【検証!ブラックディズニーの恐怖 第3弾】

ディズニーのホスピタリティの正体は千葉のヤンキー文化だった!?

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左から『ディズニーの最強マニュアル』かんき出版/『誰もが“かけがえのない一人”になれる ディズニーの「気づかい」』総合法令出版/『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』こう書房


 殴られても笑顔、無給で奉仕……バイトに多大な負荷をかけ、東京ディズニーリゾートをブラック企業化させている「ホスピタリティ」というキーワード。前回の原稿では、本場・アメリカのディズニーのサービスマニュアルにホスピタリティという言葉はなく、過剰なサービスは日本のディズニーリゾートで独自に発展していったと指摘した。

 では、いったいどうして日本だけでこんな無茶な「ホスピタリティ」精神が生まれ、本場・ディズニーのサービスを変質させてしまったのか。実は、そのヒントらしきものが『ディズニーの最強マニュアル』(かんき出版、2014年)という新刊本に載っていた。

 同書はディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドで20年間、社員として勤務した大住力氏がディズニーの人材教育マニュアルを紹介した本なのだが、大住氏はその中で、ディズニーランドの現場に、マニュアルを浸透させるための慣習的なシステムがあったことを明かしている。

 それはズバリ、“アニキ”制度と呼ばれるものだ。

「マニュアルに従うことで小さな成功体験を積み、それをアニキが評価することで本人のやる気にスイッチが入る。アニキはそこで満足せず、マニュアルの背景にある本質を語っていく。アニキと若手の間には前提となる信頼関係が構築されているので、語られた側はミッションの大切さを受け入れてくれるのです」(同書より)

 ディズニーなのに“アニキ”? なんだか、ミッキーというより千葉のヤンキーみたいだが、ディズニーでは新人に指導係がつき、実際にそこにヤンキー的な上下関係が生まれているようなのだ。しかも、アニキの中には本物のヤンキーのみなさんもいるらしい。

「私が新人としてカストーディアル課に配属されたときのアニキは、身体が熊みたいに大きいコワモテの男性でした。しかも、コワモテなだけでなく、昔は本当に暴走族のリーダーだったという経歴の持ち主でした」

 そして、新人はこうした“アニキ”たちからマニュアルにはない精神論を叩き込まれていく。大住氏はジャングルクルーズ時代の“アニキ”からこんな厳しい教えを受けたという。

「よく覚えているのは、『大住、おまえはゲストに土下座できるのか!』と問われたことです。きっかけはちょっとした会話のなかで、私が『本当のサービスとはこうなんじゃないか?』と深い考えもなく、サービス論を語り出したことにあります。しかも、若い私は自分の考えるやり方……、ディズニーランドのマニュアルから外れた方法をまわりのキャストにすすめようとしたのです」

 しかし、土下座なんてする必要はないという大住氏に対しアニキは「お前は軽々しく最高のサービス、サービスと言うけどな。サービスというのはゲストの前で土下座をするのと同じことだ。よく考えろ、わかるまで考えろ」と諭されるのだ。

 大住氏は考えに考えて、「すべてを目の前の相手にさらけ出す。差し出す、と。そんな行動なのだということがわかりました。言わば、煮るなり焼くなり切るなりなんでも好きにしてくださいという気持ちを本気で示しているのです」。つまり「土下座」というのは「本気かどうか」なのだという結論に達する。

 あの「夢の国」の裏側で、土下座というなんとも日本的なテーマが熱く語られ、しかも、それが「本気のあかし」として評価されていたとは驚きではないか。いや、語られていただけではない。この土下座精神はディズニーにかなり浸透していたようで、実際にゲストに土下座をしたことを自慢げに語っているディズニーのホスピタリティ本もある。

『誰もが“かけがえのない一人”になれる ディズニーの「気づかい」』(総合法令出版、12年)だ。著者の芳中晃氏はレストラン畑を中心にしてきた元ディズニー社員で、現在は某大学の観光ホスピタリティコースの准教授だ。

 事件が起きたのは、オープン当初のディズニーランド。8月のお盆で大混雑のファーストフードのレストランで、まだ食事中にかかわらずトイレのため席を外したゲストのテーブルを、カストーディアルが用済みと判断し、片付けてしまったのだ。

「お手洗いから戻ってきたゲストは当然びっくりしました。やっとのことで確保したはずの“自分の席”に、見知らぬ別のゲストがすでに座っていたのですから。だいたい残しておいたフードはどこへ行ってしまったのか……驚きはだんだん怒りへと変わっていきました」

 そこで対応したのが、芳中氏だった。

「暑さ、混雑、長い待ち時間……いろいろな我慢や不満が頂点に達したゲストの怒りは、半端なものではありませんでした。なかなか怒りが収まることはありません。他のゲストの手前もあるので、いったん、人目のつかないところに移動していただき、心を尽くして謝りました。最後には言われるがままに土下座をしてようやく納得していただけたのです」

 芳中氏は「相手のどんな言い分も、その会社の“顔”として誠実に受け止めてこそ、多くの人の信頼を得られるのです」としめる。

 土下座をしたことを披露するのも開業当時の混乱したなかでの苦労話として書くのであれば、まだわかる。だが、土下座こそ、誠実なホスピタリティとばかりに紹介してしまうのはどうなのだろう。前回、ゲストに殴られても笑顔というディズニーの驚愕の教えを書いたが、そうした奴隷労働やブラック体質も、もしかしたら土下座を尊ぶようなヤンキー的精神論が生み出したのかもしれない、と思えてくるのだ。

 しかも、こうしたヤンキー的な空気と上下関係は、アルバイトになると、もっと濃厚に漂っている。それを如実に表しているのが、『社会人として大切なことはみんなディズニーランドで教わった』(香取貴信/こう書房、02年)だ。同書は東京ディズニーランドでアルバイトをはじめた元ヤンキーの高校生が「仕事」「教育」「サービス」に目覚めるという異色のディズニー本なのだが、徹頭徹尾ヤンキー的なエピソ―ドに彩られている。

 たとえばある日の終礼。多数の新人スタッフによる恒例の自己紹介が長引いたときのこと。「最初の何人かは興味があって話を聞いていた私ですが、だんだんと飽きてきます。それでとなりのスタッフにちょっかいを出したり、自己紹介にちゃちゃを入れたりして、楽しんでいました。だって、その場には厳しい責任者の町丸さんがいませんでしたから……。

 と、いきなりうしろから、思い切り回し蹴りが飛んできたのです。私はそのまま地面に転がり、振り向くと町丸さんが鬼の形相で立っています。(略)『てめぇー、自分は偉いから、新人がしゃべってても聞かねーでいいのか! はじめて大勢の前で話す人間の気持ち考えろ!!』」

 この事件をきっかけに厳しい責任者である「町丸さん」との間に“師弟”関係が生まれる……といったエピソードなのだ。

 先輩から回し蹴り!? 同書はメールマガジンに面白おかしく書き綴った文章の単行本化なので、多少の誇張が含まれている可能性もあるが、しかし、似たようなバイト指導が多くの場所で行われているのではないだろうか。

 そして、幹部社員たちの本を読む限り、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドも、こうしたヤンキー的な上下関係をうまく利用するかたちで、無給奉仕や過剰サービスなどのブラック労働にバイトをかりたててきたのだ。

 それにしても、あんなにかわいいシンデレラ城やイッツ・ア・スモールワールドやプーさんのハニーハントを支えているのが、“アニキ”や“土下座”や“先輩からの回し蹴り”だったとは……。

 しかし、これも考えてみたら、そう不思議はないのかもしれない。精神科医の斎藤環によれば、多くの日本人は結局のところ、ヤンキーの美学に魅了されているのだという。だとすれば、日本人がこんなにもディズニーランドが好きなのも、そこから漂うヤンキーのにおいをかぎとっているからなのではないだろうか。
(松井克明)

【検証!ブラックディズニーの恐怖シリーズはこちらから→(第1弾)(第2弾)(第3弾)】

最終更新:2014.11.17 12:11

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