ベストセラー『叱られる力』は中高年向けポルノ小説である!

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■「叱るのはあなたのため」?
 もちろん、若者への説教一辺倒ではない。阿川氏が叱られた話も紹介されている。しかし、どのエピソードも、結局は「若いころにこれだけ叱られて失敗できたから今の自分がある」を導くもの。理不尽に叱られたり怒鳴られたりすることを「つらかった」とは言っているものの、肯定的にとらえているのがわかる。

 これは「叱る世代」の願望だろう。今は厳しく(時には理不尽に)叱り怒鳴りつけても、それは相手を思ってのこと。いつかはわかってくれて、感謝する日が来てほしい……。

「叱ると怒るは違う」「あなたのためを思って叱るんだ」「叱られなくなったら終わり」。

 これらの言葉は事実だ。けれどその境界はあいまいで、言い方や関係性で受け取り方は大きく変わる。

 たまに飲食店で従業員に怒鳴りつける人を見ることがある。「飲み物の提供が遅い」「オーダーを間違えている」といった内容で、指摘としてはもっともだ。その苦情を訴えることで、サービスが向上することもあるかもしれない。しかし、何もそんな言い方をしなくても……と思ってしまうことも多い。

 最近インターネットで話題になった日記で、「15分間の罵倒」というものがある(あまりの反響に、作者はブログを削除してしまった)。コンビニで働いている1991年生まれの女性が、ゴルフ便を頼みに来る常連の「私のお父さんぐらいの年齢の男性で、それなりにいい会社のサラリーマン」に15分間罵倒され続ける、という内容だ。要求のないただの罵倒に彼女は耐えて、男性客は帰っていった。

「叱る」行為の難しさは、「相手のために叱る」と「理不尽に怒る」がグラデーションになっているところにある。どこからがどう、とはっきり線引きすることができない。

 しかし本著では、叱る行為のプラス面だけが取り上げられている。マイナス面にふれていない本著の構成は、叱る世代にとっては気持ちのいいものだろう。パワハラやセクハラ問題については、深刻に触れられることはない。

 阿川氏のまわりは、男性社会で勝ち抜いてきたいわゆる「成功者」ばかりだ。叱られることでスポイルされたり、病んでしまったりした人は、彼女の視界には入らないのかもしれない。

■「良い娘」阿川佐和子
 本著の三分の一は、父親とのエピソードで占められている。父親は頑固で偏屈。理不尽な怒りを爆発させる。

 レストランから出て「寒い!」と思わず言ってしまったことで、父親が激怒。車で移動中、娘に対して怒鳴り続ける。不機嫌に問われた「何が悪いかわかったか?」に対して、阿川氏は泣きながらこう答える。「うん。サワコが悪かった」そうすると父は優しい声になり、怒りが収まる。

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