アグネス逮捕も「引き続き懸念」だけ…歴史修正では強硬な安倍政権が香港問題ではなぜ弱腰なのか? 背景に安倍首相の人権意識

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Nathan Law 羅冠聰氏Twitterより


 中国が香港への弾圧を強めている。民主派団体「香港衆志」(デモシスト)の創設メンバーで、流暢な日本語で香港の現状を情報発信してきた周庭(アグネス・チョウ)氏や、中国共産党に批判的な論調で知られる大衆紙「蘋果日報」(アップル・デイリー)の創業者である黎智英(ジミー・ライ)氏ら香港の民主運動家10人が、中国が香港への導入を決めた「国家安全維持法」(国安法)の違反容疑などで次々に逮捕されたからだ。

 国安法が香港で導入された7月1日から民主派の逮捕や拘束が起こってきたが、今回、国際的にも知られた民主運動家やメディア関係者が逮捕されたことは日本でも大きな衝撃を与え、周庭氏の逮捕を受けてTwitter上では「#FreeAgnes」(アグネスを解放しろ)というハッシュタグによる抗議運動が起こっている。

 そもそも国安法は、香港返還時に中国が50年維持すると約束した「一国二制度」「香港の高度な自治」を崩壊させ、香港の人びとの人権を著しく弾圧するものだとして批判を浴びてきたが、こうして現実に香港の自由と民主主義を守るために声をあげてきた人びとが、それを理由に逮捕され、香港の表現・政治的活動・報道の自由が弾圧されてゆく──。中国と香港政府によるこの横暴は、深刻かつ重大な人権侵害であり、けっして許されないものだ。

 そして、実際に日本に支援を求める声もあがっている。周庭氏とともに民主運動をおこなってきた羅冠聰(ネイサン・ロー)氏は周氏の逮捕を受け、日本語でこうツイートした。

〈【拡散希望】アグネスは一緒に闘ってきた友人の一人です。独裁政権である中国共産党(CCP)は国安法違反「国家分裂」の容疑で23歳の女性を逮捕。彼女は無罪だが、無期刑を受ける可能性がある。日本の皆様のサポートが必要です。〉

 羅氏自身、香港警察に国安法違反容疑で指名手配されているなか、わざわざ日本語で書かれた、「日本の皆様のサポートが必要です」というこの呼びかけは切実で、その意味は非常に重いと言わざるを得ない。

 しかし、このような緊急の呼びかけがおこなわれているというのに、肝心の日本政府は中国に対し、及び腰のままだ。

 現に、本日午前におこなわれた菅義偉官房長官の会見では、一連の逮捕について日本政府の受け止めと対応はと記者から質問が出たが、菅官房長官は淡々とこう述べただけだった。

「我が国としても香港情勢について引き続き重大な懸念を有している。これまでも繰り返し申し述べてきたとおり、香港は我が国にとって緊密な経済関係と人的交流を有する極めて重要なパートナーであり、一国二制度のもとに自由で開かれた体制が維持され、民主的、安定的な発展をしていくことが重要である、この立場は一貫している。我が国のこのような考え方については中国側にも外相の電話協議を含む、さまざまな機会に伝達してきているところ。今後とも関係国と連携し、適切に対応していきたい」

 今回、日本でもよく知られた民主運動家の若者やメディア創業者が逮捕されたことについて訊かれているのに、「引き続き」だの「これまでも繰り返して述べてきたとおり」だのと言って、これまでとほとんど変わらない文面をただ読み上げるだけで、「抗議」もしない──。しかも、中国が国安法の制定に踏み切ったことを受けた6月30日の会見で菅官房長官は「遺憾」と強い表現を用いていたが、そこから後退さえさせてしまったのだ。

菅官房長官の談話の弱腰ぶりは、他国の首脳や国内野党の声明と比べると歴然!

 この通り一遍の“見解”がいかに空々しいものかは、他国の高官による非難声明と比較すれば一目瞭然だ。たとえば、アメリカのポンペイオ国務長官は、黎智英氏の逮捕を受けて「中国共産党が香港の自由を奪い、人々の権利を侵食していることのさらなる証拠だ」とツイート。イギリスのジョンソン首相の報道官も「国安法が反対派を沈黙させる口実に利用されていることをあらためて示す根拠となった。香港当局は市民の人権と自由を保持しなければならない」「報道の自由は中英共同宣言と香港基本法で明確に保障されているとともに、国安法第4条により保護されているはずだ」と非難。ともに今回の弾圧が人権問題であると批判している。

 国内野党の党首のコメントと比較しても同様だ。立憲民主党の枝野幸男代表は〈周庭氏、黎智英氏の逮捕をはじめとする香港における表現弾圧、人権侵害に強く抗議します。表現の自由、政治活動の自由という普遍的人権を守る活動に連帯の意を表します〉とツイートし、日本共産党の志位和夫委員長も〈香港警察が、香港紙創業者・黎智英氏、民主活動家・周庭氏を、「国安法違反容疑」で逮捕したことに、強く抗議する。弾圧の即時中止、釈放を強く要求する。こうした暴圧は「社会主義」とは全く無縁の専制主義そのものだ。人権抑圧は国際問題であり、国際社会が暴挙を許さない声をあげることを訴える〉と投稿。他国の高官や国内野党党首とくらべれば、日本政府の態度は圧倒的に弱腰だ。

 だが、これはいまにはじまった話ではない。象徴的なのが、6月上旬に明らかになった、香港への国安法導入をめぐり中国政府を批判するアメリカ、イギリスなどによる共同声明への参加を、日本政府が拒否した問題だ。

 これは共同通信が6月7日に報じたもので、〈複数の関係国当局者〉が明らかにした情報として、〈香港への国家安全法制の導入を巡り、中国を厳しく批判する米国や英国などの共同声明に日本政府も参加を打診されたが、拒否していた〉〈中国と関係改善を目指す日本側は欧米諸国に追随しないことで配慮を示した〉という。

 しかし、この共同通信の記事に安倍自民党のネトウヨ議員が次々と噛みつき、記事内容を全否定。この共同電を配信していた産経新聞が記事を削除したことから、「共同通信のデマ記事」だと決めつけた。

 さらに、翌8日には時事通信が「日本の対応「米英も評価」 中国の国家安全法導入方針で―菅官房長官」というタイトルで記事を配信すると、ネトウヨたちは「デマ記事確定」扱いをした。

 だが、本サイトが当時報じたとおり(https://lite-ra.com/2020/06/post-5467.html)、この報道はデマなどではない。菅官房長官はすでに日本単独で「憂慮を表明した」ことを持ち出したり、「米英は日本の対応を評価している」と繰り返しただけで、「共同声明の打診はあったのかどうか、そしてそれを拒否したのかどうか」という問題には一切答えず、明確に否定しなかった。

共同通信の「共同声明参加拒否」は事実だった! 産経までが「米政府の打診」を認める報道

 つまり、共同声明参加の打診を日本政府が拒否したのは事実であり、そのため菅官房長官は否定できなかっただけにすぎない。実際、共同通信はいまなお記事を訂正しておらず、ロイターなど海外メディアも後追い報道をおこなっている。さらには、産経新聞までもが無理やりな言い訳をつけながらも〈米政府が4カ国共同声明に加わるよう打診したのは事実〉(産経ニュース6月23日付)と報じているほどだ。

 さらに、この共同による報道直後の6月10日には、安倍首相は国会で「日本がG7で共同声明の発出をリードしたい」旨を発言し、中国から抗議を受けたが、この発言も声明拒否報道の打ち消しのためのアピールでしかなかった。実際、その約1週間後に出されたG7外相声明について国内メディアは「日本が提案した」などと報じているが、英ガーディアン紙では、中国と曖昧な関係にある日本をイギリスが説得したと報じられた。

 ようするに、日本政府は民主主義国家として国際社会と協調し中国を強く批判することもせず、安倍首相は他国から説得される始末だったというのにそれを手柄のように誇っている有様で、中国の弾圧法に対する姿勢も、実態は「やってる感」アピールでしかないのだ。
 
 しかも、中国の暴挙に対して日本が明確に批判をしないのは、これが初めてではなかった。

 昨年夏、容疑者を中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」をめぐって香港で抗議デモが広がり各国が中国政府を批判するなか、「大きな関心を持って注視している」「香港が『一国二制度』の下で自由で開かれた体制を維持し、民主的に力強く発展するよう期待する」などと明確な批判には踏み込まなかった。

 やはり香港やウイグルでの人権弾圧が問題になっている最中の昨年12月にも、中国・成都で安倍首相が、習近平国家主席や李克強首相と会談した際には、香港について「自制と早期収拾」、ウイグルについて「透明性をもった説明」を望むと述べるなど、最低限言及しただけ。それどころか、嵐を「日中親善大使」に起用することを習主席と李首相に直々に伝えるなど、今年4月に予定されていた習主席の訪日に向けてご機嫌をとる始末だった。

 ネトウヨを支持層にしながら、中国に対するこの弱腰ぶり──。その背景には、中国とパイプを持つ二階俊博幹事長の影響があるとメディアは指摘するが、“影の総理”今井尚哉首相補佐官の存在を忘れてはならない。

「今井補佐官は経済目的で中国との関係を強めたい経産省の意向を受けて、中国の一帯一路構想やAIIB(アジアインフラ投資銀行)への参加にも積極的。2017年に二階俊博幹事長が訪中した際には、親米タカ派の谷内正太郎国家安全保障局長(当時)が担当した安倍首相の親書を書き換えるよう指示したとされるほどです。安倍政権が中国に強く抗議できないのは、この今井補佐官が抑えているからだと言われています。まあ、安倍首相は今井補佐官の言うことにはほとんど反対しないと言いますから」(全国紙政治部記者)

 しかし、これに加えて、安倍首相の志向の問題もあるだろう。というのも、香港問題では弱腰の安倍政権だが、歴史認識や領土問題では中国の顔色を伺うどころか、歴史修正主義丸出しの姿勢や軍事的緊張を引き起こすような政策を平気で打ち出しているからだ。

 この姿勢の極端な違いは、ようするに、日本の引き起こした戦争を批判されることは絶対に我慢ならないが、香港の人権侵害なんてどうでもいい、といういずれもが安倍首相の人権軽視思想のあらわれではないのか。

 いや、この間、総理大臣の街頭演説に対しヤジを飛ばしただけで警察が拘束・強制排除したり、メディアに圧力をかけて政権批判を封じるなど、まさに表現の自由、報道の自由を破壊してきた安倍首相のことだ。むしろ、中国の言論弾圧は“目指すべき国家のかたち”なのかもしれない。

 いずれにしても、今回の香港問題における対応は、「自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値」という言葉をやたら強調する安倍首相の真逆な本質を浮き彫りにしたといえるだろう。

最終更新:2020.08.11 09:59

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