日本学術会議人事介入で菅首相が「推薦名簿を見ていない」発言のトンデモ! 前川喜平元文科次官が推理する介入の舞台裏とは?

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首相官邸HPより


 日本学術会議の任命拒否問題を「行政改革」の対象とすることで論点をずらそうと必死の菅義偉首相が、昨日9日におこなわれた内閣記者会の「グループインタビュー」でとんでもないことを言い出した。任命拒否した6人を含む、日本学術会議側が提出していた定員105人の推薦候補者名簿について、「自分は見ていない」と主張したのだ。

 その質問が飛んだのは、インタビュー後半のこと。記者(おそらく毎日新聞)が「最初に案をご覧になったのはいつ、誰からの報告だったんでしょうか。その時点では105人の名前が載っていたんでしょうか」と質問すると、菅首相はこう答えた。

「あの、私がいつかということは、たしか……9月の……20……(ここで事務方からメモを受け取る)ちょっとすみません、間違っちゃうとあれですから。(メモを手にしながら)9月の……えー、これ内閣府がいままで説明してますけど、私が最終的に決裁をおこなったのは9月28日です。で、会員候補のリストを拝見したのはその直前だったと記憶しております。まあ、その時点では、現在の最終的に会員となった方がそのままリストになっていたというふうに思っています」

 ここで記者は「総理がご覧になった段階ではもう99人だった?」と質問すると、菅首相は「そういうことです。任命するリストでありますから」と回答。記者はさらに「任命するその前の推薦段階でのリストはご覧になってない?」と訊くと、菅首相ははっきりこう言い切ったのだ。

「見てません」

 つまり、菅首相は6人を任命拒否する決裁をおこなった9月28日の直前に推薦候補者リストを見たが、そのときにはすでに6人が除かれた99人しかリストにはなかった、と主張したのである。

 はっきり言って、この発言はこれまでの説明と矛盾する上、極めて重大な問題発言だ。

 まず、菅首相は5日におこなった「グループインタビュー」でも、今回の任命拒否について「総合的で俯瞰的な活動を確保する観点から判断した」「前例を踏襲してよいのか考えてきた」と述べ、自分の判断によるものだと説明していた。いや、それどころか、昨日のインタビュー中も、「(安倍政権からの)一連の流れのなかで判断をした」「広い視野に立ってバランスの取れた活動をおこない、国の予算を投ずる機関として国民に理解される存在であるべきという、こうしたことを念頭に判断をさせていただいている」と口にしていたのだ。なのに、全員分のリストは「見ていない」と言うのなら、一体どうやってその「判断」をおこなったというのだろう。

菅首相が「候補者リストを見てない」ことの重大な問題点 二重の法律違反が!

 しかも、本当に菅首相が105人のリストを「見ていない」としたら、これは日本学術会議法の7条と17条で定められている「日本学術会議が会員の候補者を選考し、その推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する」という規定に反する違法行為となるのだ。

 いや、それだけではない。もし、菅首相が「見ていない」としたら、6人を外したのは内閣府の職員、あるいは前回2017年の改選時に人事介入をおこなっていた杉田和博官房副長官といった官邸の人物ということになるだろうが、これもとんでもない話だ。なぜなら、任命権があるのは総理大臣であり、裁量が認められていない人物が総理大臣への提示もなくリストから勝手に推薦候補者6人を外したとすれば、これもまた法を犯した越権行為であり、さらにはまたしても公文書の改ざんを働いたことになるのである。

 6人を任命拒否した時点ですでに違法なのだが、それをごまかすのに「見ていない」などと言い出したものの、それもまた違法にあたる──。だが、「見ていない」というのはあきらかなウソだ。

 たとえば、立憲民主党の蓮舫参院議員は、〈私たちのヒアリングで担当者は99人の名簿と、日本学術会議からの推薦105人名簿をあわせて添付し菅総理まで決裁があがっていると説明され、その資料もいただいています〉とツイート。実際、10月6日におこなわれた野党合同ヒアリングには、内閣府が「日本学術会議会員の任命について」という6人が排除され99人の名前が記載された9月24日起案、9月28日に菅首相が決裁した文書を提出しており、そこには〈日本学術会議会員候補者推薦書(105名)〉という文書も添えられていた(ちなみに野党への提出時には6人の名前は黒塗りにされている)。

 また、10月2日の野党合同ヒアリングでは、担当者である内閣府大臣官房の矢作修己・人事課参事官が「決裁文書には日本学術会議からの推薦文書も付けますので、そこには105人のリストが載っている」と答えている。

 この説明どおりなら、6人が排除される前のこの推薦書も菅首相に渡っていたということになり、「見ていない」という言い分は通用しなくなるのだ。

菅─杉田ラインの謀略の被害者である前川喜平・元文科事務次官が興味深いツイート

 さらに興味深いのは、前川喜平・元文科事務次官のツイートだ。

 前川氏といえば、文科事務次官時代の2016年、文化功労者や文化勲章受章者を選ぶ審議会の人選において、大臣の了解が出ている委員の候補案を杉田官房副長官に持っていったところ、「好ましからざる人物」「この候補は任命するな」と言われ、候補者2人の差し替えを要求されたことを証言(TBS『news23』9日放送)。本サイトで掲載した作家・室井佑月との対談でも、「安保法制に反対する学者の会議に入っているから外せ」と指示されたと語っている(既報参照→https://lite-ra.com/2017/09/post-3473.html)。つまり、前川氏は今回の任命拒否と通じる官邸による人事介入にかかわった人物でもあるわけだが、その前川氏は今回の任命拒否の舞台裏を〈おそらくこんな経緯〉とし、こう推測しているのだ。

〈学術会議から推薦者名簿が内閣府に届いた→内閣府が杉田官房副長官に名簿を説明→杉田副長官が全員の身辺調査を内調に指示→身辺調査の結果を携えて杉田副長官が菅首相・加藤官房長官と相談→菅首相が6人の排除を決定→6人を除いて起案するよう杉田副長官から内閣府に指示〉

 前川氏自身も、加計学園問題で菅─杉田ラインによって「身辺調査」をされ、警告を受け、違法性もないのに読売新聞に「出会い系バー通い」という謀略記事を書かれたという経験がある。推薦された学者にもそうした身辺調査がおこなわれたかどうかはわからないが、安倍政権からつづいてきたスキームを考えれば、杉田官房副長官が排除すべき学者を菅首相に進言し、最終的に菅首相が決定していた可能性が高いだろう。

 また、もうひとつ考えられるのは、安倍前首相の関与だ。というのも、日本学術会議側が105人の推薦をおこなったのは8月31日、内閣府が任命の法解釈について内閣法制局に確認をおこなったのは9月2日だ。このときすでに辞意を表明していたとはいえ、気に食わない学者を排除する方針は安倍首相のもとで立てられ、菅首相も官房長官として杉田官房副長官に指示を出すなど実行部隊として動いていたのではないか。

 ともかく、あらゆる意味で「見てません」などという菅首相の詭弁は通用しないのだが、問題は菅首相に近い橋下徹氏をはじめとする御用コメンテーターたちが必死に「税金の無駄遣い」などという論点ずらしに必死になっていることだ。そして、このまま問題の焦点が移ってしまえば、言論・学問の自由のみならず、「あいちトリエンナーレ2019」での補助金交付問題のように、表現の自由も平気で踏みにじろうとしてくるだろう。だからこそ、論点ずらしや菅首相の詭弁を見過ごさない徹底追及が必要だ。

最終更新:2020.10.10 10:11

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