ヘイトを利用する自民党のネット戦略(下)

ネトウヨの温床「ニコ動」と自民党の関係 麻生太郎の親族も取締役に

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ニコニコ動画「自民党チャンネル」より


 前回、J-NSC(自民党ネットサポーターズクラブ、通称ネトサポ)を利用した、自民党による他党へのバッシング工作疑惑について紹介した。加えて、ネトサポのなかには少なからぬ数のネトウヨが存在しており、ツイッターなどでヘイトスピーチをまき散らしていることについても言及した。そこで今回はあらためて、自民党がいかにしてネット右翼をとりこんできたかについて詳述したい。

 現在のネットと自民党の“蜜月関係”は、2000年代後半の “ローゼン麻生閣下”人気をぬきには語れないだろう。

 麻生太郎がオタク界隈で人気を博すきっかけになったのは、安倍晋三、谷垣禎一と争った06年の総裁戦でのこと。「AERA」(朝日新聞出版)08年9月29日号によれば、弱小派閥だった麻生派の井上信治議員が麻生に「ぜひお得意のマンガの話をしてください」と進言したという。06年総裁選の初演説で、麻生は秋葉原駅前を強く希望した。そして演説の際、こう切り出した。

「自称オタクのみなさん、『キャプテン翼』、知ってる?」

 この“庶民派サブカル路線”が大いに受け、その後ネット界隈で話題になったのは周知の事実。2ちゃんねるでは、「麻生が空港で『ローゼンメイデン』を読んでいた」という情報が出回った。強面の麻生と少女マンガ的絵柄のミスマッチが生み出す諧謔味は瞬く間に広まり、07年には『現代用語の基礎知識』(自由国民社)に「ローゼン麻生」の項目まで登場した。このネット・ムーブメントが自民党にあらたな“草狩り場”の存在を示唆したと推測される。事実08年、自民党はニコニコ動画(以下、ニコ動)内に「麻生自民党チャンネル」を設立している。

「宝島」(宝島社)13年10月号の記事にはこうある。麻生自民党が惨敗し、政権交代となった09年衆院選の前、ニコ動ユーザー85万人を対象とした世論調査では、自公で337議席の予想が出ていた。つまり“ニコ動世論”では麻生自民の圧勝だったわけである。これはネット世論と世間とが乖離している証明としてよく語られる逸話だが、裏を返せば、少なくともニコ動は自民党の独壇場であると言うことができる。

 ここで注目すべきなのが、麻生一族とニコ動との関係だ。麻生の長男はニコ動の会社であるドワンゴの会長・川上量生氏の遊び仲間で、ニコ動立ち上げプロジェクトの初期に携わっていた。そして、現在もニコ動の親会社であるKADOKAWA・DWANGOの社外取締役には、麻生の甥が名を連ねているのである。

 これを最初に報じた「FLASH」(光文社)08年12年16日号の取材に対して、麻生甥は「役員の立場において偏ったコンテンツ内容を指示、依頼したこともありません」と答えている。だが、今や巨大メディアとなったニコ動に、財界・政界の雄である麻生一族が関わっているという事実は“それ以上でもそれ以下でもない”と果たして断言できるだろうか?

 ニコ動はその性質上、意見が偏りやすいメディアだ。ご存知のとおり、このサイトにはリアルタイムコメント機能というものがあり、ときに画面は罵詈雑言で溢れんばかりになる。そして、この“コメントの嵐”が作り出す空気を拒絶するユーザーは、その動画にあえて肯定的なコメントを残すことなくスクリーンを閉じる。ゆえに、実際にはコメントをしている人数は少数でも、あるコンテンツが多数の否定的なコメントで埋め尽くされれば、その動画に触れる一般の視聴者にも、露骨にネガティブなイメージをあたえるのである。

 そして、前回説明したとおり、このコメント投稿を担っているのが自民党のネット別動部隊・J-NSCなのだ。実際、ネトサポによる“暴言工作”を自民党議員自らが先導していたことも判明している。東京新聞が報じたところによると、13年6月28日にニコ動で中継された党首討論で、当時社民党党首だった福島瑞穂が発言した際に「黙れ、ばばあ!」とスマートフォンで書き込んだ議員がいたという。

 その人物とは平井卓也衆議院議員。自民党ネットメディア局長であり、他ならぬJ-NSCの代表である。平井議員は日本維新の会(当時)共同代表・橋下徹の討論会欠席が伝えられたときにも「橋下、逃亡か?」と書き込み、安倍首相の発言に際しては「あべぴょん、がんばれ」とコメントを残したとされている。

 J-NSC代表がじきじきにこのようなカキコミをしているのだから、ネトサポの真の目的が何かは想像するまでもない。

 もっとも、ネトサポがいくら暴言やヘイトスピーチを垂れ流そうが、自民党はあくまで「一部のボランティアが暴走しているだけで、党は抑止を勧告している」というポーズを崩さないだろう。だが、ネトサポの活動は、ニコ動での国会中継や政治系の動画でも発揮され、印象操作に一役買っている。ゆえにニコ動での自民党人気は極端なものとなっているというのが通説だ。安倍首相がニコ動内で党首討論会を望むのには理由があったのである。今や在特会の公式チャンネルまでもスタートさせたニコ動は、“安倍ちゃん人気”を継続させようとする意図から、ヘイトスピーチを野放しにしていると受け取られてもしかたがないだろう。

 また、同じく13年参院選の直前には、自民党はネット上の有権者の声などを分析するチームを設立し、国内IT企業と契約して、誹謗中傷やデマ、あらし行為などを監視する「ソーシャルメディア投稿監視サービス」を導入している。これは、ツイッターやブログのカキコミを常に監視下に置き、不都合ならば削除を要請しているということを意味する。すなわち、ネット世論工作と平行して、ネット言論の監視・統制まで行われているのである。

 整理するとこうなる。自民党は“ローゼン閣下”の人気をみて、ネット民に目をつけた。そして、ネット右翼の嫌韓・反マスメディア感情を現実の政治へと注ぎ込む漏斗として、麻生一族が関わるニコニコ動画を活用した。さらに、他党へのネガティブキャンペーンを行う別動部隊としてJ-NSCを組織化し、ネトウヨを動員した。

 前回の冒頭で民主党の選挙運動を妨害する“マンセー隊”について紹介したが、その正体は在特会関係のデモに参加する者たちであり、彼らの一部は、ネット上で醸成されてきた嫌韓言論やヘイトデマによって成長し、路上に進出してきたネット民である。これと自民党によるネット世論工作はひとつの線で結ばれているように見える。ネットの排外主義・人種差別を制するどころか、政治に利用した結果、自民党は“ヘイトの増幅器”と化してしまったと言っていいだろう。

 そして、ネトウヨによる他党攻撃に、与党自民党が間接的に加担しているということは、日本の政治が地に落ちてしまったことを意味している。つまり実際には、この国の与党は“ネトウヨなしではまわらない”のである。

 現在、安倍政権はヘイトスピーチに対して表向きは「日本人の誇りを傷つける。しっかり対処しなければならない」「極めて残念で、あってはならない」などといった見解を示している。だが、これは明らかに建前にすぎない。「河野談話や村山談話を継承する」としている従軍慰安婦問題や侵略戦争問題でもそうだが、安倍首相は表向き、国際社会に配慮した発言をしつつ、実際にはまったく逆のことをやっている。穏健リベラル派の議員を冷遇し、歴史修正主義的発言を連発する極右・ヘイト系の議員を重用。さらに、ヘイトまがいの若手候補者を次々に公認する……。

 おそらく、こういうダブルスタンダードを使い分けながら、じわりじわりと、国のかたちを変えていこうというのが安倍首相のもくろみなのだろう。その最終形は憲法改正、国防軍創設、そして国民の人権を制限する国家主義の構築。そのためには、ネトウヨを使って近隣諸国への憎悪を煽ることは不可欠な手段なのである。
(梶田陽介)

最終更新:2017.12.09 04:48

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