100周年迎えた宝塚の暗部がかいま見える「宝塚いじめ裁判」の記録

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『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判―乙女の花園の今―』(鹿砦社)

 今年100周年を迎えた宝塚歌劇団。4月4日〜6日には宝塚大劇場にて「宝塚歌劇100周年 夢の祭典『時を奏でるスミレの花たち』」と題された記念公演が行われ、各組トップをはじめとする現役生だけでなく、八千草薫、鳳蘭、大地真央、真矢みきなど、卒業生らも同じステージに立ち話題を集めた。

 そんな100周年で追い風に乗っている“タカラヅカ”だが、実はずっと囁かれている暗部がある。それは学校内での陰湿なイジメだ。数年前、その一端が垣間見えたのが泥沼裁判騒動があった。

 歌劇団員は、宝塚歌劇団付属の「宝塚音楽学校」で2年間の教育を受けることになっており、歌劇団入団の条件もこの宝塚音楽学校卒業生に限られている。2009年11月、この宝塚音楽学校に08年に入学した“96期生”の間でイジメがあったとして、元生徒のSさんが同校を相手取り、地位確認と損害賠償を求める訴訟を神戸地裁に起こしたのである。

 この騒動はメディアでは大きく取り上げられておらず、関連書籍も『ドキュメント タカラヅカいじめ裁判』(山下教介/鹿砦社)一冊しかない。この問題に関しては、書籍よりもウェブに裁判の傍聴をした有志らによって詳細な情報がまとめられているが、この書籍についても検証がなされ「間違いだらけ」と批判されている。しかし門外漢にとってみれば、ウェブサイトは詳細ではあるが騒動自体を俯瞰しづらい。本気のヅカファン向けともいえる。大まかな事件の流れを把握するためにはこの書籍が有用なので、同書にそってその概要をまとめてみよう。

 さてSさんが提訴したのは09年だが、その前年、入学当時から、宝塚音楽学校(以下、学校)や他の96期生との間では問題が起こっていた。Sさんは「音楽学校入学以来、イジメを受けて」いて「同年9月にコンビニで万引きをしたとされる虚偽の報告をされ、また、宝塚大劇場で拾った財布を届けずに、9日間放置していた」として同年11月に退学処分を受けた。Sさんは「万引きはしていない」として仮処分を申し立て、神戸地裁は09年1月「万引きを裏付ける事実はなく、拾った財布を9日間届けなかったことで退学処分とするのは不当」として退学処分を無効とした。ところが学校側は再度、退学処分を出す。再びSさんは仮処分を申し立て、また“退学処分は不当”と認められたが、学校側が退学処分を取り消さなかったため、提訴に踏み切ったのである。

 Sさんが主張するこの“イジメ”については、まず学校の寮内で「生徒の持ち物や現金などが盗難にあう」という事件が多発していた。そんな中、Sさんの部屋で他の生徒のドライヤーが見つかったことで“責め立てられ、なんとかこの場を逃れたい一心で”つい自身が盗ったことを認めたのである。これ以降、共用のヘアスプレー、同期の携帯電話、図書室の本……あらゆるものが“紛失”し、それら全てがSさんの仕業であると決めつけられていく。

 極めつけは“コンビニでの万引き騒動”だ。学校近くのコンビニで買い物するSさんを同期生の2人が見張り、“万引きしていた”と委員である同期生“Y田”に証言。ここから同期生らがSさんを責め立てた挙げ句、学校にこれを報告。学校はSさんの言い分を聞かず、授業中のSさんを寮に戻らせた。そして職員による所持品の写真撮影が行われた。だが、万引きの件については“店側から万引きの被害届が出ていない”のである。店は被害をこうむったと認識していないにも関わらず学校側や同期生らはSさんを万引き犯と決めつけたということになる。

 もうひとつ追い打ちをかけたのが“宝塚大劇場での財布事件”だ。Sさんは同期生らと観劇後に劇場を出ようとしたら落ちている財布を見つけた。中身を見ると、カード類はあるが、現金がない。あろうことかSさんはこれをすぐに届けることなく財布も「寮に持ち帰ってしまった」のである。Sさんは「これまで寮内で起こった数々の盗難事件のすべてがの仕業だと決めつけられ、その都度、深夜から翌朝まで繰り広げられるつるし上げ、授業中でも受ける同期生からの執拗ないじめ」などが頭をよぎり、「何を言っても信じてくれない」「『財布を拾いました』と報告しようものなら『また盗んだんでしょう』となるに決まっている」、そんな気持ちになって報告できずにいたという。しかしこのまずい対応で、Sさんはますます疑われ、孤立する。そして「財布の持ち主の隣に座っていたSさんが盗んだ」ということになってしまったのである。

 財布の持ち主は観劇中、近くに宝塚音楽学校の生徒が座っていることに気づいていたが、それはSさんではなかったと断言している。Sさんが犯人ではないとする可能性も残っているのに、学校側はそれを検証しなかった。財布の持ち主は裁判において陳述書を提出しているが、提出前になぜか内容を書き換えられている。「隣に座っていた人はSさんではない」「財布を盗まれた覚えはありません」。Sさんに有利となるはずのこれらの項目を消して裁判所に提出されたことが明らかになっている。

 結局、この“イジメ裁判”は白黒つけられることはなかった。“2010年7月20日頃に判決が下されるだろうという読みがあった”その直前である、同年7月14日、突然の和解調停となったのである。内容は「退学処分の撤回」そして「原告は被告に対し、宝塚歌劇団への入団に必要な手続きの履行を求めない」、つまり退学は取り消すが宝塚歌劇団には入ることはできない、という条件での和解だった。

 Sさんが学校に通っている間、同期生からは「私の視界に入るな」「死ねばいいのに」などという言葉の暴力だけでなく、“Sさんのたてたお茶に誰も口をつけない”、“演劇のレッスンでペアを組まず孤立させる”などといった幼稚で陰湿なイジメが続いたという。

 イジメを解決するでもなく加速させた他の96期生の行動も非常に陰湿であるが、何よりもイジメを見逃し、それに乗っかる形でSさんをあらゆる盗みの犯人に仕立て上げるような行動を取り、退学に追いやった挙げ句、裁判所からの二度に渡る退学取り消し処分が下されたのも無視した学校側にも、大きな問題がある。他の元タカラジェンヌも時折メディアで音楽学校時代、また宝塚歌劇団時代のイジメを告白してきたが、学校側のこうした体質を変えない限り、イジメはなくならないだろう。むしろ、学校側は、イジメも生徒らを鍛えるための材料と見ているのではないかという穿った見方すらできる。

 Sさんはその後、どうなったのか。判決から2年後の13年12月、SOD(ソフト・オン・デマンド)のホームページ上に、あるAV女優のデビュー情報が掲載された。「この度、SODstarから美しい名門音楽専門学校卒業したお嬢様・◯◯ちゃんのデビューが決定したのです☆」という紹介文。これがSさんとそっくりだという話になって、またぞろいろんな噂がとびかった。しかし発売目前にしてその作品は突然のお蔵入りとなっている。

 一方、イジメに加担したとされている96期生は数名の退団者は出ているものの、いまも舞台に立ち、タカラジェンヌとして活躍している。
(寺西京子)

最終更新:2018.10.18 04:08

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