能年玲奈主演のアニメを町山智浩ら映画通がこぞって大絶賛! でもマスコミは能年の元事務所の圧力で一切無視

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『この世界の片隅に』公式サイトより


 能年玲奈改めのんが主演声優を務めるアニメ映画『この世界の片隅に』が今月12日に公開された。先日当サイトでも報じたが、在京キー局のテレビ番組では能年や監督が出演してのプロモーションはほとんど行われていない。それどころか、今年8月、『この世界の片隅に』の主演声優としてのんの名前が発表された際、『めざましテレビ アクア』(フジテレビ)へののんの出演が一旦告知されながら、実際の放送に彼女の姿はなかったという騒動も起きている。

 こうした不可解なテレビでの扱いの背景には、もちろん能年の元所属事務所であるレプロの存在がある。テレビ局やスポーツ紙、一部の週刊誌は、レプロの抗議とそのバックにいるバーニングを恐れて、この映画をタブー扱いしているのだ。

 そんな逆風のなか公開にいたった『この世界の片隅に』だが、プロモーション上のハンデを跳ね返すかのように、じわじわと話題を集めている。満席となる映画館も多く、公開館数はわずか63館という小規模ながら全国映画動員ランキングの10位に入っているのだ。これは、試写の段階からこの作品の評判がすこぶる良かったことが大きい。実際、うるさがたの映画評論家や映画ファンもこぞってこの映画を大絶賛している。

 映画評論家の町山智浩は今月1日放送『たまむすび』(TBSラジオ)内の映画評論コーナーで「今年の町山大賞」と語り、今年ベスト級の作品であると絶賛。映画監督の松江哲明もウェブサイト「リアルサウンド」のなかで〈いま生きている現実と地続きで戦争をイメージできる傑作〉と激賞している。大槻ケンヂは「映画秘宝」2016年12月号(洋泉社)で「今までにないタイプの戦争映画ですね。これは文句なしの傑作よ!」と語り、また、水道橋博士はこんなツイートで『この世界の片隅に』を誉め称えている。

〈11月12日公開。『この世界の片隅に』〜昭和20年、広島・呉。戦時下の台詞が現代にも通じている。-------------「みんなが笑うて暮らりゃあええのにねぇ」「ほんまですねぇ」---------国民の娘である女優のんa.k.a能年玲奈が声と命を吹き込む渾身の一作。〉
〈11月12日公開『この世界の片隅に』が息を呑む傑作――。昭和20年の呉を舞台に。あの訛りのイントネーション。そして田舎の暮らしのディテイル。倉敷育ちのボクにはノスタルジーそのもの。そして、主人公の「すず」よ!その面影、描線の若き乙女に命の息を吹き込む貴方の「君の名は。」……のん。〉

『この世界の片隅に』は、こうの史代による漫画を片渕須直監督がアニメ化したもの。太平洋戦争中、広島から呉に嫁いだ北條すず(のん)の目線を中心に、市井の人々の生活が戦争によってどんどん脅かされていく流れが描かれる。

 戦争が始まっているとはいえ市民の生活にはさほど大きな影響をおよぼしてはいない物語序盤から、だんだんと食べるものもなくなり、配給だけでは食いつないでいけないので、ついには野草を晩ご飯にしたりもする状況の変遷が生々しく描写される。また、軍港である呉は空襲の標的とされ、穏やかな生活から一転、毎日のように空襲警報が鳴るように。そして、物語は8月6日へと向かっていく。

 この作品の素晴らしさは、すずを中心とした劇中のキャラクターが実際に存在しているかのように活き活きとスクリーンに存在していることにある。それは片渕監督による徹底した下調べのたまものだ(この映画の制作には6年以上の時間を要している)。軍艦や戦闘機のディテールはもちろん、原爆投下後のきのこ雲の高さを計算したうえで呉から雲はどう見えていたのか、戦争が激化するにつれて庶民の服装はどう変化したか、かまどの煙突の材質はなんだったのか、当時の釘の頭には模様は入っていたのかといった細かいところまで、徹底して調査を行ったとインタビューで語っている。

 こういった時代考証は誠実なつくり手なら当然行うべきものであり、こうの史代の原作自体も徹底的な下調べの末に描かれていたものではあった。しかし、片渕監督がそれでもなおその作業を続けたのは、劇中の人物を実際に存在していたかのように観客に印象づけることが、「戦争のおそろしさ」を伝えることに直結するからだ。

「最初に原作を読んだ時に、すずさんみたいな人の上に爆弾が降ってくるようなことが可哀想で可哀想で仕方がなかったんですよ。で、その時に、これを絵空事じゃないものにしたいと強烈に思ったんです。一番大事なことは、すずさんという人が本当にいる人なんだと、僕ら作り手たちが完全に信じきって作らないといけないと。
 だから、それを実現するための手立てが、ここまで話してきたように、第一には時代や風土を徹底的に考証して背景やシーンに落とし込むということであった」(映画パンフレットより)

 ただ、いくら時代考証を重ねても、肝心の役者が北條すずに命を吹き込めなければ何の意味もない。

 のほほんとした性格で周囲からはぼーっとしているとよく言われるが、いざとなればしっかりと感情あらわにする芯の強さも併せ持つ──そんなすずの内面と共通するものをもつ声優を探すべく何度もオーディションを重ねたが、このあまりにも特殊な要求に合致する役者はなかなか見つけ出すことができなかったという。そこで白羽の矢が立ったのが、のんだった。片渕監督はのんの演技についてこう語っている。

「すずさんは本当にキャスティングの難しい役なんですよ。十代なんだけど、ちょっとボケたキャラクターですよね。いまの十代ぐらいの女の子って、なにをやっても大体かわいいんだけど、美少女にしかならないことが多かったりする。そういうなかで、すずさんらしい抜けてる感じと、役者として喜劇的な芝居を仕掛けて面白くする意欲も持ち合わせていて、さらにティーンエイジャーにかぎりなく年齢が近い人って、いったいどういう人なんだろう……と思ったら、のんちゃん以外にいなかった。彼女の演技していない普段の姿を見て「あ、すずさんってこういう人なんだ」と思うところもあって(笑)。その感じを実際の芝居に反映してもらったこともあります」(「映画秘宝」16年12月号)

 実際、のん本人も「ぼーっとしていると言われるところは似ていますね(笑)。だけど気の強いところもあるというのが共感しました」(「ユリイカ」16年11月号/青土社)と語っているが、北條すずというキャラクターにのんが合わさることで、すずは見事に実在しているかのようなキャラになった。

 のんの仕事ぶりを、前掲「リアルサウンド」の映画評で松江哲明はこのように評価している。

〈この作品の声優はのんさん以外にありえないってくらいハマっている。そこにまず、のんさんの女優としての素晴らしさを感じました〉
〈能年玲奈という僕らが持つイメージを維持したまま『この世界の片隅で』に出演しているのが良かったです。ネガティブな意味合いではなくて、のんさんのこれからのキャリアは、映画やドラマに関わる人々にとって注目すべきことでしょう。彼女の歩みから学べることは少なくないはずです。彼女は復帰作として本当にいい作品と出会えた思うし、観客からは必ず高く評価されるでしょう〉

 監督による細やかな描写と、のんの演技。これらによりリアリティを獲得したことで、朗らかでぼーっとしたところのあるすずが、戦争によって痛めつけられ悲壮な運命を遂げる過程が、より観客の心を締め付ける映画表現となったのである。

 そうして高い評価を得ることになった『この世界の片隅に』だが、前述の通り、在京キー局のテレビではまともなプロモーションをされていない(中国地方のローカル局の番組にはいくつか出演している)。

「キネマ旬報」(キネマ旬報社)、「CUT」(ロッキング・オン)「アニメージュ」(徳間書店)、「エンタミクス」(KADOKAWA)、「月刊ENTAME」(徳間書店)、「EX大衆」(双葉社)、「CREA」(文藝春秋)、「SPUR」(集英社)、「リンネル」(宝島社)、「SPA!」(扶桑社)、「ビッグコミックスペリオール」(小学館)、「婦人公論」(中央公論新社)など、雑誌メディアでは多くの媒体が『この世界の片隅に』を取り上げ、のんや片渕監督が登場してインタビューを受けているが、それと比較すると在京キー局のテレビによる意図的な無視はあまりにも異様だ。

「週刊文春」16年11月17日号(文藝春秋)のコラム連載で町山智浩は、映画のなかでこれだけの演技を見せた彼女に対して、芸能プロやメディアが行ったあまりにも理不尽な仕打ちを取り上げ、怒りをあらわにしている。

〈テレビでは不倫や大麻が魔女狩りのように叩かれる一方、芸能プロの奴隷的契約や従わない者を「干す」こと、賞を金で売買することには触れない。明らかに労働法や独占禁止法に反するのに!
(中略)韓国でも、アイドル・グループ東方神起から抜けたメンバーが結成したグループJYJが5年以上メディアから干され、名前も使えない状況が続いた。だが、去年、国会で、報復のためのメディア出演妨害を禁じる法案が満場一致で通過した。事務所との奴隷的契約も独占禁止法違反で違法とされた。発議した議員の娘はJYJのファンで、彼女の訴えが議員を動かした。政治家や法律は弱者を救うためにある。日本の奴隷タレントはいつ解放されるのか? 救う弁護士や政治家はいないの?〉

 ただ、『この世界の片隅に』でここまで高い評価を受けると、さすがに無視し続けることは難しくなるのではないだろうか。芸能プロの思惑で干されたものの、ネットで再ブレイクしたことで紅白歌合戦の舞台まで舞い戻った小林幸子の例をあげるまでもなく、確固たる人気を武器にすれば元の舞台に返り咲くことは可能だ。

 小規模な館数で始まった『この世界の片隅に』は今後上映館が増える予定で、また、海外への配給も決まっている。大手芸能プロの思惑に乗っかって彼女に冷や飯を食べさせたメディアがいつ手の平を返すか、今後も状況を見守っていきたい。
(新田 樹)

最終更新:2017.11.12 02:10

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