差別に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
BTS問題のヘイト的本質とファンダムの新しい力(前編)
BTSバッシングの異常! BTSの軍事独裁政権 ・管理教育批判の演出を「ナチス礼賛だ」と歪曲攻撃したのはナチ信奉者だった
異様なバッシングを受けるBTS(UNIVERSAL MUSIC JAPAN公式HPより)
BTSバッシングが止まらない。「原爆Tシャツ」問題を理由に、『ミュージックステーション』(テレビ朝日)がBTS(防弾少年団)の出演をキャンセルし、番組から締め出した問題については本サイトでも報じたが、BTSに対する攻撃はおさまるどころか、ますますヒートアップしている。
『NHK紅白歌合戦』や『FNS歌謡祭』(フジテレビ)といった音楽番組も、『Mステ』に追随し、オファーの検討を見送ったり、出演の打診を撤回するなどしているという。『NHK紅白』に至ってはBTSとまったく関係のないTWICEへの出演オファーについて苦慮しているという報道まで出ている。K-POPアーティストというだけで排除するなど、異常事態と言うほかない。
さらにBTSは本日11 月13日から日本ツアーが始まり、今回の来日では東京ドーム2公演と京セラドーム大阪3公演が予定されているが(名古屋と福岡の公演は来年)、そのライブ会場でレイシストやネトウヨ層が抗議行動の実施をほのめかしているなど、不穏な状況は続いている。
それだけではない。ネット上でも「原爆Tシャツ」以外にもBTSの過去の活動を掘り返し、「原爆写真が背中にプリントされた原爆ブルゾンを着ていた」「ユニセフのイベントに原爆型の看板を持ち込んだ」「MVで東日本大震災の被害者を愚弄していた」「ナチスの制服に似て見える衣装をステージ上や雑誌撮影で着ていた」などと、次々と新しいバッシングが展開されている。
しかし、そのほとんどがデマや無理やりなこじつけによる、言いがかりやイチャモンの類だ。
たとえば、「ユニセフ韓国支部での会見に、原子爆弾をイメージした原爆看板を持ち込んだ」なる内容をネトウヨ系ニュースサイト「Buzz Plus News」が報じたが、これは完全なデマだ。彼らが持っていたのは、原爆でなく「LOVE MYSELF」というロゴの入った飛行船のミニチュアで、会見に先立って同じロゴとメンバーの写真がプリントされた実際の飛行船が飛ばされたこともニュースになっている。そもそも写真を見れば、そのニュースを知らなくとも明らかに飛行船の形をしていて、広島の原爆とも長崎の原爆とは全然形が違う。そのほかも、話にならないようなこじつけや言いがかりのようなものばかりだ。
唯一、ナチス問題については、外形的にはデマとは言えない。しかしこれも、現在広まっている「ナチスをオマージュした」「ナチスを礼賛した」というような情報は、事実と異なる。
問題となっているステージは、2017年9月、K-POPのベテラン歌手ソ・テジのデビュー25周年記念ライブにBTSがゲスト出演し、「Classroom Idea」という曲を披露した際のもので、BTSが「ハーケンクロイツを模した赤い旗を手に、ナチスの制服を模したステージ衣装」でパフォーマンスしたとされている。
しかし、実際のメッセージはナチス礼賛どころか、全体主義を批判した内容だ。「Classroom Idea」は、もともとソ・テジが1994年に発表したもので、BTSはこのソ・テジの曲をカバーしているのだが、軍事独裁政権下で育ったソ・テジが韓国の管理教育を批判したプロテストソングだ。このライブのパフォーマンスで使われた旗に描かれているのは、ハーケンクロイツではなく管理教育を象徴する卒業帽や時計を組み合わせた意匠で、ナチス風の衣装も学校の制服をモチーフにしたもので、批判的な意味合いでそれらは使っている。
しかも、問題になっている旗や制服風衣装は、ソ・テジが90年代のライブで使ったことのあるスタイルで、BTSがほかのステージでこの曲を披露した際は詰襟制服を着崩したスタイルの衣装だ。問題のステージは、ソ・テジの25周年記念ライブへのゲスト出演だったことから、ソ・テジがかつて披露したスタイルをオマージュしたのだろう。もちろんそれらがナチスを想起させるという点は配慮が足りなかったし、詰襟制服を着崩したスタイルのほうが、本来の管理教育批判のメッセージが際立ちふさわしいとも思う。しかしこのライブパフォーマンスで、BTSがオマージュしたのはソ・テジであって、ナチスをオマージュしたわけでも、ましてや礼賛したわけでもない。「Classroom Idea」は前述した通り、徹底した管理教育で若者の心を殺し、画一的な人間につくり変えようとする学校のシステムを批判した曲だ。それは時代は変われど、BTSがそれまでのキャリアを通じてファンに向けて発信してきたメッセージと共通するもので、BTSが「Classroom Idea」をカヴァーし、またソ・テジの25周年ライブでソ・テジと共に同曲を演奏した意義はそこにある。彼らがナチス的思想を批判する姿勢をもっているのは明らかだろう。
ナチ礼賛をツイートした高須克弥がSWCにBTSを通報
こうしたデマや陰謀論、こじつけや言いがかりによる攻撃が繰り広げられるのにはもちろん、理由がある。本サイトでも報じた通り(https://lite-ra.com/2018/11/post-4362.html)、この問題の本質は「韓国ヘイト」だからだ。事実、『ミュージックステーション』出演キャンセルの裏には、レイシストに扇動されたネトウヨ層たちの電話攻撃があった。
たとえば、韓国人や中国人へのジェノサイドまでをも主張するレイシスト団体「在特会(在日特権を許さない市民の会)」元会長の桜井誠氏は、11月5日に更新したブログで『ミュージックステーション』のスポンサー企業に“電凸”する旨を告知。また、〈桜井は個人的にこれらの企業に11月9日(金)のテレビ朝日の番組について、「貴社は番組に出演する韓国人グループが原爆Tシャツを着て、日本への原爆投下を祝っていることを知っているのか?」「日韓基本条約破棄判決が出たばかりの現在、国民世論が日韓断交で湧き上がっている中で、こうした韓国人を出演させることを是とするのか?」「貴社は反日企業なのか?」など問い糺したいと思っています。恐らく、こうした問い合わせは、桜井だけではなく日本中の心ある皆さんが行っていることと思います。日本人であれば、誰でも自分の国が好き、そこには左右の思想は関係ないはずです〉と書いて、同様の抗議行動を煽っていた。
在特会はこれまで、原爆ドーム解体を主張したり、8月6日に核武装推進を訴えたデモ行進を行うなどしてきた。本当に原爆や核の問題を考えているというのであれば、問い糺されるべきは、ただ単に原爆の写真がプリントされていたTシャツを着ていただけのジミンではなく、桜井氏自身ではないか。
また、ナチスに似ているとされる旗や衣装の告発をユダヤ人権団体のサイモン・ウィーゼンタール・センターに対して盛んに行っているのは、高須クリニック院長の高須克弥氏だが、当の高須氏は以前〈我が国の医学は大東亜戦争に負けるまではドイツ医学だった。ナチス政権下のドイツ医学の発展は目覚ましいものだった〉〈南京もアウシュビッツも捏造だと思う〉といったツイートを投稿して問題となり、いまだ謝罪も撤回もせず開き直っている。
こういったことからわかる通り、彼らは本気で「原爆」や「ナチス」について考えているのではなく、BTSを使って韓国叩きをしたいだけであり、レイシスト的な言動の正当化のために「原爆」や「ナチス」をもち出しているにすぎない。BTSは韓国ヘイトのための単なる道具に過ぎないのだ。
問題の本質をネグり、BTSバッシングに走るマスコミとネット
ところが、その差別を目的とした行動が、いつのまにか、あたかも「社会的な正義」であるかのように変換され、どんどん広まっている。
たとえば、高須氏やネトウヨたちが通報したことで、昨日サイモン・ウィーゼンタール・センターはBTSに対して嫌悪感を示す声明を出した。
在特会らの呼びかけるヘイトデモでは、ナチス旗に似ているどころかハーケンクロイツそのものが掲げられていることも少なくない。日本のレイシストやネオナチが自らの韓国差別を正当化するために、長年ユダヤ差別と戦い続けてきたサイモン・ウィーゼンタール・センターの権威を、「差別の道具」として利用するという、醜悪極まりない事態になっているのだ。
さらに、こうした状況に拍車をかけているのがメディアだ。BTSの問題はワイドショーなども取り上げ始めたが、問題の本質、ヘイトの構造に一切触れることなく、「原爆Tシャツけしからん」というBTSバッシングと韓国バッシングだけを叫んでいる。
ネットニュースも、少しでもBTSを擁護しようものなら大炎上する状況に怯えているのか、擁護論や冷静な分析を展開しているメディアは皆無。逆に、ネトウヨ層に媚びて、BTSバッシング・韓国バッシングをエスカレートさせている。
そして、問題はどんどん広がり。徴用工問題以降、急速に悪化する日韓関係の分断をさらに煽る結果をもたらしている。
まさに絶望的な状況だが、今回のBTSバッシングにはたったひとつ救いがある。それは、「ARMY」と呼ばれるBTSのファンたちがこうした動きに敢然と声を上げていることだ。
これまで、芸能人やアーティストなどがネトウヨの激しい攻撃や炎上にさらされたとき、当人だけでなく、ファンも沈黙してしまうことが少なくなかった。結果的にその芸能人やアーティストは孤立し、一切の弁明の余地もないまま謝罪に追い込まれるのがパターンだった。
ところが、ARMYたちは今回、ネトウヨたちのデマ攻撃や差別攻撃に対して、地道に間違いや歪曲を指摘し、抵抗を続けているのだ。
いや、抵抗を続けているだけではない。今回の問題を通じて、日本と韓国の若者の間で分断を乗り越える新たな動きも出てきている。そのことについては、後編でお届けしたい。
(編集部)
最終更新:2018.11.13 03:49
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