百田尚樹『カエルの楽園』の「村上春樹」揶揄に新潮社が大弱り! 百田にキャラ名の変更頼むも拒否され作家タブーの板挟みに

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百田尚樹 公式ホームページより


 以前、本サイトで公開した、作家・百田尚樹センセイの新作『カエルの楽園』(新潮社)の書評は、大きな反響を呼んだ。

 詳しくは記事をご覧いただきたいが、同書は人間をカエルに置き換えた上で、右派のいう「自虐史観」を宣伝するとともに、ひたすら憲法9条を腐す“寓話小説”。だが、本サイトがこれを「たんなるネトウヨの妄想」「『ラノベ以下』と言ったらラノベに失礼」と批評したところ、百田センセイが反応。「中傷記事」「悪意と憎悪に満ちた記事」と怒髪(はないが)天を衝く勢いで、ツイッターでこうまくしたてたのだ。

〈『カエルの楽園』ここまで憎悪を剥き出しにした記事を書けるとはむしろ感心する。しかもすごい長文。これを書いたのは中国人か。ただ確信的にネタバレをやっているのはメディアの仁義に反する〉

「凄まじい憎悪と悪意」とか「ネタバレ」とか、自意識過剰にもほどがある。こちとら、そんな暇じゃないし、こんな単純な小説、数ページも読めば、どんなバカでも結末がわかるだろう。しかも、小説批評に対して「これを書いたのは中国人か」と言い出すに至っては、百田センセイの人種差別の根深さに呆れるほかはない。ようするに、『カエルの楽園』はこういう「ネトウヨ感性」を有していないかぎり、読むに耐えない小説なのだよ。

 ……と、うっちゃっておけばよいのだが、そんな百田センセイも、実は『カエルの楽園』の反応には、ガチでへこんでいるようだ。というのも、百田センセイは最近、お友達の花田紀凱氏が創刊した保守系月刊誌「Hanada」6月号に「『カエルの楽園』は「悪魔の書」ではない」なるタイトルの文章を寄稿しているのだが、そこで同作を解説&自画自賛しつつ、いかに「アンチ」によって不当に貶められているかをとうとうと書き連ねているのだ。

 たぶん、書評家や文芸評論家からはまったく相手にされないから右派論壇に駆け込んだというところだろうが、実際に同誌では、百田氏自身による解説記事以外にも、櫻井よしこ氏や小川榮太郎氏など、総勢9名もの極右界隈の人たちによる“絶賛感想文”を掲載。百田センセイもお友達に慰められてさぞかしご満悦なことだろう。

 しかし、本サイトとしては、そこで百田センセイがどれだけ“『カエルの楽園』は大傑作なんだ!”と言いふらしているかは、実のところ、どうだっていい。それよりも興味深いのは、百田氏が同作の誕生秘話として、こんな“暴露”をしていたことのほうだ。

〈登場するカエルの名前に関して、出版社から「百田さん、この名前は勘弁してもらえませんか……」と言われたのがプランタンです〉

 ここで一応注釈を入れておくと、同作の主人公は、カエル喰いのダルマガエルに土地を奪われたアマガエルで、この2匹が辿り着いたのは、ツチガエルの国「ナパージュ」。だが、そこでは凶悪なウシガエルが自分たちの土地だと主張していて──。

 お分かりの通り「ナパージュ」とはJapanの逆さ読みである。どうも百田センセイはこういう安直なネーミングがお好きなようで、権威的なカエルの「デイブレイク」(夜明け=朝日新聞)とか、嫌われ者の「ハンドレッド」(100=百田自身)なるキャラクターまで登場する。ところが、百田氏が「Hanada」6月号で言うには、「プランタン」というカエルだけは新潮社から「勘弁してください」と懇願されたというのだ。いったい、なぜか?

〈(プランタンは)物語のなかではナパージュで一番人気のある「語り屋」として登場するのですが、彼は次のようなことを言います。
「たとえ話す言葉が違っても、基本的には感情や感動を共有しあえるカエル同士なのです。領土の問題は冷静に解決すべきです。安い酒を飲んだときのように、頭に血を上らせて、粗暴にふるまうことは慎まなければなりません。またナパージュの民は、過去にウシガエルに行った非道な行為を忘れてはなりません。ウシガエルが『もういい』と言うまで謝らなければならないのです」
 このセリフとそっくりな言葉が、某新聞の一面に載ったことがあります。なぜ出版社がプランタンの名前を変えてくれと言ったのか、ここではその理由は敢えて書きません〉

 百田センセイは無駄にもったいぶっているが、「プランタン」(printemps)とはフランス語で春のこと。あきらかに作家の村上春樹がモデルだ。そして、ここで百田氏が言っている「『もういい』と言うまで謝らなければならないのです」というのも、昨年4月に共同通信が配信した春樹のインタビュー記事が元ネタ。同記事で、春樹は近年の日中韓関係について、こう語っている。

〈歴史認識の問題はすごく大事なことで、ちゃんと謝ることが大切だと僕は思う。相手国が「すっきりしたわけじゃないけれど、それだけ謝ってくれたから、わかりました、もういいでしょう」と言うまで謝るしかないんじゃないかな。謝ることは恥ずかしいことではありません。細かい事実はともかく、他国に侵略したという大筋は事実なんだから〉

 実は、この春樹のインタビューが配信されたとき、百田氏はツイッターでこう噛みついていた。

〈そんなこと言うてもノーベル賞はもらわれへんと思うよ〉
〈小説家なら、相手が「もういい」と言う人間かどうか、見抜けそうなもんだが…。それとも本音は「1000年以上謝り続けろ」と言いたいのかな〉

 ようするに、百田氏が『カエルの楽園』にプランタンを登場させ、同じようなことを喋らせたもの、完全に春樹を揶揄するためだったのだろう。

 しかし、周知のとおり、村上春樹といえば、この出版不況のなかにおいて“出せばベストセラー確実”の超売れっ子作家。文芸誌「新潮」を抱え、また、多数の春樹作品の単行本、文庫本の版元である新潮社からしてみれば、百田氏に自社刊行の小説のなかでこんな悪意剥き出しの揶揄をさせて、春樹先生にヘソを曲げでもされたらもう大変。そこで、百田氏に泣きついた、ということのようだ。

 実際、新潮社関係者に取材したところ、新潮社は本当に村上春樹氏の逆鱗にふれるのを恐れて百田氏側に「プランタン」の名前を変えてくれないか、とお願いしていたらしい。

「ところが、百田さんにあっさり拒否されて、新潮社としては頭を抱えていたようです。正直、新潮社では百田さんを引っ張ってきた出版部部長の中瀬(ゆかり)さん以外、誰も百田さんのことを小説家として評価していません。でも、百田さんの本は出せば相当の部数が売れますから、切るわけにはいかない。かといって春樹さんも怖い。それで編集幹部がどう対処するかを相談したようですが、結局、春樹さんには黙っておいて、指摘されたら『知りませんでした』としらばっくれる、という作戦にしたらしいです。幸い春樹さんからは何も言われていないようですが」(出版関係者)

 まあ、春樹センセイもあんな愚にもつかない小説を読むようなヒマもセンスもないだろうが、しかし、改めて呆れるのが、出版社の歪みきった“作家タブー”である。一方では、歴史修正主義に入れ込んで、『カエルの楽園』のような“憲法攻撃小説”を出しておきながら、他方では、リベラルな政治的スタンスを持つ村上春樹の顔色を伺う。新潮社は、いったいどれだけご都合主義なんだよ!と言いたくなるではないか。

 もういっそ、村上春樹センセイも、こんなブレブレの出版社には見切りをつけて、すべての版権を引き上げてしまったらいかかがだろうか。もしくは、新潮社が「小説として評価していない」百田センセイにすっぱり見切りをつけて、老舗文芸出版社の矜持を見せつけるか。まあ、今の新潮社にそんなこと望むのは、八百屋で魚を求めるようなものかもしれないが……。
(小杉みすず)

最終更新:2016.05.19 07:00

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