伊藤美誠、白井健三、池江璃花子…五輪選手の親はみんな“毒親”なのか? 感動物語の裏で虐待スレスレの英才教育

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五輪卓球女子団体で銅メダルを獲得した伊藤美誠選手(スターツグループホームページより)


 日本選手たちの期待以上の活躍、メダルラッシュに、日本中が湧き返っているリオ五輪。マスコミも五輪一色で、朝から晩まで感動物語を伝え続けている。

 その盛り上がりに水をさすつもりはないが、一方で、どうしても違和感がぬぐえないのが、メダリストが誕生するたびに報じられるあの“親と子の絆”の話題だ。「5歳の頃から父親が徹底的に鍛え上げてきた」「小学生の頃から母親と二人三脚で夢に向かってきた」……親による英才教育エピソードがやたら美談として垂れ流されているのを見ていると、思わず「大丈夫かよ」とつぶやいてしまいたくなるのだ。

 たしかに、リオでメダルを取ったり活躍をしている選手は、親が小さい頃からつきっきりで英才教育をしていたケースが多い。体操の内村航平、卓球の福原愛、レスリングの吉田沙保里、重量挙げの三宅宏美など、五輪の常連選手はもちろん、今大会ではじめて注目されたニューフェイスもほとんどがそうだ。

 たとえば、15歳で卓球女子団体の代表選手に選ばれ、銅メダルを取った伊藤美誠選手は、元実業団選手だった母親が妊娠中から胎教で卓球の試合実況中継を聞かせ、3歳の頃から毎日7時間ものスパルタ訓練をさせていたという。

 16歳という若さで6位入賞の快挙となった水泳の池江璃花子選手も、元陸上選手だった母親から徹底的な幼児英才教育を受けてきたことで有名だ。0歳から運動能力向上のためうんていにぶら下げ、2歳には逆上がりができるようになった。

 女子レスリング63キロ級で金メダルをとった川井梨紗子選手は、両親とも競技経験者でレスリング選手という一家だ。とくに母親は全日本で優勝経験もあり現役時代五輪を目指したが、当時、レスリングは正式種目ではなかった。川井は小学2年生のときから母のその思いを引き継いだというエピソードが大々的に報じられた。

 体操男子団体で金メダル、種目別で銅メダルを獲った若手のホープ・白井健三選手も両親が元体操選手で父親はジュニア体操クラブを運営していた。幼少期に特注のトランポリンをつくり、両親と二人三脚でひねりの才能を開花させたというエピソードが紹介されていた。

 また、体操に関しては、今回のリオ五輪に出場した団体選手5人のうち実に4人は実家が体操教室を営んでおり、同じように幼い頃から英才教育を受けていたという。

 とにかくどの選手も、「小さい頃から親と……」のオンパレード。親が同じ競技種目をやっていた元アスリートで、徹底した英才教育を行っていたケースもかなりある。

 でもこれって、本当に美談として賞賛されるような話なのだろうか。むしろ「3歳の頃から毎日7時間トレーニング」とか「0歳から運動能力向上のためにうんていをさせる」とか、一歩間違えば“毒親による幼児虐待”ではないのか。

 実は、こうした幼児期からの早期英才教育は最近になって、その弊害が指摘されはじめている。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏の著書『追いつめる親』(毎日新聞出版)では「あなたのため」という大義名分のもとに親が子におこなう行き過ぎた「しつけ」や「教育」が「教育虐待」となり、結果的に子どもの精神を蝕んでいる現状が明らかにされている。

 たとえば、1980年代に東京郊外に生まれた知佳さんのケース。知佳さんは学歴コンプレックスを持つ母親に幼いころから「なんとしても大学に行きなさい」と言われ育った。

〈物心がついたころから、毎日ピアノの練習と勉強をさせられていた。遊んだ記憶は、ほとんどない。
 ピアノは夕飯前に毎日約2時間。間違えると罵倒された(略)。勉強は夕食後、毎日4時間。夕食を食べ終わると1分も休まずに勉強を始めなければならなかった。〉

 しかも中学になると英検や漢字検定の勉強をさせられ、体調に異変をきたしていく。体の震えやめまいなど自律神経失調症の症状も出たが、しかし母親の対応は驚くべきものだった。

〈不調を訴えると、母親は病院に連れて行くどころか、『あんたはその程度の人間だったのね。これだけやってあげているのに、残念よ』と吐き捨てた。〉

 その後、知佳さんは大学卒業後、家を出て結婚するが、苛立ったり、「子どもなんていらない」という思いに悩まされ続けているという。

「私はまるで母親の所有物でした。自分の人生ではなく、母親の人生をいきてきました」(知佳さんのコメント)

 同書では親から過干渉とも思える「教育虐待」を受け摂食障害やうつ病を患ったり、自殺したケースも紹介されているが、それは勉強に限らない。スポーツ界での「教育虐待」も厳しく批判している。

〈教育虐待というと新しいタイプの虐待のように聞こえるかもしれませんが、スポーツの世界では昔から当たり前のように行われて来たことではないかと思います。〉
〈スポーツ界のサラブレッドが幼少期から英才教育を受け、テレビカメラの前で親から罵倒され涙を流している姿を見ることは多い。親子の感動の物語という演出になっているが、一歩間違えればあれも教育虐待かもしれない。〉(同書より)

 さらに問題なのが、親たちはこうした押しつけや教育虐待を自覚するどころか、子どもたちが“自主的”に決めたことだと錯覚していることだろう。

 8月18日付読売新聞社会面に掲載された「五輪選手の育て方」という特集では、106人の選手の親から「子育て」について聞き取りを行っていたが、多くの親たちが「自主性の尊重」を強調していた。

「子供がしたいことを尊重して後押しし、環境を整えた。前向きな言葉をかけ、褒めて伸ばした」(体操・内村航平選手の両親)
「本人の好きなように決めさせる。頑張っていることには協力を惜しまない」(水泳・萩野公介選手の母親)

 だが“子どもが望んだから”というのは本当なのだろうか。多くの選手が時に3、4歳という幼少期から競技生活をスタートさせたことを思えば、それを言葉通りに受け取るわけにはいかない。

 “自主性”というのは、子どもが親からの愛情を得るために、親の顔色をうかがい期待に応えようと先取りした結果である可能性が高いからだ。

〈子供のほうが親に遠慮している。本当のことを言ってしまったら親を傷つけてしまう。場合によってはなおさら親子関係が悪くなってしまうかもしれない〉(同書より)、そんな思いから、やりたくないことを「やりたい」と言ってしまうケースも多いのだという。

 しかも、子どもが一旦「やりたい」と言ったら、親はその言葉を利用して、“約束”という言葉で子どもを追いつめていく。

〈「あなたは約束を破った」「やるって言ったじゃない!」。親はそのことを責める。約束を破るのは人の道に反することだとされているので、親はそれを厳しく叱る正当性を得る。子供は言い逃れができない。追いつめられてしまう。〉(同書より)
 
 実際、福原愛に3歳の頃から卓球を教え込んできた母・千代さんもこんなことを語っている。

〈卓球を始めたいと言い出したのは愛自身。私がお願いしてやってもらっているわけではありませんから。これが愛には一番、効きました。当時、毎日できる練習相手は私しかいませんので、私が「もうやらない」と言ったら、卓球ができなくなってしまうわけです。〉(「PRESIDENT FAMILY」09年3月号/プレジデント社)

 これはまさに、子どもの“自主性”を利用した一種の虐待と言っていいだろう。

 こうした批判をすると、その教育の結果、オリンピックに出られるほどの選手になれたんだからいいではないか、という反論が返ってくるかもしれないが、それはあくまで結果論だ。

 こうした教育虐待で成功を得られるのはほんの一握りであり、多くの子どもたちは途中で挫折し、「青春を奪われた」と親を恨むようになるケースも少なくない。前述したように、精神を蝕まれて、摂食障害やうつ病などになったり、自殺したりしているケースもある。

 親が自分の果たせなかった夢を子どもに仮託するケースも多いため、共依存や親の精神状態が壊れることも少なくない。

 また、小児神経学の権威である古荘純一青山学院大学教授らの著書『教育虐待・教育ネグレクト』(光文社新書)は、スポーツの英才教育についてこんな危険性も指摘している。

〈スポーツ、音楽、芸能関係の練習や活動を、学校や家庭教育よりも優先していくことで、協調性が乏しく、人格的にも、またさまざまな能力のバランスとしても、極めて偏りのある子どもたちが存在するようになっているのは事実であり、それを問題視する意見も出てきています。つまり、当事者自身はそう思っていない(気づいていない)が、周囲から見ると、子どもに有害な行為がなされているのです。〉
〈早期教育の一方向性は、子どもの立場からすれば「あるがままの自分に愛情を提供されない」「親が先回りして危険なものを取り除いたり、親が必要と考えるもののみと触れさせることで、実体験から学ぶことができなくなったり、実体験が乏しくなったりする」というネグレクトの側面も持ち合わせています。〉

 そのうえで、同書はこう断じている。

〈もちろん、その指導には本人も同意しているばかりでなく、周囲のほとんどの人は肯定的に見ており、『虐待』とはかけ離れたイメージを持っていると思います。しかし、その指導や、要求に基づいた練習や生活が、本人にとって『有害なこと』であれば、虐待と考えなければいけません。〉

 ところが、マスコミはこうした虐待につながりかねない、幼児期からのスポーツ英才教育を絶賛し、「世界で勝てる人間を育てるためにはそこまでやる必要がある」と主張するのである。

 たしかに、前述したように、今のオリンピックで優秀な成績をおさめるためには、幼児期からの英才教育は必須になっている。だが、これは考え方が逆だろう。むしろ、そういう人間しかオリンピックで活躍できない状況が異常であると考えるべきなのではないか。

 実際、これはスポーツの問題だけではない。格差の拡大と競争の激化によって、勉強や芸術、文化といった分野でも、家庭が裕福で小さい頃から英才教育を受けているものだけが成功できるという状況が起きている。貧困家庭やシングルマザーやシングルファザー家庭の子どもは、たとえ才能があってもそれを開花させるチャンスさえ与えられない。一方で、富裕層の教育はどんどん過熱して、信じられないような年齢からエリート教育を受けさせるようになっている。

 つまり、今、オリンピックが英才教育を受けている者たちに独占されているのも、こうした格差社会の結果なのだ。

 ところが、マスコミはこうした状況を批判するどことか、“親子感動物語”を垂れ流すことで、逆に、格差を煽り、歪な“英才教育”をエスカレートさせる役割を演じている。

 メダル獲得に喜ぶな、とは言わないが、一方で、こうした教育や社会構造の問題に深い洞察の目を向ける報道もあって良いと思うのだが、今の日本のマスコミにそれを望むのはやはり無理なのだろうか。
(エンジョウトオル)

最終更新:2016.08.20 06:15

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