不仲・論争に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
吉村知事VS大村知事バトル 本当に正しいのはどっちなのか? 大阪は感染状況も医療体制も愛知よりはるかに酷いのに知事の評価は…
吉村知事と大村知事(公式サイトより)
この国のマスコミやネットはいったいどういうリテラシーをしているのか。吉村洋文大阪府知事と大村秀章愛知県知事のバトルのことだ。
大村知事が「東京と大阪で医療崩壊が起きている」と指摘したことをめぐって繰り広げられたこの応酬、多くのメディアが“知事バトル”などと取り上げた。しかし、ほとんどは大村知事の発言を“言いがかり”“余計な発言”などと批判し、吉村知事については“さすが冷静な反論、“論争は吉村さんの圧勝“などと持ち上げるものだった。
しかし、ほんとうにそうなのか。改めてバトルの経緯を検証してみたところ、まったく違う実態が見えてきた。
まず、メディアでは「大村知事が先に吉村知事に絡んだ」などと批判されているが、大村知事は別に、吉村知事に絡んだわけではない。定例会見で、第二波が来たとき医療崩壊を絶対に避ける必要があると主張するなかで、「病院に入れないということと、それから救急を断るという、この二つはやっぱり医療崩壊ですよ。それが東京と大阪で起きているわけですから、それはですね、よその国の話ではないんですね」と発言しただけだ。
しかも、その内容はしごく当然のものだ。東京と大阪では実際に救急受け入れを停止する病院が複数にのぼり、明らかに通常の医療や救急医療に支障が出ていた。第二波が来たとき愛知がこうした事態に陥ることのない体制を整えたいと表明するのは、県のトップとしては、むしろ評価すべき態度と言っていい。また、大村知事は別の日の会見で、「愛知県は病院で受け入れ困難だった感染者数や救急件数などを情報公開しており、全国で同様の検証が必要」と語っていたが、これも、正論だろう。
ところが、この大村発言に吉村知事と松井一郎大阪市長が反発。27日に、吉村知事はツイッターで〈大阪で医療崩壊は起きていません。何を根拠に言っているのか全く不明です。受け入れてくれた大阪の医療関係者に対しても失礼な話です。東京もそうですが。根拠のない意見を披露する前に、県は名古屋市ともう少しうまく連携したら?と思います。〉と反論。
これ、コロナで多数の感染者を出している自治体の首長がするツイートなのか。吉村知事は大村知事が建設的に提案した“受け入れ困難だった感染者数や救急件数などの情報公開や検証”は無視して、「医療崩壊は起きていない」「意味不明」と強弁するだけ。「医療関係者に対しても失礼」などと話をすり替えているが、失礼なのは、医療関係者が危機的状況と闘っているのに、そんな事態は起きていないかのようにふるまうあんたのほうだろう。
しかし、大村知事はこれにひるむことなく28日の会見で吉村知事に対してこう返した。
「違うんであれば違うということを、データをもって言われなければいけない。(吉村知事は)ただ単に言い訳をしているに過ぎない。自宅待機が2百何十人もいるというのは、病院に入りきれていないということですよね。救急をお断りになっているということも、それぞれの病院が発表がされておられますから。それが報道になっているのを、私は4月に拝察したので」
すると、吉村知事が28日、ツイッターでこんな反論を連投したのだ。
〈大村知事「ただ単に言い訳」って酷いね。確認したら、大阪の3次救急の4病院で一部救急停止したことを「医療崩壊」と言ってるらしいが、全く違う。これは4月21日救命センター長会議において、3次救急、特定機能2次救急(65病院)で救急受け入れ余力可能数を算定し(215名)、〉
〈その範囲で公立4病院の救急を一時停止し、コロナ重症患者の治療に専念したもの。よって、役割分担をしてコロナの重症者にも、その他の救急にも対応した計画的措置。救急を断るものでも、「医療崩壊」でも何でもない。大村知事が事実関係も調査せずに、「大阪や東京は医療崩壊!」って謝罪もんだよ。〉
〈公立4病院でコロナ重症患者の治療の為に一部救急停止を決めたのは、4月7日〜順次段階を追って進めていったが、4月21日のセンター長会議で、受け入れ可能数を算定、大阪全体でのコロナ重症患者の治療と他の救急との受け入れ可能数を総合調整。重症者の救急断り、オーバーフローは起きていないよ。〉
「救急たらい回し」が急増していたのに吉村知事は「救急断り起きてない」
この吉村知事の反論は一見もっともらしく見えるが、インチキもいいところだ。吉村知事は受け入れ停止を「計画的措置」「重症者の救急断りは起きていない」などと主張しているが、現実には大阪で「救急断り」が多数発生している。
それは、消防庁が実施した4月下旬(4月20日〜26日)の「救急たらい回し」についての調査によって証明されている。この調査は、医療機関への受け入れ照会数が4回以上で、搬送先が30分以上決まらなかったケースを「救急搬送困難事案」とし、東京消防庁と政令市や県庁所在地などの消防本部を対象に行われたものだが、その結果、大阪市消防局の「たらい回し」は昨年同時期に比べ66件増加しており、東京消防局に次ぐ増加件数を記録していた。
受け入れ停止が吉村知事の言うとおり、本当に役割分担に基づいた計画的措置で、救急を断るものでないのなら、なぜこんなに「たらい回し」が増加しているのか。
だいたい、4月に大阪府内の3次救急医療を担う4病院が救急受け入れ停止をしたことを「医療崩壊」ととらえているのは大村知事だけではない。救急の専門家や当の病院関係者が当時、危機的状況であることを証言している。
時事通信(4月18日付)の報道によると、大阪の4病院が救急患者の受け入れを停止したり一部制限したりしたことについて、日本救急医学会の嶋津岳士代表理事が「通常の体制を維持できず、救急医療の崩壊は既に始まっている」と指摘していた。また同記事では、4月13日から重篤な患者の受け入れを停止した大阪急性期・総合医療センターの担当者が「苦渋の選択。コロナの重症者が増え続ける中、通常の救急体制を維持するのは難しい」と話していた。
いったいこれでどうして「救急受け入れ停止は計画的措置」という話になるのか。危機的状況に切羽詰まって救急受け入れを停止したのを、取り繕って「計画的」と言っているだけではないか。
実は、吉村知事は大村知事への反論さなかに、「大阪府「トリアージ病院」を近く本格運用」という記事をリツイート紹介しているのだが、これは救急搬送時の「たらい回し」を避けるためのもの。本当は吉村知事自身、大阪で「たらい回し」が増加、救急医療が危機に瀕していたことを自覚しているのではないか。
同じく大村知事が指摘した、「自宅待機」問題も同様だ。これも明らかな事実で、感染が拡大していた4月下旬、大阪ではPCR検査で陽性と判定されたにもかかわらず、「2百何十人」どころか、300人以上の自宅療養者がいたことが判明している。実際、この自宅待機患者については、吉村知事はぐうの音も出なかったのかひとことも反論していない。
背景に「あいトリ」問題、ネトウヨが煽った吉村称賛、大村攻撃
ようするに、この知事バトル、実質的な中身はどう見ても大村知事のほうに理があったのである。
吉村知事は28日、ゴマカシだらけの反論をさんざん書き連ねたあげく、小池百合子都知事が大村発言を受け流したというニュースをRTして〈この対応を見習うことにします。〉とツイート。会見でも上から目線で「相手にせんとこと」などと捨て台詞をはいて一方的に論争を終わらせてしまったが、この態度だって、両者のやり取りの詳細を知っていたら、“オマエは池乃めだかか”という話だろう。
ところが、冒頭で指摘したように、メディアやネットはこぞって大村知事を批判し、吉村知事を「圧勝」「さすが」と持ちあげた。いったいなぜか。
最大の理由はもちろん、吉村知事が自分のイメージをアップするための詐術に長けているからだ。
本サイトでは以前から、大阪のコロナ対策が実は失策と後手対応だらけだったにもかかわらず、やってる感演出と、親分・橋下徹元市長譲りの詭弁やスリカエ、スケープゴート攻撃によって、その失政をごまかしていると指摘してきた。
今回も全く同じで、実際は、事実上の医療崩壊が起きているにもかかわらず、デタラメを強弁し、大村知事への個人攻撃に話をスリカエることで、その事実に蓋をしてしまったのだ。
さらにもう一つ大きいのが、吉村知事・維新支持層にネトウヨが多いことだろう。周知のように、昨年の「あいちトリエンナーレ」問題以降、ネトウヨは大村知事バッシングに血道をあげ、高須克弥院長らは現在も大村知事リコール運動を展開している。そして、吉村知事や松井市長も「あいトリ」問題でネトウヨと一緒になって大村知事を攻撃していた。
こうした構図の延長線上で、ネットで吉村知事を絶賛し、大村知事を排撃する流れが生まれ、「#吉村寝ろ」「#大村寝てろ」というハッシュタグまで拡散されるようになったのだ。
今回、吉村知事や松井市長が医療崩壊問題を大村知事への個人攻撃にすりかえたのも、こうした流れに乗っかって、大村知事を攻撃すれば、維新信者やネトウヨの支持を得られ、医療崩壊問題に蓋をできると考えたからだろう。大阪の感染拡大が問題になったとき、吉村知事と松井市長は対立している井戸敏三知事がトップの兵庫県をスケープゴートにして、同県との往来自粛だけを打ち出したことがあったが、それと全く同じ作戦というわけだ。
そして、この作戦はまんまと成功した。ネットはもちろん、テレビなどのマスコミもネットに引きずられて、論争の詳細などを一切検証することなく、「知事バトルは吉村知事の圧勝」などと煽り立てている。
大阪より愛知の方がはるかに感染者や死亡者を低く抑え込んでいる
まったく吉村知事の狡猾さとメディアの軽薄さにはあきれるほかはないが、しかし、恐ろしいのはこうした構図が今回の知事バトルだけの話で終わらないことだ。
前述したように、大阪のコロナ対策はけっしてほめられるようなシロモノではない。評価できるのは、軽症者や無症状者の施設を整備したことと、十三市民病院をコロナ専門病棟にしたこと(これもやり方が強引で現場は大混乱だったが)くらい。むしろ、感染予防、検査体制や医療体制の整備、自粛補償は他の自治体よりも明らかに後手に回っていた。
たとえば、維新は当初、PCR検査不要論を主張し、実際、日本医師会が3月中旬に発表した調査で、大阪府は検査拒否件数ナンバーワンだったのだ。大阪市では10日間も検査を受けられず、重症化したケースも報告されている。
休業補償についても、率先してやったかのようなイメージがもたれているが、実際は逆。東京都が自粛協力金の導入を打ち出しても、財政力の差を理由に大阪府は消極的なまま。福岡市や千葉県市川市、神奈川県などほかの自治体が導入するという報道があって、しぶしぶやり始めたにすぎない(しかも、その中身はかなりお粗末なものだった)。
今回、大村知事が問題提起した医療支援についても同様だ。愛知県では、感染者を受け入れた医療機関に、1人当たり最高400万円の「医療従事者応援金」を支給するなど、独自の対策で感染者の病床確保に努めていた。しかし、大阪はどうか。吉村知事と松井市長がやったことといえば、最近になって医療従事者に10万円のクオカードを配っただけ。しかも、これ、府の予算から出したわけではなく、原資は民間から集めた寄付金だった(しかも、他人の寄付金なのにクオカードに自分たちのメッセージを入れるという厚顔ぶりだった)。
さらに、大阪のコロナ対策が失敗だったことの最大の証明は、感染者数や死亡者数だ。大阪府の感染者は累計1783名だが、この数はこの数は大阪府より人口の多い神奈川県(1367名)の約1.5倍。大阪府より人口が10%ほど少ないだけの愛知県(511名)と比べると 3倍以上の数だ(5月31日時点)。死者も同様で、愛知県が34名なのに、大阪は83名にのぼっている。
ようするに、実際は愛知県より大阪のほうがはるかに感染者数を抑え込めていないし、支援体制も乏しいのだ。
ところが、吉村知事や維新の“やってる感”演出と、詐術によって、評価は全く逆になってしまっている。メディアの知事通信簿やアンケートなどでも、がんばっている知事1位が吉村知事、一方、大村知事はワースト扱いなのだ。
大村知事のワースト扱いはともかく、このまま吉村知事の作戦に乗っかって彼らを賞賛し続けたら、大阪のコロナ対応の問題点は放置されたままになるだろう。その時被害に遭うのは大阪府民なのだが…
…。
(編集部)
最終更新:2020.06.01 03:33
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