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『報ステ』女性蔑視CMは偶然じゃない! チーフPセクハラ事件が象徴する体質、個人視聴率導入で進む勘違いの若返りと批判精神の低下
報道ステーション+土日ステ公式Twitterより
テレビ朝日の看板報道番組『報道ステーション』(テレビ朝日)が、若い女性をバカにしきった番組PR動画を公開し、炎上している。
動画は30秒バージョンと15秒バージョンがあり、ともに若い女性がカメラ目線で「ただいま」と言い、こんな話を始める。
「会社の先輩、産休あけて赤ちゃん連れてきてたんだけど、もうすっごいかわいくって。どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかってスローガン的に掲げてる時点で、『何それ、時代遅れ』って感じ」(30秒バージョン)
さらに、女性はつづけて「化粧水買っちゃったの。もうすっごいいいやつ。それにしても消費税高くなったよね。国の借金って減ってないよね?」と話し、唐突に「9 時54分! ちょっとニュース見ていい?」と口にすると、「こいつ報ステみてるな」という文字が大きくかぶさる……という内容だ。
また、15秒バージョンの台詞はこうだ。
「いい化粧水買っちゃった! 消費税は高くなったけど、いまのうちにお肌に手をかけていれば、裏切らないじゃんと思って」
何から何まで絶句するほかないだろう。まず、「ジェンダー平等のスローガンは時代遅れ」という台詞だが、森喜朗氏の性差別発言や東京五輪開閉会式のルッキズム全開の演出案問題など、むしろこの国はジェンダー平等に程遠い状況にあることが浮き彫りになるようなニュースにあふれている。そのニュースを伝え、問題を掘り下げる側が「ジェンダー平等のスローガンは時代遅れ」と打ち出すとは、どういうつもりなのか。
しかも、「ジェンダー平等のスローガンは時代遅れ」と言い出す根拠となる「会社の先輩、産休あけて赤ちゃん連れてきてた」という台詞もどうかしている。「産休あけて」って、育休もなく働かされているのかとツッコまざるを得ないが、この国において保育施設・サービスを設けている企業はごく一部に過ぎず、待機児童の問題もまったく解消されていない。会社に赤ちゃんを連れて出勤できる環境ひとつで「ジェンダー平等のスローガンは時代遅れ」と言えるようなものではなく、女性の家事育児荷重負担や夫婦別姓問題など課題はいまだ山積している。そもそも日本政府も与党・自民党も「ジェンダー平等」をスローガンにすら掲げていない。そんなこともまさか報道番組である『報ステ』は理解していないのか。
「化粧水と消費税」をめぐる台詞もひどい。「化粧水」「お肌に手をかけていけば」という台詞は“若い女性の関心事は美容”という典型的なステレオタイプであり、“化粧水というフックがなければ消費税や国の借金について関心を寄せない”とバカにしているようにしか受け取れない。
ダメ押しが「こいつ報ステみてるな」というコピーだ。「こいつ」と上から目線でジャッジする、その主体は一体誰なのか。女性は男性中心の社会のなかで「女らしいかどうか」で容姿から言動までジャッジされるという差別的な扱いを受けつづけてきたが、ここでも女性を「上から」ジャッジしようというのである。
CMのポストフェミニズム的姿勢と2年前のチーフプロデューサーによるセクハラ
このPR動画は若い層、とりわけ若い女性に『報ステ』をアピールするためにつくられたことは明白だが、若い女性の貧困や自殺が社会問題化するなか、報道番組としてその層にアプローチする方法はいくらでもある。にもかかわらず、若い女性を完全に見下して、挙げ句、女性の口から「ジェンダー平等のスローガンは時代遅れ」と言わせたのである。
このように、今回のPR動画は、ジェンダー平等を求める運動に対して「女性の活躍は進んでいる。もう女性差別はない」などと否定するバックラッシュのひとつであることはあきらかだ。社会学者の菊地夏野・名古屋市立大学准教授の著書『日本のポストフェミニズム 「女子力」とネオリベラリズム』(大月書店)では、政府のジェンダー政策が「性差別の是正」ではなく「男女共同参画」であるように法律や政策において性差別の存在を必ずしも認めていないことに言及し、マスメディアが「女性の活躍」をもって「差別はほとんど解消された」というイメージを後押ししていると指摘されているが、今回の『報ステ』動画は露骨に性差別の実態を無視して反動を煽ることで是正を求める声を潰そうとするものであり、報道番組のPRとして相当に悪質なものと言わざるを得ない。
そもそも、『報ステ』をめぐっては、2019年にチーフプロデューサーだった桐永洋氏の女性アナウンサーやスタッフへのセクハラが問題になり、チーフプロデューサーから異動となるという事態も起こっている。しかも、このとき女性スタッフから大量のセクハラ被害の訴えがコンプライアンス室に持ち込まれていたにもかかわらず、テレ朝の上層部は1カ月以上も放置し、さらには「酔っ払った女性アナウンサーが最初に誘った」「今回のセクハラ告発の裏には『報ステ』の派閥抗争がある」「桐永の路線に反発する『報ステ』旧勢力がセクハラ疑惑を仕掛けた」などという女性たちを攻撃するカウンター情報をメディアにリークしているフシさえあった(詳しくは既報参照)。今回の動画を「PRになる」と考えるような感覚のありえなさは、こうした体質を如実に反映しているとも言えるだろう。
しかも、PR動画が大炎上したことを受けて『報ステ』側は動画を削除、公式SNSにお詫びを掲載したのだが、そこでも〈不快な思いをされた方がいらしたことを重く受け止め〉などと記述。性差別の問題を矮小化させたことや若い女性を見下す内容が問題だと指摘されたのに、「不快な思いをされた方」とここでも“感じ方”の問題に矮小化させたのだ。
また、このお詫びで『報ステ』側は、〈ジェンダーの問題については、世界的に見ても立ち遅れが指摘される中、議論を超えて実践していく時代にあるという考えをお伝えしようとした〉と釈明。実践がどのような段階にあっても議論は常にしつづける必要があると思うが、やはり『報ステ』は「議論やスローガンはもう必要ない」と言いたかったというのだ。これ、森喜朗元首相の「女は話が長い」とか、党の夫婦別姓議論から女性議員を排除し「ニュートラル」と胸を張った下村博文・自民党政調会長と、言っていることは同じではないか。
この国のジェンダー平等の遅れが世界的に問題視されているさなかにこのような動画を公開し、問題を指摘されても何が問題となっているのか理解しているとは思えない「お詫び」を出してしまう、この絶望的なまでの対応──。これはPR動画の問題にとどまらない、まさしく『報ステ』という番組のこの間の劣化を象徴するものといえるだろう。
個人視聴率導入によってすべてのテレビ局で始まった報道番組の『news zero』化
『報ステ』は前身番組である『ニュースステーション』時代から反権力色が強く、政権批判をしっかりおこなう報道番組として人気を博してきたが、第二次安倍政権下では政権からの圧力に屈し、古舘伊知郎のキャスター降板をはじめ、社会問題に対する意識が高いスタッフを首切りにするなどして政権批判色を弱めていった。そして、その代わりにスポーツ情報やカルチャーの話題が多く取り上げられるようになり、いまでは当たり障りのない番組へと“劣化”した。この路線変更にあたって振りかざされてきたのが、「若返り」「時代の変わり目」「リラックスした雰囲気」などという表面的なワードだった。
政権に睨まれるのを恐れ、「若返り」と称し硬派な話題や批判的な切り口を避けるようになり、エンタメ化していく──。しかし、これは『報ステ』だけの問題ではない。
嵐の櫻井翔や落合陽一などを曜日レギュラーとして起用し、エンタメ色の強い日本テレビの『news zero』が顕著な例だが、若いタレントや文化人を起用すると、なぜかセットで、政治や硬派な社会問題を深堀りするのではなく批判的視点や議論を喚起しない波風の立たない番組にしていくというのは、テレビ界のお決まりの流れとなっている。そして、その背景にあるのが「個人視聴率」の存在だ。
昨年、ネット広告費がテレビ広告費を抜いたように、テレビ界は大きな苦境に立たされているが、そんななか昨年4月からビデオリサーチは「個人視聴率」を導入。テレビCM出稿の指標として、従来の「世帯視聴率」からこの「個人視聴率」を重視する方向にシフトし、テレビ局はこれまで以上に「スポンサー広告料が高い」コアターゲットを意識した番組づくりが求められるようになった。日テレとTBSの場合、コアターゲットとしているのは「13〜59歳の男女」だ。
じつは、この「個人視聴率」への移行は電通が仕掛けたもの。数年前から「個人視聴率」の重視を提唱しており、実際、「個人視聴率」を導入したビデオリサーチ社の筆頭株主は電通グループであり、前社長も現社長も電通出身者だ。その電通がスポンサー広告をテレビ局に売る際、コアターゲットを意識した番組にしろと発破をかけてくるという。それによってバラエティやワイドショーのみならず、報道番組までもが「硬派より軟派に」内容を変更させているのだ。
「13〜59歳の男女」、とりわけ若い女性層をターゲットとして意識すると「当たり障りのない軟派な内容」になってしまうこと自体が視聴者を舐めているように思えるが、じつは、テレ朝はこの個人視聴率に基づくターゲッティングを「政権批判するコメンテーターの排除」の大義名分にも使っている。
実際、長らく『羽鳥慎一モーニングショー』で曜日コメンテーターを務めてきたジャーナリストの青木理氏が、昨日23日をもって番組を降板することを唐突に発表。詳しくは追って記事としてお送りするが、「若返りのためのコメンテーター刷新」という大義名分によって、現在のテレビ界ではもっとも強く政権批判をおこなう論客である青木氏が追い払われてしまったのである。
新型コロナをめぐる報道では、政府や官邸からいくら睨まれてもひるまず報道姿勢を変えなかったように、『モーニングショー』はテレ朝に残された最後の砦でもあった。しかし、それさえも「若返り」を理由に牙を抜き、奇しくも同じタイミングで、すでに骨抜きにされていた『報ステ』は差別に反対する声を嗤うようなPR動画を垂れ流したのである。
この国のテレビジャーナリズムは、すでに終わっている。今回の『報ステ』動画は、テレビ界全体を覆う根深い問題をも浮き彫りにしたといえるだろう。
(田岡 尼)
最終更新:2021.03.24 09:23
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