安倍政権が道徳教科書に採用「江戸しぐさ」がオカルト確定! でも下村文科相は責任逃れ

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『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』(星海社新書)

 今月6月25日に放送された『NEWS23』(TBS)の特集が、いまネット上で話題を呼んでいる。この日、番組が紹介したのは「江戸しぐさ」。ネットでは以前から“出所があやしい代物”として疑問視する声が高まっていたが、ついにテレビもこの疑惑を取り上げたのだ。

 さて、「江戸しぐさとはなんぞや?」という方に説明すると、江戸しぐさとは、〈江戸商人のリーダーたちが築き上げた、上に立つ者の行動哲学です。(中略)江戸時代は、260年以上もの間、戦争のない平和な時代が続きました。その平和な安心な社会を支えたのが『江戸しぐさ』という人づきあい、共生の知恵です〉(「NPO法人江戸しぐさ」HPより)という。注目されるようになったきっかけは、2004年、ACジャパン(公共広告機構)のCMで取り上げられてからだ。

 江戸のビジネスリーダーによる行動哲学……? そう言われてもさっぱりわからないと思うので、具体例を挙げてみよう。

 雨や雪の日に道ですれ違うとき、お互いに傘を外側に傾けて、相手の体に傘の雫がかからないようにする「傘かしげ」。狭い路地や混み合う道路では、お互いに右肩を引いて体全体を斜めにし、胸と胸を合わせる格好ですれ違う「肩引き」。人に足を踏まれたら相手に怒るのではなく、とんだところに足を出していて、うかうか踏まれた自分が悪いと、足を踏まれたほうが先に謝る「うかつ謝り」。──こういうものが、「江戸しぐさ」というらしい。

 で、この江戸しぐさ、日本社会で、とてもとてもウケている。

 まずは、企業にウケている。東京ディズニーランドを運営する株式会社オリエンタルランドを始め、その他、多くの企業の社員研修プログラムに江戸しぐさは取り入れられている。

 新聞各社にもウケている。朝日、毎日、読売、産経などの全国紙も、地方紙も、江戸しぐさに好意的な記事を掲載している。出版界でもウケている。『暮らしうるおう江戸しぐさ』(越川禮子/朝日新聞社)を始め、江戸しぐさに関する本は多数出版されている。

 テレビ各局にだってウケている。『テレビ寺子屋』(フジテレビ系/2013年)や『THE 博学』(テレビ朝日/15年)、日本テレビ、TBS の番組でも江戸しぐさは取り上げられている。NHK にだって、当然のことのように顔を出す。

 教育界でもウケている。全国小中高教師数万人がその会員、過去9年間に22万人以上がそのセミナーに参加したと言われる『TOSS(教育技術の法則化運動)』。この団体が開設している、指導案・授業コンテンツ共有サイト『TOSSランド』にも、江戸しぐさを題材にした小学生のための道徳授業の指導案がアップされ、誰でも閲覧可能だ。

 さらに、文科省である。教科書の世界では、すでにフジサンケイグループの育鵬社が、12年度版の『中学社会 新しいみんなの公民』のコラムで江戸しぐさをイラスト入りで紹介していた。そして、14年春、文科省が作成した道徳教材『私たちの道徳 小学校5・6年』に、ついに江戸しぐさが登場したのである。

 全国の小中学校に配布されたこの冊子では、「人とつながって」という礼儀や思いやりを説く章において、江戸しぐさのいくつかの具体例が解説され、〈三百年もの長い間、平和が続いた江戸時代に、江戸しぐさは生まれました〉と記載。江戸しぐさが江戸時代に生まれた歴史的・社会的背景も説明されている。

 そんな状況下で、歴史研究家・原田実氏は、江戸しぐさはまったくの眉唾もの、現実の江戸には存在しなかった歴史偽造による“オカルト物件”だと言い切る。

 “初の「江戸しぐさ」検証本”と帯に書かれた彼の著書『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』(星海社新書)の中で氏は、日本社会における江戸しぐさ普及の現状、江戸しぐさという創作物の誕生やその後の展開の歴史などに触れ、「傘かしげ」や「肩引き」といった個々の江戸しぐさについても、江戸に関する自身の専門知識を動員しつつ、その虚偽性を論証している。

 原田氏によれば、江戸しぐさは1980年代に芝三光という反骨の知識人が産みだした“発明”であり、芝に弟子入りした越川禮子という女性が芝の死後、草の根レベルでの普及活動を経たのち、江戸しぐさに興味をもった日本経済新聞社出版局部長、その後、日経CNBC 代表取締役社長になった桐山勝氏の助力を得て『NPO 法人江戸しぐさ』を設立したことで、ビジネス界や教育界に広く浸透していったのだという。

 また、この書の中で原田氏は、1920年代生まれの芝三光という人物から、なぜ、江戸しぐさのような創作が生まれたのか、芝氏が生まれ育った環境や当時の時代背景、さらに創作に影響を与えたと思われる70年代の社会状況なども分析し、その理由を考察。芝氏ひとりで墓場までもって行くはずだった創作に、彼の死後、「江戸っ子狩り」といった越川氏の創作が加わった可能性についても言及している。

 そして、こうした“オカルト”を私たちの社会はいかにたやすく信じるかを、また、このようなオカルトがビジネス界のみならず教育界をまで侵していることの責任の一端は、自分の専門世界に閉じこもり、社会の動きに無関心だった専門家たちにあることをも指摘している。

 原田氏がこの本を書こうと思った第一の動機は、日本の教育への危機感である。前述の道徳教材『私たちの道徳』は、第二次安倍内閣政権下での教育改革を受けて、文科省が作成した。“お上のお墨付き”でこうしたオカルトが教育現場に入って行くことに、彼は大きな危機感を覚えているのである。

 こうした危機感は、ネットを通じて一般の人たちのあいだでも広がっていた。きっと文科相も「江戸しぐさ」を道徳教材に取り上げたものの、批判が多く寄せられていたのだろう。それゆえ、今回の『NEWS23』の取材に対し、文科相は「歴史的には検証していない」と開き直り、「歴史的事実として教えるものではなく、礼儀やマナーを考えるきっかけになればと作成した」と言い訳。そのくせ「来年度以降については改訂を検討している」と回答している。

 原田氏も書いているように、例えば江戸しぐさも大人が相手なら〈ヨタ話をヨタ話として楽しむ権利も許されている〉で済むかもしれないが、ある種の策略が見えて来そうなこれらの教育教材が、どういう色にも染まることができる子どもたちへの教育現場に浸透となると、〈もはや洒落ではすまない〉のである。にもかかわらず、「歴史的には検証していない」のに“江戸時代に、江戸しぐさは生まれました”と断定して道徳の教材で取り上げた文科相の罪は重い。事実、『NEWS23』が行った街頭インタビューでは、若者がフリップにまとめられた複数の江戸しぐさを見て、「全部分かる」と答えていた。もうすでに、江戸しぐさはかなりの人に浸透し、存在が信じられているわけだ。

 また、教科書内で江戸しぐさを取り上げた育鵬社についても、いまさらながら「真偽にさまざまな議論があるとして来年度からは掲載しないことを決定した」(『NEWS23』より)という。しかしながら、この新版にも、以下のような江戸しぐさの精神に通じる記述が並ぶ。

〈個性尊重が強調される中、男女のちがいというものを否定的にとらえることなく、男らしさ、女らしさを大切にしながらそれぞれの個性をみがき、高めていくことが重要です〉
〈子どもを産み育てることは人間にとって喜びであり、その営みこそが次の世代、社会をつくりあげていきます。しかし、そのためには、自分本位の生活習慣から、家族の一員としての生活習慣への転換も必要です〉

 まさしく安倍首相や日本会議の主張と瓜二つだが、彼らが目指したい国、育てたい国民とはどういうものなのか、ここから透けて見えるようだ。

 ──国民は従順に政府に従い、個人生活に没頭することなく、家族のため、家の存続のために生活し、旗日には国旗をきちんと飾り、男は男らしく(どういうものか、よくわからないけれど)、女は女らしく(やっぱり、どういうものか、ちっともわからないけれど)ふるまい、非婚なんてとんでもなく、一定の年齢になれば結婚し、せっせと子づくりに励み、先祖代々日本人であれば必ずDNAに組み込まれているはずの「国民としての自覚をもって国際社会で主体的に生きる力を」(「」内、育鵬社の歴史教科書の編集基本方針より拝借)皆がもつ。そして人から言われなくても、「こぶし腰浮かせ」や「蟹歩き」がサッとできるような人間になり、「感謝の目つき」のように、相手の気持ちは目つきだけで間違いなくわかり、言葉によるコミュニケーションなどしなくても、異文化がぶつかり合う国際社会でだって、日本国民として主体的に生きられるはず。原発が爆発して被災地になるような所にうかうか住んでいた人は、そんなところに住んでいた自分が悪いのだから、東電や国より先に「うかつ謝り」しよう! 

 ……「江戸しぐさ」とは、たしかに現政権にとって、すてきな教材だったのだろう。今回の報道を皮切りに、その嘘っぱちさがどんどん曝かれていくことを望みたい。
(波田幾世)

最終更新:2018.10.18 05:20

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