なぜ?20代女子に蔓延する“専業主婦幻想”その実態はリスクだらけ!

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『専業主婦になりたい女たち』(白河桃子/ポプラ社)

「女性の活用」と言いながら、衆議院の解散で「女性活躍推進法案」をあっさり廃案にした安倍晋三首相。もともと本気でやる気などないことは、第二次安倍内閣の側近や閣僚の発言(詳しくは過去記事参照)を紐解けば必然だったが、その一方で女性の貧困の深刻化など、問題は何ひとつ解決されないままだ。

 経済成長のためには女性の雇用の拡大が必要と言われるなか、しかし20代女性たちは逆をいく。「夢は専業主婦」、そう答える20代女性が増えているのだ。たとえば、2012年の博報堂生活総合研究所の調査によれば、20代女性の3人に1人が専業主婦になりたいと回答。だが、なぜこの時代に彼女たちは専業主婦を望むのだろうか。

 先日発売された『専業主婦になりたい女たち』(白河桃子/ポプラ社)によれば、専業主婦願望の強さの前提としてあるのは、「働くことは当たり前」と感じている女性の少なさだ。

 まず、女子大生でいえば、将来の志向は〈バリバリ働きたい女性が2割、専業主婦志望2割、6割が中間のモヤモヤ女子〉となるらしい。そもそも働きたいという強い欲求がないようなのだが、それは〈女子大生たちの多くが5歳児のときには「専業主婦」の母親に育てられているから〉だという。

 女性のなかには、小さいときから母親に「女性も経済的に自立しなさい」と言われた経験がある人も多いだろう。ただ、この経験をもつのはアラフォー世代(団塊ジュニア世代)まで。アラフォー世代の母親たち(団塊の世代からその上)は、「働く選択肢がなかった」世代だからだ。仕事をつづけたくても専業主婦になるしかなかった……その“恨み”が娘世代への「働く女性になってほしい」という期待になっていたのだ。

 一方、現在の20代女性の母親たちは、第一次男女雇用機会均等法世代(バブル世代)である。彼女たちは「働くという選択肢もあったけれど、選んで家庭に入った」世代であり、自ら選んだという専業主婦への肯定感をもっている。しかも、同時に〈独身のまま働き続けたバリキャリの同級生〉も知っているため、「そんな仕事につくと結婚できなくなる」「残業が大変な総合職よりも事務職のほうがいい」と娘にも助言しがちだ。この状況に、著者は〈あなたの娘はもう、お父さんのような養える男性には出会えません〉というが、これはもっともな指摘だろう。

 ここで、「そもそも専業主婦志望が2割なら少ないのでは?」と思う人もいるかと思うが、じつはこれにはカラクリがある。たしかに、「最初から専業主婦」を希望する女子大生は少ない(都内中堅女子大で20%、早稲田で5%)のだが、“30歳ぐらいまでは仕事し、子どもができたらその後は家庭に入る”という〈隠れ専業主婦志向〉が多いのだ。こうした“一度仕事を辞める”ライフプランを描く学生は、早稲田で28%、女子大では44%にものぼるという。

 どうして就職もする前から“一度仕事を辞める”ことを想定しているのか。そこには、たとえバリキャリになっても子育てと両立できない現実を、彼女たちはすでによく知っているからだろう。さらにもうひとつ、社会の〈「子育て」プレッシャー〉が絡んでくる。「子育てはしっかりと」という厳しい目が女性である母親にだけ注がれている現状が、彼女たちの「子どもはきちんと育てたい」という思いの裏側にはある。

 このような専業主婦志望の女性たちを、同世代の男性たちはどのように見るのか。本書におさめられた“数年以内には年収600万円以上は見込める”20代男性たちの座談会では、「妻が専業主婦になってもOKか?」の質問に、「俺は全然OK!」「僕も別にOK」「俺はOKどころか、むしろ歓迎かも。妻の年収がゼロでも気にしない!」と、余裕の回答。

 しかし、「年収600万円あったら専業主婦になりたい」という女性の声を伝えると、それまでのウェルカムムードは一変する。「OK」と言っていた男性も「(600万円稼げたとしても)専業主婦は勘弁」と言い出すのだ。しかも、「ハートが弱いから自分より稼がないで」「転勤になったらついてきて」「でも自分より早く帰って子育てもできる程度にゆるく働いて」という条件まで付け出す始末。……結局は、「専業主婦を養う自分」というのはかっこいいと思いつつも、しょせんはファンタジーに過ぎないために現実を突きつけられると怖気づくのだろう。なかには「400万から500万円稼いでほしい」と言う人もいるが、そんな金額をゆるく稼げたら世話はない。だからこそ、白河氏は〈現実味のない「専業主婦でOK」「俺が養う」という言葉に惑わされないで、安易に仕事を辞めないで〉〈いざとなったら男子たちは、「無理。やっていけないから働いて」と言い、「でも俺より早く帰れて育児に支障のない働き方をしてね」と言い出しますから!〉と訴えている。そもそも、〈年収600万円以上の独身男性はわずか100人に5人。400万円以上でも4人にひとり〉の時代であることを忘れてはいけない。

 それでも、「いつか養ってくれる人と結婚する」と信じてやまない20代女性たちに知っておいてほしいことは、まだある。それは、専業主婦の再就職は厳しく、〈4人にひとりしか正社員には戻れない〉という現実である。それだけでなく、〈結婚していて、一度仕事を辞め再就職した女性で、年収300万以上になる人はわずか1割〉なのだ。

 実際、本書ではそうした厳しい現実に直面している“専業主婦”たちの現状も紹介している。専業主婦に憧れて結婚後しばらくして家庭に入り、年収800万円の夫の給料で悠々自適なプチセレブ生活を送っていたものの、不況で年収が半分にまで落ち、ローン返済とパートに追われる女性。妊娠を機に退職したものの、突然「気が合わない」という理由で離婚したいと宣言された女性。はたまた、ピーク時には年収2000万円もある夫ながら、浪費癖と子育てにまったく協力しないことから離婚を決意、再就職を望むも子どもがネックで採用されず、いまは清掃の仕事をしているという女性。……一度は夫に養ってもらえても、夫はリストラされるかもしれないし、第一、浮気をして離婚を切り出されるかもしれないのだ。

 いま、「女性の貧困」が大きな問題になっているが、この原因も〈「女性はやがて専業主婦になるもの=養ってくれる人がいる」ことが前提という日本の社会保障や仕事のあり方〉が根底にある。こんな世の中だからこそ専業主婦という“高嶺の花”を目指すのかもしれないが、そこには大きなリスクがあることを、よく覚えていてほしい。
(田岡 尼)

最終更新:2018.10.18 03:14

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