サブカル(サブカルチャー)に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
年末特別企画 リテラの2016年振り返り
フジロック、町山智浩、水道橋博士、BABYMETAL…2016年、サブカル論争&炎上7大事件簿
左から水道橋博士の「博士の悪童日記」/のんオフィシャルブログ/ニコニコ動画「豪さんのチャンネル」/AKB48公式サイト「秋元康プロフィール」より
今年は芸能スキャンダルがワイドショーや週刊誌を賑わせたが、サブカル界でもいろんな事件やトラブルが起きた。マスコミではまったく取り上げられていないが、音楽、映画、アイドルなどをめぐってさまざまな論争が起き、SNS上での大炎上に広がったことも珍しくなかった。
こうしたトラブルは、どうでもいいような重箱の隅をつつきあうものも少なくなかったが、表現圧力や差別など、現在の日本社会が抱える問題や文化状況をあぶり出すようなものもあった。リテラでは年末特別企画として、2016年を代表する7つのサブカル事件を振り返ってみたので、ぜひ読んでいただきたい。
■事件その1
フジロックが奥田愛基出演で炎上!「音楽に政治を持ち込むな」という言葉がネット上に
「音楽に政治を持ち込むな」という言葉がツイッターのトレンドになり、朝日新聞の社説にまで取り上げられる事態に発展したこの騒動。そのきっかけは「FUJI ROCK FESTIVAL’16」にSEALDsの奥田愛基氏の出演がアナウンスされたことだった。これを受けてネット上には〈今年は絶対フジロックいかない 政治色本当やだ〉などといった言葉が書き込まれ、炎上に発展していった。
しかし、この言説が大きな間違いであることは今さら否定するまでもない。フジロックは1997年の開催初年度から社会的イシューに関して自覚的なフェスティバルであり、地球環境問題に関する啓蒙活動や、反戦・反原発へのメッセージを発信し続けてきた。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、パティ・スミス、BRAHMANなど、洋邦問わずメッセージ性の強いアーティストがステージ上に立ち続けていることも、フジロックのことを少しでも知っている人間なら誰もが理解していることである。
それ以前に、そもそもポップミュージックは、ブルース、ソウル、ファンク、レゲエ、パンク、ヒップホップ、どのジャンルにおいても社会的なメッセージと不可分な存在である。「音楽に政治を持ち込むな」などという言説はまずもってポップカルチャーとしての音楽の歴史を何も理解できていない馬鹿げた発言としか言いようがないのだが、残念ながら恐らく来年以降も反権力の主張を行うミュージシャンに対し、無自覚なリスナーからバッシングが飛んでくる傾向は変わらないだろう。そのたびに我々は「そうではない」と言い続けなくてはならない。
■事件その2
のん(能年玲奈)への圧力問題をめぐり町山智浩と山本一郎の両巨頭が激突もこの件は山本が完敗
今年はSNS上でも圧倒的なフォロワーをもち、論争の話題を提供し続けている二人の論客が激突した。その二人とは、映画評論家の町山智浩とライターの山本一郎。テーマは、現在大ヒット中の『この世界の片隅に』をめぐる圧力だ。
町山がツイッター上で、TOKYO MXの番組に主演声優である能年玲奈改め「のん」を出演させようとしたら、前の所属事務所レプロエンタテインメントからの抗議があって断念したことがあると暴露。これに対して、ライターの山本一郎が「圧力や抗議の事実はない」などとかみついた。
本サイトも何度も指摘しているように、レプロ=バーニングからの圧力があり、民放各局がのんを出演させることができなくなっているのは常識。この時点で、メディア関係者なら誰もが?という感じだったが、からまれた当の町山は怒りが炸裂。「圧力の証拠がある」と反論し、TBSラジオでものんが出演した後に所属事務所から同様の「二度と出すな」との警告があったことまで明かした。
山本はそれでも引き下がらず「レプロ担当者と話し合いを持ち、出演は問題が落ち着くまで見送るという結論になったと言っています」と反論したが、ネットでは「それこそ圧力だろう」と山本への批判が殺到。津田大介も町山に加勢して、山本の論理のおかしさを指摘した。
この件に関しては、山本の完敗だが、それにしても、普段、辛辣な批評や裏話の暴露で知られる山本がなぜこんなにムキになって能年の事務所とMXをかばおうとしたのだろうか。謎である。
■事件その3
「こじらせ女子」をめぐり、雨宮まみ・能町みね子が北条かやを批判、そして雨宮は
今年11月、『女子をこじらせて』(ポット出版)などの著者で知られるライターの雨宮まみが亡くなったが、そんな雨宮にも事件があった。きっかけは、ライターの北条かやが出版した『こじらせ女子の日常』(宝島社)という本である。
もともとこの「こじらせ女子」という言葉をつくったのは雨宮で、女性であることに自信をもてない自分、自意識と恋愛欲求の狭間で女性であることの生きづらさと格闘する女性のことをさしていたが、北条の著書では「自分の欠点に向き合わず周りに迷惑かけてる面倒なやつ」と矮小化されていた。そのため、雨宮やライターの能町みね子がこれを批判。それに、北条が〈大人の事情なんです......〉〈私としては、こじらせ女子という言葉は使いたくありませんでした〉と返答したことで、「出版社のせいにするな」と炎上はさらに拡大した。
「こじらせ女子」という言葉の誤用が北条の責任だったかどうかはともかく、こうしたジェンダーへの向き合い方やライフスタイルを定義する言葉は、最初の意味からはかけ離れて、特定の人たちを排除する保守的な意味に誤用されていくという状況がある。深澤真紀の「草食男子」、酒井順子の「負け犬」、能町みね子と久保ミツロウの「プロ彼女」……。
雨宮にはこれからもそういう状況に対抗して欲しかったが、今となってはそれもかなわない。残念というほかはない。
■事件その4
ピーター・バラカンがBABYMETALを「まがい物」「世も末」と発言し大炎上
狂信的なファンをもつグループをちょっと批判しただけで炎上してしまう、SNS時代ならではなこの騒動。今年4月、『モーニングCROSS』(TOKYO MX)に出演したバラカンは、BABYMETALの海外での活躍を伝えるVTRの後、コメントを求められると苦笑いを浮かべながら「世も末だと思っています」と発言した。これに対し、BABYMETALのファンは激怒。彼のツイッターアカウントに怒りのリプライを送りつけると、バラカンはさらに〈あんなまがい物によって日本が評価されるなら本当に世も末だと思います〉と返してさらに炎上を煽るのだった。
ただ、BABYMETALとはそもそも、アイドルグループ・さくら学院出身の中元すず香(SU-METAL)、菊地最愛(MOAMETAL)、水野由結(YUIMETAL)という3人の少女が本格的なメタルの音に乗って歌い踊る、その「ギャップ」が魅力の肝であるはずで、「まがい物」だからこそ日本のみならず海外でも大きな人気を獲得したグループである。なので、バラカンの「まがい物」という評価は別に間違ってはいない。それにも関わらず、そういった率直な感想すらも許されなくなっている閉塞感を感じずにはいられない騒動だった。
■事件その5
水道橋博士が安倍政権批判でネトウヨから攻撃を受け大炎上するも、最初から計算済み!
政治的発言をした芸能人に対しネトウヨが束になって襲いかかる現象には今年も多くの人が被害に遭ったが、そのひとりが水道橋博士だ。
水道橋博士は今年9月、インタビューで〈安倍政権がすすめているような、数こそ力で、リベラルを破壊していく政権運営ってめっちゃくちゃ怖いなあと思います〉と発言。これが発表されるやいなや、ネトウヨは当然のごとく博士のツイッターに襲いかかり、炎上させた。
しかし、博士はこれに逃げずに逐一対応。ツイッターで〈『永遠のゼロ』を文庫で読んで感激され百田先生のTwitterまでフォローされる方は、読書家なので、同じ文庫で、三十四回講談社ノンフィクション賞受賞作『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』(安田浩一著)も読んでみてはいかがですか? 同じ講談社文庫です。〉などと挑発した。
もともと、博士は炎上が織り込みだった気配がある。くだんのインタビューでも〈オレなんて安倍政権の強権的やり方を、お笑いとして、からかっているだけだけど、それに対して本気で怒るひとたちが現れていて、ネトウヨとかもそうですけど、もはや、そういう人は自分の他人を圧する熱狂すら客観的に見えてないのかって不思議でしょうがないです〉とも語っていたように、おそらく安易な感情を煽ってマスヒステリーをつくりだし、独裁政治を築こうとしている安倍の政治手法と、デマと悪罵の攻撃で政権批判を抑え込むネトウヨが連動している状況に相当な危機感を抱いているのだろう。だからこそ、あえて「上から目線」の「ネトウヨ批判」によって、彼らを挑発しようとしたのではないか。そういう意味では、十分にこの炎上は十分に目的を果たしたといえる。
博士には、来年も炎上を恐れず、ネトウヨをどんどん挑発していってもらいたいものである。
■事件その6
ロマン優光の著書をめぐり、町山智宏、水道橋博士、春日太一、吉田豪、サブカルオールスターの論戦が
サブカルオールスターによるバトルロイヤル。その始まりは1冊の本だった。11月に出版された『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン)のなかで、ロマン優光はここ数年の町山智宏の起こした炎上騒動をあげ、〈サブカルおじさんの害〉と断罪。
これに対し町山本人はゲスト出演したラジオ番組で「どうも、老害サブカルおじさんです」と自虐ギャグをかますといった反応程度にとどまるが、今度は本のなかで同時に俎上に上がっていた水道橋博士が〈当たり屋人生に責任をとってもらうよ〉とツイッターに投稿。ボヤがだんだんと本格的な火事になっていく。
そしてそれに加わったのが、時代劇評論家の春日太一。まるで圧力で言論を封殺しようとしているかのような水道橋博士の厳しい言動に疑問を呈した。プロインタビュアーの吉田豪も同じような意見を投稿。どんどん泥仕合となっていく。
この一連の騒動はその後、当事者同士の謝罪と炎上の再燃を繰り返した末、最終的にはロマン優光の著書に事実誤認があったことから、水道橋博士のもとにロマンと担当編集者が詫びを入れにいくところで幕が引かれたという。
いったい何がテーマだったのか分からない論戦だったが、ただひとつはっきりしているのは、このサブカルおじさんによるプロレスに若手が入り込む余地はまったくなかった、ということだ。来年もサブカルは結局、このおじさんたち中心で回っていくのだろう。
■事件その7
秋元康の本質が出た二大炎上事件。ネオナチ騒動に女性差別。リテラには運営から恫喝メール
秋元康のアイドルプロデュースは「あざとさ」ゆえに炎上がつきものだが、今年は笑っては済ませられない炎上事件が2つもあった。1つ目は今年の紅白歌合戦に初出場を決めた欅坂46の衣装がナチスの軍服に酷似していると指摘された問題。
この類の指摘は大抵無視する秋元だが、ユダヤ系人権団体であるサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)から謝罪を要求されるにいたり、ようやくコメントを出したわけだが、それは「ニュースで知りました。ありえない衣装でした」という現場スタッフに全責任をなすりつける、あまりにおざなりな対応だった。
そしてもう1つはHKT48の楽曲「アインシュタインよりディアナ・アグロン」が女性蔑視であると指摘された騒動。〈難しいことは何も考えない 頭からっぽでいい〉などと歌わせるあんまりな内容の楽曲にネットは大炎上。いくつかのニュースサイトがこの内容を取り上げ、当サイトでも記事にしたわけだが、ここから有り得ない事態が起こる。
歌詞の論評である本サイトの記事に対し、AKB運営会社であるAKSの法務部から、「名誉毀損及び侮辱罪が成立する」「即刻、記事を削除せよ」とのメールが届けられたのだ。
本サイトはこのメールを公開し、その内容がいかに検討違いのものであるかを主張した。それ以降、AKS側からは何のリアクションもない。AKBといえば、メディアに圧力をかけ「AKBタブー」といった状況をつくり出してきたが、そのやり口を身をもって体感した出来事であった。
……………………………………………………………………………………
2016年サブカル事件簿、いかがだっただろうか。こうやって、最初はひとつのテーマで2人が論争していただけなのに、どんどん話が広がっていったり、いろんな人間をまきこんでいったり、というかなり面倒な展開になったものも数多い。かくいう本サイトも、このようなサブカル事件を紹介した結果、論争の当事者やファンから「記事の無断引用だ」「真意を伝えていない」などと批判され、炎上することも少なくなかった。
しかし、こういう面倒くさいところも含めて、サブカルというジャンルは奥が深く、おもしろいのだ。来年も色々な論争が起こるだろうが、当サイトでは面倒くさがらずに、炎上を恐れずに追いかけていくつもりなので、サブカル関係者はどうか冷たい目で見守っていただきたい。
(編集部)
最終更新:2017.11.12 01:32
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