AKBを安倍首相と自衛隊に提供…注意!秋元康が愛国ビジネスを展開中

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AKB48公式サイト「秋元康プロフィール」より


 先月末に閉幕した東京国際映画祭、物議を醸したのは、そのキャッチコピーだった。
〈ニッポンは、世界中から尊敬されている映画監督の出身国だった。お忘れなく。〉
 書店を占拠する愛国本のキャッチコピーと見間違うほどの内向きなスローガンに、映画人を中心に非難が殺到した。

 なお、映画祭のオープニングセレモニーには安倍晋三首相も出席し、嵐の5人に囲まれている。出席後に更新された首相官邸のフェイスブックには、「我が国が誇る質の高い日本映画は、日本の文化、魅力を世界に伝える『クールジャパン』の一翼を担う重要なコンテンツです。(中略)映画を通じて、日本に関心を持ち、日本の文化に触れ、日本のファンになってくれる人々が世界中に増えるよう」と、繰り返し「日本」を使う悪文がアップされ、映画祭を国力アピールに使った。要するに、映画監督や俳優の才気には微塵も興味をお持ちでないご様子。となればあのキャッチコピーも、映画祭を国力に繋げたいとする本音を裏付ける文言だったと分かる。

 この映画祭の総合プロデューサーを務めたのは秋元康だ。今年の年始、産経新聞で安倍首相と対談した秋元は、クールジャパンをいかに盛り立てていくかについて、

「『日本に生まれてよかった』ということを、われわれの責任で次の人たちのために作らなきゃいけないと思う人たちだけが集まってオールジャパンを作ったとき、たぶん勝てると思うんですよね」

 と頓珍漢なメソッドを語っている。日本に生まれてよかったと思うために、オールジャパンで勝たなくちゃ……というのは愛国本どころかヘイト本の思考だ。映画人は、オールジャパンで勝つために映画を作っているわけではない。

 これだけでなく、秋元康による国策へのコミットは枚挙に暇が無い。昨年12月、日本主催のASEAN特別首脳会議の晩餐会にAKB48を登場させた。安倍首相はこの時の反応を、各国首脳が「自分たちの国にはそんなのないと釘付けになっていた」と成功例のように語っていたが、各国首脳が着席するパーティ会場でミニスカートの少女集団に「おもてなし」させたことに、ここは北朝鮮かと目が点になっていただけに違いない。

 また、今年7月に集団的自衛権を行使容認する閣議決定が行なわれた直後から、AKB48の“ぱるる”こと島崎遥香が出演する陸海空自衛官募集CMが開始されたことも話題となった。

〈自衛官という仕事、そこには大地や海や空のように果てしない夢が広がっています〉という安っぽいキャッチコピー。集団的自衛権行使や日米防衛協力指針見直しによって、“果てしない悪夢”すら生じかねないわけだが、塩対応で知られる島崎が珍しいほどの笑顔で「ここでしかできない仕事があります」と締めくくるCMに目を輝かせてしまう男子は少なくないのかもしれない。

 CM開始のタイミングにあわせて、全国の高校3年生のもとに自衛隊募集の案内が続々と届いたのもキナ臭さが漂う。島崎は、防衛省が編集協力している自衛隊オフィシャルマガジン「MAMOR」(扶桑社)11月号の表紙にも登場しており、もう露骨すぎる展開だ。

 先月末には政府広報「成長戦略でチャレンジ!日本」にAKB48が登場、メンバー8人が医者や農家や若女将のコスプレで〈若者のみなさんへ 羽ばたくチャンス拡大中。〉と訴える広告を打った。そこには、有効求人倍率の上昇や賃上げ率が過去15年で最高だとアベノミクスの効果が訴えられているが、増加している求人の内訳は非正規ばかりだし、賃上げの恩恵を受けているのは大企業のみという現状。今年「大人AKB」を期間限定で雇ったり、「バイトAKB」プロジェクトを始めたりしている彼女らこそ、雇用の流動性を体で知っているはず。

 さらに、今年5月には、AKB48の握手会の最中にメンバーの川栄李奈と入山杏奈がのこぎりで切りつけられる事件が発生。アイドル業界全体に浸透した握手会目当てでCDを大量購入させる手法や、ハグをはじめとした握手に留まらない「触れ合い」など、アイドルの商法についてまで問題が派生した。しかし、この事件において私がもっとも嫌悪感を覚えたのは、事件後に秋元康が記したコラムだった。凶行に憤りつつも、読売新聞の連載コラムにこう書いた。

 事件に遭ったことでAKB48の未来に壁が立ちはだかったとし、「壁を乗り越えるでもなく、迂回するでもなく、突き破って進んだのは、川栄、入山を始めとするメンバー自身だった。『夢をあきらめるわけにはいかない』。その信念から傷ついた彼女たちは立ち上がり、前に進んだ」とした。

 出来事を全て物語化してマネーに変えてしまう達人は、のこぎりで切りつけられた事実をも「夢」で乗り越えるという物語に作り変えてしまった。そりゃあ、自衛隊を「果てしない夢が広がっています」と誉め称えられるわけだ。彼の脳内では、トラブルや困難は全て夢に転化できるのだろう。

 そして、「志村、後ろ!」ばりに誰しもが既に気付いていることではあるが、秋元康がこれだけ国家の取り組みにコミットしてくるのは、2020年東京オリンピックの存在が大きい。組織委員会の理事にも当然のように名を連ねている。理事には政界・財界・スポーツ界からの人選が多数、他業界からは元・電通の高橋治之や写真家の蜷川実花などの名も並んでいるが、いわゆるイベントプロデュース力を期待されている人選は秋元康のみ。となれば、開会式・閉会式の陣頭指揮を彼が執る可能性も当然浮上してくる。彼が主導する「日本に生まれてよかった」が全世界に発信されるのは避けたい。

〈ニッポンは、世界中から尊敬されている映画監督の出身国だった。お忘れなく。〉というキャッチコピー、反芻する度に腹立たしくなる。秋元康はエッセイ集『おじさんの気持ち』(角川書店)で、自分が「“いいとこ取り”症候群」だと語っている。野球はペナントレースの終盤しか見ないし、マラソンはゴール30分前からしか見てないのに充分感動してしまったと書く。なるほどそうか、「“いいとこ取り”症候群」の人には、映画が作り出すそれぞれのシーンやそこに流れてきた歴史を広い視野で見つめることなんてできやしない。

 この人にスポーツの祭典を任せることはできない。なぜって、彼はそもそもスポーツになんて興味を持っていないんだから。自分の「“いいとこ取り”症候群」を語ったエッセイからもう一カ所引用しよう。

「オリンピックもサッカーのワールドカップも世界陸上も、いつもは全く興味のないスポーツに一喜一憂できるのだから、僕のミーハーさもたいしたものである」

 こう書いたのは、2020年東京オリンピック組織委員会理事の秋元康である。“お忘れなく”。
(武田砂鉄)

最終更新:2015.01.19 04:29

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