安倍政権の駐韓大使引き揚げは「表現の自由」への弾圧だ! 慰安婦少女像は“反日の象徴”ではなかった

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自由民主党HPより


 これが民主主義国家のやることなのだろうか。韓国で慰安婦問題を象徴する少女像が新たに設置されたことをうけ、安倍政権が駐韓大使の一時引き揚げや日韓通貨スワップ協議の中断などの対抗措置を強行した。

 ところが、日本のマスコミはこれに「当然でしょう」と万歳状態。「韓国はけしからん」「日韓合意を守れ」と大合唱しているのだ。

 そして、日本側の問題点に言及しようとする意見は封殺されるという、極めて危険な状況になっている。

 たとえば昨日10日放送の『スッキリ!!』(日本テレビ)では、こんな一幕があった。少女像をめぐるVTRのあと、スタジオでコメンテーターの湯山玲子氏が戦後のドイツと日本の加害国への対応の違いを指摘したのだが、するとMCの加藤浩次が「朝日新聞の虚偽と判明してる部分もある」などと言い出し、対する湯山氏が「完璧に戦後にドイツのようにやっていれば、(韓国側も)ここまでのことを言わなかったかもしれない……」と反論しようとすると、食い気味に「そこはそうなのかなー?ちょっと疑問」と割って入り、湯山の発言を切ってしまったのだ。

 念のため言っておくが、朝日の慰安婦記事訂正など瑣末な話で、日本軍が各地に慰安所を設置したこと自体は中曽根康弘元首相も手記で得意げに語っていたように、歴史的な事実だ(過去記事参照https://lite-ra.com/2014/08/post-413.html)。実際、15年末の日韓合意に際した共同会見で日本側は「当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と表明している。ところが、『スッキリ!!』だけでなく他のワイドショーもほぼ加藤と同じ調子で、とにかく日韓合意を反故にした“ならず者国家”と言わんばかりに韓国批判を展開、少女像を設置した韓国市民をやり玉に挙げるような報道まで行われている。

 しかし、この少女像の設置は、本当にマスコミが一斉に「けしからん」とアジり、ましてや安倍政権が駐韓大使を帰国させたりするほどの大問題なのか。そもそもの話だが、少女像を設置したのは韓国の市民団体であって韓国政府ではない。日韓合意で韓国側は〈可能な対応方向について関連団体との協議を行う等を通じて、適切に解決されるよう努力する〉(外務省ホームページより)としているだけで、強制的に少女像を撤去せねばならない拘束力を持つ取り決めは(少なくとも表向き)なされていないのだ。

 当然だろう。だいたい、少女像の設置は韓国の市民による意思表現であり、それを国側が強権的に封じ込めること自体、近代民主主義国家の大原則である「表現の自由」の侵害だ。その意味では、今回のケースではむしろ安倍政権よりも韓国のほうが表現の自由への理解が進んでいるとすら言える。報道によれば、少女像は12月28日に市民団体が設置したあと、同日中に道路の管理権を持つ釜山市東区が一度は強制撤去した。これ自体は褒められたものではないが、それでもその後、区は市民からの抗議が殺到したことを受けて30日に設置を許可したという。つまり“国民の声”が行政を動かしたのだ。

 一方、安倍政権のこの間の振る舞いといえば、駐韓大使の引き揚げまでして露骨な恫喝に出ると同時に、安倍首相が「日本は10億円を拠出した。韓国が誠意を示すべき」などと“韓国政府は国民の表現の自由を圧殺せよ”とプレッシャーをかけ、側近議員は「まるで『振り込め詐欺』だ」などと新聞記者に漏らして日本国内の嫌韓感情を煽り立てている。繰り返すが、市民の表現の自由を侵害しないことは、近代国家として当然に求められる態度だ。こんな隣国市民の当然の権利を潰せといきりたつ国などそれこそ“ならず者国家”だろう。民主主義の普遍的価値を踏みにじる暴挙だが、実際、沖縄の高江ヘリパッド建設で反対派を弾圧し続ける安倍政権のやり方を韓国にも押し付けているとしか言いようがない。

 さらに加えれば、市民による少女像の設置それ自体、決して日本政府や右派が批判する筋合いはない。政府やマスコミは、少女像をさも“反日の象徴”“日本への嫌がらせ”かのように扱っているが、少女像の持つ意味はそんなレベルの低い話ではないからだ。

 そもそも、少女像の正式な名称は「平和の碑」といい、彫刻家によるれっきとした美術作品、言い換えれば表現の自由が保障される表現芸術だ。たとえば、有名なソウル市日本大使館前の少女像は、2011年12月11日、日本軍の慰安婦被害者たちの人権と名誉を回復するために1992年から始まった「水曜デモ」が1000回に達したことを記念し、市民団体の呼びかけによる募金で建てられたもの。碑文には「その崇高な精神と歴史を引き継ぐため」と刻まれている。少女像の取材を続けるフリー編集者の岡本有佳氏によるインタビューのなかで、少女像を制作した彫刻家夫妻、キム・ソギョン氏とキム・ウンソン氏は、この作品についてこう語っている(「週刊金曜日」16年9月16日号)。

「(平和の)碑には水曜デモの歴史、ハルモニ(おばあさん)たちの苦難の歴史、世界の平和と女性の人権のために闘うハルモニたちの意思まで込めようと思いました。最初は碑石に文字を刻むイメージでしたが、人々と意思疎通することができ、ハルモニたちを癒すことができるような像を提案。二度とこのようなことが起こらないよう誓う少女と私たちが一緒に表現できればと思い、制作しました。(中略)人生の険しさを示す裸足の足は傷つき、踵が少し浮いています。これは置き去りにされた人、故郷に戻っても韓国社会の偏見や差別によって定着できなかった人たちの不安、生きづらい状況をも表現しました」(ソギョン氏)

 ソギョン氏が語るように、少女像には「平和の碑」の名のとおり、世界平和を願い、戦争被害と女性の人権侵害という悲劇を再び起こさないようにという願いが込められている。そして、日本の右派は慰安婦問題で韓国を攻撃するときに「韓国もベトナムで市民の虐殺や略奪を行い、慰安所もつくったじゃないか」という“どっちもどっち論”を常套句とするが、一方、キム夫妻はベトナム戦争時の韓国軍による民間人虐殺の加害意識を正面から受け止め、現在、謝罪と反省の意味を込めた「ベトナムのピエタ像」の制作に取り組んでいる。少女像が決して“反日の象徴”ではなく、戦争を憎み、犠牲者を悼み、そして同じ惨禍が起こらないよう、普遍の平和を希求する思いのもとつくられたことのひとつの証左だろう。だからこそ、市民はその撤去に抗しているのだ。

 想像してみてほしい。たとえば、禎子像の通称で知られる広島の「原爆の子の像」もまた市民の募金によりつくられた像で、原爆犠牲者を慰霊し、世界平和を祈る作品だが、仮に原爆を投下したアメリカが「10億円を出すから像を撤去しろ」などと言い出し、日本政府が了承したら、わたしたちはどういう気持ちになるだろうか。つまり、日韓合意で少女像を撤去せよと迫った安倍政権は、戦争犯罪の被害者の気持ちを無視し、また平和を願う人類普遍の想いを冒涜したも同然なのである。

 そしていうまでもなく、その行為は歴史修正主義と表裏一体だ。今、安倍政権が少女像設置をめぐって強硬的な態度を見せ、国民の熱狂を煽っているのはなぜか。憲法9条を解釈改憲で骨抜きにし、軍備増強に邁進している安倍首相だが、この宰相がなくしたいのは少女像に限らない。戦争の悲劇の記憶と、その反省からくる不戦の願い、それ自体を葬り去りたいのが本音だろう。

 事実、第一次政権のころは河野談話の見直しに鼻息を荒くしていた安倍首相は、現在でこそ表立った歴史修正発言を控えてはいるが、約20年前には、自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」で事務局長をつとめ、1997年4月の第7回勉強会で“韓国は売春国家だから慰安婦になるのに抵抗はなかった”という意味の差別発言まで得意げと放っていた。

「実態は韓国にはキーセン・ハウスがあって、そういうことをたくさんの人たちが日常どんどんやっているわけですね。ですから、それはとんでもない行為ではなくて、かなり生活の中に溶け込んでいるのではないかとすら私は思っているんです」(『歴史教科書への疑問 若手国会議員による歴史教科書問題の総括』展転社より、勉強会での安倍の発言)

 また、安倍首相は8日の『日曜討論』(NHK)で、「最終的かつ不可逆的な合意であるということをお互いに確認しています。日本は誠実に私たちの義務を実行していく。その意味において10億円の拠出をすでに行っています。次はですね、韓国がしっかりと誠意を示してもらわなければならない」とのたまったが、これほどおかしな発言はないだろう。政府が日韓合意で拠出した10億円はあくまで財団への支援金であり、加害国から被害者への賠償ではないし、そもそも「誠意」というのはカネで解決することではなく、心から被害者へ謝罪することであり、同時に元慰安婦の目の前で、今後絶対に戦争犯罪を再現しないと誓うことだろう。

 本来、被害者を置き去りにしたまま国と国とが交わした“合意”など、なんの価値もないのだ。実際、釜山の新たな少女像の設置は、こうした日本政府への抗議の意味合いも強い。海外紙では今回の少女像設置が安倍政権の歴史修正主義の発露に対する対抗だとの分析もある。フランスのル・モンド紙は6日付ウェブ版で、釜山の少女像が12月28日に設置しいったん撤去され、30日に自治体が決定を翻して再設置される間の29日、日本で稲田朋美防衛相の靖国参拝が行われた事実を指摘したうえで〈韓国と中国から挑発とみなされた〉と続けている。

 いずれにしても、今回の少女像設置に対する安倍政権の反応は、隣国の表現の自由を弾圧し、そして平和を願い戦争に反対する人々を無残に踏み潰す異常なやり方と言わざるをえない。そして、その安倍政権に煽られて「韓国はけしからん」「少女像をたてるな」とファナティックに喚き散らしているマスコミも同罪だ。わたしたちは決してその下劣な扇動にのり、本質を見誤ってはならない。それは自ら民主主義と平和の価値を否定することに他ならないのだから。
(小杉みすず)

最終更新:2017.11.15 06:06

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