【検証!ブラックディズニーの恐怖 第2弾】

殴られても笑顔!? ディズニーがバイトに強いる恐怖のホスピタリティ

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ディズニー“ホスピタリティ本”ブーム(左から『新装版 ディズニーランドのホスピタリティ』長崎出版/『ディズニー式 サービスの教え』宝島社新書/『ディズニーの現場力』かんき出版)


『9割がバイトでも最高のスタッフに育つディズニーの教え方』(福島文二郎/中経出版)をはじめ累計100万部を超えた『9割がバイト』シリーズ3部作。前回は、そこで紹介されたディズニーリゾートの教育メソッドがブラック企業の手口そのものだということを指摘した。
 
 中でも「すべてのゲスト(客)にハピネスを提供する」「すべてのゲストはVIPである」というディズニーのホスピタリティ・マインドが、キャスト(社員のほか、9割はアルバイトやパートといった“準社員”)に多大な負荷をかけているということも明らかにした。

 だが、そんなことはおかまいなしに、ディズニーのホスピタリティを称える言説は世の中にどんどん広がっている。同シリーズの後も、ディズニー関係者によるホスピタリティ本が次々と発売され、今やその数は二十冊以上にも及ぶ。

 そこに書かれているのは、「ホスピタリティ」という名の下に過剰なサービスやとんでもない無理難題への対処を強いられているバイトの姿だ。

 たとえば、『ディズニー式 サービスの教え』(小松田勝/宝島社新書/2012年)。ディズニーでは、キャストの前では、ディズニースマイルという笑顔を忘れてはならないとされているが、同書によれば、ゲストに殴打されても“笑顔”でいることが最高のホスピタリティだというのだ。

「(83年の)オープンしてすぐのことでした。東京ディズニーランド最大のレストラン『トゥモローランドテラス』で、短大を卒業したばかりの女性キャストがレジを担当していました。そこへ年配の男性ゲストがやってきました。どのアトラクションも2時間以上待たなければならなかったので、先に食事をしようとその店舗にやってきたのです。しかし、そこでも1時間近く待たされたため逆上してしまい、彼女の髪の毛をつかみ、頬を叩いたのでした。店内は壁際までゲストが並んでいる状況で、先輩キャストがフォローすることもできませんでした。
 彼女はそのとき、目に涙をためて笑顔で謝罪しながらオペレーションを続けたのでした。後日、彼女にそのことを聞いたとき、『こちらが悪いので、ゲストが怒るのもわかります』という答えが返ってきました。
 当時、教育担当だった私は、『まだ20歳の社会人になったばかりの若い女性スタッフが、なぜここまでできるのだろう』と感動を覚えました」

 小松田氏は80年代にディズニーランドの教育訓練システムの開発に携わったという人物だが、本気でこんなことがホスピタリティだと考えているのだろうか。暴行を受けてもひたすら謝罪し、服従するというのは、もはや奴隷労働ではないか。実際、普通の会社なら、上司がきちんと暴行を制止してその客を追い出すか、場合によっては警察に通報するなどの対処をするだろう。ところが、小松田氏はそういう対処を一切せずに、謝罪し続けたキャストに感動して「これこそホスピタリティ」と称えるのだ。

「ディズニーランドは『夢と希望』をキャストも感じる舞台です。ディズニーランドでアルバイトを始めたばかりのキャストでも、ディズニーの一員として『夢の舞台を支えている』という意識を持てる環境があることで、プロのサービスを提供できるまでに成長するのです」

 また、この小松田氏は『新装版 ディズニーランドのホスピタリティ』(長崎出版)でも修学旅行生の高校生グループ同士がディズニーランド内で喧嘩が発生。とめに入ったセキュリティースタッフが巻き込まれ殴られるエピソードも紹介している。

「ディズニーランドのキャストは、ゲストから殴られるようなことがあっても、決して殴り返すようなことをしてはならないように決められています。準社員であっても最初の研修時点で教えられますが、彼が殴り返さなかったのは、ディズニーランドというところが“聖地”のようなところになっているということを、ゲストもキャストも本能的に理解しているからでしょう」

 ここまでくると、新興宗教のような不気味ささえ感じるが、しかし、ディズニーランドのホスピタリティというものは、ほんとうに最初からこういうものだったのだろうか。

 実は、本家・アメリカのディズニーの人材教育(ディズニー・インスティチュート)には「ホスピタリティ」というキーワードは存在しない。そもそも労働組合が強いアメリカでは無償の奉仕なんてありえないし、ゲストに暴行を受けたら、即、警察に通報して傷害罪で告訴するだろう。

 日本でも90年代には、ディズニーランドのサービスにホスピタリティという言葉が使われることはなかった。2000年に出版された『改訂版 ディズニーランドの人材教育』(志澤秀一/ウィズダムブック社)にも、著者はオリエンタルランド人事部ユニバーシティ課に在籍していた人物だが、「ホスピタリティ」というキーワードはまったく出てこない。

 オリエンタルランド副社長を務めた上澤昇氏の『魔法の国からの贈りもの 「ディズニー」とともに歩いた人生』(PHP研究所/2008年)では、「TDLのサービスは、本場アメリカ仕込みの徹底したマニュアルによって、指の先、爪の先まで管理され、統率されている。開園後、かなり長い間にわたって、世間にはそのような評判なりイメージが流布していたようです。それは、サービスに『隙がない』というほめ言葉でもあると同時に、『マニュアルに縛られている』という“けなし言葉”でもありました」とあり、300もあるというマニュアルに縛られた接客だったと振り返っている。

 ところが、ディズニーの接客は途中から、アメリカのマニュアルとはまったくちがう、これまで紹介してきたようなブラックとしかいいようのない過剰なものに変質していったのである。同調圧力によって、バイトであってもディズニーへの自主的に奉仕することが要求され、ゲストに対してだけでなく、会社や上司、同僚への献身まで強要する空気ができあがっていった。

 そして、2004年から2005年にかけて、ラグジュアリーホテルのリッツカールトン大阪のホスピタリティ本がヒットすると、そのディズニーランドの過剰なサービスに「ホスピタリティ」という言葉がつけられて、ディズニーの元管理職社員や研修担当らによるホスピタリティ本が次々出版されるようになったのだ。

 そういう意味では、ディズニーランドにホスピタリティの伝統があったわけでなく、むしろ自分たちの「ブラック企業」的本質をごまかす“魔法の言葉”として機能してきたといってもいいかもしれない。実際、本来は真っ先にブラック企業として批判を受けるべきディズニーリゾートは、逆にそのブラック的要素をすべてホスピタリティという言葉に変換して宣伝、いつのまにかホスピタリティブームの主役になってしまった。

 しかも、こうしたディズニーランドのホスピタリティ本が出れば出るほど、その内容が現実のディズニーリゾートにフィードバックされ、現場はさらに過酷になっていく。キャスト同士でホスピタリティを競うようになり、本を読んだゲストたちもキャストへの無茶ぶりやクレームが激しくなる。

 現場のアルバイトにとっては迷惑きわまりないディズニーホスピタリティ本だが、その執筆者たちについて気になることがある。今回、二十数冊の本を読んだが、執筆者のほとんどがなぜか「元」正社員、すでに退職・独立している人ばかりなのだ。もしかしたら、ディズニーリゾート、オリエンタルランドという会社はバイトだけじゃなく、正社員や管理職にとってもかなり居心地が悪い職場なのかもしれない。
(松井克明)

【検証!ブラックディズニーの恐怖シリーズはこちらから→(第1弾)(第2弾)(第3弾)

最終更新:2014.11.17 12:10

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