“雅子妃の代弁者”といわれる皇室ジャーナリストが明かした「皇太子妃を辞める」発言と不妊治療の真実

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宮内庁HP「平成27年皇太子妃殿下お誕生日に際してのご近影」より


 今日12月9日、雅子妃が52歳の誕生日を迎えた。予想通り会見はなく、宮内庁を通じて文書で談話を発表する形式で、内容も戦後70年ということで、「戦争の悲惨さと平和の尊さに改めて思いを深くいたしました」という言葉が入っていたものの、あとは昨年と大きく変わりはなかった。

 雅子妃の肉声を聞くことがなくなっていったいどれくらいになるのだろうか。この十数年、我々が接することのできたのは、宮内庁を通じて出される当たり障りのない談話や動静情報のみ。一方で、週刊誌では雅子妃に対する大量のバッシング情報が流されてきたが、それについて、雅子妃の反応はまったくわからないままだった。

 だが、そんななかで1年ほど前、雅子妃の思いや心の裡を代弁しているといわれる本が出版されたのをご存知だろうか。雅子妃の半生を綴ったノンフィクション『ザ・プリンセス 雅子妃物語』(文藝春秋)がそれだ。

 同書の著者・友納尚子は「週刊文春」「文芸春秋」などで皇室取材に取り組んでいたジャーナリストだが、2003年、雅子妃が入院した直後から、一貫して雅子妃サイドにたった詳細な内幕記事を書いてきた。ほとんどのメディアが雅子妃の休養を「仮病」扱いしていた時期から、ストレスによる「精神的な病」であることを指摘。公務や宮中祭祀の欠席問題、さらには愛子内親王の不登校や付き添い登校をめぐるバッシングが起きた際も、雅子妃サイドの言い分を代弁するように詳細な反論を書いてきた。

 そのスタンスはともかく、情報はきわめて正確で、東宮職はもちろん、雅子妃の実家である小和田家関係者や雅子妃本人にもパイプがあるのではないかと指摘されるほどだった。

 その友納氏がこれまでの取材の集大成として出版したのが前掲書『ザ・プリンセス』なのだが、そこには、これまで表には出なかったエピソード、そして雅子妃を「適応障害」にまで追い詰めた原因が綴られている。

 それはやはり、宮内庁や千代田(天皇夫妻の側近の俗称)との確執だった。同書はまず、ある事件が雅子妃の心を深く傷つけたと書いている。

 2000年の皇太后逝去でのこと。この時、雅子妃は葬儀を欠席しているのだが、その背景に〈雅子妃にとって、適応障害というご病気に繋がる過去の暗い記憶となっているある出来事があった〉と同書はいう。

〈それは、この前後に、千代田側から厳しく叱責されたことだった。(中略)
「しきたりに関するやりとりならば納得がいくのですが、その時のご気分による感情的な叱責があったといいます」(宮内庁関係者)〉

 友納氏は間接的な表現をしているが、これは前後の文脈から見て、「雅子妃が皇后から理不尽で感情的な叱責を受けた」と読みとれるものだ。当時から、皇后との確執が雅子妃の病気の最大の原因と言われていたが、やはりそれは大きかったようだ。

 さらに、雅子妃を追い詰めたのが、お世継ぎのプレッシャーだった。宮内庁はなかなか懐妊しない雅子妃をことあるごとに責め立てたという。

〈ご懐妊されない原因が雅子妃の『考え方』にあると見るようになったのである。雅子妃が世継ぎの重要性を自覚していないという歪んだ話は、宮内庁の中にも広がり始めていた。〉

 97年2月には当時の宮内庁長官・鎌倉節が直接、雅子妃を説得にきたこともあったという。通常、長官といえど、皇太子夫妻から「お召し」がなければ勝手に会いに来ることなどできないのだが、鎌倉長官はその禁を破り、強引に乗り込んできた。そして部屋に入るなり、世継ぎの話を切り出したという。

「前置きもなく、いきなりお身体のことを話し始めたといいます。雅子妃殿下は羞恥心と驚きで複雑なお気持ちになったそうです。ひとりの女性が夫婦間のことなどを他人に軽々しく言えるはずがありません。雅子妃はしばらく黙ったままだったそうですが、あまりに理解がないためプライバシーについて言われたところ、結局、聞き入れてもらえないまま話は平行線に終わったと言われていました」(元東宮職)

 その後、雅子妃は流産をへて、愛子内親王を出産するのだが、男児ではなかったことで、このお世継ぎプレッシャーは止むことがなかった。

 宮内庁内部では、出産直後から第二子の期待が高まり、当時の湯浅利夫宮内庁長官も会見で「やはりもう一人はほしい」と発言。雅子妃の意向に反して早期の公務復帰を決めた。しかし、愛子内親王の子育てに時間をさきたい雅子妃はこれに強い不満をもっており、林田英樹東宮大夫とこんな驚くべきやりとりをしていたことを同書は明かしている。

〈雅子妃はそれまでも、過密な公務の日程について、何度も林田東宮大夫に訴えてきたという。だが、聞き入れてもらえないことから、〇二年頃に「これでは皇太子を辞めなくてはなりませんね」と語ったことがあったそうだ。言葉だけを取りだせば衝撃的だが、信頼できるはずの大夫に、内々に、なかなか聞き入れてもらえない公務委の軽減を訴えている文脈の中での発言だったのが実際だった。〉

 そして、2003年10月15日、決定的な事件が起きる。メキシコのフォックス大統領夫妻を迎えての宮中晩餐会でのこと。この晩餐会では主催の両殿下から皇族方が順番に紹介されるのが儀礼となっていた。しかし──。

「まず燕尾服姿の皇太子を紹介されて、次はイブニングドレス姿の雅子妃の番でした。フォックス大統領が雅子妃に向って手を差し出されたのですが、隣の秋篠宮殿下が紹介されたため、一瞬、大統領の手が宙で迷われ、おかしな雰囲気でした。雅子妃は明らかに引きつったようなご表情でした」(元東宮職)

 そう、雅子妃は妃殿下として紹介されず、スルーされてしまったというのだ。このことが雅子妃から自信を喪失させ、その後11年間、雅子妃は宮中晩餐会に出席することはなかったという。

 同書は東宮御所に戻った雅子妃の心境を「宮内庁関係者」のコメントという形で、次のように解説している。

「ご誕生されたお子さま女の子だったことから、男子を産めない皇太子妃は必要ないというように思われたようです。(中略)雅子妃殿下は皇統の重要性を考えると、もっと頑張らなくてはいけないと思われていた。けれども深い失意は、ご自分を責める方向に向かわせたと言われています」

 そして、この直後から雅子妃は体調に変調をきたしはじめ、03年12月、帯状疱疹で入院。休養が発表される。そして04年の適応障害、皇太子の「人格否定発言」に繋がっていったと著者は分析している。

 もちろん、本書に対しては「雅子妃に寄り添いすぎている」といった批判もある。実際、同書に描かれた雅子妃の思いは被害妄想と感じられる部分もなくはないし、皇太子妃として公への貢献の意識があまり感じられないのも事実だ。

 しかし、同書は、雅子妃の立場に徹底的に寄り添ったからこそ、どのメディアも書くことのできなかった“本音”“肉声”に近い言葉を引き出せたとも言える。これこそが、外務官僚から突然、皇太子妃という立場になった女性からみた皇室の「真実」なのだろう。

 そういえば、同書ではもうひとつ、これまでどこも書くことのできなかった「真実」が明かされている。それは、ずっと噂になってきた皇太子夫妻の不妊治療の問題だ。

 同書は1998年の秋から皇太子夫妻が不妊治療を受け始めたとはっきり書き、それにそこにいたるまでの経緯について、こう記している。

〈ご懐妊には大きな問題があることに雅子妃は気づいていたが、誰にもたやすく相談できないことでもあった。〉
〈(懐妊しない)そこには深刻な問題があった。しかしそのことを鎌倉長官はじめ宮内庁は把握できていなかった。〉
〈一般的に子どもができないと原因は妻にあると思われがちですが、宮内庁も同じような考え方だったのです〉

 さらに、不妊検査が行われた際の雅子妃の気持ちは、意外にも辛いものではなかったとして、元宮内庁関係者のこんなコメントを紹介している。

「これまでお子さまが生まれないのは雅子妃のお身体のせいだといわれてきたことから、この検査結果が出たことで『やっと周囲にわかってもらえる』と安心したお気持ちの方が強かったといわれています」

 いずれにしても、雅子妃に起きたことは、雅子妃の個人的な資質の問題ではない。雅子妃の世代の民間の女性が突然、皇太子妃という立場になって、周囲からプレッシャーを受ければ、ささいなことに敏感に反応し、自信を喪失し、自分の身を守ることでいっぱいいっぱいになってしまうのは、ある意味、当然とも言える。

 同書も指摘しているが、皇室のあり方そのものを考え直さなければ、次に、民間から妃が入った時も恐らく同じことが起きるだろう。とくに、天皇制墨守を掲げる保守メディアや識者は雅子妃バッシングを繰り返すよりも、そのことをもっと真剣に考えるべきではないだろうか。
(伊勢崎馨)

最終更新:2015.12.28 05:28

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