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安倍首相が「徴用工でなく労働者」と言い換えを命じても強制労働の歴史は消せない! 麻生家の炭鉱は「朝鮮人地獄」と…
朝鮮人徴用工虐待は麻生財務相の一族経営の炭鉱で!(自由民主党HPより)
いわゆる徴用工問題で、安倍政権が歴史修正主義的攻勢を強めている。先日、韓国の大法院(最高裁)が、植民地時代に強制的に動員された元徴用工にたいして新日鉄住金の賠償を命じる判決を下したが、安倍首相の「ありえない判決」「請求権協定で解決済み」なる大号令のもと、新聞やテレビ、週刊誌などの国内メディアは口を揃えて猛批判。これに乗じて政府は原告らの呼称を「徴用工」から「朝鮮半島出身労働者」に統一した。
安倍首相は1日の衆院予算員会で、「当時、国家総動員法上、国家動員令には『募集』と『官斡旋』『徴用』があったが、実際、今回の裁判の原告は(徴用でなく)全部『募集』に応じたため、『朝鮮半島出身労働者問題』と言いたい」と述べた。河野太郎外相も「原告は徴用されたのではなく『募集』に応じた人だ」と強調している。
「徴用工」という言葉がもつ“強制性”のイメージをかき消そうとの狙いは明らかだろう。
たしかに、戦前の労務動員計画と国民動員計画に基づく朝鮮半島からの動員は1939年からの「募集」と1942年からの「官斡旋」、そして1944年の「徴用令」に分類される。ようするに、安倍首相らは「この元徴用工と呼ばれている原告らは民間企業が募集し、自由契約によって日本での労働を選んだ人たちであって、日本政府の命令ではない」と印象づけたいわけだ。
完全なる詭弁だ。そもそも「募集」の実態は「民間企業が自由に朝鮮人を集めて日本に連れてきた」というようなものでは決してない。その手続きは、各企業から申請された「移住朝鮮人」の数を厚生省が査定し、内地からの指示で朝鮮総督府が自治体に割りふり、その指定を経て、現地の日本人警察官らと一体となって行うというもの。朝鮮人の労務動員は、大日本帝国政府の方針に従い、明確に当局が管理した“国策”に他ならなかった。
また、政府が「募集」形式から「官斡旋」(42年実施)に移行したもっとも大きな理由は、事業主を各企業から事実上の官製組織である「朝鮮労務協会」とするなど、動員手続きの簡略化だった。当時、日中戦争の長期化と緊迫する国際情勢を目の当たりにしていた政府は、炭鉱や軍事関連施設での労働力を補填するための迅速な動員を望んでいたのである。そして、アジア太平洋戦争で消耗するなか、戦争継続と軍事物資増産を目的に1944年、国民徴用令による「徴用」を朝鮮半島でも実施し、強制連行を強化したわけだ。
いずれにせよ、「募集」「官斡旋」「徴用」の形式に限らず、これらはみな政府の正式な方針に基づき、当局管理下で行われた動員であって、さも「自由契約によって日本で働いただけだ」とするような安倍政権の主張は誤りであり、歴史修正主義と断じざるをえない。戦時中の朝鮮人の動員に詳しい外村大・東京大学大学院教授は、著書『朝鮮人強制連行』でこのように指摘している。
〈徴用実施以前において朝鮮総督府、内務省、雇用企業の関係者自身が「強制的」「拉致同然」と言うような要員確保は行われていた。また労務動員実施の初期の段階では、経済的な理由から離村を希望していた朝鮮人が日本内地にやって来たことは事実であるが、これも日本政府の国策が背景にあること、職場の移動を禁止されていたこと、就労期間延長が強いられ、戦争末期まで炭鉱等での労働を続けていた場合には徴用された扱いとなっていたという事情がある。これらの点から、一九三九〜一九四五年度の労務動員計画・国民動員計画によって日本内地の事業場に配置された朝鮮人のすべてが、なんらかの意味で強制力を持つ日本国家の政策的関与のもとで動員されたと言うべきである。〉
麻生財務相の一族経営の炭鉱で行われていた朝鮮人徴用工虐待
ところが、新聞やテレビ、週刊誌などの大手メディアは、こうした政権による見え見えのプロパガンダに対して、批判はおろか追及する素振りすらみせない。繰り返すが、安倍政権の“代弁者”のように韓国政府や韓国司法を攻撃し、ネット右翼を煽り、元徴用工を貶めるような報道を続けている有様である。
それどころか、マスコミはもっと重要なことすらネグっている。それは、当時、連行された徴用工たちが、どのような目に遭わされたのかという歴史的な事実だ。
前述したように、朝鮮人たちのほとんどは、石炭鉱業や軍需関連工場に送られ、財閥系の炭鉱を中心に、暴力による強制労働や過酷な環境での生活を余儀なくされた。ここでは、当事者の証言からいくつかの例を具体的に紹介しよう。
たとえば、福岡県の麻生鉱業だ。現在の麻生太郎財務相兼副総理の出身でも知られる麻生家は、もともと炭鉱で巨大な財を築き上げた。厚生省の集計によれば、1939〜45年にかけて麻生鉱業へは少なくとも1万623人が連行された。麻生系の炭鉱では「朝鮮人地獄」と呼ばれるような光景が広がっていたという。
複数の元朝鮮人徴用工の証言によれば、麻生系の赤坂炭鉱では、朝鮮人寮の周囲は針金のついた板壁で囲まれており、監視所と番人に見張られて外部との面会もできなかった。労務事務所には留置所のような監獄部屋があったという。坑道内は暑く、臭気がこもった。日中戦争が始まると扱いは酷くなり、休みも認めず、逃亡したりサボったりした坑夫は木刀やベルトなどで殴打されるなど、暴力的な強制労働が行われたという。
「官斡旋」の時代には、このような証言もある。隔離された朝鮮人寮で朝の5時に起こされると、広場で点呼を受け、君が代などの斉唱が行われた。6時に入坑し、夜の9時までの15時間労働だった。「これから敵のトーチカを攻撃する。突撃進め!」と坑口に追い立てられた。労務係は見せしめに死ぬほど叩き、給与は強制的に貯金され、故郷への送金は最初の200円が送られただけだった。労務係に糾すと、逆に木刀で叩かれた。
事故や激務による重症も、本人の不注意とされたり、もみ消しが行われたという。朝鮮人への傷害致死事件も起きた。赤坂炭鉱での複数証言によれば、1944年秋、第二直轄寮の労務が飲酒の上で朝鮮人を虐待して、事故死に見せかけるために線路上に放置した。その遺体を発見した朝鮮人たちは激怒し暴動を起こした。朝鮮人の数名が逮捕、強制送還された一方、労務への刑事罰はなかったとされる。逆に、抗議した朝鮮人のリーダーが検挙され、憲兵隊が監視するようにすらなったという。
世界遺産「軍艦島」でも…「汁かけ飯一杯で栄養失調」「脱走者に拷問」
もちろん、こうした強制労働の悲惨な実態は麻生系炭鉱だけの話ではない。たとえば、三菱系の長崎・崎戸炭鉱では、朝鮮人はガスが多く崩落の激しい現場に送られた。食堂の内側にある小部屋でリンチされ、鞭を打たれた。労務係に抗議したら半殺しにあった。釘を打った板の上に正座させられ、軍靴で蹴り上げられ、ケーブル線で殴られたなど、連行された複数の朝鮮人徴用工たちによる証言が残っている
もうひとつ、長崎の端島(通称、軍艦島)での元徴用工の証言もあげておきたい。周知のように軍艦島は、2015年に安倍首相の肝いりでユネスコの世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」に含まれている。
1943年に14歳で連行された崔璋燮さんは、高等国民学校での木銃の訓練の最中、いきなり捕まえられて益山の郡庁に連れて行かれた。翌日、汽車で釜山へ運ばれた。釜山からは原田という名前の日本人よって船で博多まで引率され、長崎に向かい、再び船に乗せられて着いたのが端島だった。「端島がどんな所か何も話さず、無条件に良い所だと騙して、あの手この手で逃亡を防ぎながら連行した」という。2010年の市民団体関係者によるインタビューのなかで、崔さんは端島での強制労働や生活をこう語っている。
「石炭を掘り出す仕事、採炭だ。わずか一週間だけ採炭現場を見学させて、仕事に就かせた。一番方、二番方、三番方というふうに三交代で一日一六時間労働のときと、二交代で一日一二時間労働のときとあった。一度に四〇人ずつ、坑口から三、〇〇〇尺もの地下にものすごいスピードで降下して、身の縮む思いがした。現場は暑くて汗だくなので、一年中、褌一丁で働いた。(中略)汁かけ飯一杯食っただけで長時間働くのだから、みんな栄養失調状態になった。仕事が終わって、七メートルはある防波堤の上に毛布を敷いて体を休めていると、脚が痙攣を起こした。『俺、死にそうだ』という呻き声も聞こえた。しかも賃金をもらったことはない。私の記憶は確かだ」
「(島から脱出した人は)いたけれども、ひどい目に遇った。木浦や井邑の水泳が上手な人たちが丸太で筏を作り、海を渡ろうとしたが、途中で疲れ果てて捕まったり、陸地まで行って捕まった人もあり、ゴムのチューブで皮膚も剥げるほど叩かれた。悲鳴を聞いて駆けつけた私たちの目の前でさんざん拷問された。六七号棟のところに当時あった空き地でのことだ。大体一一名ほどで、彼らは投獄されたらしく、島からいなくなった」
「(端島を世界遺産にすることについて聞かれ、)端島がわれわれにとってどんなところだったと思っているのか。騙して強制連行して、こき使い、人間として行きられないところだったのだ。四面海で逃げ出すこともできず、自分自身を放棄して、生きた心地がしなかった。人生を台無しにされた。あの地獄は忘れようとしても忘れられない」
徴用工問題と安倍政権の入国管理法改正には共通点が
朝鮮や中国から連行された徴用工たちは、給与や生活環境、割り当てられた現場の危険性などで、日本人よりも劣った差別的待遇を強いられることが多かった。徴用工問題は、植民地支配と侵略戦争をめぐる問題であると同時に、差別意識に根ざした「外国人」労働問題の側面がある。
実は、これはいま、安倍政権がゴリ押ししている、外国人労働者の受け入れを拡大する法案=入国管理法改正にも関係している話なのだ。
言っておくが、強引に繋げているわけではない。周知の通り、国会では、入国管理法改正案の内容が極めて曖昧であることや、外国人たちの生活支援等の整備がおざなりであることが追及されている一方で、ネトウヨなどの右派からも「移民政策だ」として批判の声があがる。安倍首相は「深刻な人手不足に対応するため」などとその緊急性をアピールするが、現実には、労働者が集まりにくい業種に低賃金で外国人を使いたい財界の要望だ。
この状況は戦前の日本に重なっている。実際、1930年台の終わりに日本政府が戦時労務動員の方針を策定する以前は、朝鮮人の渡日は政府の手で抑制されていた。そして国内世論のなかにも、日本が植民地支配をしている朝鮮の人々への恐怖から「労働者としての受け入れ」を拒絶する風潮があった。ここから日本政府が朝鮮人などを労働力として動員していった流れについて、前述の外村教授はこのように説明している。
〈朝鮮人渡日抑制方針が存在したなかで、その緩和を求め、朝鮮からの労働力導入に積極的であったのは石炭産業の経営者だった。そうした動きはすでに日中戦争開始前に存在していた。言い換えれば、戦争による絶対的な労働力不足のなかで、もはや他に選択肢がないとして朝鮮からの労働者導入が要望されたわけではないのである。
この段階で石炭産業が朝鮮に労働力を求めたのは、その経営のあり方が関係していた。炭鉱では、機械化による生産性向上ではなく、人力に依存しての石炭の採掘が続けられていた。そこでは、できるだけ安い賃金で働く労働力の確保が経営のカギとなった。そして、福利厚生や安全対策、賃金をはじめとする労働条件の改善を図ることで労働力を集め、熟練労働者を留めおく施策は行われず、したがってそれゆえに労働者の確保がますます困難になるという悪循環に陥っていた。〉
戦時下において、朝鮮人は日本政府の方針で強制的に動員され、日本人とは異なる差別的な環境で働かされた。だが、外村教授は〈これは日本帝国のマジョリティたる日本人がマイノリティの朝鮮人を犠牲にすることで恵まれた立場にいたということを意味するわけではない〉と指摘する。〈むしろ、朝鮮人の存在によって日本人民衆に対する抑圧もまた続けられていたと見ることが可能であ〉り、〈そのような状況をマジョリティが自覚し改善し得ずにいたことが、朝鮮人強制連行のようなマイノリティに対する加害の歴史をもたらしたのである〉と。
徴用工問題を通じて振り返るべきは、日本の植民地支配における朝鮮人への差別的扱いはもちろんのこと、政府が奴隷的な労働を担う人々をつくりあげることで、それ以外の人たち待遇を改善しなかったという事実である。安倍政権の歴史修正主義が塗りつぶそうとしているのは、朝鮮半島への加害事実だけでない。メディアもわたしたちも、そのことに気がつかねばならない。
(梶田陽介)
■主な参考文献
『朝鮮人強制連行』(外村大/岩波書店)
『調査・朝鮮人強制労働①炭鉱編』(竹内康人/社会評論社)
『〔増補改訂版〕軍艦島に耳を澄ませば 端島に強制連行された朝鮮人・中国人の記憶』(長崎在日朝鮮人の人権を守る会・編/社会評論社、文中で引用した崔璋燮さんの証言は同書に収録されている)
『労働力動員と強制連行』(西成田豊/山川出版社)
『朝鮮人戦時労働動員』(山田昭次、古庄正、樋口雄一/岩波書店)
最終更新:2018.11.14 12:09
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