“嫌韓反中本”“ヘイト本”を売る書店員の苦悩とは? 問われる出版社の製造責任

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『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会/ころから)

 韓国や在日コリアンに対して差別や偏見を助長し、ジェノサイドまで煽動するヘイトスピーチ。その代表例たる在特会らヘイト市民団体によるデモや威力業務妨害などの犯罪行為が大きな社会問題となっているが、その波は街角の書店にも表れている。そう、“嫌韓反中ブーム”に便乗したヘイト本の出版ラッシュだ。その理由は単純明快。「ただ売れるから、ニーズがあるから」。そういうことらしい。

 本サイト・リテラはこれまで、ヘイト本のトンデモ度をランキング形式で発表するなど、その内容の醜悪さを紹介してきた。
(もはやヘイトスピーチ? 嫌韓本トンデモ発言ランキング(前編))
(トンデモぶりに背筋も凍る!? 冬の「ヘイト&嫌韓本」ワースト5)
 だが、その勢いはとどまることを知らず、出版業界は次から次へとヘイト本を生産し続けているのが現状である。

 そんななか、昨年秋、当の出版関係者側からヘイト本の盛況に異を唱える書籍が登場した。『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会/ころから)だ。

 本書の第二章には、書店員を対象としたアンケート結果が掲載されている。「店頭で、『嫌韓嫌中』など特定の国や民族へのバッシングを目的とした本が多いと感じられていますか」という質問には、ほとんどの回答者が「多い」と解答。購入層は、主に50代以降の男性だが、10〜20代の若者もいるようだ。2012年後半から14年にかけてこうしたヘイト本が目立つようになったという。

「周辺国バッシングとともに自国過剰礼賛が不気味なほど売れる」(社会科学書担当者)
「扶桑社新書の『嘘だらけの日中近現代史』が何の宣伝もしていないのに勝手に売れ続けたあたりから、異変の予兆を感じていました。それが明白になったのは、竹田恒泰氏の『面白いけど笑えない中国の話』でしょう。一気にタガが外れた」(雑誌・ムック担当者)

 また、「お店では、そうした本をどのように扱っていますか」という質問に対しては、「文芸の新刊台にはまずは反対意見もあわせて陳列」(人文・文芸担当)という書店もある一方、「バランスをとるほどの反対意見の書籍があるか、と現場から提起しておきたい」という意見もある。

「どのように扱うかも何もありはしない。新刊で売れるものはしかるべきところに置くだけのこと。(略)展開を継続するかしないかはひとえに売れ行きによる。それ以上でもそれ以下でもない」(店長)

 言うまでもなく、書店は商売をしているわけで、売れ行きがよい本が前面にプッシュされるのは自然だ。しかし、ヘイト本のように明らかに反人権的である場合には、どう対応するべきなのか。実際、拒絶反応を示す書店員は少なくない。

「個人的には、絶対に売りたくないです」(雑誌・ムック担当)
「客観的に見れば対外的に良いことは何ひとつなく、どうしてこういう行動をとるのかわからない」(人文担当)
「『愛国』という言葉を他の民族を排除し貶める意味で使用しているみたいで恐怖を感じます」(法律・政治・経済・経営担当)

 他方で、このような意見もあった。

「それらの本を置くことに書店員が良心の呵責を感じていようといまいと実際に置いている以上、なんら免責されるものではないのは明白でしょう。(略)同業者に対して必死に言い訳している書店員こそ、小売業の風上にも置けない輩であると思います。第一、実際に自分の棚から購入されているお客様に失礼です」(政治経済・就職担当)

 しかし、この問題で書店員の責任を追及するのはあまりに酷だろう。むしろ最大の問題は、こうした本をつくりだしている出版社の体質だ。

 そもそも、出版社は商業的な理由から「売れる」ネタに殺到するものだ。ある出版社からベストセラーが飛び出せば、それに続く第2段、第3弾を同じ著者に依頼するし、他社でも似たような企画が大量に持ち上がる。こうした“2匹目のドジョウを狙う”姿勢はかねてから見られたものだが、それでも10年ぐらい前までは、部数がさほど期待できない地味な学術書や海外翻訳ものなどを扱い続ける部署も多かった。

 ところが、ここ最近の出版業界では、明らかに「売れる」ネタと「売れない」ネタの売り上げ格差が激しくなっている。ゆえに、一定以上の部数が見込める“手堅いコンテンツ”としての嫌韓反中ネタを手放すことができない──これが出版社側の理屈らしい。

 ヘイト本の多くは新書や安価なつくりの単行本で、内容も極めて分かりやすい。出自や民族など、取り消すことのできない属性に対して一方的に相手を貶めることで、一部の日本人読者に優越感を与える。鬱憤のはけ口としてうってつけで、かつ、ファストフードのように手頃なのだ。

 だが、出版社側からみれば“優良コンテンツ”だとしても、実際にはメディアとして“不良品”であることは珍しくない。本サイトが再三指摘してきたとおり、ヘイト本は、体裁こそ歴史書のようでも満足に学術的裏付けがなされていなかったり、ネットのデマを鵜呑みにして書き連ねられていたりということがほとんどなのである。

 そして、売り上げのためにセンセーショナルな効果を狙った書籍や週刊誌のタイトルやコピーは、書店での陳列や電車の中刷り広告によって、それだけで外国人や被差別者へ恐怖を与えている。本書のなかで、『九月、東京の路上で 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)の著者・加藤直樹氏がこのように指摘している。

「関東大震災の研究者たちは、震災時の流言と虐殺の背景に、それまでに朝鮮人への蔑視や恐怖を煽ってきたメディアの問題があったことを指摘しています」
「私が恐ろしいと思うのは、嫌韓嫌中本のなかに、そのジェノサイドへの欲望が読み取れるということです」

 たとえば、『中国人韓国人にはなぜ「心」がないのか』(加瀬英明/ベスト新書)というタイトルは、「在特会が言う『ゴキブリ朝鮮人は死ね』という表現と何が違うのか」。『中国を永久に黙らせる100問100答』(渡部昇一/ワック)は、「誰かを『永久に黙らせる』のに一番よい方法は何か。ちょっと考えたら分かりますよね」、そう言うのである。

 現状、点数の差こそあれ、大手を含む多数の出版社がヘイト本を出している。その「売れるからつくる」という安易な体質から、メディアとしての自覚は感じられない。

 はたして、本書の声は今の出版業界に届くのだろうか。
(梶田陽介)

最終更新:2015.01.25 11:01

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