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菅首相「五輪中止ない」の理由「人流減った」「新たな治療薬確保」は大ボラ! 夜の渋谷では人流増加、新治療薬は対象が限定的
首相官邸HPより
昨日27日、東京都の新規感染者数が2848人と過去最多となったが、菅首相はあいかわらずだ。ぶら下がり取材で「五輪中止の選択肢はないのか」と問われた際、こう言い放ったのだ。
「人流も減っているし、そこはない」
だが、現在の東京の感染状況は、いますぐにでも東京五輪を中止すべきと言ってもいいほどの状態に陥っている。
まず、最大の問題は重症者の数だ。東京都は昨日の重症者数を82人と発表したが、以前も指摘したように、これは都が「人工呼吸器かECMOを使用」した患者しか重症者としない独自基準での数字にすぎず、これらにICU(集中治療室)やHCU(高度治療室)などでの治療をくわえた国の基準にすると703人(26日時点)にものぼる。しかも重症者用の確保病床はこの時点で1207床だから、使用率は58.2%と最悪のステージ4をゆうに超えているのだ。
さらに深刻なのは陽性率だ。東京都が発表した昨日の陽性率は15.1%と、もはや感染爆発の状態にある深刻な数字を叩き出したが、この陽性率のもととなっている7日間移動平均の検査人数は、わずか8038人。かたや五輪関係者を対象にした検査は7月1日からすでに約24万件もおこなわれたというが、都民対象の検査数は7日間移動平均で1日1万件にも満たないのである。高齢者施設などで行われている定期検査やモニタリング検査の数は入っていないとはいえ、行政検査が足りていないのは明らかだ。
だが、このようにすでに末期的な状況であるにもかかわらず、菅首相は「人流が減っている」ことを理由に、東京五輪を中止しないと断言したのだ。
しかし、この「人流が減っている」というのは、大ボラだ。たしかに地域によっては人出が減っている場所もあるが、一方で大幅に増えている場所もある。
たとえば、4連休の3日目となった24日(土)、渋谷スクランブル交差点付近の人出を、3回目の宣言期間の土日や祝日の平均と比較すると、日中48%、夜間62%と大幅に増加。五輪がはじまる前の1週間前と比較しても、日中は1%減少したが、夜間は11%も増加している(NHKニュース25日付)。
政府分科会メンバーも「人の流れが減っていない」
政府分科会メンバーである舘田一博・東邦大学教授は昨日の2848人という感染者数について、「4連休や東京オリンピックの開幕、それに夏休みなどで濃厚接触の機会が増えているほか、感染力の高いデルタ株への置き換えが急速に進んでいることが背景にあると考えられる」と指摘し、「人の流れが減っていないことを考えると、感染者数はさらに増える可能性がある」と警鐘を鳴らしている(NHKニュース27日付)。政府の専門家が、はっきりと「人の流れが減っていない」と明言しているのだ。
しかも、首都圏では4連休に「大移動」も起こっていた。4連休の初日となった22日(金)正午時点のデータと、前日21日の同時刻のデータを比較すると、1都3県以外の道府県に約18万人が移動していた、というのだ(朝日新聞デジタル27日付)。
実際、「移動先」のひとつとなったであろう沖縄の場合、24日の那覇市県庁前駅付近では1週間前と比べて日中31%、夜間26%も人出が増加。また、感染まん延特別警報を出している石川県では、兼六園の入園者数がゴールデンウィークの1日平均の2倍近くに。この話題を取り上げた東京新聞24日付記事によると、東京都から近江町市場を見て回っていた22歳の会社員は「コロナの心配はあるが、五輪ができるくらいなので。政府への反逆です」と語り、奈良県から来ていた37歳の会社員らも「東京五輪をしているくらいだから、コロナはあまり気にしていない。むしろお店でお金を使った方が良いかな」と話している。
政府分科会メンバーの舘田教授も感染者の増加の背景に「東京オリンピックの開幕」があることを挙げているように、五輪を開催しているという事実自体が人に大きな心理効果を与え、移動を促してしまっていることは明々白々だ。
逆に言えば、いま東京五輪の中止を決めれば、そのアナウンス効果は絶大で、「五輪を中止するほど危険な状況だ」ということを周知することができる。重症者を減らすには感染者数を減らすしかないことを考えれば、いますぐ東京五輪を中止すべきなのだ。
ところが、菅首相は「人流が減っている」などと大ボラを吹いた。いや、それどころか、こんなことまで言い出した。
「重症化リスク、これ7割減らす新たな治療薬を政府として確保しておりますので、この薬について、これから徹底して使用していく」
菅首相がぶち上げた「新たな治療薬」は重症だけでなく重症寸前の中等症2にも使えない可能性
ようするに、新たな治療薬で重症者が減るから大丈夫というのだが、これ、本当なのか。
菅首相が唐突にぶち上げたこの「新たな治療薬」というのは、19日に厚労省が特例承認した、中外製薬の「カシリビマブ」と「イムデビマブ」を同時に投与する「抗体カクテル療法」の点滴薬のこと。「抗体カクテル療法」は米トランプ前大統領が入院したときに使用されたことでも有名だが、中外製薬によると海外でおこなわれた治験では入院や死亡のリスクを約70%減らすことが確認されたという。
そして、菅首相はこの「抗体カクテル療法」を「徹底して使用する」と宣言したわけだが、これだけを聞くと、「みんなこれで重症化が防げるようになるのか」「重症化させなければ医療逼迫も解消される」などと考えるだろう。
だが、はっきり言って、いまの東京の感染状況を考えれば「焼け石に水」で、その効果を得られる人はきわめて限定的になる公算が高い。
というのも、この「カシリビマブ」および「イムデビマブ」の添付文書には〈「SARS-CoV-2による感染症の重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者を対象に投与を行うこと〉と書かれており、厚労省も20日付で自治体向けに出した事務連絡のなかで〈本剤は、現状、安定的な供給が難しいことから、当面の間、これらの患者のうち、重症化リスクのある者として入院治療を要する者を投与対象者として配分を行うこととします〉と記載している。
つまり、菅首相はあたかもこの「新たな治療薬」が現状を打開するゲームチェンジャーのようにぶち上げ、多くの患者に広く使用されるかのように語ったが、実際は「安定的な供給が難しい」もので、入院中の基礎疾患などがある人だけが対象となりそうなのだ。
また、この薬は「酸素投与を要しない患者」つまり軽症者など症状の軽い患者が対象で、重症者だけではなく、重症者一歩手前の「中等症2」は対象外だ。
「中等症2」というのは「酸素を吸わないといけない、人工呼吸器の一歩手前の状態」のこと。感染症専門医である岡秀昭・埼玉医科大学教授は「今は重症が少ないと言われるが、実は重症という氷山の下に中等症2が予備軍のように大勢いるというのが第5波の特徴」だと指摘し、「中等症2で入院した患者がわずか数日で悪化し、生命維持装置が必要になるケースもあり、警戒を緩められない」と語っている(NHKニュース26日付)。
つまり、重症予備軍として中等症2の患者が大勢いるにもかかわらず、「新たな治療薬」は使われない可能性が高いのだ。
その上、前述したこの薬剤の添付文書には、〈症状が発現してから速やかに投与すること。臨床試験において、症状発現から8日目以降に投与を開始した患者における有効性を裏付けるデータは得られていない〉とも書かれている。現在、東京では入院・療養等調整中の患者が3404人もいるが、こうしてすぐに入院できずに待機しているあいだに、投与の対象外になる可能性もある。
金メダルにはしゃぐテレビ、ネット上でも「もう始まったんだから文句は言うな」
菅首相はこんな限定的な効果しか見込めない薬をあたかも切り札のように持ち出し、医療逼迫なんて起きないかのように語っているのだ。
繰り返すが、いまの状況では重症者を減らすには新規感染者を減らすしか手はなく、そのためには国民に誤ったメッセージを発信し感染拡大を後押ししている東京五輪の中止しか選択肢はない。6月9日の党首討論で菅首相は「国民の生命と安全を守るのが私の責任だ。守れなくなったら(五輪を)やらないのは当然だと思う。それは前提だ」と述べていたが、いまがそのときだろう。
しかし、この男は危機的状況を示す数字を叩きつけられても、「中止はない」と一蹴した。もはや国民の命と安全は、五輪と引き換えに、完全に捨て置かれてしまったのである。
テレビは金メダルラッシュにはしゃぎ、ネット上でも「もう始まったんだから文句は言うな」「いま『中止しろ』なんて選手たちの頑張りを無駄にしろというのか」などという意見が散見される。だが、人命より五輪継続や選手の努力が大事であるわけなどない。ましてや一国の総理が守るべき人命を見殺しにしようとしているのだ。だから何度でも言う。東京五輪はいますぐ中止にすべきである。
(編集部)
最終更新:2021.07.28 11:06
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