安易な生活保護バッシングに走る前にこのマンガを読め! 福祉事務所職員が直面する現実

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 もちろん、これはあくまでもフィクションだ。だが、作者の柏木は、前述のインタビューで次のように述べている。

「(前略)『1ケース減って良かったじゃん』って(セリフが)あるんですけど、実際にこういうことを言う人がいるということは取材の過程で耳にしました。原稿が出来る前の下書きの段階で福祉関係の方に読んでもらったんですけど、『これちょっと福祉として言ってはいけないから、描くのはどうでしょう』と言われたんです。ただ、現実に起こっていることですし、物語の中でそれは良くないんだ、という回収はしなくちゃいけないなという思いはあります。現実は現実として、理想は理想としてどちらもちゃんと描きたいなと」(同上より)

 そう。本作で描かれる「生活保護」は、社会のどこかに存在する現実を映しているのだ。そして、生活保護を考えるにあたって避けて通れない「不正受給」の問題にも、本作は正面から取り組んでいる。

 生活保護の不正受給は感情的な反応を招きやすい。血税が不正に使われているというのだから当然といえば当然だ。しかし、ちょっと待ってほしい。恐らく生活保護の不正受給と言われている現実は、多くの人々が思い描く「不正」のイメージとは大きく異なっている。

 たとえば、本作でえみるが直面する不正受給は、ある生活保護世帯に暮らす男子高校生が役所に申告することなくアルバイトをしていた、というもの。

 なぜこれが不正受給になるのか? 生活保護は、定められた基準額から被受給者の収入分を差し引いた差額を保護費として支給する、という仕組みだ。そのため、生活保護世帯に暮らす者には所得の全てを役所に申告することが義務づけられている。高校生のアルバイトも例外ではない。

 申告漏れが発覚すれば、たとえ高校生のアルバイトであっても「不正受給」が成立する。この場合、無申告のまま得ていた所得の全額にあたる生活保護費を役所に返納しなければならない。

 ちなみに、厚生労働省の発表によると、2013年の不正受給は全体で4万3230件。このうち、働いて得た収入の無申告が46%を占める。つまり、本作が取り上げている「不正受給」は、現実に最も多く起こっているケースなのである。

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