テレビ初放映!『永遠の0』に元特攻要員が危機感表明!「この映画を観て多くの人が感動するのは恐い」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷
eiennozero_01_150217.jpg
メロドラマに騙されるな(映画『永遠の0』公式ページより)


 今夜、映画『永遠の0』が『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で地上波初放送される。日本アカデミー賞受賞作ということもあり、なんとなく観てみよう、と思っている人もいるかもしれない。だが、その前に、少しだけ耳を傾けてもらいたい。

 言うまでもなく、この映画はあの百田尚樹による同名小説が原作。本サイトは過去に、小説『永遠の0』が“戦争賛美ファンタジー”でしかないことを、作中の描写を引用しつつ論理的に指摘したが、最近、ついに本作の“検証本”が出版されたのだ。

 タイトルは『「永遠の0」を検証する ただ落涙するだけでいいのか』(秦重雄、家長知史/日本機関紙出版センター)。本書は、約300ページにわたって、『永遠の0』の小説、映画の両方を検証するものだが、とりわけ興味深いのは巻末のインタビューだ。著者の質問に答えるのは、太平洋戦争中、海軍の水上特攻隊に所属していた岩井忠熊氏。ベニヤ板でつくられたモーターボートに爆薬を積み、敵艦に突撃する特攻艇「震洋」の特攻要員だった。

 冒頭、岩井氏は、ずばり『永遠の0』は「架空の物語という感じがしますね」と切り出す──。

 『永遠の0』のストーリーは、現代の若者・佐伯健太郎(演・三浦春馬)が、戦争末期に特攻で戦死した実の祖父・宮部久蔵(演・岡田准一)の実像を探るため、当時を知る人々を尋ねていくというもの。宮部は海軍の零戦パイロットとして天才的な操縦技術を持っていたが、「私は死にたくありません」「生きて妻子のもとに帰りたい」と同僚に公言する人物であり、作中では一貫して “命を大事にする”キャラクターとして描かれている。

 しかし、元特攻要員であった岩井氏からすると、この宮部のキャラクター設定自体からして「架空の物語」に感じられるのだという。

「『死にたくない』と公言する搭乗員が本当にいたのでしょうか。そういうことがありえたのか。それがまず疑問ですね。密かに思っていた人はいたでしょうが、それを口にする人間がいたのか。また公言することが許されていたか」

 また、『永遠の0』の主人公・宮部はラバウルからの生還後、海軍航空隊で教官を務めるのだが、教え子を戦地へ行かせぬため、操縦テストの評価に決して「可」を与えようとしない。これについても、元特攻要員の岩井氏はこう疑問を呈する。

「いくらその人に操縦技術があるとしても、そういう人が教官になって教育をする立場になるということが不自然です。教官になれば死ぬことを厭わないように教えていかなければいけないわけですから、その点では違和感がありますね」

  戦争中、教官が教え子に伝えるのは、人を殺す技術と、国に命を捧げるという精神だけだったというのだ。

「そういう精神の問題について一切触れないというのならそういう人が教官であることもありうるとは思います。僕も別のところですが、海軍水雷学校教官という発令を受け、水上特攻隊員になる人たちを教育したことがあるけれど、自分の死生観などについて話したことなどは一度もありません。もっぱら技術的な話だけでしたから」

 岩井氏は、その自らの体験から、『永遠の0』の宮部は「考えられないことです」「フィクションですね」と断言するのだ。そのうえで、作中描写について「海軍の持っていた暴力性の描き方は足りないです」と指摘し、実際の兵士や下士官の“生活”について、こう語る。

「毎晩、巡検というのがあるんですね。陸軍でいう消灯になるんでしょうか、それが終わってから通称で『整列』というのがあって、甲板の陰かどこかに立たされて毎日のように精神棒で尻を叩くんです。だから上陸して風呂屋などに行くと恥ずかしかったそうです。尻に叩かれた痕が赤く残っていて。それがあるから海軍の秩序というか、そういうものが整然としていたわけです。こういうもので強制していたのです。映画にはそういう部分が全然描かれないままに、宮部のような搭乗員が出来上がってくるというのは不自然ですね。いきなり飛行機に乗れたわけではないんですよ」

 一般水兵たちが直面した戦争には、敵との戦闘だけでなく、軍隊内での陰湿ないじめや、上官からの体罰もあった。だが、『永遠の0』では一人前になった後の“大空を駆ける操縦士”としての姿しか提示しない。VFXを駆使した迫力のある空戦シーンに至るまでに、そのような苛酷な現実があったことなど、受け手は知る由もないのだ。

 前述のとおり、岩井氏は水上特攻兵器「震洋」の特攻要員である。そして兄は、海軍が初めて開発した特攻兵器、人間魚雷「回天」の特攻要員だった。『永遠の0』は航空隊の特攻という違いはあるが、岩井氏は、本作の決定的な欠点についてこう語っている。

「全体として海軍、陸軍もそうですが、飛行機にかかわらず特攻というものを、空中、水中、水上と考えたこと事態にものすごい犯罪性があって責任がある。でもその責任を糾弾する場面が(映画には)どこにも出てこないんです。そして一種のロマンチシズムになっている。責任の追及がなくてロマンチシズムだけが残るということにこの映画の酷さを感じますね」

 実際、作中でフォーカスされるのは、「死にたくない」と公言する宮部久蔵という人間がなぜ特攻で戦死したのかという“ミステリー”と、彼をとりまく家族、戦友たちの“感情の動き”だ。特攻という非人間的な作戦が考案され実施された背景、そしてその責任の所在は、ほとんど言及されない。たとえば史実では、神風特攻隊の創始者である大西瀧治郎中将は、玉音放送翌日に割腹自殺している。だがこうした話は、映画では一秒も触れられていないのだ。

「また宇垣纏中将もいます、彼は第五航空艦隊司令官でしたが、鹿屋から特攻を出した責任者だから、生きてはおれないということで事実上の自殺をしています。敗戦が明らかになった8月15日でしたが、まだ停戦命令が出ていないからと、自分の判断で行けると決めて11機でしたか部下たちの彗星(爆撃機)を率いて特攻に出て行きました。でも自分だけが割腹やピストルで自殺するといかいうのならまだわかるけど、なぜ部下を連れて行ったのかという、それはものすごく最後の責任の取り方まで人命軽視だったということですね。部下の人命をなんと考えていたのかと思います。そういう点では大きな反省点として出てくるべきでしょう。でもそういうことが映画には出てきていない」

 死にたくない、生きて帰る、家族を守る──そのシンプルさが故に、ここには確かに見落とされているものがある。それは “どうしてこの戦争が起きてしまったのか”“いったいなぜ特攻という悲劇が生まれたのか”ということ。過ちを二度と繰り返さないために、わたしたちが学ぶ必要のある、もっとも重要な問いかけが、『永遠の0』にはない。

 しかも、『永遠の0』が犯罪的なのは、特攻という国家犯罪を“家族のために”といういかにも現代的な価値観でコーティングして、その本質を見えなくさせていることだ。

 岩井氏も「怖いですね。この映画だけを観て、やはり一種の感動を持つ人が多いんじゃないかと思いますから」と語っているが、読者や観客はこのような人物がなぜ特攻を選んだのかというミステリーにのめり込んで、宮部久蔵の生き様に共感し、落涙してしまう。

 スタジオジブリの高畑勲監督は、「昨今の“良心的な反戦映画”は、家族を守るために戦地へいくことを強調するけれども、それはお国のため、天皇陛下万歳では、今の人が共感できないから、そのかわりに客の同情を得るため」と指摘し、それを“反戦”とするのは「詭弁」だと批判した。そういう意味では『永遠の0』は高畑監督のいう「詭弁を弄す昨今の反戦映画」の典型といっていいだろう。

 特攻艇「震洋」の特攻要員だった岩井氏は、『永遠の0』の小説を読み、映画を観た人へのメッセージを聞かれ、こう答えている。

「著作物はテーマを限定して書かれるのは当然のことで、必ずしも戦争を全面的に書くことは難しい。それは承知のことです。しかし戦争に対してどういう向き合い方をするのかということは、やはり書く上でその前提になることでしょう。それなしにこんなテーマを取り上げるということは、とても無責任なことではないでしょうか。(略)
 若い人だけでなく政治家についてもそれを強く言いたい。戦争について何も知らない人が議員になり大臣になる。こういう事態ってどう考えればいいんでしょうかね」

 安倍晋三首相は『永遠の0』を「感動しました」と絶賛し、百田尚樹は「命の大切さを伝えたい」という。だが、それは彼らの政治的スタンスとまったく矛盾しない。こんな薄っぺらい感動ドラマに酔える人物だからこそ平気で戦争法案をつくりだし、それを全面支援することができるのだ。
(小杉みすず)

最終更新:2015.08.03 11:09

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

『永遠の0』を検証する ただ感涙するだけでいいのか

  • 楽天ブックスの詳細ページへ
  • Yahoo! ショッピングの詳細ページへ
  • セブンネットショッピングの詳細ページへ

新着 芸能・エンタメ スキャンダル ビジネス 社会 カルチャー くらし

テレビ初放映!『永遠の0』に元特攻要員が危機感表明!「この映画を観て多くの人が感動するのは恐い」のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。小杉みすず百田尚樹の記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 萩生田光一の問題は消費税延期論でなく「ワイルド改憲」発言
2 週刊誌の秋篠宮バッシングは官邸が発信源か?
3 橋下徹が岩上安身リツイート裁判で矛盾を追及され逆ギレ!
4 橋下徹に恫喝された女子高生が告白!
5 ブラックホール会見でNHK記者“日本スゴイ”質問に世界が失笑
6 上野千鶴子「東大祝辞」へのワイドショーコメントが酷い!
7 東電が福島原発の廃炉作業を外国人労働者に押しつけ
8 葵つかさが「松潤とは終わった」と
9 報道特集が中曽根の慰安所作りを報道
10 ゴーン逮捕“国策捜査説”を裏付ける経産省メール
11 安倍首相「桜を見る会」招待状が8万円で売買との報道!
12 秋元康の東京五輪に椎名林檎が危機感
13 自衛隊スパイ事件、官邸が解禁の理由
14 松尾貴史「日本を壊しているのは安倍さん」
15 安倍首相と省庁幹部の面談記録ゼロ!安倍政権“公文書破壊”の実態
16 池上彰が朝日叩きとネトウヨを大批判
17 国民健康保険料が大幅値上げ、年間10万円増額も
18 グッディ高橋克実が北朝鮮危機で本音
19 マツコ「安倍首相は馬鹿」にネトウヨが
20 ピエール瀧逮捕でワイドショーが石野卓球に「謝れ」攻撃の異常
1 国民健康保険料が大幅値上げ、年間10万円増額も
2 安倍首相と省庁幹部の面談記録ゼロ!安倍政権“公文書破壊”の実態
3 石野卓球がワイドショーに勝利した理由
4 忖度道路めぐり安倍の直接指示の新事実が
5 安倍首相が「桜を見る会」に『虎ノ門ニュース』一行を堂々招待
6 安倍が“忖度道路”の要望書を提出、山陰自動車道でも利益誘導
7 上野千鶴子「東大祝辞」へのワイドショーコメントが酷い!
8 塚田「忖度」発言は事実! 麻生利益誘導の疑惑
9 イチローに国民栄誉賞を断られ安倍政権が赤っ恥
10 野党議員をデマ攻撃「政治知新」の兄・自民党県議を直撃!
11 NHKで国谷裕子を降板に追い込んだ人物が専務理事に復帰
12 維新勝利で橋下徹が「反対した年配の人が死んじゃった」
13 中村文則が安倍政権批判に踏み込む理由
14 『あさイチ』の「中高生に韓国が人気」企画炎上の異常
15 安倍首相「桜を見る会」招待状が8万円で売買との報道!
16 菅官房長官「令和おじさん」人気の正体!
17 ゴーン逮捕“国策捜査説”を裏付ける経産省メール
18 「あつまれ!げんしりょくむら」以外も…原子力ムラの醜悪SNS戦略
19 衆院補選で安倍自民党が大惨敗の予想が!
20 ピエール瀧出演の『麻雀放浪記2020』に“安倍政権への皮肉”

人気連載

アベを倒したい!

アベを倒したい!

室井佑月

ブラ弁は見た!

ブラ弁は見た!

ブラック企業被害対策弁護団

ニッポン抑圧と腐敗の現場

ニッポン抑圧と腐敗の現場

横田 一

メディア定点観測

メディア定点観測

編集部

ネット右翼の15年

ネット右翼の15年

野間易通

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

政治からテレビを守れ!

政治からテレビを守れ!

水島宏明

「売れてる本」の取扱説明書

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄