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韓国ベストセラー『反日種族主義』は日本のネトウヨ本そっくりの歴史修正とフェイクだらけ! 背後に日本の極右人脈が…
『反日種族主義』(文藝春秋)
改善の兆しのない“戦後最悪”の日韓関係のなか、安倍政権の尻馬に乗ったマスコミは相変わらず「嫌韓キャンペーン」の大合唱。そんななか、韓国人学者らが書いた『反日種族主義』なる書籍の日本語版が今月、文藝春秋から出版された。編著者の李栄薫(イ・ヨンフン)氏は元ソウル大学教授の保守論客で、その弟子にあたる李宇衍(イ・ウヨン)氏ら6人の研究者・ジャーナリストによる論考集だ。
この本、今年7月に韓国で発売されるやベストセラーになり、日本のワイドショーの嫌韓特集でも度々好意的に取り上げられていたのだが、その宣伝文句は「韓国で通説とされる歴史認識のウソを明かした」なるもの。ようするに、徴用工問題や慰安婦問題など日韓政府で対立している問題を軸に、「韓国人が韓国側の“反日”はウソや捏造だらけと糾弾する」らしい。著者らは『正論』(産経新聞社)などのインタビューに引っ張りダコで、日本の右派メディアは惜しみない賛辞を送っている。
〈慰安婦、徴用工における韓国反日歴史観のウソを立証した画期的な「反日種族主義」の日本語版「反日種族主義~日韓危機の根源」が日本発売されるやベストセラーのトップにおどり出た。これまで自国を支配してきた歴史観を正面から否定する挑発的な論であるにも関わらず韓国で11万部という異例のベストセラーとなり、いまも売れ続けている。〉(久保田るり子・産経新聞編集委員、「文春オンライン」11月14日)
〈徴用工問題、慰安婦問題に象徴される韓国の歴史観を「ウソで固めた堕落した精神文化」と批判し、「これを克服しなければ亡国の予感を拭い去れない」と反日勢力を徹底的に糾弾したのだ。〉(久保田るり子氏、「正論」10月号)
〈日本人や米国人ではなく、韓国人の学者らが、自国による「歴史の捏造」を暴露したわけだ。この勇敢な人々に最大限の賛辞を贈りたい。この本が、日本語や英語で翻訳出版されれば、文在寅政権も、いつまでも「反日」政策を続けられないだろうな。〉(テキサス親父、「zakzak」9月26日)
版元の文藝春秋にいたっては、月刊「文藝春秋」12月号に「『反日種族主義』を追放せよ」という特集記事(著者鼎談)のタイトルを表紙に持ってくるなど、大々的に売り出しをしかけている。
とくれば、本サイトとしてもスルーするわけにはいくまい。そう思い、さっそく読んでみたのが──。
はっきり言って、驚いた。その内容のほとんどが、日本の右派が従来から主張してきた歴史修正主義やフェイクと瓜二つ。「画期的」どころか、日本の歴史修正本やヘイト本を“トレース”しているかのようだったからだ。
たとえば李栄薫氏が担当する同書のプロローグからして、ネトウヨたちがSNSで吐き出している韓国ヘイトそのもの。「嘘の国」「嘘をつく国民」「嘘をつく政治」「嘘つきの学問」「嘘の裁判」と、これでもかと“韓国国民は嘘つき”“嘘つき文化の国”と畳み掛けるのだ。
〈韓国の嘘つき文化は国際的に広く知れ渡っています〉
〈この国の国民が嘘を嘘とも思わず、この国の政治が嘘を政争の手段とするようになったのには、この国の嘘つきの学問に一番大きな責任があります。私が見るところ、この国の歴史学や社会学は嘘の温床です。〔中略〕そのため、二〇〇〇年代に入ると全ての国民、全ての政治が平然と嘘をつくようになったのです。〉
〈嘘が作られ拡散し、やがて文化となり、政治と司法を支配するに至った過ぎし六〇年間の精神史を、何と説明したらよいのでしょうか。人が嘘をつくのは、知的弁明力が低く、それに対する羞恥心がない社会では、嘘による利益が大きいためです。〉
そして著者は、韓国の「民族主義」は西洋のそれとは異なる「種族」(≒未開的な意味での部族tribe)と呼ぶべきであるとし、〈隣の日本を永遠の仇と捉える敵対感情〉の集団心理によって〈ありとあらゆる嘘が作られ広がる〉様態を「反日種族主義」と名付けるのである。
いやはや、まるで百田尚樹センセイとかケント・ギルバートが書いたヘイト本を読んでいるのかと錯覚してしまいそうになるが、本章を読み進めても、やっぱり歴史修正主義的なミスリードのオンパレード。もっとも端的なのが、戦時中の徴用工問題を「否定」するくだりだろう。
『反日種族主義』の徴用工をめぐる記述はフェイクだらけ
たとえば、著者のひとりである李宇衍氏は、日本で重労働を強いられた朝鮮人徴用工たちの「強制連行」や「強制労働」を〈明白な歴史の歪曲〉〈誇張を超えて歪曲、率直に言って捏造〉などと主張する。
いわく、戦時の朝鮮人徴用工には前期から「募集」「官斡旋」「徴用」に分かれていたが、前の2つは朝鮮人たちの日本で働きたいという「自発的な選択」に任されたものであり、国民徴用令に基づく「徴用」も〈当時の朝鮮の青年たちにとって日本は、一つの「ロマン」でした〉などと言って〈朝鮮人労務動員を全体的に見ると、基本的には自発的であり、強制的ではありませんでした。強制連行だったとは言えません〉と述べる。
いや、ちょっと待ってほしい。たしかに、戦前の労務動員計画と国民動員計画に基づく朝鮮半島からの動員は1939年からの「募集」と1942年からの「官斡旋」、そして、強制性に議論の余地がない徴用令に基づく1944年からの「徴用」に分類されるが、そのいずれも、日本政府の閣議決定を経て日本の行政機関が関与したものであり、史料からそれら動員の多くに暴力や強制性がともなっていたこともはっきりとしている。
つまり、朝鮮人たちが「ロマン」を求めて自由に日本へ出稼ぎに来た、など印象づけるのは明らかにフェイクだ。朝鮮人の労務動員は、大日本帝国政府の方針に従い、明確に当局が管理した“国策”に他ならなかった。
たとえば「募集」にしても、「民間企業が自由に朝鮮人を集めて日本に連れてきた」というようなものではなく、各企業から申請された「移住朝鮮人」の数を厚生省が査定し、内地からの指示で朝鮮総督府が自治体に割りふり、その指定を経て、現地の日本人警察官らと一体となって行われていた。
「官斡旋」の形式においても、その強制性を当時、朝鮮の労務動員を担う部局の職員自身が語っている(外村大『朝鮮人強制連行』岩波書店)。1943年11月に東洋経済新報社の主催で朝鮮総督府の官僚や企業幹部らが出席した座談会で、朝鮮総督府厚生局労務課の職員は、労務者の取りまとめが「非常に窮屈」であるから「仕方なく半強制的にやってゐます」として、こう証言を続けているのだ。
「その為輸送途中に逃げたり、折角山〔鉱山〕に伴れていっても逃走したり、或ひは紛議を起すなどと、いふ事例が非常に多くなって困ります。しかし、それかと云って徴用も今すぐには出来ない事情にありますので、半強制的な供出は今後もなほ強化してゆかなければなるまいと思ってゐます」
こうした状況について朝鮮総督府上層部も把握していた。1944年4月の訓示のなかにも〈下部行政機関も又概して強制供出を敢てし〉との文言があることから、強制的な動員が行われていたことを当局が認識していたのは確実なのである。
たしかに、元徴用工らの証言には「自ら進んで日本行きを志願した」というような話もないわけでないが、それはごく一部であり、全体に敷衍して「強制性がなかった」ことの根拠にするのは悪質なフレームアップと言わざるを得ない。
強制連行の研究で知られる東京大学の外村大教授は、「特に90年代半ばからですね、史料の発掘が進み、いろんな話が出てきました。朝鮮人の待遇が日本人よりよかったとか、自ら望んで来た人がいたとか。いずれも事実の断片ではあるんですよ。じゃあ暴力的な連行や虐待は例外的だったかというと、それは違う」「事実というものは無限にあるものです。都合のいい事実だけをつなぎあわせれば別の歴史も生まれる。でも、それは『こうあってほしい』というゆがんだ願望や妄想に近い」と断じている(朝日新聞2015年4月17日インタビュー)。
麻生太郎財務相の一族経営の炭鉱で行われていた朝鮮人徴用工虐待
しかも、『反日種族主義』のなかで李宇衍氏は、朝鮮人徴用工らの待遇について〈賃金は基本的に正常に支給されました〉〈「労働環境における民族差別」という主張は、想像の産物であり、歴史歪曲に過ぎません〉などとも主張している。フェイクだ。暴力による強制労働や過酷な環境での生活を余儀なくされたという朝鮮人徴用工たち証言は、枚挙にいとまない。
一例として、現在の麻生太郎財務相の出身でも知られる麻生家が仕切っていた福岡県下の炭鉱の例をみてみよう。厚生省の集計によれば、1939〜45年にかけて麻生鉱業へは少なくとも1万623人が連行された。麻生系の炭鉱では「朝鮮人地獄」と呼ばれるような光景が広がっていたという。
複数の元朝鮮人徴用工の証言によれば、麻生系の赤坂炭鉱では、朝鮮人寮の周囲は針金のついた板壁で囲まれており、監視所と番人に見張られて外部との面会もできなかった。労務事務所には留置所のような監獄部屋があった。坑道内は暑く、臭気がこもった。日中戦争が始まると扱いは酷くなり、休みも認めず、逃亡したりサボったりした坑夫は木刀やベルトなどで殴打されるなど、暴力的な強制労働が行われたという(竹内康人『調査・朝鮮人強制労働①炭鉱編』社会評論社)。
長崎の端島(通称、軍艦島)での元徴用工の証言もあげておきたい。周知のように軍艦島は、2015年に安倍首相の肝いりでユネスコの世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」に含まれている。
1943年に14歳で連行された崔璋燮さんは、高等国民学校での木銃の訓練の最中、いきなり捕まえられて益山の郡庁に連れて行かれた。翌日、汽車で釜山へ運ばれた。釜山からは原田という名前の日本人よって船で博多まで引率され、長崎に向かい、再び船に乗せられて着いたのが端島だった。「端島がどんな所か何も話さず、無条件に良い所だと騙して、あの手この手で逃亡を防ぎながら連行した」という。2010年の市民団体によるインタビューのなかで、崔さんは端島での強制労働や生活をこう語っている(長崎在日朝鮮人の人権を守る会・編『〔増補改訂版〕軍艦島に耳を澄ませば 端島に強制連行された朝鮮人・中国人の記憶』社会評論社)
「石炭を掘り出す仕事、採炭だ。わずか一週間だけ採炭現場を見学させて、仕事に就かせた。一番方、二番方、三番方というふうに三交代で一日一六時間労働のときと、二交代で一日一二時間労働のときとあった。一度に四〇人ずつ、坑口から三、〇〇〇尺もの地下にものすごいスピードで降下して、身の縮む思いがした。現場は暑くて汗だくなので、一年中、褌一丁で働いた。〔中略〕汁かけ飯一杯食っただけで長時間働くのだから、みんな栄養失調状態になった。仕事が終わって、七メートルはある防波堤の上に毛布を敷いて体を休めていると、脚が痙攣を起こした。『俺、死にそうだ』という呻き声も聞こえた。しかも賃金をもらったことはない。私の記憶は確かだ」
日本人炭鉱婦も朝鮮人に対する差別的待遇、虐待、憲兵によるリンチを証言
差別的待遇を証言しているのは、朝鮮人徴用工だけではない。長崎県・日鉄鉱業池野炭鉱の炭鉱婦だった女性は「炭坑労働者の朝鮮人は、『半島』『半島人』と呼ばれ、それはもうとてもかわいそうでした。今思い出しても、涙が出ます」と振り返っている(長崎在日朝鮮人の人権を守る会・編『原爆と朝鮮人 長崎県朝鮮人強制連行、強制労働実態報告書 第5集』)。
「食べ物がなくて、腐ったみかんを拾って食べている朝鮮人を、憲兵がひどくなぐっているのを見たことがあります。どんなに体の具合が悪くても、休ませなかった。あるとき、四〇過ぎの朝鮮人労務者が、とても疲労がはげしくて『少し、上がらせてくれ』とたのんだが、聞き入られなかったので、風洞の中へ入った。それを見つけて引っぱられたが、一晩で顔の形相が一変してしまいました。それははげしいリンチを受けたからだと思います」
元炭鉱婦の証言によれば、重い箱を頭から被って、17、8歳くらいの朝鮮人の新人が即死した事件もあったという。
「入坑して二週間目ぐらいの子でした。そのとき、上の人たちは、『朝鮮人の一人や二人死んだって、筆で書けば事はすむ。日本人(報国隊)だったら、指先一つ切ってもうるさいが……』といっていました。死んだその子の顔は、今でも覚えています。本当に朝鮮人は無理無体でした。みんな一生懸命に働いていたのに」
『反日種族主義』は、朝鮮人徴用工たちについて「自由意志で日本へ出稼ぎに出た朝鮮人」「待遇も日本人と変わりなく、民族差別はなかった」と誘導するが、これがいかにデタラメかがわかる。繰り返すが、朝鮮人徴用工の「強制連行」や「強制労働」を証明する史料や証言は山ほどあるし、当局の担当者の証言や文書、あるいは日本の炭鉱での悪環境に耐えきれなくなった朝鮮人が暴動を起こしたという公的記録も残っているのだ。
文藝春秋のHPでは〈本書がいわゆる嫌韓本とは一線を画すのは、経済史学などの専門家が一次資料にあたり、自らの良心に従って、事実を検証した結果をまとめたものであるということだ〉などと大見得を切っているが、はっきり言って、都合のよい一部の史料だけを恣意的に使っているだけであり、「トンデモ本」の類とみなすべきだろう。
しかも、勘の良い読者はもうお見通しだろうが、この『反日種族主義』なる本、その主張の多くは安倍政権の立場と極めて親和性が高い。
韓国での『反日種族主義』出版の裏に日本の極右ネトウヨ人脈の存在が
たとえば元徴用工らが起こした裁判について、安倍首相は国会で「今回の裁判の原告は(徴用でなく)全部『募集』に応じたため、『旧朝鮮半島出身労働者問題』と言いたい」など、さも自由意志で出稼ぎに来た人々かのように答弁している。また、徴用工などの戦後賠償の問題が「1965年の日韓請求権協定で解決済み」という安倍政権の立場は、「請求権協定によって整理されている」と言い張る同書とほぼ同じだ。
そして、慰安婦問題についても『反日種族主義』は「強制連行」や「性奴隷」を否定し、“朝鮮半島では日本軍慰安婦制度以前から売買春が盛んで、戦後も盛んである”という趣旨の主張を重ねて、〈慰安婦については、日本に対して請求権を主張できる対象ではなかった〉〈民間でも、慰安婦を植民地支配の被害者と認識していませんでした〉〈一九九〇年以前に慰安婦問題は存在しなかった〉などと主張し、吉田清治や挺対協、元慰安婦の女性らの証言によってつくられた〈架空の新たな記憶〉であるとさえ言い張っている。
おそらく既視感があるだろう。そう、安倍晋三自身が若手時代、「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」という自民党の勉強会で、同じようなロジックで“強制連行はなかった”“基本条約のときに請求権を主張していない”“売買春は韓国の生活文化に溶け込んでいる”という趣旨の発言をしているのだ。
あらためて、1997年12月に出版された『若手国会議員による歴史教科書問題の総括 歴史教科書への疑問』(日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会編)から、安倍の発言を振り返ってみよう。
「実態は強制的に連れていかれたということになると、本人だけではなくて、その両親、そのきょうだい、隣近所がその事実を知っているわけですね。強制的にある日、突然、拉致されてしまうわけですから。横田めぐみさんみたいに連れていかれちゃう。そうすると、周りがそれを知っているわけですね。その人たちにとっては、その人たちが慰安婦的行為をするわけではなくて、何の恥でもないわけですから、なぜその人たちが、日韓基本条約を結ぶときに、あれだけ激しいやりとりがあって、いろいろなことをどんどん、どんどん要求する中で、そのことを誰もが一言も口にしなかったかというのは、極めて大きな疑問であると言わざるを得ない」
「ですから、もしそれが儒教的な中で五十年間黙っていざるを得なかったという、本当にそういう社会なのかどうかと。実態は韓国にはキーセン・ハウスがあって、そういうことをたくさんの人たちが日常どんどんやっているわけですね。ですから、それはとんでもない行為ではなくて、かなり生活の中に溶け込んでいるのではないかとすら私は思っているんですけれども」
どうだろう。韓国で出版された『反日種族主義』が、多くの点で日本の右派の歴史修正主義や安倍政権の立場を“トレース”するかのような内容になっていることがお分かりいただけたかと思う。そこで、読者の多くは「なぜこんな本が韓国で唐突に出版されたのか?」と疑問に思うのではないか。
事実から話そう。実は、『反日種族主義』は最初から日本での発表を予定して作られていた。そして、その手引きをしたのは、安倍首相を取り巻く日本の極右界隈だった。つまり、同書の出版は、ある種の「日韓右派のマッチポンプ」の可能性すらあるのだ。詳しくは稿を改め、近日中にお伝えする。
(編集部)
最終更新:2019.11.18 02:18
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