防衛官僚出身、安倍官邸の元参謀役が首相の無知を批判! 集団的自衛権はコスパが悪い

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
jieitai_150218.jpg
防衛省・自衛隊60周年記念航空観閲式での安倍首相の訓示(首相官邸HP「政府インターネットTV」より)


 積極的平和主義などと称して「戦争のできる」国づくりへひた走る安倍晋三首相にとって、この人ほど“いなくなって欲しい”目の上のタンコブはいないだろう。柳澤協二氏、68歳。東大法学部卒で1970年に防衛庁(当時)入庁。審議官、局長、官房長などを歴任し、2004年4月から約5年半、小泉→安倍→麻生と3代の政権に渡って危機管理・安全保障担当の内閣官房副長官補として官邸の参謀役を務めたバリバリの元防衛官僚だ。この間に自衛隊のインド洋海上補給支援活動やイラク派遣などの立案にも携わった。テロと戦争のプロである。

 そんな“左翼ではない”(というか身内だった)柳澤氏が、安倍政権の安保政策を徹底批判しているのだ。昨年4月に『亡国の安保政策――安倍政権と「積極的平和主義」の罠』(岩波書店)を出版したのを皮切りに、新聞・雑誌等のインタビューやテレビ出演はもちろん、全国各地を回っての講演会を精力的にこなしている。動機は、「かつて政府の中枢にいた人間の使命として、『おかしい』と思ったことは国民に伝えなければならない」からだという。今年1月には新著『亡国の集団的自衛権』(集英社新書)を出したばかりだ。

 長年、日本の防衛の最前線で実務を担ってきた人だけに、その筆致は冷徹で異論を挟む余地がない。これを読むと、いま国会や与党協議で議論されている防衛論がいかに机上の空論であり、安倍首相の言う「積極的平和主義」が「空想的平和主義」なのかがよくわかる。

 例えば、集団的自衛権が必要な根拠として、同盟国であるアメリカと中国の間で軍事衝突が起きたとき、中国に奇襲された米軍の艦艇を自衛隊が守らなくていいのかという主張があるが、そのためにいったいどれくらいの兵力が必要なのかの議論がまったくない。

 柳澤氏の分析では、現状の4個護衛隊群では全然足りず、最低あと2個護衛隊群が必要となり、西太平洋までの距離の長さを考えれば、ミサイルや弾薬の備蓄もいまの数倍に増やさなければならないという。

 さらに言えば、アメリカの船を守るために自衛隊を出したら肝心の日本の防衛が手薄になり、その分の補強も必要になる。いずれにせよ、大規模な軍備の増強と防衛費の増加が想定されるわけだが、財政的裏づけに関する話がいっさいない。ちなみに、備蓄増が必要な迎撃ミサイルだけでも1発数千万円もする。安倍首相は、集団的自衛権行使を認めればカネが湧いて出てくるとでも思っているのだろうか。

 安倍首相は、日米の軍事力に差があることすら理解していないフシがある。日本政府が現行法では対処できないとして挙げた15の事例のひとつに「米国に向け我が国上空を横切る弾道ミサイルの迎撃」というのがある。よく話題になるので知っている人も多いと思うが、迎撃は物理的に不可能なのだ。北朝鮮からアメリカ本土に向かう長距離ミサイルを探知して弾道を計算できるころには、弾頭はすでにかなりの高度と速度に達している。これを弾頭より速度が遅く、到達高度も低い迎撃ミサイルで撃ち落とすことは、誰が考えても無理だと分かる。

 そこで、いつのまにか話はグアムやハワイに向かうミサイルにすり替わった。ミサイル対処可能なイージス艦を使えば技術的に撃ち落とすことは不可能ではないらしい。ところが、このイージス艦は日本には6隻しかなく、アメリカには30隻以上もある。北朝鮮がグアムやハワイにミサイルを撃ち込む事態というのは、当然、日本も安全ではない。そんなときに、なけなしの日本のイージス艦をグアムやハワイの近海に持っていくより、日本の船は日本の防衛に使って、グアム、ハワイはアメリカが自分で守るというほうが自然だろう。

 実際、柳澤氏の実務経験からしても、アメリカは米軍の艦船を「日本に守ってもらう」などということはまったく想定していない。日米の軍事力には大きな「差」があり、当然、アメリカのほうが上なのだ。そこで、同盟国としての日本が求められる最重要事項が何かといえば、アジアにおける前線拠点である「日本」を日本自身が守るということだけだ。自国の国土を守るという点においては、専守防衛を旨としてきた自衛隊は世界でも屈指の能力を備えているというのである。

 似たような話で、集団的自衛権がなければ米軍の後方支援で弾薬の提供ができないではないかという主張もあるが、そもそも在日米軍の方が自衛隊よりはるかに多くの弾薬を持っているため、日本から提供する必要はない。考えれば分かることだ。

 要は、安倍首相の頭の中には自衛隊の兵力、装備、能力といった情報がほとんどインプットされていないようなのだ。だから、NHKのテレビで「人質救出に自衛隊を」などと、当の自衛隊がビックリするようなことを言ってしまう。安倍首相は法律を変えれば自衛隊がテロリストから人質を救出できるとでも思っているのだろうか。米軍特殊部隊が何度も失敗したオペレーションが、法律を変えるだけで成功すると思っているのだろうか。

 安倍首相は「集団的自衛権があれば米軍と情報交換できるようになる」というメリットを挙げているが、これも現状認識ができていない。なぜなら、日本政府の見解では「『何度何分に向かって撃て』というような具体的な攻撃指示につながる情報は武力行使と一体化するが、敵機の位置情報を含め、単なる情報の共有であれば(撃つ撃たないという判断をするわけではないので)、憲法には抵触しない」となっている。つまり集団的自衛権などなくても情報共有できるのだ。現に、自衛隊の艦艇や航空機はすでにアメリカの戦略ネットワークに完全に組み込まれていて、戦術情報の共有は日常的に行われているという。安倍首相は、こんなことすら知らずに安保法制に手をつけようとしているのだ。

 柳澤氏の憤りの原点は、こうした安倍政権の“いい加減さ”にある。

 本来、徹底的にリアルで現実的でなければならない安保政策が「アメリカを助けなければ日米同盟は崩壊する」「他国がやれることを日本がやれなくていいのか」といった抽象的かつ情緒的な、理屈にもなっていない理屈で決定しようとしていることが問題だという。

 そこには軍事的常識からも戦略的考察からも整合性がなく、真の政策目標がどこにあるかもわからない。何のため、どんな目的を達成するために集団的自衛権が必要なのかもわからない。そんな曖昧なことのために自衛隊員の命を危険にさらしていいのか、ということだ。

 それにしても、いったいなぜ、安倍首相は、国民や自衛隊を危機にさらしてまで、集団的自衛権を強行し、こんな非現実的な安保政策を推し進めようとしているのか。柳澤氏はそれについても驚くべき分析をしている。その点については後編で紹介しよう。
(野尻民夫)

最終更新:2017.12.19 10:18

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

亡国の集団的自衛権 (集英社新書)

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

防衛官僚出身、安倍官邸の元参謀役が首相の無知を批判! 集団的自衛権はコスパが悪いのページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。安倍晋三柳澤協二自衛隊野尻民夫集団的自衛権の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
ツイート数
1 安倍首相が辛坊治郎の番組で“参院選の事前運動”!
2 吉本興業会長が沖縄米軍基地跡地利用の有識者懇メンバーに
3 堀江貴文が「デモの絵面がヤダ」「税金泥棒は捨て台詞」
4 テレ朝が政権批判した経済部長を報道局外し
5 恵俊彰が田崎史郎を「政権の代弁者」と
6 葵つかさが「松潤とは終わった」と
7 堀江貴文「税金泥棒」発言で晒した年金問題への無知と頭の悪さ
8 「週刊文春」に公選法違反を報道された和田政宗が被害妄想丸出し反論
9 上田晋也『サタデージャーナル』終了の不可解
10 長渕剛のマスコミ批判に坂上忍が言い訳
11 橋下徹に恫喝された女子高生が告白!
12 秋篠宮家の料理番がブラック告発
13 安倍政権が財政審答申から「年金給付が想定より低くなる」削除
14 拍手・起立を井筒監督と松尾貴史が批判
15 竹田恒泰『中学歴史 検定不合格教科書』は間違いと妄想だらけ
16 グッディ!土田マジギレ真の原因
17 交番襲撃“父親が関テレ常務”より「元自衛官」
18 グッディ高橋克実が北朝鮮危機で本音
19 安倍が統計不正答弁中の根本厚労相に「戻れ」指示
20 久米宏が電通タブーに踏み込む激烈な五輪批判
1 安倍首相と省庁幹部の面談記録が一切作成されなくなった!
2 くりぃむ上田晋也が“政権批判NG”に敢然と反論
3 金融庁報告書で厚労省年金局課長の驚愕無責任発言
4 産経新聞コラムが「引きこもりは自衛隊に入隊させて鍛え直せ」
5 安倍首相が「老後2000万円」追及に逆ギレ!
6 菅官房長官が望月衣塑子記者への“質問妨害”を復活
7 金融庁「年金下がるから資産運用」報告書で麻生太郎が開き直り!
8 F35捜索打ち切りと大量購入続行でNHKが「背景に政治性」と報道
9 金融庁炎上の裏で安倍政権が「年金」の“不都合な事実”を隠蔽!
10 防衛省イージス・アショア失態 、玉川徹が原因を喝破!
11 長谷川豊が部落差別発言「謝罪文は馬場幹事長が作った」
12 講談社「ViVi」の自民党広告は公選法違反か!
13 映画『主戦場』上映中止要求の右派論客に監督が徹底反論!
14 渡辺謙が語った『ゴジラ』出演と震災、原発、戦争
15 マンガ『スシローと不愉快な仲間たち』第1話
16 田崎史郎「65歳から年金もらってます」
17 川崎殺傷事件「不良品」発言こそ松本人志の本質だ!
18 香港市民はデモの力示したが、日本は…
19 松本人志が「不良品」発言問題で謝罪も説明もなし!
20 農水元次官子ども殺害正当化は、橋下徹、竹田恒泰、坂上忍も

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄