『新世紀エヴァンゲリオン』とブラック企業の驚くべき関係! シンジくんの「逃げちゃダメだ」が意味するものとは…

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 就活をする若者は、ただの大卒というだけでは、大量に培養された綾波のクローンのように「代わりのいくらでもいる存在」であるため、神様のようなスペックを求められる。しかも正社員の枠を勝ち取ったとしても、そもそも終身雇用の崩壊した現在ではさらに自分の「市場価値」を高めつづけなければ使い捨てられてしまう運命。その一方で競争からこぼれてしまえば、もっと「代わりのいる」非正規雇用というコースが待ち受けており、たとえば「バイトリーダー」として正社員並みかそれ以上のハードワークを強いられ安い給料でこきつかわれることになるのだ。

 ここで考えなければならない問題はどう転んでも「代わりがいる」立場にもかかわらず、若者たち本人たちがやりがいや使命感を焚きつけられ、過剰に責任を背負い込んでしまうということだ。そこで著者が注目するのは「社畜」という言葉の変遷である。

「社畜」という言葉は提唱された90年代前半には、思考停止におちいり良心を放棄して勤務先の企業に飼いならされた会社員たちを揶揄するものだった。ただ当時の社畜には家畜のような存在であっても安定した雇用や福利厚生などじゅうぶんな見返りがあった。しかし2010年代における「社畜」にはそういった「見返り=飼いならすための環境」さえ用意されていない。

 だが、見返りもなく社畜が使い潰されるなか、誇りをもって自分から社畜を名乗る「ポジティブ社畜」が現れた、と著者はいう。ポジティブ社畜はFacebookに「社畜なので頑張ってまーすw」などと半ば自嘲気味に残業自慢・多忙自慢をし、ときには「夢は見るもんなんかじゃなくて、みんなで見るもんなんだ!」などと薄ら寒いポエムを唱和することで、「代わりのいる」労働へのモチベーションをあげているのだ。

〈報われない時代に、あたかも報われることを装って、もり立てる。これが10年代の「ポジティブ社畜」像である。競争が厳しくなる中、実に安っぽいやりがいで労働者をたきつける。(中略)自分の存在意義などを問われ、妙な自己啓発が進む。まるで、エヴァのクライマックスのようではないか〉

「ポジティブ社畜」になりがちなのはいわゆる「意識高い系」の人々だ。ここ20年の労働市場は人々に「デキる人にならなければ生き残れない」と脅迫してきたが、それに応えようとして壊れてしまった人も多い。『エヴァ』でいえば惣流・アスカ・ラングレーの姿がよく当てはまるだろう。

 著者に言わせれば海外の大学を飛び級で卒業した秀才・アスカはいわゆる「グローバル人材」のなれのはてに他ならない。プライドをばきばきに折られ、物語中盤で抜け殻のようになってしまったアスカを指して「せっかくMBAを取得したエリートが、現場で使えないという評判がたつ」と著者が表現するのは残酷なようだが言い得て妙である。

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