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共同も「官邸の意向」と報道、統計不正は森友加計と同じだ! 厚労省に圧力の中江首相秘書官は安倍首相の子飼い官僚
15日の国会で答弁する安倍首相(衆議院インターネット審議中継より)
統計不正調査が森友・加計問題と同じ「首相案件」の様相を呈してきた。2018年1月から「毎月勤労統計」の調査手法を変更したことで賃金伸び率を上振れさせた「アベノミクス偽装」問題で、なんと2015年3月31日に、中江元哉首相秘書官(当時。現在は財務省関税局長)が、厚労省職員らに「問題意識」を伝えていたというのだ。
しかも、この首相秘書官の暗躍を裏付けるような報道が飛び出した。共同通信が本日、「官邸意向で見直しか 厚労省勤労統計の手法」というタイトルで記事を配信。記事では、厚労省関係者が「毎月勤労統計」の調査手法の変更を検討した経緯について、「国会でも賃金の話が出ており、何とかしなきゃいけないと思った」と証言したのである。
本サイトの前回記事でも時系列を詳しく伝えたが(https://lite-ra.com/2019/02/post-4543.html)、問題の出発点は2015年1月にサンプリングデータの入れ替えをおこなったことにある。「毎月勤労統計」の調査では従業員500人未満の事業所を2〜3年ごとに総入れ替えする方式をとってきたが、それによって過去の賃金が低い数字に転じることがあり、2015年1月の総入れ替えでもプラスからマイナスに転じる月が出てきた。
この事態を重く受け止めたのは、厚労省だ。事実、この数字を発表するのは2015年3月31日の予定だったが、30日に発表の延期を決定。そして、3月31日に中江首相秘書官に説明をおこなったのだ。
公表日を延期してまで厚労省職員がわざわざ首相秘書官に説明するということ自体が異常な状況だが、じつはこのとき、中江首相補佐官が厚労省に「安倍首相の意向」というかたちで圧力を加えたのではないかと言われている。
実際、中江首相秘書官は財務省出身で、現在も財務省関税局長に戻っているが、じつは安倍首相の子飼い中の子飼い官僚なのだ。
ほかでもない安倍応援団・御用ジャーナリストの田崎史郎氏がそのことを証言している。田崎氏は第二次安倍政権発足直後の2013年、安倍首相がいかに財務省と距離をとっているかを物語るエピソードとして、こう書いている
〈安倍は新内閣発足に当たり、首相秘書官に財務省が推薦した人物を拒否し、官房審議官だった中江元哉を引っ張った。安倍が財務省出身秘書官の候補に描いていたのは中江と、主税局総務課長だった矢野康治の2人。安倍が中江を起用したため、官房長官・菅義偉は矢野を官房長官秘書官に据えた。
ポイントは財務省が送り込んだのではなく、安倍も菅も財務省から自分が信頼する人材を“一本釣り”したことだ。これまでは財務省が推薦する秘書官をそのまま使うことが多かったが、官邸人事の初っぱなから財務省の思い通りになっていないのがこの政権の特徴だ。〉(「現代ビジネス」2013年2月11日)
つまり、安倍首相の子飼い官僚が厚労省に対する窓口となって、賃金が上昇しているように見えるような調査方式をとるよう圧力をかけていたのだ。これはまさに、加計問題における柳瀬唯夫首相秘書官の役割を彷彿とさせる構図といえるだろう。
中江首相秘書官の厚労省への圧力は「問題意識を伝えた」レベルじゃない
当の中江前首相秘書官は14日の衆院予算委員会で追及を受けた際、「昨年7月に首相秘書官の職を辞している。本日は関税局長として出席しており、所管外のことは答えを差し控える」と答弁を拒否。15日、「当時の首相補佐官」としてようやく答弁に立ち、2015年3月31日の件について、こう説明した。
「経済の実態を適切に、タイムリーに表すために『改善の可能性について考えるべきではないか』という問題意識を伝えた記憶がございます」
「(厚労省側との)一連のやりとりはすべて、政策的な観点からのものであると考えております」
中江前首相秘書官は「政策的な観点」などと言うが、首相の右腕から直々に「改善の可能性について考えるべき」と突きつけられた厚労省職員は、一体どう受け止めたか。
いや、そもそもこの場で中江首相秘書官がおこなったのが、「改善の可能性について考えるべき」などという生易しい提案だったとは信じがたい。
というのも、厚労省は約2カ月後の6月にはさっそく調査方法を見直すための「毎月勤労統計の改善に関する検討会」(以下、検討会)を発足。この検討会の委員である第一生命経済研究所の永濱利廣氏は、朝日新聞の取材に対し「官邸が(改訂を)問題視して、なんとかしろと言う話で厚労省が立ち上げたのが検討会」と話しているが、ほかの委員もこんな証言をおこなっている。
「サンプルを(全数)入れ替えるたびに数値が悪くなるそれまでのやり方に官邸か、菅(義偉官房長官)さんかが『カンカンに怒っている』と言って厚労省職員は検討会の最初から相当気にしていた」(東京新聞10日付)
「プラスだと喜んでいたところ実はマイナスだったということで、官邸が怒っているという話を、誰からか聞いた記憶はある」(朝日新聞15日付)
検討会の最初から、安倍官邸から受けた“恫喝”を有識者委員に対して厚労省職員が語っていた──。中江首相秘書官が言う「問題意識を伝えた」という言葉と、厚労省職員の震え上がり方には、あまりにも落差がありすぎるだろう。
「問題意識を伝えた」という程度の話ではなかったことは、中江首相秘書官に直接、説明をおこなった厚労省の姉崎猛・統計情報部長(当時)の言動からも滲み出ている。姉崎統計情報部長は、検討会の第1回会合で、最初にこう述べているからだ。
「アベノミクスの成果ということで、賃金の動きが注目されておりまして、この研究会のテーマでございます「毎月勤労統計調査」でとっている賃金、特に実質賃金の動きが世の中的に大変大きな注目を浴びております」
「賃金の動きが、今月上がった、下がった、どのぐらい上がったと注目されている中で、いきなり過去の3年間に遡って変わってしまったために、一部では、人騒がせな統計だとか、サプライズだとか、毎月勤労統計ショックだとか、いろいろな言葉で大変騒がれたというか、いろいろな御意見を各方面からいただくようなことになりました」
中江首相秘書官が安倍首相に「賃金が低く出る」と報告したのを境に…
国の労働賃金実態を表すための統計を、「アベノミクスの成果」を表すためのものだと言ってしまっているあたりからも、姉崎統計情報部長が中江首相秘書官から伝えられた「問題意識」が大きなインパクトを与えていることがよくわかるが、じつは、このあともっと露骨な動きが出てくる。
きょうの衆院予算委員会では、中江首相秘書官がいつ安倍首相にこの統計の問題を伝えたのかが焦点のひとつとなったのだが、そこで中江前首相秘書官はこう答弁した。
「(2015年)9月に賃金について国会で質問があり、2015年のサンプル替えの影響があったという答弁を総理答弁として準備していたので、その答弁の勉強会の際に(総理に)説明した」
「(勉強会は)当日の午前中」
この「国会質問」とは、2015年9月3日の厚労委員会で共産党の小池晃議員がおこなった質問だ。このとき、小池議員は派遣法の問題を取り上げ、そのなかで「社員一人当たりの給与額は大企業でも1%しか増えていない」と追及し、対する安倍首相は「実質賃金は改善をしてきている」としながら、6月に賃金が名目・実質ともにマイナスとなった要因について「これは本年1月におこなった調査対象事業所の入れ替えもありまして」と答えている。
つまり、この答弁をつくるために9月3日当日の朝におこなわれた「勉強会」で、サンプル事業所を総入れ替えした結果、賃金が低く出ている問題をはじめて安倍首相に伝えた、と中江首相秘書官は言うのである。
果たしてそのような重大な問題を約5カ月も伝えていなかったのかとも思うが、しかし、じつはこの日を境に大きな変化が起こったのも事実だ。
というのも、この9月3日を境に、前述した姉崎統計情報部長の忖度にさらに拍車がかかり、検討会の方針が大きく変えさせられたのだ。
本日、いままで公開されてこなかった検討会の後半3回分の議事録がようやく公開されたのだが、2015年8月7日におこなわれた検討会の第5回会合では、座長である阿部正浩・中央大学教授がはっきりと「検討会の方向性としては、総入れ替え方式で行うことが適当であるということにさせていただければと思います」とまとめている。つまり、中江首相秘書官が述べた「改善」ではなく、現状の総入れ替え方式でという方針が出されたのだ。
ところが、9月16日の第6回会合では、姉崎統計情報部長が議論をひっくり返すように、こう述べている。
「サンプルの入れ替えのところで総入れ替え方式ではなく、部分入れ替え方式を検討したい」
そして、姉崎統計情報部長は「また検討会を開催させていただくことになるかと思っておりますので、その際にはまたよろしくお願いします」と言いながら、結局、それがおこなわれることはなく、検討会はフェードアウト。
さらに、この第6回会合からちょうど1カ月後の10月16日、安倍首相が議長を務める「経済財政諮問会議」において、麻生太郎財務相が「毎月勤労統計については、企業サンプルの入替え時には変動があるということもよく指摘をされている」「ぜひ具体的な改善方策を早急に検討していただきたいとお願いを申し上げる」と指示。この鶴の一声によって政治主導の統計改革がはじまり、賃金がかさ上げされる調査手法へと変更が進められていくことになるのだ。
次々にあきらかになっていく、「アベノミクス偽装」に向けた官邸と安倍首相の関与。安倍首相は13日の衆院予算委委員会で追及を受けた際、「この年、2015年って何があったかというと、平和安全法制ですから。私、1000問質問を受けてるんですよ? これ以外は持ってこないでという状況ですから。そこで統計サンプル入れ替えどうのこうのって、私がそんな関心示すわけないじゃないですか」とシラを切ったが、むしろ、安保法制の強行採決によって内閣支持率が下がることが必至だった安倍首相にとって、経済政策で点数を稼ぐ必要に迫られていたことは事実だ。
ともかく、「首相案件」という恫喝によって官僚から忖度を引き出した加計学園問題と同様、この「アベノミクス偽装」がおこなわれた可能性は非常に高くなってきた。中江首相秘書官は森友公文書改ざん問題でも“今井尚哉首相秘書官の意向を本省に伝えていた人物”として名が取り沙汰されたが、今回の問題では一体、どんな圧力が官邸から厚労省にかけられていたのか、今後さらに解明が必要だ。
(編集部)
最終更新:2019.02.18 09:56
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