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やっぱり疫病神? マック異物混入・赤字転落は元CEOの原田泳幸が原因だった!?
『勝ち続ける経営 日本マクドナルド原田泳幸の経営改革論 』(朝日新聞出版)
異物混入事件の影響は大きく、1月の売上高が38.6%減と、2001年7月の上場以来、最大の落ち込みとなった日本マクドナルドホールディングス。5日の決算発表会見では、同社のサラ・カサノバ社長が異物混入問題について深々と頭を下げ、「お客様に多大なご迷惑をかけた」と謝罪した。
一方、「現在のマクドナルドの不調について、一部のメディアが私だけに原因があったかのように報じていますが、違和感を覚えます。(略)米国本社から赴任してきたCOOに実務を任せてからは約二年がたっています。その事実は理解してほしいと思います」と言うのは、原田泳幸ベネッセホールディングス会長兼社長だ。
原田氏といえば、2004年、アップルコンピュータジャパン代表取締役社長だったが、ヘッドハンティングで日本マクドナルドCEOに就任。行き過ぎた安売りで失墜したブランドを短期間で建て直す戦略を打ち出し、8年連続で既存店売上高プラス成長するV字回復を実現させた。そして2014年には社外取締役として在任していたベネッセホールディングスの代表取締役に就任した「プロ経営者」だ。
しかし、就任したばかりの2014年6月、ベネッセでは個人情報漏えい事件が発生。古巣の日本マクドナルドでも前述のように、中国の使用期限切れ鶏肉をチキンナゲットに使用していた問題や、異物混入問題などが起きた。2月5日に発表した14年12月期の連結業績予想は当初117億円の利益を見込んでいた営業損益が67億1400万円の赤字に転落。営業赤字は1973年以来41年ぶりのことだ。
赤字転落のマクドナルドに、信用失墜で大リストラのベネッセ……「プロ経営者」の周辺は経営難ばかり。原田氏を「疫病神」呼ばわりするメディアも出てくるほどだ。こうした批判に対し、「疫病神批判に答えよう」と「プレジデント」(プレジデント社)2月2日号のインタビューに応じたのだ。
いわく12月に創業以来初めて本社やグループ約40社の全部門から約300人の希望退職を募集したベネッセに関しては、「ベネッセの場合も、今回発表した組織や社員数の適正化を含む変革の必要性は、事前に課題として認識したうえで社長の職を引き受けました」「もちろん今回の事故は予見できませんでした。これも私がつくった事故ではありませんが、いま社長である私が解決すべきものです」と弁明する。
マクドナルドに関しては、「ハンバーガービジネスは非常にスピードが速い。多くのお客さまは衝動買いで、しかも購買頻度が高い。今日気を許すと明日響く。今日しっかりやれば明日売り上げが伸びる。そういったビジネスです」とサラ・カサノバ社長の新体制に責任転嫁するのだ。
しかし、本当にそうだろうか。「直近の10年間について言えば、日本マクドナルドのビジネスに関与してきた経営陣も、いまの事業の惨状をもたらしたことに大きな責任がある。米国本社の意向を受ける形で、短期間で無理なFC化を推進したことが、現在の苦境を招いた最大の要因である」と指摘するのは『マクドナルド失敗の本質 賞味期限切れのビジネスモデル』(小川孔輔/東洋経済新報社)だ。
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授である著者が、経営学の視点から、日本マクドナルドの失敗の本質に迫っている。著者によれば、日本マクドナルドが凋落しはじめる転機は、2007年だという。04年にCEOに就任した原田氏はそれまでのマクドナルドを日本に輸入した故・藤田田氏の「マクドナルドの日本式ローカルモデル」経営から「グローバル標準の米国流」経営に変更。店舗効率の改善、商品品質の向上(メイド・フォー・ユーの早期導入)、ドライブスルー型の店舗と24時間営業の推進といった改革を矢継ぎ早に繰り出し、メガマックのヒットやマックグリドルの導入もあり、07年は売上高も利益率も急上昇。既存店の売上高は、前年を10.2%も上回り、売上高営業利益率も4.2%に上昇した(前年は2.1%)。ここから、高級アラビカ豆を使用した「プレミアムローストコーヒー」の販売を開始したり、携帯電話やスマートフォンの「eクーポン」を導入し、顧客の囲い込みをするなど、原田改革が絶好調に見えた時期だった。
しかし、米国流経営の視点から見ると、まだまだ物足りないものだった。 「米国流の経営ではROE(株主資本利益率:自己資本に対してどれだけのリターンが生み出されているかを示す財務指標)を重視する見方が主流になってきている。米国は株主資本主義の国だから、一般的な経営指標としては、売上の伸びよりは収益性が優先される。原田氏がCEOに就任して、売上高は伸びた。経常利益率(4~5%)もまずまずの水準だ。」「ところが(略)ROEは、2005年では、水面下すれすれの水準で0.04%。2006年では1.2%。株主の立場(投下資本に対する収益率)からすれば、日本マクドナルドは残念ながら大きな利益を生み出しているわけではない。」「さらに、もう一つの指標であるROA(総資産利益率:企業が保有している資産の活用効率を示す財務指標)は2006年に3%、2007年に7.9%と、それほど儲かっていなかったのである。」
世界のマクドナルドの中で、日本の売上高は米国に続いて第2位と、米国マクドナルド本社が海外オペレーションから得ている利益のおよそ3分の1を稼いでいる存在だ。米国本社はこれまではロイヤルティの対象となる売上高を見ていればよかった。
だが07年には保有株数の約半数を米国本社グループが保有するまでになっており、米国流株主としての視点で、ROAを高めるように、経営に関与をするようになった。
ROAを高めるには、経営指標の分母となる手持ちの総資産を圧縮するか(直営店の売却)、分子となる純利益を高めるか(価格の引き上げ、コストカット)のどちらか、もしくはその両方を行うことになる。
米国マクドナルド本社でも、同様に、アクティビスト(物言う株主)と呼ばれる有力なヘッジファンドから、直営店の売却と経営効率の改善を迫られ、直営店の売却(フランチャイズ化)が進んでいた。このため日本マクドナルドでも、直営店の売却とコストカットが吹き荒れることになったのだ。08年から直営店の売却(フランチャイズ化)が加速し、「2年間で、直営店からフランチャイジーに区分移行した店舗は948店舗に及び、売却益は86億円にもなっている。そして、この年、FC店が2010店に対し、直営店が1705店となり、数の上ではFC店が直営店を抜いた」。ROAは08年には9.1%、09年には11.6%と改善する。そして、486店舗(直営店278店、FC店208店)の一斉閉店をした10年には13.5%にまで上昇したのだ。
その結果はどうなったか。一斉閉店により、不便になった顧客はマクドナルド離れを起こすようになった。
「店舗数が減少すると、店舗密度が低下した分だけ利用機会が減ることが考えられる。それまでマクドナルドを利用していた顧客でも、いずれはより便利な場所にある競合(コンビニエンスストアや持ち帰り弁当店なども含む)に流れてしまう」
マクドナルドに「行けない難民」(昔からのファンやファミリー層)が増加すると同時に既存店には招かざる「居座り難民」が増大する。
「24時間営業やeクーポンの発行、100円マックやプレミアムローストコーヒーによって引き寄せられた顧客たちである。マクドナルドが新たに誘引したのは、価格感度が高いグループであった。あるいは、24時間営業のマクドナルドを利用するようになった、本来ならばあまり好ましくない層の顧客である」
「居座り難民」が席を埋め尽くし、独自商品の開発はなく度重なるキャンペーンで疲弊する現場と 資産を切り売りすることで米国本社が喜ぶような経営指標をはじき出す経営陣。マクドナルドは完全に壊れてしまったのだ。これらは原田CEOと07年に米国本社から店舗戦略とマーケティング担当のシニアディレクターとして送り込まれたデイブ・ホフマン副社長によって行われたものだという。
「マクドナルドを壊してしまった責任は、行き過ぎた米国の株主資本主義の定見のなさと、短期的に収益を上げようとしたマネジメントの失策にある。前者を主導したのは、不動産リース事業モデルに着目して、直営店舗の売却を促進することを主張したヘッジファンドである。そして、長期的な観点からマクドナルドのビジネスを守ろうとすることなく、『物言う株主』の圧力に抗することができなかった経営陣たちの責任も重い。」
「それでも、失敗を引き起こした加害者のほうはまだ救いようがある。投資家は持ち株を処分して、つぎに投資すべきターゲット企業を探せばよい。そして、マネジメントで失策を犯した経営者は、要求するに足る報酬がもらえなくなったら、自らのマネジメントスキルを活かせる新しい居場所を求めればよい。しかし、真の被害者たちは、そう簡単には職場を替えることなどできない。マクドナルドで長く働いてきた社員とクルーたちである。さらには、本部の経営方針を信じて、ハンバーガービジネスに身を投じたフランチャイジーたちである。」
デイブ・ホフマン副社長は4年間勤めた日本マクドナルドからその功績が評価されてか、11年にシンガポールに移動。アジア全体を管轄することになる。
「ロイター通信は、ホフマン氏の年俸が約3億円に増額されたことを伝えている。ちなみに、2013年に原田氏の年俸は(略)専門経営者としてトップクラスの約3億4900万円となっている」
ボロボロになった日本マクドナルドは原田氏に報酬返還請求をしたほうがいいかもしれない。
(小石川シンイチ)
最終更新:2018.10.18 03:23
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