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和田政宗が大絶賛! RADWIMPS「HINOMARU」がおちいったネトウヨ的精神性とW杯との相関関係
Twitterでも謝罪文を掲載したが…(RADWIMPSのボーカル・野田洋次郎のTwitterアカウントより)
人気バンドRADWIMPSの楽曲「HINOMARU」が「右翼的」「軍歌を思わせる」と炎上した騒動は、作詞・作曲をしたボーカルの野田洋次郎が「謝罪」し、今度はその謝罪をめぐって、右派やネトウヨが「自分の国が好きで何が悪い」「批判は言葉狩りだ」と騒ぎ出す事態となっている。
さらには国会議員も参戦。自民党の参院議員・小野田紀美氏がこの問題を取り上げ、「普通にこの国が好きだっていう」「ただただ、いとしい、誇らしい、その思いを言っただけ」と擁護し、元SPEEDの今井絵理子衆院議員もブログで〈表現の手法は作家の自由〉として〈いつしか、ただこの土地で生まれたというだけで、目に見えないHINOMARUを背負っていることに気づき、日本人であることの誇りを覚えた〉と投稿。
さらには、ネトウヨ議員・和田政宗氏もブログとTwitterに〈RADWIMPSの新曲「HINOMARU」への過剰な反応はまさに「言葉狩り」。曲を聴いたが、日本人の精神性の美しさを歌っているだけで、どこが軍国的なのだろうか。こんなことで言葉狩りをしていたら権力を批判する歌さえ歌えなくなる。〉とRADWIMPS擁護を展開した。
ふだん、安倍政権批判を「工作員」「印象操作」などとレッテル貼りして攻撃しまくっているネトウヨ議員が「言葉狩り」とか「権力を批判する歌さえ歌えなくなる」とは笑わせるが、それはともかく、この問題はたしかに謝罪するような話ではない。それが自らの思想にもとづいてつくった歌ならば、差別表現でもないかぎり、撤回したり謝罪する必要はないはずだ。
だが、一方で、この楽曲に批判の声が上がるのも当然である。そもそも、和田議員やネトウヨが擁護していることからもよくわかるが、「HINOMARU」の歌詞はどう見ても、軍国主義丸出しだ。
〈風にたなびくあの旗に/古よりはためく旗に/意味もなく懐かしくなり/こみ上げるこの気持ちはなに
胸に手をあて見上げれば/高鳴る血潮、誇り高く/この身体に流れゆくは/気高きこの御国の御霊
さぁいざゆかん/日出づる国の/御名の下に
どれだけ強き風吹けど/遥か高き波がくれど/僕らの燃ゆる御霊は/挫けなどしない
胸に優しき母の声/背中に強き父の教え/受け継がれし歴史を手に/恐れるものがあるだろうか〉
ほかにも〈たとえこの身が滅ぶとて 幾々千代に さぁ咲き誇れ〉など、完全に特攻隊を想起させるような部分もあり、あまりの露骨さに最初は「パロディじゃないのか」と疑ったほどだ。
歌詞の問題はネトウヨ的浅さ!自分の魂に「御霊」と尊敬語つけるトンチンカン
しかし、今回の一件は、今もっとも売れているミュージシャンがびっくりするくらい右翼的な思想の持ち主だったという話ではない。むしろ逆だ。この戦前回帰的な軍歌もどきの歌詞は、右翼思想とはまったく関係なく、びっくりするくらい薄っぺらな動機でふんわりと生み出されている。そして、だからこそ問題なのだ。
野田は炎上直後、Instagramで〈純粋に何の思想的な意味も、右も左もなく、この国のことを歌いたいと思いました〉〈自分が生まれた国をちゃんと好きでいたいと思っています。好きと言える自分でいたいし、言える国であってほしいと思っています〉と釈明していたが、これはおそらく嘘ではない。野田はほんとうに「右も左もなく」「日本が好き」を伝えるために、無自覚にこんな言葉を選んだのだ。
そのことは、実は「HINOMARU」の歌詞からもうかがえる。同曲にはたしかに前述したように、戦前や戦中を思わせる国粋主義的フレーズが大量に出てくるが、その多くは本来の意味や歴史的背景とは大きくずれた、頓珍漢としかいいようのない使われ方をしているのだ。
たとえば、サビの〈どれだけ強き風吹けど 遥か高き波がくれど 僕らの燃ゆる御霊は挫けなどしない〉というフレーズ。「御霊(みたま)」とは、神の霊や死者の霊の尊称だが、そこに「僕らの燃ゆる」なる形容がくっついている。「俺らの熱い魂」的な意味で使っているのだろうが、完全に使い方を間違えている。というか、そもそも自分の魂に尊称をつけてどうするのか、という話である。
ほかにも、日章旗が国旗とされたのは明治時代のことで、一般民衆的にはせいぜい江戸時代の船印がはじまりにすぎないのに〈古よりはためく旗に/意味もなく懐かしくなり〉と表現したり、天皇や神の名前の尊称である「御名」という言葉を使って〈日出づる国の/御名の下に〉と歌ったり。ようするに、靖国神社まわりで使われていそうなフレーズをなんとなくパッチワークして「日本すごい」と叫んでいるだけで、歴史や伝統、国家というものを本気で学び、考えた形跡がまったくないのである。
だからこそ、野田は批判を受けた途端、あんなに簡単に謝罪してしまったのだろう。しかも、その謝罪というのが〈傷ついた人達、すみませんでした。〉と、まるで差別的な失言をしてしまった芸能人のような謝り方なうえ、〈この曲は大震災があっても、大津波がきても、台風が襲ってきても、どんなことがあろうと立ち上がって進み続ける日本人の歌です。みんなが一つになれるような歌が作りたかったです〉という、まるで日本人だけが災害に立ち向かっているかのような釈明を付け加える無自覚ぶりだった。
2002年W杯がネット右翼とヘイトスピーチ増殖の契機、と在特会幹部が証言
しかし、野田が歴史や伝統に対する知識もなく、国家についてきちんと考えたこともないとしたら、なぜ、わざわざ「HINOMARU」のような楽曲を出してしまったのだろうか。
それはおそらく、この曲がフジテレビのサッカーW杯中継のテーマソング「カタルシス」のカップリング曲であることと無関係ではないだろう。
野田の歌詞はもともとコンセプトを過剰に表現する傾向があり、時として攻撃的な歌詞を書くことでも有名だ。たとえば、RADWIMPSの変名バンド・味噌汁’sの楽曲「ジェニファー山田さん」では〈もしも俺が明日死ぬなら爆弾抱えて向かうんだ 永田町に小泉首相に会って目の前で吹き飛びたい〉〈ブッシュってどういう意味? それはつまりチン毛って意味〉と暴力的かつ下品なギャグで政治風刺的な歌詞を書いていた。
ところが、そのRADWIMPSは2016年に社会現象となった新海誠監督の長編アニメ映画『君の名は。』で音楽を担当し、主題歌の「前前前世」は大ヒットしNHK紅白歌合戦にも出演。一躍、国民的アーティストとして広く認知されるようになった。そうしたなかで今回、W杯中継のテーマソングのオファーを受け、そのカップリングとして制作された曲が「HINOMARU」だった。
W杯については、メディアでも「国の威信をかけて戦う」「国を背負った魂の戦い」などと、やたらナショナリズムを煽る勇ましい文言が飛び交っているが、野田はこのW杯の仕事をするなかで、その空気に引きずられ、「国民がひとつになって戦える曲を」と、浅薄なナショナリズムをエスカレートさせていったのではないだろうか。
実際、これまでも、W杯や五輪にかかわることで、ナショナリズムに取り込まれていったアーティストは少なくない。わかりやすいのが椎名林檎だ。椎名は2014年サッカーW杯のNHKテーマソング「NIPPON」で、〈この地球上で いちばん 混じり気の無い気高い青〉〈our native home〉〈我らの祖国〉といった純血思想や国家意識を強調するような歌詞を発表。さらに2016年にはリオ五輪閉会式の「フラッグハンドオーバーセレモニー」の演出を務め、日の丸と君が代を過剰なドラマティックさで演出し、“安倍マリオ”というオリンピックの政治利用の一翼を担うまでになった。
いや、アーティストだけではない。実は、ネトウヨやヘイトスピーチもスポーツの国際大会をきっかけに増殖してきた部分がある。
たとえば、在日特権を許さない市民の会(在特会)によるヘイトスピーチの問題をいち早く世に知らしめ、日本のネット右翼を数多く取材してきたジャーナリスト・安田浩一氏の著書『ネットと愛国』(講談社)には、2002年におこなわれた日韓共催のサッカーW杯が、この国にネット右翼を生み出した大きなきっかけとなったことが記されている。
同書は、在特会幹部の米田隆司氏が〈ネット言論が大きく“右に振れた”要因として「日韓ワールドカップ」と「小泉訪朝」の2つをあげた〉〈なかでもワールドカップは「ネット言論におけるエポックメーキングだった」とまで断言した〉ことを紹介したあとに、こう書いている。
〈私が取材した在特会会員の多くも、“右ブレ”の理由としてワールドカップを真っ先にあげている。当時の「2ちゃんねる」では、韓国選手やサポーターの一挙手一投足をあげつらったスレッドが乱立、いわゆる「祭り」状態となっていた。韓国側のナショナリズムに煽られ、日本人の一部もまた、眠っていたナショナリズムが刺激された側面はあったように思う〉
また、2011年頃から、ヘイトスピーチ増殖の大きな契機となったフジテレビ嫌韓デモが起きているが、そのなかには、フィギュアスケートの浅田真央ファンがライバルであるキムヨナに対する反感から嫌韓デモに参加、その後、ネトウヨ化していったケースが多数あることが、古谷経衡のルポ『フジテレビデモに行ってみた!』(青林堂)に記されている。
「自分が生まれ育った国が好き」がヘイトスピーチに転化する回路
そういう意味では、今回のRADWIMPS野田洋次郎の「HINOMARU」はなにからなにまでネトウヨ的とも言えるだろう。歴史や伝統に関する知識もなく、国家についてまともに考えたこともないくせに、国家の威信とは何の関係もないスポーツをきっかけに、自尊心を国家に仮託し始め、「日本すごい」の自己陶酔と自己慰撫に拘泥し、戦前戦中の軍国主義的な言葉を「かっこいい」と連呼し始める。
その幼稚な精神性には呆れ果てるが、しかし、それは幼稚だから無害ということではない。むしろ思想的な背景がまったくない、浅薄で無根拠な「日本すごい」だからこそ、簡単に戦争の美化=歴史修正主義や他国への差別と排除=ヘイトスピーチに転化しうる。
しかし、だからといって、「HINOMARU」という楽曲やRADWIMPSというバンドのライブに対して、謝罪しろとか、撤回しろという抗議をおこなうことは逆効果でしかない。和田政宗の反応が象徴的なように、むしろ愛国を扇動したい連中に「言葉狩りだ」と逆利用されるのがオチだろう。
わたしたちが向き合うべきなのはそこではなく、スポーツで日本のチームを応援したい、自分が生まれ育った日本が好きという素朴な感情が、歴史修正主義や戦前的な軍国主義、ヘイトスピーチに転化する回路がどこにあるか、それをどう断つかということ。そのことを真剣に考えないかぎり、「HINOMARU」的なものは、それこそ「右でも左でもない普通の日本人の想い」として、今回のW杯以降さらに広がっていくことになるだろう。
(宮島みつや)
最終更新:2018.06.17 06:00
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