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『日本会議とは何か』著者・上杉聰インタビュー
「日本会議はものすごい“後ろめたさ”を抱えている」先駆的研究者・上杉聰が語る日本会議の最大の問題とは?
だが、2006年の「つくる会」分裂騒動で、実際に「つくる会」内部で日本会議がかなりの実権を掌握していたことが露呈。「つくる会」はその後の運動方針をめぐって“藤岡信勝派”と“八木秀次派”が激しく対立、覇権を争って幹部の解任人事が相次ぎ、怪文書まで乱れ飛ぶ事態となったのだが、このとき八木秀次を担ぎ上げたのが、日本会議のメンバーの宮崎正治事務局長(当時)と4名の理事、つまり「つくる会」の中の“日本会議派”だった。
「扶桑社から出されていた当時の『つくる会』教科書は、2005年の2度目の採択でわずか採択率0.4パーセントという惨敗に終わりました。そこで藤岡たちは、打開策としてより激しい攻撃的な運動、つまり教育委員会に恫喝をかけてでも採択を進めるべきというようなことまで主張した。しかし宮崎たち日本会議派は、右翼性を隠して静謐で中立的に装ったほうが教育委員会にも受け入れられやすいと考えた。この対立する路線をめぐって『つくる会』は真っ二つに割れたのです」
藤岡信勝が裏についた当時のつくる会名誉会長・西尾幹二は、のちの対談本で日本会議を裏であやつる元生長の家学生グループの日本青年協議会を「カルト」と指弾し、分裂騒動時には〈日本会議本部の椛島有三氏が干渉してきて〉、元生長の家活動家の理事4人に〈会はすんでのところで乗っ取られかか〉ったとまで語っている(『保守の怒り』共著・平田文昭/草思社)。結局、この分裂騒動の後、日本会議派は八木秀次を理事長として「日本教育再生機構」(「教科書改善の会」)を設立。現在、扶桑社の教科書部門を独立させた育鵬社から教科書を発行している。
「育鵬社版教科書はその後、採択数を増やし、歴史、公民ともに2015年の採択では、その前の回の約1.5倍の大幅増を果たしました。その結果、業界でのシェアはいま、第5位につけています」
育鵬社版教科書をめぐっては、最近、興味深い“事件”があった。前述した菅野完の著書『日本会議の研究』の発売直前に、日本会議事務総長・椛島有三の名義で、版元の扶桑社に出版差し止めを要求する申し入れ書が送りつけられたのである。菅野はその一部をツイッターで公開したが、冒頭には〈日本会議では、扶桑社・育鵬社が発行する中学校教科書、季刊「皇室」など貴社の各種刊行物の普及拡販に協力してきた〉と明記していた。おそらく版元に対する一種の恫喝が目的だろうが、はからずも、日本会議が長年にわたって教科書運動の中心的役割を果たしてきたことを当事者が暴露した形だ。
「日本会議がこれほどまでに教育に力をいれてきたのは、若者の精神性を改造し、彼らが目的とする憲法改悪と、そのもとで軍事をになう若者をつくるために他なりません」
第一次安倍政権が教育基本法に「愛国心」を盛り込んだ改正をおこなったことについて、2007年当時、日本会議会長だった三好達は、雑誌のインタビューで「日本会議の十年の運動の中で最大の成果」と最高級に評価した。さらに三好は、日本会議が与党案に対して「国を愛する心」「宗教的情操の涵養」を挿入させ、「(教育行政の)不当な支配」という文言の削除を求めた結果、〈日本会議も受け入れられるような答弁〉を政府解釈として引き出したと誇らしげに語り、「教基法改正は改憲の世論形成のだめだ」と明言している。さながら国民を洗脳する“現代の教育勅語”だ。
〈「愛国心」や「伝統の尊重」「公共の精神」を謳った新しい教育基本法に基づいて道徳、国語、歴史教育をしっかりと受けた国民を増やしていく教育改革を進めていくとともに、これまで同様、草の根の国民運動の輪を広げていく地道な活動が必要です。〉
〈つまり内容で安易な妥協はしないけれども、多くの国民に支持されるような憲法改正案としなければならないわけです。これは実に難しい。だからこそ新教育基本法に基づいた国民教育を充実させていきながら、本当に日本国にふさわしい憲法改正案を作成できる世論を形成していくことが重要となってくるのです。〉(「正論」07年11月号/産経新聞社)
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