スターリンのパラノイア、ケネディの異常性欲…歴史の裏に“病”あり!

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『医学探偵の歴史事件簿』(岩波新書)

 歴史上の人物、特に有力政治家や王室など、絶大な権力を持つ人々が重大な病気に罹れば、それは彼らの個人的な問題を超え、時に世界中にまで影響力を及ぼす。そのため、疾患を持った有力者たちはそれを隠蔽し、健康でパワフルな指導者として立ち振る舞おうとすることも珍しくはない。

さらに歴史的人物の行動の裏には、彼らが患った病気が深く関わり、そのことが歴史さえを変えてきたという。彼らと病気との関係とは一体どのようなものなのか。神経内科医師でもある小長谷正明氏による『医学探偵の歴史事件簿』(岩波新書)から具体的に紹介してみたい。

 たとえば、史上最年少で米国大統領となったジョン・F・ケネディ。彼の健康問題については現在でも様々な検証が加えられているが、腰痛の持病を持っていたことはあまりに有名だ。

 しかしケネディの病は腰痛だけではなかったという。副腎方のホルモン分泌が不十分で、度重なる腰痛の手術もこのことが原因で上手くいかなかったというのだ。さらに甲状腺低下症もあり、ホルモン製剤の処方もされ、難病である「アジソン病」ではないかとも疑われた。ケネディの病気は敵対勢力によりネガティブキャンペーンとして活用されもした。

 だがなによりも興味深いのは、ケネディの病気の性格だ。

「副腎皮質機能低下症にしろ、甲状腺機能低下症にしろ、ましてやその合併症だとしたら、ホルモン不足で性欲が消退するはずだが、マリリン・モンローなどの華やかな女出入りはなんなのだろう」(同書より)

 他にもオードリー・ヘップバーンやソフィア・ローレンなど、彼と“噂”になった女優は枚挙にいとまがない。青年時代、海軍士官時代、そして大統領就任後も一貫して数々の女性とベッドインしたと言われるケネディ。その“性欲”は現代医学でも不可思議なものであるらしい。

 お次はホロコーストであまりに悪名の高いアドルフ・ヒトラーの場合。実は、彼は「パーキンソン病」の発症が疑われているという。残された動画などで手の震えが確認でき、また当時のベルリン大学教授からの証言もあるらしい。

 また震えや歩行障害のため、コカインを投与されていたというから驚きだ。ユダヤ人絶滅計画はコカイン中毒者が生み出した “妄想 ”だったのだ……といのはさすがに暴論だが、彼は「生きるに値しない命」として、精神障害や認知症老人、末期結核患者の安楽死を実行するなど、病人への差別を剥き出しにしていた。そのなかに自身も患うパーキンソン病の者も含まれていたのだから、皮肉としか言いようがない。

 ところで、ヒトラーは猜疑心が非常に強かったことで知られるが、それはソ連の第2代最高指導者であるヨシフ・スターリンも同様だ。彼は同時に高血圧症でもあったのだが、この恐ろしき独裁者を「パラノイア」と診断した精神科医がいた。この精神科医はその直後に“謎の死”を遂げたという。スターリンは医師への不信感も相当であったようだ。この精神科医だけでなく、多くの医師が逮捕、粛清されていった。独裁者を診る医師はまさに命がけ。中国の毛沢東の場合も、「パラノイアで漁色家」と暴露本を出版した元待医が、息子の家のバスルームで“不審な死”を迎えている。

 興味深いのは英国の“農夫王”ジョージ3世。ビクトリア女王の祖父であり、名君として名高い人物だが、実は突如凶暴になる大発作を何度も起こしていた。

「二晩も三晩も眠らずに絶え間なくしゃべり続けて興奮し、錯乱し、痙攣発作を来し」たという。診断は “狂乱ないしは発狂 ”。だが後世の研究によって遺伝性の「ポルフィリア」という神経系疾患だと考えられるようになっている。

 より歴史を遡ろう。古代エジプトのツタンカーメンもまた、身体のトラブルを抱えていた。19歳で早世したイケメン少年王だが、最近のCT検査の結果、高口蓋など口腔の天井部分の異常や左足の内反足のため、若くして杖が必要な少年だったことが明らかになっている。さらに暗殺説まで取り沙汰される死因について、落馬などの外傷による骨折からの感染症だと考えられているという。

 さらに科学の進歩は意外な事実まで発掘した。ツタンカーメンは父親とその同腹の姉妹の子どもであり、当時の濃厚な近親結婚さえも浮き彫りにしたのである。

「歴史の陰に病あり」──。歴史上の人物たちの “病 ”に関するエピソードは、史実とも深く結びついている。歴史を語るとき、われわれはしばしば“もしも”という言葉を使うが、それを現代医学の観点から見るという試みも面白いだろう。

 さて、話を現代に戻して、はたして時の権力者はどうだろうか。後の世が“診断”したとき、“あのときすでに手遅れだった”と言われなければよいが……。
(林グンマ)

最終更新:2018.10.18 05:14

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