百田尚樹『日本国紀』の無知と矛盾にネットから総ツッコミが! 同じ本なのに主張がバラバラ、監修者降板騒動も

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百田尚樹『日本国紀』(幻冬舎)

 百田尚樹の新刊『日本国紀』(幻冬舎)がバカ売れしているらしい。百田氏といえばご存知、安倍首相のお友だちにしてネット右翼から絶大な人気を誇る作家。同書は、その百田センセイがこれまた安倍応援団である有本香氏の編集のもと「日本通史の決定版」を謳って送り出した、縄文時代から平成にまたがる500ページ超の日本史エッセイである。

 その「人気」たるやカルト宗教の教典か何かと錯覚するほどだ。10月中旬にAmazonでの予約が開始されるや、たちまきランキング1位に。15日現在、レビューの80%が最高評価の☆5をつけ、〈中学、高校生の学校の教科書にしたらとさえ思う〉〈日本人で良かったと心から思います〉なる絶賛(?)の嵐。あげく、Twitterでは〈ひとまず、我が家の神棚に置きました〉という報告まで飛び出す始末。PRも半端ない。朝日新聞を含む全国4紙に全面広告が打たれ、産経に至ってはカラー広告でぶちこむなど凄まじい。いかんせん、ちょっと勘ぐりたくもなるほどの「大反響」なのである。

 そんな百田センセイの『日本国紀』だが、ネトウヨの狂信的絶賛とは裏腹に、早くもいろいろなところでボロが出始めている。

 たとえば、一応なりとも「日本通史」の体裁をとる同書の“監修者”の問題だ。巻末には〈本書の監修にあたっては、久野潤氏(大阪観光大学講師)、江崎道朗氏、上島嘉郎氏(元「正論」編集長・ジャーナリスト)、谷田川惣氏(評論家)に多大なるご助力をいただきました〉との「謝辞」が述べられている。久野氏は竹田研究財団という団体の理事を務めるなど竹田恒泰氏の片腕。江崎道朗はモロに日本会議中枢の人物でコミンテルン陰謀論本を何冊も出している。谷田川惣氏も極右ヘイト団体「頑張れ日本!全国行動委員会」京都府本部の幹事も務める右派ライターだ。

 もうこの時点で察するに余りあるのだが、実は、もともと同書の「監修者」には、「歴史コメンテーター」としてテレビにもよく出演している“カリスマ予備校講師”・金谷俊一郎氏の起用がアナウンスされていた。実際、百田センセイと有本氏がレギュラーを務めるネット番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』(DHCテレビ)でも、このことを大々的にアピールしていた。

 ところが、その金谷氏が発売前に降板してしまったようなのだ。いったい、何があったのか。当の金谷氏は、10月25日にこんなツイートをしていた(現在は削除)。

〈百田尚樹先生の『日本国紀』を監修させていただきながら、
「この部分で、このような批判が予想される」
と正直、ページをめくるたびに思いました。
末席ながら30年近く日本の歴史でご飯を食べているので。
しかし、いま必要なことは、
「議論のテーブルを設けること」
であると考えました。〉

 金谷氏はこれ以降、百田センセイ関連のツイートをしなくなったので、細かい経緯はいまのところ不明だが、少なくともゲラを読んだ金谷氏が自分の「歴史コメンテーター」の肩書に傷がつくと不安視したことは想像にかたくない。しかも、この金谷氏の投稿の3日前には、百田センセイもこんなツイートをしていたのである。

〈【重要なお知らせ】
『日本国紀』ですが、実は受験生にはお勧めできません。
理由は、大学受験に出される問題を否定する内容がいくつもあるからです。
もちろん試験問題が間違っているのですが、悲しいことに、それがまかり通っています。
ですから、受験生は試験が終わってから読んでください。〉(18年10月21日)

 ようするに、『日本国紀』の記述の間違いやトンデモな歴史観に苦言を呈され、百田センセイも慌てて「受験生にはお勧めできません」などと取り繕った。そういうことではないのか。しかし、言うに事欠いて、「試験問題が間違っている」とは(笑)。

「万世一系」を絶賛しながら、数ページ後に王朝交代説を支持

 例の『殉愛』では「ノンフィクション」を謳いながら数々のデタラメが暴かれ、やしきたかじんの長女から訴えられた裁判では敗訴が確定した百田センセイ(なお、さくら夫人が『殉愛の真実』(宝島社)を訴えた裁判でも、今月15日に東京高裁がさくら夫人の控訴を棄却した)。今回の『日本国紀』もきな臭い匂いがプンプンしてくるが、いずれにしても、SNSでは同書が書店にならんだ直後からそのトンデモな内容が次々指摘されている。

 たとえば百田センセイは、冒頭の「序にかえて」で〈我が国、日本は神話の中の天孫の子孫が万世一系で二十一世紀の現代まで続いているとされている。こんな国は世界のどこにもない〉と明言している。念のため言っておくと、「万世一系」とは幕末に作られた言葉で、(歴史学の通説では架空の人物である)神武天皇を初代とし、以降、皇室は現在にいたるまで神武天皇の血を男系で受け継いでいるという考え方のこと。幕藩体制を暴力革命で打破した明治政府は、「万世一系の天皇」を中心とする「万邦無比の国体」なる思想を敷衍することで、民衆支配の基礎を固めようとした。

 当然、百田センセイもまた、『日本国紀』の序盤から神武天皇(の神武東征)の存在を前提に書いているのだが、数ページも読み進めるとビックリ。なんと、百田先生は、天皇家の血は途中で断絶しているという説=王朝交代説を普通に支持しているのだ。

 たとえば百田センセイは、14代・仲哀天皇と15代・応神天皇の間に王朝が入れ替わったという説について、〈敢えて大胆に推察すれば、ここで王朝が入れ替わり、その初代を表すために、「神」の文字を用いたように思える〉と書いている。

 まだある。歴史学的理解では、実在が確実視されている26代・継体天皇から現天皇に続く「皇統」が確立されたとする説が有力なのだが、やっぱり、百田センセイはその通説に従っているのである。

〈現在、多くの学者が継体天皇の時に、皇位簒奪(本来、地位の継承資格がない者が、その地位を奪取すること)が行われたのではないかと考えている。私も十中八九そうであろうと思う。つまり現皇室は継体天皇から始まった王朝ではないかと想像できるのだ。〉

 ようするに、百田センセイは「万世一系」を自ら、あまりにアッサリ放棄してしまっているのだ。いやはや、〈我が国、日本は神話の中の天孫の子孫が万世一系で二十一世紀の現代まで続いているとされている。こんな国は世界のどこにもない〉という“日本スゴイ!”のノリはなんだったのか。もう一度言うが、これ、ほんの数ページ前の記述である。

「男系天皇」の解説で「過去の女性天皇の父親は全員天皇」と大嘘

 しかも、百田センセイは同書のクライマックスである「終章 平成」のリードにおいても〈日本は神話とともに誕生した国であり、万世一系の天皇を中心に成長した国であった〉と念を押している。この人、自分で書いたことを忘れているのか。それとも、ゴーストやデータマンが書いたものをろくにチェックしていないということなのか。まさか作家を名乗りながらゴーストライターを使っているなんてことはないだろうが、同じ人間が書いたとは思えないくらい主張がてんでバラバラなのである。

 なお、継体天皇時の王朝交代説を肯定的に記した次のページには、万世一系について説明するコラムが挿入されているのだが、そこでは「男系」についてこう書かれている。

〈日本の天皇は二代目の綏靖天皇から第百二十五代の今上陛下まで全て、初代神武天皇の男系子孫である。男系とは、父、祖父、曽祖父と、男親を辿っていけば、祖先に神武天皇がいるという血統を持っていることをいう。
 日本では開闢以来、一度たりとも男系ではない天皇は即位していない。ここで理解してもらいたいのは、女系天皇と女性天皇は同じではないということだ。日本には過去八人(十代)の女性の天皇がいたが、全員が男系である。つまり父親が天皇である。〉

 よく読んでもらいたい。前半の段落はまあ、一般的にいわれる「男系」の説明。だが、その次の段落で百田センセイは、歴代の女性天皇の全員が「男系である。つまり父親が天皇である」と書いているのだ……って、あの、皇極天皇と元正天皇の父親は皇族ではあっても天皇に即位してないんですけど。こんな理解で大丈夫なのか? 民族派右翼から糾弾されたりしないか心配だ。

 なお、『日本国紀』には他にも、同一人物が書いているのか疑われるような矛盾がホイホイでてくる。たとえば、有名な織田信長による比叡山延暦寺焼き討ちや伊勢長島一向一揆弾圧について、百田センセイは〈これは日本の歴史上かつてない大虐殺である〉と評価しているのだが、何を血迷ったのか、前述した「終章 平成」のリードでは〈日本人ほど平和を愛した人はいない。日本の歴史には、大虐殺もなければ、宗教による悲惨な争いもない〉と誇らしげ。ちょっと、頭が心配になってくるではないか。

 しかもネットでそれを突っ込まれると〈「(海外に比べ)日本人は国家として、あるいは民族として大虐殺はしなかった」という意味〉〈信長の所業は、極めて例外的殺戮であり、言うなれば彼の個人的犯罪に近い〉〈そういう文学的修辞が読み取れないバカがいるとは〉とますます支離滅裂な逆ギレをする始末だった。

「出典がない」ことに反論するも、「つくる会」からツッコミが…

 ちなみに、『日本国紀』では出典がごく一部をのぞいて明記されておらず、巻末の参考文献一覧すらない。歴史モノにもかかわらずいかがなものかということで、Twitterでは百田センセイへのツッコミが相次いでいる。これに対し百田センセイは居直り、たとえばこのように弁解した。

〈本来、歴史教科書や通史の本に、参考文献はありません。それは「記紀」含め、これまでに存在したすべての公式文書あるいは古文書だからです。これは山川(引用者注:歴史教科書大手の山川出版のこと)も同じ。
にもかかわらず、私のアンチは「百田の『日本国紀』には参考文献がないからインチキだ!」とわめいています^^;〉(11月11日)

 ところが、このやり取りに意外なところからツッコミが。あの極右歴史修正主義教科書を推進する「新しい歴史教科書をつくる会」の公式Twitterアカウントが、この百田センセイのツイートを間接的にリツイートしたうえで、〈「教科書に参考文献の記載がない」というのは事実ですが、文科省との検定のやり取りの中で「出典を示せ」と言われて「はい、これですよ」というやりとりはあるあるな気がします。他社の教科書については知りませんが〉と投稿したのである。

 出典問題だけではない。さらにネットでは、Wikipediaや新聞記事、歴史研究書などからの“コピペ疑惑”も浮上している。

 SNSなどで指摘されているように「事故本」の匂いまでしてきた百田センセイの『日本国紀』。今後もどんどん記述の間違いやデタラメ、悪質性などが暴かれていくだろうが、本サイトとしても同書の近代から現代の記述、とりわけ例のWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)をテコとした展開についてはツッコミたいことが山ほどある。これについては稿を改め、指摘しよう。

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