合コン三昧でも癒されない…佐藤健が抱える絶望と孤独とは

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『6 1/2 ~2007-2013 佐藤健の6年半~ Vol.3 風』(東京ニュース通信社)

 先日、発売された「女性セブン」(小学館)で、モデル・森カンナとの深夜デートが報じられた人気若手俳優の佐藤健。これまでも、広末涼子や前田敦子、石原さとみなど、数々の女優と浮き名を流してきた佐藤のこと、もはや熱愛発覚くらいでは驚かされないが、痛手だったのは「週刊文春」(文藝春秋)6月26日号に掲載された記事『合コン相手を「ブス帰れコール」で号泣させた佐藤健の非道』のほうだろう。

 この記事では、佐藤が主催した合コンに参加したことがある女性が、佐藤の“夜の素顔”を暴露。合コン参加者のルックスが気にくわなければ、佐藤は手下と化した三浦翔平に“目配せ”をし、それを受けて三浦は女性陣に「ブース、帰れ! ブース、帰れ!」とコールしたのだとか。暴露した女性いわく、佐藤の態度は「王様気取り」。この報道に対し、ネット上では「最悪!」「ドン引きした」と女性たちからの非難が集中している。

 “さわやかイケメン”のオフィシャルイメージから一転、“最低のチャラ男”へ──。だがしかし、佐藤はほんとうにタダのチャラ男なのだろうか。そのことを考える上で興味深い資料がある。それは、社会学者・古市憲寿が2011年に出版した『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)に収録された、佐藤との対談記事だ。

 古市といえば、高望みな夢ももたず、“ほどほどの”生活で満足感を得るといわれる「さとり世代」を代表する若手論客。本書のなかでも、格差社会で“不幸”に生きていると思われている若者たちがじつは“幸せ”で現状の生活に満足していることを主張しているのだが、そんな古市が考える若者らしさが佐藤にあるというのだ。

 というのも、NHK大河ドラマ『龍馬伝』に出演していた際のインタビューで、佐藤は「生まれ変わるなら、絶対に、幕末より現代のほうがいい」と答え、「一泊二日で友達と千葉にバーベキューに行く幸せ」を語っていたのだという。古市は、こうした佐藤の態度に〈若者に広まりつつある新しい「幸せ」の形を象徴している〉と感じたらしい。

〈幕末の革命に「幸せ」を求めるのではなくて、日常の中にこそ「幸せ」を求める。(中略)代わりばえのしない毎日がえんえんと続くのには耐えられないけれど、超越的な何かを欲しがるわけではない。〉(本書より)

 実際、古市と対談中の佐藤は、じつに飄々としている。たとえば、古市から戦争が起きたらどうするかと問われると、「できるだけ関係のないところに行く、と思います」とポツリ。先の「幕末より現代に生まれ変わりたい」発言に対して“自分も幕末に生まれて龍馬みたいな活躍をしたかった”と思う人もいるはずだと言われても、たった一言「いるのかなあ。死ぬのに」。

 たしかに、同じ若手俳優でも小栗旬や綾野剛、生田斗真などはインタビューなどでも熱く演技論を語り、役者としての上昇志向の強さを感じさせるが、佐藤にその暑苦しさは皆無である。前回のW杯のときには「サッカーを観る習慣はなかった」にも関わらず、友達とスポーツバーで日本戦を観戦。勝利に沸き返る渋谷のセンター街へ直行し、見知らぬ者たちとハイタッチしたというのだが、「「ああ、こんなふうになるんだ」っていう驚きのほうが強かった」と醒めたように語っている。 

 芸能人として野心に燃えたりもしなければ、戦争のような“大きな物語”に乗りかかって自分の存在意義を確かめることもしない。そんなことより、友達とバーベキューをしているほうが幸せ──古市はそんな佐藤に若者の新しい幸福感を見出すのだが、しかし、古市がいうように佐藤はほんとうにささやかな毎日を楽しんでいるのだろうか。むしろ、佐藤から発せられているように感じられるのは、抱えきれない“苛立ち”や絶対的な“孤独感”だ。

 佐藤は言う。「夢は絶対叶う」「夢をあきらめるな」という人には憧れる。けれど「夢は絶対には叶わない」から「自分はそうはなれない」。友達はたくさんいるし、すごく楽しい。でも、「ある意味では絶対的に孤独で、完全な理解者って実は非常に少ないんじゃないか」と思う、と。

 また、古市が「若者の七割が「生活に満足している」と答えている。(中略)この数字をどう思いますか?」と水を向けると、「今の若者は「満足してる」って答えちゃうと思うんですよ」「僕も欲しいものとか色々あるけれど、満足してるかって聞かれたら満足してるって答えちゃう」と、じつは不満や不安も大きいはずだと指摘。古市が掲げた大前提さえ覆してしまうのだ。

 ──そう考えると、佐藤が女性を取っ替え引っ替えすることも、飲み会・合コン三昧で遊び続けることも、欲望があってやっているわけではないのかもしれない。センター街でのハイタッチと同じで、ただやってみただけ。彼のなかには合コンやセックスでは絶対に癒されることのないものがある感じがするのだ。

 それは、たとえていうなら、60年前に石原慎太郎が書いた「太陽の季節」や「狂った果実」、「完全な遊戯」の主人公たちと同じような匂いといってもいいかもしれない。当時、「太陽族」と呼ばれていた彼らは、外車を乗り回し、ヨットに興じ、女性にモテまくる華やかな部分だけがクローズアップされていたが、実際に小説に描かれていたのはもっと殺伐とした日常だった。

 何不自由ない生活を送りながら、満たされない絶望感、孤独感を抱え、それを忘れるために、人妻を誘惑し、つきあっている恋人を兄に5000円で売り飛ばし、友人といっしょに拾った女を暴行する。でも、その乾きはいっこうに癒されず、ますます絶望を深めていく。

 おそらく佐藤健も、彼らと同じように、絶望の向こう側を生きているのではないだろうか。女優たちを次から次へとやり捨てる。前田敦子を粗大ゴミのように扱う。人妻女優と密会する。子分に「ブース、帰れ!」とコールさせる……芸能人とは思えないその行動は、まさに石原が描いた主人公たちの享楽の日々とそっくりではないか。

 そういう意味では、佐藤の素顔はチャラいどころか文学的とさえいえるだろう。好感度というイメージに縛られ、セルフブランディングに精を出す小器用な芸能人も多いなかにあって、自らの抱えるものを隠そうとしないその居方は希少であり、支持したくなる気持ちも起きなくはない。

 だが、残念ながら、太陽族がもてはやされた時代とは、大衆の許容力が全然ちがう。スキャンダルまみれになって芸能生命を失うなんてことにならないよう、佐藤には、合コンと火遊びはほどほどにしておくこととをオススメしたい。
(田岡 尼)

最終更新:2014.07.03 05:04

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