密室談合の川淵三郎後任人事は森会長だけの問題ではない 菅首相も安倍前首相も小池百合子都知事も全員が認めていた

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辞任を表明した森氏だが…(東京2020オリンピック公式ウェブサイトより)


 東京五輪組織委員会の森喜朗会長が12日、組織委の評議員と理事による合同懇談会の冒頭で正式に辞任を表明した。しかし、その経緯は醜悪きわまりないものだった。

 辞任表明では、まず、森会長は「私の不適切な発言が原因で大変混乱を致してしまいました」「オリンピックを開催するための諸準備に、私がいることが妨げになるということであってはならない」と述べたが、「思い起こしますと8年前になるわけですけれど」と切り出すと、「安倍マリオという大変大きな国際的に話題を生むセレモニーがあったことも記憶に新しいです」「17年には、いわゆる携帯電話のリサイクルでメダルをつくろうという運動を提唱いたしました」など、ダラダラと時系列で自身の手柄話や思い出話をはじめる始末。これを受け、Twitter上では「話が長い」「話が長いのは女性ではなく森会長では?」というコメントが殺到したのは言うまでもない。

 だが、絶句させられたのは、話の長さだけではなかった。森会長は再び自身の差別発言に言及した際、こう語ったからだ。

「会長である私が余計なことを申し上げたのか、まあこれは解釈の仕方だと思うんですけれども、そういうとまた悪口を書かれますけれども、私は当時そういうものを言ったわけじゃないんだが、多少、意図的な報道があったんだろうと思いますけれども。まあ女性蔑視だと、そう言われまして」

 森会長の発言は紛うことなき女性差別発言だ。にもかかわらず、辞任表明の場にいたっても何の反省もなく、差別だと声をあげた側の「解釈の仕方」にすぎないと切り捨てたのだ。しかも、この期に及んでも「悪口を書かれる」「意図的な報道」とマスコミ攻撃をおこない、あたかも自分は被害者だと言わんばかりの姿勢を見せたのである。

 いまだに自分の発言の何が悪かったのかを理解しようともしない森会長の態度には呆れるほかない。しかも、もうひとつ見過ごせないのは11日からの「後任人事をめぐるゴタゴタ劇」だろう。

 周知のように、森氏の後任をめぐっては、11日に川淵三郎氏が後任の会長に就任するとの報道が流れ、川淵氏本人も認めていたが、一夜明けた12日になって一転。人事を白紙とし、川淵氏自身も辞退を表明、現在は橋本聖子・五輪担当相の起用が取り沙汰されている。しかし、この裏では、森会長、菅義偉首相、そして政府の差別への無反省が引き起こしたとんでもない騒動が展開されていた。

「川淵後任」案は菅首相や安倍前首相、小池百合子都知事にも伝えられ全員が認めていた

 騒動のはじまりは、森会長の地元紙・北國新聞の朝刊だった。北國新聞は11日の朝刊で森会長が「私の腹は決まっている。12日に皆さんにしっかり話したい」と語ったことを報道。午後すぎには「辞任の意向を与党幹部に伝達」と一斉に速報が流れ、このとき同時に「後任は川淵三郎氏で調整」と伝えられた。

 そして、川淵氏がメディアの取材に、後任会長就任を受諾したことを認め、自分を指名したのが森会長自身であったことを証言。さらに、打診を受けた際、批判を受けた森会長に「気の毒」「本当につらかっただろうなっていうんで涙がなかなか止められなかった」と「もらい泣き」したこと、森氏に「相談役」就任要請を打診したことなどを明かした。

 すると、この後任人事に対して、メディアやネット上で厳しい批判の声があがったのである。

 当然だろう。そもそも組織委の定款では会長は理事会が理事の互選によって決めることになっており、さらに理事ではない川淵氏が会長に就任するためには評議員会で理事に選ぶ必要がある。それを森会長が勝手に後任を指名するというのは正当なプロセスを無視した暴走行為だ。しかも、差別発言をおこなった張本人が直接後任を指名し、後任の会長を受諾したという人物が、性差別発言をおこなった人物に「気の毒」と「もらい泣き」し、その人物を「相談役」に据えると宣言したのである。これは、森会長が実態としては女性差別の責任をまったくとっておらず、新会長になる川淵氏もまた女性差別を容認していると言っているのも同然ではないか。

 さらに、川淵氏をめぐっては、本サイトでも指摘したようにこれまでの極右・歴史修正主義思想も明らかになった。Twitterなどで、慰安婦や徴用工への強制性を否定する発言や、コロナを「中国の生物兵器」だとするデマを流す青山繁晴氏の言説を支持する発言をしていたことが発覚。仏ルモンド紙は「極右に近い立場を取ることで知られている」と紹介し、米ワシントン・ポスト紙は〈右翼と評され、過去に体罰を支持して物議を醸したこともある人物、しかも森より年上の人物を、特権階級が選んだことに、多くの女性たちが失望の声をあげた。〉と報道した。おそらく、そのまま川淵氏が後任に座っていたら、世界中から批判とボイコットが続出していただろう。

 女性差別発言をした挙げ句、こんなとんでもない事態を密室で進行させるとは、森会長の無反省・傲岸不遜には呆れるほかはないが、しかし、この人事はけっして、森会長と川淵氏の2人が勝手に妄想を語っていたわけではない。

 というのも、川淵氏を後任に据えるプランは、森側から菅義偉首相や安倍晋三・前首相、小池百合子都知事にも伝えられ、全員が一度は「GO」サインを出していたのだ。

川淵氏も「小池さん、菅総理や安倍さんとも話して『川淵さんならいい』と言われた」と発言

 実際、川淵氏は11日にメディアの取材に応じた際、「外堀が埋まっていて断るような状況じゃなかった」とし、こう語っていた。

「もう、森さん『とにかく後を任せるには川淵さんしかいない』と。で、まあ、たとえば小池さんと話して、菅総理やら安倍さんとか、あと誰だっけ、みんな話して……あと武藤(敏郎)事務総長。『川淵さんならぜひいい』というふうなことで。菅さんあたりは『もうちょっと若い人はいないか』とか、当然の話だよね、それは。そういうことを言わないとおかしいと思うんだけど、『女性がいないか』って話はあったって聞いている」
「手落ちなくいろんな人の意見を聞いて『川淵でいこう』ということを言っていただいたんでね」

 ようするに、安倍前首相はもちろん、菅首相も「若い人」「女性」と提案をしながら、最終的には森会長の人事案を容認していたのである。

 ところが、前述したように、川淵氏が正式発表前に後任会長受諾をマスコミに喋り、国内の世論や海外メディアからも批判の声があがり始めたため、菅首相は慌てて方針を転換。後任人事を白紙にするよう働きかけた。

 実際、御用メディアのフジテレビなども、菅首相や官邸が一旦、川淵後任人事を認めながら、方針転換して白紙撤回した舞台裏をこう報じている。

〈森会長の進退など、組織委員会の人事について、菅首相の周辺は数日前、「これ以上言うと人事介入と言われる」と話すなど、一定の距離を取ってきた。
そうした中で、森会長が辞任して、後任に川淵氏を指名したが、当初は好意的な空気だった。
 しかし、自民党内などから、「もめごとを起こした森会長が、後任の指名にからんではダメだ」、「女性も含め、国際的にも歓迎されるようなプロセスで決めてほしい」という声が高まってきた。
 そして12日午後、菅首相も周囲に対し、「国の内外で批判がある中で、女性の起用や世代交代をしないと変わったという印象を持ってもらえない」と川淵氏の起用を見送りたい意向を示す中、一気に起用白紙の流れになった。〉(FNNオンライン12日付)

 さらに、菅首相の意を受けた加藤勝信官房長官が、組織委の武藤敏郎事務総長に白紙撤回を申し入れたという報道もある。

 グロテスクな「男の絆」に基づいた定款違反の密室禅譲劇が白紙に戻ったことは、あまりにも当然とはいえ、歓迎すべきことだ。しかし、それでも看過してはならないのは、これほどまでにジェンダー平等が遅れていると批判に晒されているなかで、現役首相や前総理、開催都市のトップが「男同士の密室の禅譲劇」を是としていたことである。

 しかも、もし川淵氏がメディアに喋らなければ、この密室談合はそのまま進行し、正式に決まっていた可能性が高い。

 森会長が辞任したところで、問題の根本はまったく変わらない。いや、それどころか「変わろう」ともしていないことが、この後任人事問題で浮き彫りになったと言うべきだろう。

最終更新:2021.02.13 08:01

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