日本推理作家協会賞の贈呈式でも幻冬舎批判!「実売部数公表の謝罪」だけでは済まない幻冬舎と見城徹の問題点

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幻冬舎ホームページより


 幻冬舎社長の見城徹氏が『日本国紀』を批判した作家・津原泰水氏の実売部数を晒した問題は、見城社長と幻冬舎が謝罪した現在でも、厳しい批判の声が上がり続けている。

 27日に日本推理作家協会賞の贈呈式があったが、『日本国紀』の幻冬舎から出版されている『凍てつく太陽』で同賞を受賞した作家・葉真中顕氏が受賞挨拶でこの問題に言及した。

 朝日新聞デジタル(5月28日付)の記事によると、葉真中氏は実売部数をツイッター上で公表(後に削除)したことに対して、「非常に問題があるということについては同じ思いの方が多いと思う」としたうえで、ネットなどで上がった「実売を言うことの何が悪いんだ」という支持の声についても問題視。版元と作家の信頼関係や情報の非対称性を無視していると指摘したという。

 葉真中氏は、見城社長の実売晒し直後に、ツイッターで〈版元の社長が揉めてる作家の著作の部数を実売込みで公開するとか、完全に一線越えてる。作家の言い分への反論だとしても、こんなやり方はない〉と見城社長を批判していた。

 だが、幻冬舎から出版された自分の作品への賞の贈呈式でも、この問題から逃げずに、改めて批判の姿勢を明らかにした勇気は、賞賛に値する。

 しかも、同記事によると、葉真中氏は「本音とされる部分を露悪的に暴露して、誰かを馬鹿にすること、差別することを喜ぶような風潮や空気は間違いなく存在してしまっている」という懸念も表明していたという。これは、間違いなく今回の『日本国紀』と実売部数晒しの本質にもつながる問題と言っていいだろう。

 もっとも、こうした批判の声の一方で、見城社長や百田尚樹氏は相変わらずだ。百田氏の朝日新聞インタビューについては、先日の記事で伝えたが、28日発売の「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)の特集では百田氏とともに、見城社長がインタビューに登場。Wikipediaからのコピぺ問題について、こんな発言をしていた。

「こちらにやましいことは一切ない。ある全国紙から何度も、コピペ問題について取材依頼が来ましたが、応じるまでもなく、どうぞ好きに書いてくださいというのがこちらの考え。ウィキペディアを含めてさまざまな文献を調べたことは当然、あったでしょう。だけど、そこからのコピペで、これだけ多くの読者を引きつけられるものは書けない。この件も百田尚樹だから批判が出るのでしょう。(首相の)安倍さんと近いとか、そんなことが大きな理由じゃないですか」

 このインタビュー、津原氏の出版中止問題が発覚する前に取材されたものだが、“多くの読者が引きつけられているんだから、コピぺなんてない”という倒錯した主張は見城氏の本質と言っていいだろう。こうした「売れるもの=絶対的な善」という価値観が実売部数晒しにつながったのだ。

 しかも、見城社長と幻冬舎には、実売部数晒しへの謝罪でも今回のインタビューでも触れていない問題がある。それは、幻冬舎が津原氏に『日本国紀』批判をやめるよう圧力をかけ、最終的に津原氏の文庫本『ヒッキーヒッキーシェイク』出版を中止に追い込んでしまったという問題だ。

担当編集者の個人的判断とは思えない津原氏への圧力と出版中止決定

 実は、この表現の自由の侵害行為こそ、今回の騒動のもっとも大きな問題なのだが、見城氏や幻冬舎はそのことにいまもまだ謝罪していないのだ。

 圧力の事実がなかったわけではない。見城社長は、当初、〈こちらからは文庫化停止は一度も申し上げておりません。担当者はずっと沈黙していましたが、あまりのツイートの酷さに「これでは私が困ります」と申し上げたところ「それでは袂を分かちましょう」と言われ、全く平和裡に袂を分かったのが経緯です〉などとツイートしていた。

 しかし、津原氏は本サイトの取材やツイッターで反論。担当編集者から1月8日に突然、連絡を受け、津原氏のツイッター上の『日本国紀』批判が社内で問題になっていることを知らされ、誰が文句を言っているのか迫ると、担当は「営業部長」であると答えたことなどを明かしている。そして、その担当から同日、送られてきた〈会社に来て、いろいろ考えてみましたが、『ヒッキーヒッキーシェイク』を幻冬舎文庫に入れさせていただくことについて、諦めざるを得ないと思いました〉という、事実上の出版中止通達のメールを公開している。
 
 いずれにしても、幻冬舎側が『日本国紀』批判を止めるよう津原氏に要求し、津原氏がそれに応じなかったため、出版中止に至ったたというのは紛れもない事実だ。

 しかも、見城社長は「担当編集者が」などと責任を押しつけているが、もちろん担当編集者個人の判断などでないことは明らかだ。幻冬舎の説明によれば、文庫本出版中止にあたっては、それまでにかかった制作費を幻冬舎が負担し、他社から文庫化された場合のロイヤリティも放棄したという。こんな自社に不利益をもたらす決済を担当編集者だけでできるはずがないだろう。

 今回の津原氏の文庫本出版中止は、当たり前だが幻冬舎という組織の意思だ。強い発言力をもった誰かが担当編集者に「津原氏の『日本国紀』批判を止めさせろ」と迫り、出版中止もその人物が判断していると考えるべきだろう。

津原泰水が幻冬舎担当から出版中止通達を受けた一週間後に有本香が

 しかも、もうひとつ気になることがある。それは、『日本国紀』に編集者として参加している安倍応援団の有本香氏が、津原氏に対しておこなったツイートだ。

 2018年の末頃から、有本氏と津原氏は『日本国紀』をめぐって応酬を繰り広げていた。ところが、年明けになって、有本氏がいきなり津原氏に対してこんなリプライをとばしたのだ。

〈文庫でしたかしら、近々、幻冬舎から出るという先生の新作。楽しみにしていますが、発売はいつですか?〉

 有本氏がこのリプを飛ばしたのは2019年1月14日。津原氏が担当編集者から文庫本出版中止の通達を受けてからわずか1週間足らずのことだ。津原氏は12月、有本氏との応酬のなかで、現在、文庫化作業が進行中であることを明かしていたが、なぜそれから1カ月たって、突然、文庫本のことを持ち出し、「発売はいつですか?」などと聞いたのか。

 5月、津原氏の文庫本出版中止が公になったあと、百田氏は朝日新聞のインタビューで「騒動については僕も実際のところは知りませんけど、幻冬舎の担当者が困って『ちょっと批判を抑えてくれないか』と言ったところ、津原さんは『その気はない』と。担当者が『そりゃ困る』となると、津原さんの方から『それならもう出さない』というようになったと聞いていますけどね」と答えている。有本氏は、津原氏が執拗だったせいだなどと開き直って攻撃を続けていた。

 いずれにしても、実売部数晒しがクローズアップされる一方で、文庫本出版中止という今回の騒動の最大の問題点は、その経緯がまったく検証されていない。出版の生命線である言論の自由を守るためにも、幻冬舎内でいったい何が起きたのか、きちんと検証する必要があるだろう。

最終更新:2019.05.28 11:54

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