無抵抗の捕虜を切り殺し、仲間の面前で敗残兵の首を切る…火野葦平が戦場で綴った日本軍の狂気

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〈敵は手榴弾を持つて出て来ては、ボカンボカン投げて、引つこむ、危くて寄りつけなかつたです、出て来んのでガスでくすべたところがやつと出て来ました。五十人から居ました。中に十一人ほど死んでゐましたが、自殺したらしく思はれました〉
〈頭をうたれた兵隊(田中勲上等兵)遂に戦死。(中略)サイゴダ、ミヅヲノマセテクレ〉
〈「敵まつ黒になつて、どんどん逃げよる、あんなのを初めて見た、」と前線から引つかへして来た兵隊云つてゐる。(テキガフシヨウ者ヲカツイデイタガシマイニハホツタラカシタ由)〉

 頭を撃たれた兵士が死の直前「最後だ、水を飲ませてくれ」と言うくだりには言葉を失ってしまう……。ここまで読んでいてもかなりつらいものがあるが、この広東作戦に関する「従軍手帖」で最も凄惨なのは、日本軍が現地の敗残兵と捕虜に対して行なった仕打ちであった。

〈捕虜がならんでゐる。(中略)眼の上がはれ、血がにじんでゐる。ついてゐる兵隊が、「こいつは一つづつ叩かんと、やかましかとです」といつてゐる〉
〈兵隊が捕虜をつれてゐる。向ふの方では叩き切つてゐる〉

 無抵抗な捕虜を血がにじむほど激しく殴ったり、さらに切り殺すとは……。しかし、敗残兵に対して行なった仕打ちはさらに凄惨だ。当時の日本軍には、まるでゲームのように人を殺す“狂気”が満ちていた。

〈附近の森の中を敗惨兵狩り。いくらでもゐる。皆殺す。段列長の曹長、刀をふり、活発に指揮してゐる。敗惨兵を左手に拳銃をもち、右手に刀を抜いて斬る。まだ居るぞ、やれ、と森を探させる。居る、居る、多多有、と兵隊を追ひ出す。曹長刀をふり、大得意である。つまらない兵隊だと思つた。色々遺棄品がある。曹長の斬つた支那兵は女房の写真をがま口にはさんでゐた〉
〈前方の銃声絶え出発。又長いこと止る。敗惨兵のうろうろしてゐるのをこつちからポンポン射つ。なかなかあたらぬ。もの好きなのが、わざわざ出かけ、遂に二人の敗惨兵を引きつれ、意気揚々と引き上げて来た。皆のゐる前で首を切る。いやな気がした〉

 従軍手帖も軍の検閲の対象となる。それにも関わらず、〈つまらない兵隊だと思つた〉〈いやな気がした〉といった表現を使った火野。それだけ耐え難い光景だったのだろう。

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