安倍政権と一体の極右団体・日本会議が安保法制を推進した目的とは? 自衛隊員の靖国合祀で“戦前・戦中体制”に…

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『戦前回帰 「大日本病」の再発』(学研マーケティング)

 安倍晋三首相が9月25日の会見で「戦後以来の大改革を成し遂げる、歴史的な国会」と振り返った安保法制。国会審議のなかでは、アメリカ政府による意向や、軍需産業を担う経団連との癒着などが指摘されてきた。しかし、国会では一言も触れられなかったが、安保法制にはもうひとつ、“宗教右派政治団体”からの要望を安倍政権が反映させたという見方がある。そう、日本会議や神社本庁といった“国家神道勢力”のことだ。

 国内マスメディアではまず取り上げられることはないが、安倍内閣のメンバーのほとんどは、日本会議の下部組織である日本会議国会議員懇談会や、神社本庁を母体とした神道政治連盟国会議員懇談会に所属している。その課題は、いわゆる「東京裁判史観」の否定や憲法改正(「自主憲法制定」)だが、彼らの究極の理念が「国家神道」や「国体」思想に酷似していることは、仏「L’Obs」など欧米紙からも指摘されている。

 この“国家神道勢力”と安倍政権の関係について、歴史資料などを用い、客観的かつ実証的に点検したのが、9月に発売された『戦前回帰 「大日本病」の再発』(学研マーケティング)だ。著者の山崎雅弘氏は多数の著書をもつ戦史・紛争史研究家である。

 同書はまず、日本が世界に類を見ない特別な国家だとする「国家神道」の思想が、「お国のため」という形での献身と犠牲を全国民に事実上強制したことについて、当時の言論状況や日本人の意識を紐解くことで再検証する。そして、客観的・合理的視点を失った、その傲慢で夜郎自大的な精神性を「大日本病」と規定し、日本を未曾有の破滅に導いたことを確認した上で、戦後も温存されてきた国家神道勢力と安倍政権が価値観を深く共有していることを、実例を交えて論証、現代日本で「大日本病」が再興しつつあるという事実を示す。

 とりわけ注目すべきは、この国家神道勢力の政治目標が、安倍政権下で次々と成就、あるいは達成へ向けて動いていることだろう。日本会議はHP上で、第一次安倍政権下での教育基本法改正は「長年の国民運動の甲斐」だと胸をはるが、他にも同会が掲げる具体的目標の例を挙げると、たとえば「国の安全を高め世界への平和貢献を」という項目にはこうある。

〈わが国が、憲法の制約を理由に集団的自衛権を行使しないならば、日米の防衛協力は画に書いた餅にすぎなくなり、アジア・太平洋の軍事的危機はますます高まっていくでしょう。早急に防衛体制の整備を図らねばなりません〉

 これは、安倍政権が昨夏に行った集団的自衛権行使容認の閣議決定と重なるが、同様に今回の安保法制にかんしても、日本会議が以下のような公式声明を出していたことはあまり知られていない。

〈近年、わが国を取り巻く国際環境には、劇的な地殻変動が起きている。アメリカのオバマ大統領が『世界の警察官』をやめると宣言したとたんに、中国は、南シナ海を自国領海であるとして軍事基地化を強行して、関係諸国と深刻な対立を引き起こしている。この海域は、わが国の重要な海上輸送路でもあり、航行の自由が脅かされる事態となっている。
 こうした国際環境の変化に対応するべく、日米関係を中心に国際協力をより強力にしてアジアの平和を維持するため、国会は、速やかに安全保障関連法案の成立をはかるべきである。〉(日本会議ホームページ「安全保障関連法制問題に関する本会の見解を発表します」より)

 “わが国を取り巻く国際環境の劇的な変化”、“中国の脅威”、“海上輸送路の封鎖”そして“日米安保の強化” ──。これほどさように、安倍首相の言い分と瓜二つだ。

 しかしながら、前述のように、安保法制にはアメリカ政府の意向が深く関係している。これは一見、日本会議らの「皇室を中心に同じ民族としての一体感」「外国製の憲法ではなく、わが国の歴史、伝統にもとづいた理念」(同会HPより)という姿勢と反するようにも思える。では、彼ら国家神道勢力は安保法制の成立に何を期待していたのか? 『戦前回帰』の著者・山崎雅弘氏に話を聞いた。

 山崎氏はまず、日本会議などの“国家神道勢力”が、今回、安保法制を支持した理由について、(1)「現行憲法の空文化」、(2)「実質的軍隊の復活」、(3)「靖国神社の機能活性化」の3点を見立てる。

「具体的にいいますと、ひとつ目は、自衛隊が海外へ出て実戦に参加することになると『平和憲法』という日本国憲法の核心的部分が無意味なものになりますよね。すると『この憲法はすでに守る価値はない』というふうに宣伝することが可能になる。そして、仮に戦闘や襲撃で自衛隊員が命を落とした場合に『なぜ彼らは死んだのか? いまの憲法がこんなに不完全だからではないか』という論理展開が可能になってくる。
 ふたつ目についてですが、国家神道勢力には敗戦によってGHQに実質的な軍隊を奪い取られたという被害者意識がかなり強い。『本来、独立国には軍隊があるものだ』というような考えに立つと、それを外国によって手足を縛られ、主体的に軍事作戦を行う権限も取り上げられたかたちになったわけですから。彼らにとって今回の安保法制は、この“積年の恨み”を晴らせるチャンスだったという図式があります」

 そしてこの2点とリンクするのが「靖国神社の機能活性化」だ。すでに安倍政権は、アフリカ・南スーダンPKOでの駆け付け警護追加について、武器使用基準を緩和する方針。早ければ来春にも、海外での戦闘行為が発生し、自衛隊員が死亡する可能性がある。そのとき、国内で必ず湧き上がると予想されるのが『殉職者を靖国に祀らなくてよいのか』という声だ。

「自衛隊員は政府の命令で海外に派兵されるわけですから、戦闘で死んだということになれば、靖国神社に祀る条件を満たしていることになる。そして『殉職者』が祀られるとなると、今度は『政府は正式に彼らに感謝しなくてもいいのか』という風潮になります。そのなかでスピーカーとして大きな役割を果たすのが、国家神道勢力による全国での講演会や、地方議会への働きかけです」

 『戦前回帰』によれば、2015年7月時点で、日本会議国会議員懇談会に所属する国会議員の数は衆参合わせて約280名。また、日本会議と神道政治連盟は地方議員懇談会もあわせもっており、それぞれ1000人以上の議員が会員となっている。同時に日本会議は、「草の根活動」と称してその実、高度に組織的な活動を行っていることが知られており、地方議会へ積極的に働きかけている。こうしたネットワークのもとで湧き上がるであろう“自衛隊員殉職者の靖国合祀待望論”について、山崎氏が続ける。

「靖国神社での国家儀礼の確立は、神社本庁の悲願の一つです。1978年に『東京裁判』でA級戦犯を含む戦争指導者の合祀が明らかになると、昭和天皇は1975年を最後に靖国への参拝を一切行わなくなりました。今上天皇もこれまで一度も参拝していない。ですが、自民党の憲法改正草案では第1条で天皇の立場を『日本国の元首』に変更していますから、あるいは改憲後には天皇も国事行為として靖国参拝をせざるを得なくなるような形をつくることができる。当然、国の予算も割くことになりますよね。
 こうして成り立つ“靖国神社の機能活性化”は、国家神道的なイデオロギーをもういちど日本国内でスタンダードにすることを可能にする効果があります。戦前・戦中の日本には、靖国神社を持ち出されるとなかなか反論できないという状況がありました。亡くなった軍人を祀るということを錦の御旗にして、それで対中侵略も正当化しましたし、『あれだけ死んでいるのに、その犠牲を無駄にするのか!』という戦死者を盾に使う論法で撤退論もはねのけることができた。戦没軍人を過剰に賛美することによって『国のために殉じた彼らに比べてお前らはどうだ』というような“脅し”の論法で、国民にさらなる奉仕や犠牲を強いることもできます。そうすれば、際限なく国の方針に従わせることもできる。その意味で、国家神道勢力にとって、靖国神社は様々な使い方ができる“効果的なツール”なんです」

 このように、国家神道勢力にとって、安保法制はまだ直接のメリットにはなっていないとしても、先まで見通せば悲願達成のための大きなハードルを踏み倒した効果があった。そう山崎氏は分析する。一方で、GHQへの怨恨を隠そうとしない国家神道勢力が、現在の親米保守的政治動向についてはほぼ黙殺しているという状況について、山崎氏は様々な矛盾点を指摘する。

「たとえば、アメリカは太平洋戦争の過程では、謀略の塊のような国で、日本を戦争に巻き込んだとか、植民地支配でひどいことをしたと主張するのならば、冷戦時やイラク戦争時の人権の弾圧、独裁者とのパートナーシップを組んでいたこと、そういったところも批判しなければならない。
 たとえば百田尚樹氏もそうですけど、アメリカのことをボロクソにいう一方で、アメリカの安全保障分野には全面協力すると絶賛する。右派や国家神道勢力が『戦後日本は洗脳された』と主張するぐらいにアメリカのやり方を憎むのであれば、冷戦以降のアメリカをなぜ同じ文脈で批判しないのか。たとえば『米軍』と言わずに『外国軍』という言い方をすると構図がはっきりとします。沖縄の問題はまさにそうした矛盾が露呈している。GHQによる統治の延長上に沖縄があるわけですから、『沖縄の外国軍基地』という言い方をすると、右翼団体が外国軍の味方をしている状況がいかに異様かというのがわかりますよね。
 また、首相や大臣が靖国神社を参拝するとき、『亡くなった兵隊が戦ったおかげでいまの日本の繁栄がある』という言い方をしますけれども、それはものすごく質の悪い話のすり替えで、むしろ逆です。実際は、彼らが守ろうとした国家神道体制が崩壊して、アメリカが民主主義を日本に持ち込んだがゆえに、戦後の繁栄があった。つまり、本来は全然違うものを連続しているかのように話をこじつけている。
 歴史的に見て、日本に一番ダメージを与えたのは、戦前・戦中の10年間の国家神道体制でした。天皇という制度を存続させるかどうかの決定権を外国政府に握られたのは、日本の歴史上あの敗戦の一度だけなんですから。この結論の部分を見ないようにして、そこに至るまでのことを繰り返そうとしているのがいまの国家神道勢力やそれに共感している人たちです」

 山崎氏は、こうした国家神道勢力や安倍政権の矛盾については、まだ検証中の段階と前置きしつつ、“1950年”をひとつの区切りとして考えることがヒントになるのではないかという。

「この時期、東西冷戦の高まりと朝鮮戦争の勃発で、アメリカの対日政策が日本の民主化よりも反共国家にすることのほうにシフトし、逆コースで公職追放されていた人間が帰ってきますよね。
 歴史的にもこのころからいわゆる反共右翼団体がGHQの黙認下で次々と結成されていきました。以降は公然と、菊の御紋や天皇崇拝など、国家神道的な主張をしても、アメリカから大目に見てもらえるようになった。『戦前回帰』のなかでも書きましたが、数年前までは『憎き敵国』であったはずのアメリカを『愛国者』である日本人が味方とみなすという構図は、冷戦の初期段階で生じたアメリカ政府と日本国内の右派系政治勢力との利害の一致があります。
 この1950年で線を引くと、安倍晋三や国家神道勢力が批判するアメリカの悪い部分というのは全てそれ以前だということがわかる。これ以降のアメリカに関しては、少なくとも僕が見ている限りでは一切の批判はしていないですね」

 どうやら、目下安倍政権のもとで起きていることを、単に「右傾化」という一言で片付けることはできないようだ。もしかすると、国家神道勢力や親米保守派の主張の矛盾が生じた“歴史的転換点”を探ることこそが、安倍政権による「戦前回帰」を食い止めるひとつの手立てとなるのかもしれない。
(梶田陽介)

最終更新:2018.10.18 05:07

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