「あまちゃん」の作曲家もパンクのカリスマも…安保法制と安倍政権にNOを突きつけるミュージシャンたちの深い思い

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「Ken Yokoyama (横山健) OFFICIAL SITE」より


 今週末の強行採決がほぼ決定的となった安保法制だが、反対の声は途切れることなく、むしろ大きくなっていくばかり。そんななか、ミュージシャンたちからの“戦争法案反対”の意見表明もあとを絶たない。

 そのひとりが、90年代半ばから2000年代にかけて熱狂的なファンを生み出したハードコア・パンクバンドのHi-STANDARDの横山健。現在はKen Yokoyama名義でソロ活動をしている彼だが、今月10日に発売された「Rolling Stone日本版」(セブン&アイ出版)15年10月号のインタビューに登場。そのインタビュータイトルは、ずばり「安倍さんが言う“美しい日本”と僕らの思う“美しい日本”は違う」。

 まず横山は、戦争反対を掲げる理由について、子をもつ親の立場からこう語っている。

「僕は親になって10年経つんだけども、親としての部分が言わせるんですよ。だって、経済のこととか、外交のことだけ考えていたら、安保法制も必要かもしれない。日本がアメリカの庇護のもとを外れて、ちゃんとした国家として独立することを考えたら、持つべきカードは核だったりすると思うんです。だけど、親である自分がそうさせない。ちょっと待て、と。方策はほかにあるんじゃないかと。まず、日本は70年間、戦争しないということを貫いてきた。よそから何言われようと、アメリカから“Show the flag”と言われても、政治家は“俺たちも戦争できるようにするっしょ”と思ってたかもしれないけれども、市民は“戦争しない”ことを守ってきたつもり。その信念は、どこにどう言われようと、俺は貫くべきだと思うんです」

 誰だって自分の子どもが戦争で死ぬことも、人殺しにすることも耐えられない。先の戦争で大事な家族や友人を亡くした経験をもう2度と繰り返さぬよう、日本は70年間必死に平和を守り続けてきた。そんな状況がいま壊されようとしている……。横山は、続けてこう語る。

「自分の子供が戦場で死んだら、俺、どうなるのかな? 国会にテロしますよ、たぶん。こんなものを可決して、自分の子が死なれようもんなら。それくらい親って子供のこと大切に思うんです。政治家にだって子供はいますよね。なんでそこが直結しないのかな?ってすごく不思議なんです。まさか自分と自分の子供は大丈夫って思ってるんじゃねえだろうな?って。自分の子供がそうなっても、これは可決するべき正義なんだと本気で思っちゃってるんだとしたら……、それが政治だったらマジで怖いし、そういう人たちが日本の舵取りをしてるなら、俺は絶対に間違ってると思う。根本から変える必要があると思ってます」

 また彼は、暴走しつつある政治状況に対抗し、自分たちの生活と平和を守るためには、若者たちももっと政治に関心をもって考えることが大切だと主張する。

「僕はステージ上でも、歌詞でも“安保法制が可決されて、最悪の形で使われて、自衛隊員が報復として攻撃されたり、日本がテロの標的になるかもしれない。その時、巻き込まれて死ぬのは、僕じゃなくて、今フェスに来てて目の前で楽しんでる、あなたたちの子供だぞ。だから考えろよ”って言ってるんです」

 横山健はこの言葉で、“自分たちは子供世代に平和のたすきを渡せるか”ということと同時に、“「フェスに来て楽しむ」という平和な世の中がいかに貴重か”をオーディエンスに伝えている。

 これと同じことを、DJユニット・Kyoto Jazz Massiveのメンバーで『職業、DJ、25年 沖野修也自伝』(DU BOOKS)などの著書をもつ沖野修也も、同誌のなかで語っている。

 彼は8月12日、渋谷ハチ公前にて、WORLD PEACE FESTIVALという音楽イベントを主催している。このイベントには、Shing02、AFRA、三宅洋平、K DUB SHINE、また、現在は千葉県松戸市の市議会議員でもあるラッパーのDELIらが出演し大きな話題に。さらに、自身のブログでもSEALDs KANSAIのデモに参加した体験を綴っている。

 沖野は、WORLD PEACE FESTIVALのような音楽を楽しみながら現在の政治状況について考える機会を皆に提供することで、平和の大切さをあらためて感じてほしかったのだと言う。

「MCで『戦争が始まって平和が失われたら、こんな楽しいことできないでしょ?』って言いましたが、それをリアルに感じると思うんです。音楽家が言葉で語ることも重要だけど、あの場所で演奏できるという自由や平和な世の中というものを、来ていただいた方には実感してもらえたかなと」
「戦争が始まったらできないからね。(中略)お越しいただいた方の何人かでも、こんなイベントができる今の状況がどれくらい価値があることなのかを感じていただけたら、やった意味はあると思う」

 まさに、かつて文筆家・吉田健一の残した名言「戦争に反対する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである」に通じる主張である。

 さらにもうひとり紹介したいのは、『あまちゃん』(NHK)の劇伴や『ヨルタモリ』(フジテレビ)への出演でもおなじみである大友良英のメッセージだ。

 大友は、こちらも現在発売中の「現代思想」(青土社)15年10月臨時増刊号「総特集・安保法案を問う」に、「自信を取り戻すということ」と題した文章を寄稿。このなかで大友は、震災と原発事故を体験した日本では、多くの人びとが無力感から自信を失っているのではないか、という。自信を回復するには〈失敗に向き合って修復することで傷を治していく〉しかない。しかし、現在の日本では、ヘイトスピーチや原発再稼働、そして安保法案といったものが〈自信回復の特効薬〉に見え、手を伸ばしているのではないかと指摘する。当然、そんなものはまやかしに過ぎない。

 そう綴ったあと、大友は憲法九条を引用する。それを〈世界に誇れる素晴らしい条文〉と褒め称えたあと、〈ただし〉とつづける。

〈戦後なんで戦争をしてしまったのかという問題に向き合うこと無く、経済回復をすることで日本という国が自信を取り戻していったのだとしたら、もしかしたらこの九条があることが、それを考えなくてもいい免罪符になったのかもしれない……ふと、そんなふうにも思うのだ〉
〈祖先が先送りにしてしまった問題のツケを、今僕ら大人は払わなくてはいけないときに来てしまっているんじゃないだろうか〉

 そして、〈戦後の恩恵を受けた僕ら四〇〜五〇代以上の世代〉はまだしも、〈その子どもの世代にまでそんなツケを残すのはよくない〉という。彼らには責任はなく、しかも不景気で不安定な社会に放り出され、挙げ句、戦争法案によって武力を行使する役目を担わされそうになっているからだ。

〈これで腹がたたなかったら逆におかしいってもんだ。なんで先達の無責任のツケを孫が払わなくてはいけないのよ。彼ら彼女らがデモをするのは当然だ〉

 安倍首相は戦後70年談話のなかで「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と述べた。この安倍談話と大友氏の文章は、同じ“戦後”を振り返り“次の世代”に思いを馳せながらも、こうも違う。大友は次の世代のためにも自信を取り戻すことを提唱する。そう、安倍首相が言う「日本を、取り戻す」とは異なる方法で。

〈戦争にしろ原発にしろ潔く負けを認めること。その上で科学技術と思想をもって原発の問題に正面から向かうこと。武力行使で国際貢献するのではなく、自分たちの過去の歴史とともに憲法九条がなんで必要なのかを考え、子孫にも「戦争放棄」の思想を残していくこと。きれいごとと言われるかもしれないけど、きれいごとの何が悪いと思う〉

 戦争法案への抵抗の仕方は三者三様だが、根底ではすべてつながっている。彼らはみな、自分の問題として戦争を捉え、反対している。

 彼らの音楽をフェスやライブやクラブで自由に楽しめるのも、平和といういまがあるからだ。もし、いま戦争反対の声を冷笑している人がいるならば、こうしたミュージシャンたちから投げかけられた言葉を噛みしめてみてほしい。ほかならぬ、自分の問題としてだ。
(新田 樹)

最終更新:2015.09.16 11:51

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