を名乗る人たちが、マスコミ報道や若山氏の主張の問題点をしきりに指摘していたのだが、同書の出版を契機に、こうした論考も改めてクローズアップされ、「やっぱり若山氏が黒幕だったのか」「小保方さんはすべての罪を押し付けられた被害者だった」という見方が一気に広まっているのだ。
いったいどちらの主張が正しいのか。本サイトは、これまでの報道や理研の調査報告、ネットでの議論をもう一度読み返し、専門家の意見などを聞いて、可能な範囲で分析・検証してみた。
そこから導き出された結論は、小保方氏が『あの日』で書いていた内容はけっして妄想やデマとは言えない、ということだ。しかし、同時に、小保方氏がSTAP細胞不正に関わっていないのか、というと、そうではない。
まどろっこしい言い方だが、どういうことか、ひとつずつ説明していこう。なお、なるべく誰にでもわかる平易な言葉で説明するため、専門用語の使い方が厳密でない場合があるが、ご容赦いただきたい。
まず、STAP細胞の作製は自分ではなく若山氏の主導だったという小保方氏の主張だが、これは事実だ。
STAP 細胞の研究の骨子は、細胞を弱酸性の溶液に浸すと、その細胞が多能性を獲得するというものだが、実験には、3つの段階がある。第1段階は、酸処理した細胞にOct4という遺伝子が発現し、細胞が緑色に発光するかどうか。第2段階は、その細胞をマウスの背中に注射して、テラトーマと呼ばれる良性腫瘍ができるかどうか。そして、第3段階で、このSTAP細胞を使って、増殖性を持つSTAP幹細胞をつくり、キメラマウスを作製する。これがすべてクリアされて、はじめてその多能性の証明がなされ、STAP細胞は存在していることになる。
しかし、小保方氏が担当していたのは第1、第2段階まで。実験の要である第3段階は、すべて若山氏が行っており、小保方氏には、STAP幹細胞やキメラマウス作製の技術はなかった。
小保方氏が手記で主張する“若山氏が小保方氏の思いを無視してSTAP幹細胞やキメラマウス作製に走った”“実験結果を得る前に論文の結論を提案するなどシナリオをつくっていた”ということについては、当事者間の話なので判断できないが、若山氏がSTAP細胞にかなり前のめりになっていたのはたしかだろう。
小保方氏は、若山氏が2014年2月のネイチャー誌のインタビューに応じており、「私が自分で実験して見つけたんだ。実験結果は絶対に真実だ」と発言したと書いている。
調査委員会の調査報告書でも、若山氏はむしろ、小保方氏にこういうデータを用意してほしい、これじゃ論文に使えない、などと、結論ありきでデータを要求、それがデータの改ざんや捏造につながっていた可能性が指摘されている。
また、若山氏は当初、理研の特許部門に特許配分案を提案しているが、その内訳は、小保方氏に39%、ハーバード大のチャールズ・バカンティ氏と小島宏司氏に5%、そして若山氏自身に51%だったと小保方氏は明らかにしている。この数字を見るだけでも、誰がメインプレーヤーだったかは明らかだろう。
マスコミは、自殺した笹井芳樹・元理研CDBセンター長と小保方氏が二人三脚でSTAP細胞をつくり上げたかのように報道したが、実際は、笹井氏が会見で語っていたように、笹井氏が手伝ったのは論文の仕上げ段階のみで、STAP細胞は若山氏が責任者であり、若山氏の指導の下でつくったものだったのだ。
では、若山氏とマスコミによって、小保方氏が捏造・すり替え犯に仕立てられたという主張についてはどうか。実は、これも小保方氏の主張に一定の正当性がある。
小保方氏がSTAP細胞をES 細胞にすり替えたという疑惑が浮上したのは、2014年3月26日。若山氏が自分で作製したSTAP幹細胞を簡易解析したところ、小保方氏に提供したマウスとは違うことがわかったと、理研CDBが発表したことだった。
その後、若山氏は第三者機関に本格的な解析を依頼。6月16日に会見を開くのだが、その内容は「(解析したSTAP幹細胞は)若山氏の研究室のマウスのものではなかった」という衝撃的なものだった。しかも、若山氏は「なぜこのような幹細胞ができたのか、全く分からない。僕の研究室から提供するマウスでは絶対にできない結果」と断じたうえ、「CDBではマウスは厳しく管理されているが、ポケットに入れて持ち込むことまで防げない」と、小保方氏のすり替えを示唆した。
新聞やテレビはこの会見の内容を大々的に発表。小保方氏は「若山研以外からのサンプルの入手経路はない」と否定したが、新聞には小保方氏がマウスを外部からどう持ち込んだかの推測記事が掲載されるなど、小保方氏がこっそりマウスをすり替えてES細胞を混入させ、存在しないSTAP細胞を捏造したという見方は一気に世間に広まっていった。
これに対して、小保方氏は『あの日』の中で、若山教授が意図的に事実でない情報をマスコミに流し、自分を混入犯に仕立てたと主張したのだが、それは小保方氏の妄想や一方的な決めつけではなかった。後に、若山氏の会見内容は事実でないことがわかっているのだ。
若山氏は、会見の際、小保方氏に提供したマウスには、目印となる遺伝子を18番染色体に付けていたが、それをもとに若山氏がつくり保存していた幹細胞では、15番染色体という異なる場所に目印が付いていたと説明していた。
しかし、会見の約1カ月後の7月22日、若山氏と理研がこの解析が間違いであることを正式に認めた。解析したSTAP幹細胞は15番染色体とは別の場所に目印があったことが判明し、さらに、若山研究室で飼育されていた別のマウスと遺伝子の目印の特徴が似ていることも分かったという。つまり、STAP幹細胞は若山研にあったマウスからつくられていた可能性がきわめて高くなったのだ。
しかも、この間違いを認めるまで、若山氏は不可解な動きをしている。当初、若山氏ら「ネイチャー」論文の共著者は若山氏の会見に基づいて、論文撤回理由書に全員同意で「マウスは若山研究室で維持されたことはない」と記載してネイチャー側に提出していた。ところが、若山氏はその後、単独でこっそりネイチャーにこの記述の撤回を依頼していた。
そして、同誌電子版で記述が削除されていたことからそれが露見し、共著者から疑問の声が上がると、若山研究室と理研はようやく訂正の発表を行ったのだ。
しかし、これらの事実は、マスコミでは小さくしか報道されず、ほとんど話題にならなかったため、小保方氏のマウスすり替え疑惑はそのまま払拭されることなく広がり続けた。
しかも、この訂正発表の5日後、マスコミは若山氏の証言をもとに、小保方氏の新たな疑惑を報道する。
報道したのは、7月27日放映の『NHKスペシャル 調査報告 STAP細胞不正の深層』だった。『Nスペ』といえば、笹井氏と小保方氏のメールのやりとりをわざわざ男女の声で読ませ愛人関係をにおわせるなど、あざとい演出をして、笹井氏の自殺の引き金を引いたとの見方もささやかれた番組だが、実はもうひとつ、小保方氏のすり替えについてとんでもない報道をしていた。
同番組はまず、山梨大学の若山研究室の様子を映し出し、遺伝子を解析したところ、若山氏が渡したマウスと小保方氏が作製したSTAP 細胞の遺伝子は異なるものだったと解説。
その後に、初期からSTAP論文に異議を唱えていたことで知られる理研の遠藤高帆上級研究員が登場。若山氏が小保方氏から渡されたSTAP細胞には「アクロシンGFP」が組み込まれているということがわかった、と証言した。
「アクロシンDFP」という遺伝子は、精子が発光する特殊な遺伝子だが、『Nスペ』はここで、こんなナレーションをはさみこむ。
「遠藤氏から解析結果を知らされた若山氏。アクロシンGFPが組み込まれたマウスに心当たりがあったという。若山研究室では、アクロシンGFPが組み込まれたマウスからある細胞をつくり、保管していた。それは別の万能細胞、ES細胞だった。小保方氏から受け取った細胞に、このES細胞が混入していたのではないか。ES細胞が入っていれば、キメラマウスも簡単にできてしまう」
そして、「小保方氏の研究室が使う冷凍庫から見つかった容器」というテロップの入った画像を映し出し、こうたたみかけた。
「取材を進めると、ES細胞をめぐってある事実が浮かび上がってきた。これは問題の発覚後、小保方氏の研究室が使う冷凍庫から見つかったという容器の写真。中身はES細胞。若山研究室にいた留学生がつくったものだ。これまで、小保方氏側は『実験用のES細胞を保存している』としたうえで、『若山研究室から譲与された』と説明してきた。ところが、この細胞が小保方氏のもとにあるのは不可解だとする指摘が出ている。別の研究で解析中のもので、去年、若山研究室が山梨大学に移った際、持って行くことになっていたからだ」
さらに、その元留学生のコメントも紹介した。
「びっくりしました。保存しているのは全部ES細胞ですのでなぜかこのSTAP細胞の関係があるところに見つかったのはちょっとそれは本当にびっくりしましたね。(小保方氏に)それを直接私が渡したことではないです」
ようするに、小保方氏がこの留学生がつくったES細胞を盗み出し、自分の冷蔵庫に保管し、STAP細胞に混入させたと示唆したのだ。
しかし、この留学生のES細胞はSTAP細胞と何の関係もなかった。なぜなら、この留学生は2011年4月から2013年2月まで若山研究室に在籍しており、細胞がなくなったのは、どう早めに見積もっても2012年12月。しかし、キメラマウスはそれより1年以上前の2011年11月に作製されているのだ。しかも、この留学生のES細胞には、アクロシンGFPが組み込まれていなかったという。
つまり、NHKの報道はまったくのデタラメだったのだ。いったい若山氏はなぜ、なんの関係もないことがすぐわかるES細胞のことを持ちだして、小保方氏を窃盗犯に仕立てようとしたのか。そしてNHKはそれをろくに検証もせず大々的に報道したのか。
いずれにしても、明らかに間違った情報によって、小保方氏がマウスすり替え犯、ES 細胞混入犯である、という空気がつくられていったのは間違いない。しかも、その背後には若山氏の影がちらついていた。小保方氏は他にも、さまざまな局面で、若山氏が自分を犯人に仕立てようとしていたと主張しており、中には陰謀論めいたものもあるが、この2つの嘘、STAP細胞が若山研に存在しなかったマウス由来だったという嘘と、留学生から盗み出したES細胞を混入させたという嘘については、明らかに若山氏が発信源となっていた。
しかし、断っておくが、この事実は、STAP細胞が捏造でないということを意味しているわけではない。そして、小保方ファンには申し訳ないが、小保方氏が不正に関わっていないという証明にもならない。
STAP細胞問題はむしろ、小保方氏と若山氏、両方に疑惑がくすぶっている。その詳細については、後編で解説しよう。
(エンジョウトオル)
最終更新:2016.02.08 07:30
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