宇多田ヒカルを苦しめ続けた“家族という呪縛” 出産報告がアルバムの宣伝なんかのわけがない!

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「Cut」(ロッキング・オン)2009年6月号

 7月3日、第一子を出産したとのおめでたいニュースをブログで報告した宇多田ヒカル。2014年に再婚したことが話題となったイタリア人男性との子どもである。

 しかし、その吉報に対して和田アキ子が浴びせた発言が物議をかもした。

 7月5日放送の『アッコにおまかせ!』(TBS系)にて、この話題に対し、「妊娠したことも言わなかったのに、どうして産んでから……」「やっぱり、新曲のあれかね? プロモーション?」と切り捨て、出産報告がまるで制作中のアルバムの宣伝であるかのように語ったのだ。

 出産報告を「プロモーション」と受け止めるアッコの下品さもどうかと思うが、まずもって和田アキ子は、宇多田ヒカルという人についてなにも分かっていない。

 宇多田は自分の商売のためなら何でも利用する小商いのような人間ではないし、音楽自体、自発的に始めたわけではないのだ。

「Cut」(ロッキング・オン)2009年6月号ではこう語っている。

〈親が仕事してるスタジオにいなきゃいけなくて、そしたら『ちょっと歌って』みたいな感じで歌わされて。イヤだなあ、なんでわたしが歌わなきゃいけないのぉ?って思ってたら、『声がいい、声がいい』って言われて〉

 日本のポップミュージック史に残るシンガーでありソングライターである彼女だが、率先して音楽の世界に足を踏み入れたわけではなかった。むしろ、両親の思惑を感じとり、その期待に応えたと言ったほうがいい。

 前述したエピソードの通り、ヒカルがデビューするまでの道筋をつくったのは、父である音楽プロデューサーの宇多田照實だ。

 また、母の藤圭子も、娘のデビューを心から望んでいた。「女性セブン」(小学館)2013年12月26日・2014年1月1日合併号では、作家である大下英治が94年に藤圭子と会ったとき、「娘は天才なのよ。今、ニューヨークで歌の勉強をしているから、見ていてごらん。あと何年かすると、あっと驚くようなデビューを見せるから」と興奮気味に語られたと述懐している。

 デビュー後、宇多田ヒカルがアルバム『First Love』で累計売り上げ枚数765万枚という前人未到の記録を打ち立てるのはご存知の通り。しかし、そんな成功の裏でも、彼女にとって“音楽をやる理由”は、“親”のままであった。前掲の「Cut」ではこう語る。

〈子供の頃ってみんな親を喜ばせたいからなにかをやるじゃないですか。その延長線で親が喜ぶからわたしも音楽やってたわけだけど〉

 このように、両親の期待に応えるため音楽に打ち込んだ彼女だが、どこかで親離れはしなければならない。そのために選んだ手段は“結婚”だった。しかし、彼女の最初の結婚は5年足らずで崩壊してしまう。それは、まだ“子ども”である彼女が、自分と親の関係のために選んだ結婚だったからだ。前掲の「Cut」では、前夫である紀里谷和明との結婚を決めた理由をこう語る。

〈わたしとしては親から一旦籍を抜くみたいな、『わたしもひとりの大人なんです、あなたたちの思いどおりになるものじゃないんですよ』っていうのをちょっと示したかったりして〉

 自分自身で「お互い自分のための結婚だったんですよね」と振り返る通り、そんな結婚が長く続くはずがない。しかも、親から離れるための結婚だったのにも関わらず、その夫との出会いの場をつくったのが父親だったのだから、なおさらだ。

 宇多田ヒカルと紀里谷和明の出会いは、00年12月、シングル「Can You Keep A Secret?」のジャケット撮影を紀里谷が担当したことがきっかけだった。その作品のプロデュースは、父である照實である。

 将来的に夫婦関係になることを見越したわけではないだろうが、とにもかくにも、宇多田ヒカルと紀里谷和明の出会いの場を用意したのは照實であった。

 そしてその後、紀里谷はシングル10枚・アルバム3枚のジャケット制作を手がけ、プロモーションビデオも9本撮影、さらに、全国ツアーの演出も担当した。宇多田親子と紀里谷による協働関係は長く続いていくことになる。

 しかし、その3人の協働関係と夫婦関係の崩壊は同時にやってくる。06年に行なわれたツアー『UTADA UNITED 2006』の演出をめぐり、紀里谷・照實の間で確執が起きたのだ。結果、直後の07年に離婚にいたるわけで、結局、この結婚で親からの“呪縛”が解き放たれることはなかった。

 そして、結婚を通じても親から離れることのできなかった彼女は、ついに、親のために始めた音楽からもいったん身を引くことになる。10年に発表した「『人間活動』に専念」することによる休業宣言である。

〈そうっすねぇ……あんまり生きてる感じがしないんです〉
〈『何かをしたい!』とか、『何かを成し遂げたい!』とか、『遊びに行きたい!』とか、『これ食べたい!』とか、『おしゃれしたい!』とか、あんまないんですよ〉
〈元々積極的じゃないんですよ、人生に対して。『こうなって欲しい!』とか思わないから。『こうなって欲しい!』と思ってると、思い通りに行かない時に辛いじゃないですか〉(「MUSICA」FACT/ 07年3月号)

 このように必死に自分を無くし、親のために生きてきた彼女による、初めての自立の宣言だった。

 そして、宇多田ヒカルは、親からも日本の音楽業界からも離れロンドンへと旅立っていく。

 この期間、デジタルシングルの断続的なリリースやラジオ出演はあったものの、表立った活動はほぼないまま、いまに至る。

 音楽活動の休止を決意した時点で彼女の親からの独り立ちは大きな一歩を踏み出していたのだろうが、彼女の“家族という呪い”から解放したのは、前述した年下のイタリア人、それも、前夫とは違い業界も違うバーテンダーとの結婚であった。

 しかし当初、この結婚には心配の声もあった。というのも、イタリアは家族・親族の結びつきを重んじる文化で知られる。前夫・紀里谷和明との離婚理由について「彼の理想は(公私ともに)一体化することで、でも私はそうじゃなかった」と語るなどベタベタした家族関係から距離をとろうとする宇多田が、イタリアの濃密な家族関係に耐えることができるのか、と。実際、結婚式でも、宇多田が厳戒態勢をとるなか、家族同然に祝おうと村中の住民がつめかけるという騒動が起きていた。

 だが、逆に、その結びつきの強い家族のなかに入るということが、宇多田にとって良い方向に動いたようだ。

 そもそもイタリアの家族の結びつきとはどれほど強いものなのか? 宇多田と同じくイタリア人男性と結婚した、『テルマエ・ロマエ』(エンターブレイン)などで知られる漫画家のヤマザキマリは、「女性自身」(光文社)14年2月25日号で、その家庭の雰囲気についてこう語っている。

〈イタリア人男性は母親と一心同体です。
 彼らと結婚するということは、そのお母さん“マンマ”との非常に密接な家族付き合いをするということです。
 マンマはお嫁さんのことは“大好きな息子が愛した人だから”と、何かと気にかけてくれます。
 よい言い方をすればかわいがってくれる、悪い言い方だと、ことあるごとに干渉してくるのです(笑)
 マンマと息子だけではなく、ほかの家族関係の結びつきも強く、お父さんやら兄弟やら親戚やら、いっつも誰かと電話してる感じですね。
 お嫁さんは、それだけ濃い絆のなかに入っていかなくてはならないんです〉

 音楽活動の休止を宣言してからいまに至るまでの間に、母の自死という悲しい出来事もあったが、時折発信される彼女からのメッセージを見る限り、2010年、活動を休止するまでに追い込まれた状況は改善されていっているような気配が強い。

 家族の呪縛で崩壊しそうになった宇多田ヒカルを癒したのは、より強烈なイタリアの家族の絆だったのだ。

 新しい家族の支えもでき、さらに母となった彼女がついに本格的な音楽活動を再開する。これまでとは一変した環境でつくられる彼女の音楽はどのようなものになるのだろうか? 
(新田 樹)

最終更新:2015.08.03 11:08

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