ライムスター宇多丸が戦争特集で「大本営発表は今まさに進行している問題」と、安倍政権とメディアの一体化に警鐘

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TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』公式サイトより


 終戦71年目の夏を迎えた今年8月。オリンピック報道に埋め尽くされたことで、例年に比べると異様なまでに「戦争」や「終戦」に関する報道や特別番組が少ない夏となり、このことを問題視する議論も出ていた。だが、そんななかでも数は少ないながらしっかり終戦を記念した良質な企画を放送していた番組もある。『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(TBSラジオ)もそのひとつだ。

 この番組、タイトル通り、サブカル評論のジャンルでも高い評価を受けている、ヒップホップグループ・RHYMESTERの宇多丸のラジオだが、今月13日の放送回では、太平洋戦争中、軍部の発表する一方的な戦果を宣伝し続け、悲惨な戦争を続行させる大きな原因ともなった戦時中の「大本営発表」を取りあげた。

 話題の書『大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争』(幻冬舎)を出版したばかりの近現代史研究者・辻田真佐憲氏をゲストに迎え、デタラメ報道がどうして生まれていったのかを1時間みっちり語ったのである。

 しかも、この番組に価値があったのは、単なる「歴史の勉強」では終わらなかったことだ。辻田氏の話を聞く前に、番組パーソナリティーの宇多丸氏は『大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争』を読んだ感想としてこのように語った。

「いまこの時代にこそやっぱり勉強しなければいけないことというか……。(中略)こちら側に突きつけてくるものが重いというか、アクチュアルな問題というかですね、いままさに進行中のことと関係ないんですかこれはっていうのがすごく重く残る本でございました」

 たしかに『大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争』を読むと、2016年現在に進行形で起きていることを想起せずにはいられなくなる。

 同書は、大本営発表のようなデタラメ報道を生んだのは軍部だけの責任ではなく、彼らに唯々諾々と従ったマスメディアにも大きな要因があったとして、軍部と共犯的な関係を築いていくメディアの変化を丹念に追いかけていくのだが、その姿が、率先して安倍政権の意向を組むようになってしまった現在のメディアの状況と明らかにシンクロしているのだ。

 メディアと政治権力との共犯関係は日中戦争開始時に始まる。実はそれまで戦争に対して批判的だった当時のメディアはいざ戦争が始まると、一転してそれを肯定的に取り扱い始める。ただ、それは、国の政策に共鳴していたからではない。戦地の情報を載せれば載せるほど部数が伸びて「儲かる」からだ。

 現地で特ダネを手に入れればかなりの部数アップが期待できることから、各新聞社は戦地に多くの記者を派遣する。その規模は、朝日新聞と毎日新聞は1000名、読売新聞は500名と相当な大きさで、写真を運ぶため飛行機をチャーターしての空輸まで行っていた。

 ライバル社より早くスクープを出そうと、記者たちが軍の正式発表を待たずに速報を打つ事例が頻発したこともあって、軍部にとってこの報道過熱は必ずしも歓迎すべきものではなかったが、メディアはここで軍部に弱みを握られてしまうことになる。

〈報道合戦を勝ち抜くためには、軍部との協力が不可欠だった。軍部もまた便宜を図ることで、報道への介入の糸口を作った。記者を従軍させてやる代わりに、軍部に有利な記事を配信せよ、というわけだ。
(中略)
 こうして、大本営発表や軍部の行動を批判的に検証する、報道本来の役割は置き去りにされてしまった。なるほど、このころの新聞はまだ大本営発表の完全ないいなりではなかったかもしれない。ただ、それはジャーナリズムの使命感というよりは、単なる時局便乗ビジネスの結果だった〉(『大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争』より)

 軍部に対して批判的な姿勢をとることで、戦地に関する情報をシャットダウンされてしまうとビジネス的に大打撃を受ける。

 ようするに、メディアは軍部の暴力的な支配に屈服したのではなく、まず、経済的利益を守るために率先して軍部に協力していったのだ。これは、読者のナショナリズム的熱狂に媚びた嫌韓反中記事をつくり、会見拒否や記者クラブから締め出されることを恐れて政権批判ができなくなっている今のメディアの姿にそっくりではないか。

 もちろん、当時はこういった状況に加え、露骨な圧力もあった。たとえば、さらにメディアを萎縮させたのが1938年の「新聞用紙供給制限令」である。
紙の供給を停止されてしまえば当然そもそも新聞を発行すること自体ができなくなる。これで権力に対するメディアの服従が完成するのだが、お気づきの通り、これも昔話ではない。

 今年2月8日の衆院予算委員会で高市早苗総務大臣が、放送局が「政治的に公平であること」と定めた放送法4条1項2号違反を繰り返した場合、「行政が何度要請してもまったく改善しない放送局に、なんの対応もしないとは約束できない。将来にわたり可能性がまったくないとは言えない」と「停波発言」をしたのは記憶に新しいが、すでに同様の政権からの圧力は始まっている。

 こうして急速に権力に取り込まれたマスメディアは一切の批判的言論を止め、ただただ大本営発表を垂れ流すだけの機関と成り果てる。その結果、当の新聞記者自身が軍の報道部員に「今日は夕刊が出ますか」などと聞くという現象まで起きた。大本営発表を新聞記者が「朝刊」「夕刊」と呼んでいたのである。また、報道部員自ら新聞記者に対し、見出しの活字の大きさなどの指示を出すことまであったという。もはや「癒着」どころの話ではない。

 周知の通り、その後はだんだんと戦況が悪くなり、大本営発表は嘘に嘘を重ねるようになっていく。そんななか、完全に体制に取り込まれたマスコミと軍部は何をしていたのか? 驚くべきことに、彼らは「宴会」をしていた。日本産業経済記者の岡田聡氏はこんな証言をしていると本書では書かれている。

「わが社でも私の在任中、春秋二回、報道部長以下を柳橋の亀清楼だの、茅場町の其角だの、築地の錦水だのへ招待した。これを在京の各社が全部やるので報道部は宴会疲れをしていたようだ」

 これまたどこかで聞いたことのあるような話である。現在、安倍政権が大手キー局・新聞社の幹部や、現場記者らと頻繁に会食を行い接待漬けにしていることは当サイトでも何度も報じ、批判してきた。しかも、「日刊ゲンダイ」の報道によると、その接待費用は「官邸もち」との話もあり、メディア側が勘定をもっていた戦前と比べ、血税からタダ酒タダ飯が出ている現在の方がより最悪ともいえる。

 前述のラジオ番組では、大本営発表をめぐる講義が行われた後、宇多丸氏による「昔はそうだったんでしょうって思う人いるかもしれませんけど」という警鐘に続け、辻田氏はこう語った。

「大本営はもう残っていませんし、日本にも一応軍隊はないということになっていますけれども、メディアっていうのと政治権力みたいなのが結びつくっていうのは別に今でもありうる話ですよね。それこそ中国とかはやっているわけです。いわゆるメディアコントロールみたいなものをやっていて。日本でも法律を変えたり憲法を変えたりしてメディアを政府がコントロールできるという状態になってしまえば、もしかしたら同じような状態になりかねないという問題は考えた方がいいかと。(中略)これは結局終わった話ではなくてですね、世界で行われているし、日本ももしかしたらそれに近い状態になっているかもしれない。これは煽っている話ではなくってですね、今のうちにやっておかないと、いったんメディアと政治権力がくっついてしまうとですね、もう分からないわけです。我々はもう情報をコントロールされているわけですから。で、インターネットも中国みたいに検閲できるわけですから。いったんそうなると遅いわけですよ、戻れなくなってしまうわけです。だから、いまのうちに、たとえ杞憂であったとしてもですね、いまのうちからいろいろ注意しておくということがすごく大切で。特に今だと「マスゴミ」批判みたいなものを言う人もいるわけですね、もちろんマスコミに問題があることは事実なんですが、マスコミにはやっぱり政治権力をチェックするという重要な役割があるので、これ自体をなくしてしまうと本当に大本営発表になってしまうわけですよね。なので、我々もメディアを批判するなかでもですね、ちゃんとチェックさせて、育てていくという感覚でやらないとですね、単に潰してなくしてしまえという感覚になってしまうとですね、本当にそれこそ大本営発表のようなことになりかねない。そういう危機感はですね、もっておいた方がいいのかなと思います」

 現在のメディアはもうすでに権力のチェック機能を放棄しつつある。辻田氏が主張している通り、このまま権力とメディアの一体化が進み、それが完成してしまってからではもう全てが遅い。そうなってしまう前に、 政権とメディアに対してもっと強い抗議の声をあげる必要があるだろう。
(新田 樹)

最終更新:2017.11.12 03:02

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大本営発表 改竄・隠蔽・捏造の太平洋戦争 (幻冬舎新書)

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