社会問題に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
紗倉まなや鈴木涼美が証言するAV女優のセカンドキャリア問題…偏見は取り払えるのか?
紗倉まな『MANA』(サイゾー)
先日、無修正のわいせつ動画を配信したとして有名動画配信サイトのスタッフおよび、そのサイトの作品に出演していたAV女優とAV男優が逮捕された件は大きなニュースとなった。昨年から社会問題となり続けているAV出演強要問題も収束のメドは立たず、今後もAV業界は岐路に立たされ続けるだろう。
とはいえ、恵比寿★マスカッツを代表としたAV女優のアイドル化の動きはいまだ継続中で、新人のAV女優もひっきりなしにデビューし続けており、その数は一般の人が想像している以上に多い。「週刊ポスト」(小学館)では以前、アダルトビデオメーカー社員の弁としてこんな証言が掲載されていたこともある。
「国内でのAV制作本数は、ネット配信や裏ビデオまで含めると、年間約3万5000本といわれています。単純計算しても1日100本がリリースされている。新人AV嬢も年間2000~3000人は確実にデビューしており、業界ではAV経験者はすでに15万人を突破したといわれています。日本における19歳から55歳の女性の数は約3000万人。大まかですが、3000万人分の15万人で“200人に1人”というわけです」(「週刊ポスト」2011年12月23日号)
こうした状況のなかで、問題となるのは引退後のセカンドキャリアである。しかし、AV女優という仕事は当然のことながら売れれば売れるほど顔が割れる職業でもあり、再就職にはいくらか壁があるということは容易に想像できる。また、現在ではインターネットで過去のアーカイブがいくらでも閲覧できることから、現役当時にAV女優としてさほど有名でなかったとしても、後々になって過去が明るみになってしまうリスクも高い。
そんなAV女優セカンドキャリア問題について、「SPA!」(扶桑社)17年3月14日号に興味深い対談が掲載されていた。対談参加者は、アダルト系の媒体で主に執筆しているライターの安田理央氏と、AVメーカーのディープスやアイデアポケットで社員として働いた後ライターに転身したアケミン氏、そして、元AV女優にして現在はAVプロダクション・GREENの代表を務めているミュウ氏の3人。
このなかで対談参加者たちは、引退後のセカンドキャリアとして、まず多いのはAV業界内で転職するパターンだと口々に語る。
ミュウ「私のようにAV業界内で就職するケースですね」
アケミン「10年ぐらい前から女優出身のAVメーカー広報、経理、制作さんが増えましたよね」
安田「最近はメイクやスタイリストになる女優も多いかな」
同じ職場内で転職するこのパターンは前職に関する偏見や好奇の目にさらされることもなく、また、これまで蓄えてきた現場の経験も活かすことができることから、スムーズにキャリアを移行させやすい転職先だといえるだろう。現役時代300本以上の作品に出演した経験と人脈を活用し、現在はヘアメイクとしてAV業界に携わる水嶋あい氏も、かつて雑誌のインタビューでこのように語っていた。
「もともと美容系の仕事にも興味があったので、現役時代からメイクの学校に通っていました。両立は大変だったけど、女優として呼ばれるいろんな現場で、『実はメイクを勉強してる』って話すと、『じゃあ今度ウチの現場に来てよ』と仕事に直結することも多くて、女優業をやりながら同時に自然と営業にも繋がったので効率もよかったんですよね。収入は現役時代より減りましたが、一般のサラリーマンぐらいは稼ぎます。昔から顔見知りのスタッフさんも多いので信頼関係もできてるし、勝手知った現場だから、『撮影の流れを止めない、使えるメイク』として重宝いただいています」(「SPA!」16年3月8日号)
この他にもまた、職場に男性のいない仕事場も転職先の有力候補となる。前掲「SPA!」17年3月14日号ではこのように語られている。
アケミン「ほかにエステティシャン、ネイリストなどの、「女性だけの仕事」の就職は多いですよ。元人気女優の桜井あゆちゃんも一度、エステ会社に勤務していました」
ミュウ「AVに詳しい女性なんてそうそういないから、女性ばかりだとまずバレないんですよね。看護士や保育士になるのもそう」
ただ、AV女優の転職については高く険しい壁が立ちはだかっている事実を否定することはできない。先ほどアケミン氏の話に出てきた桜井あゆは『うちの娘はAV女優です』(アケミン/幻冬舎)のなかで引退後に就職したエステサロンでの採用面接のエピソードをこのように語っているが、
「エステの面接のときにはAV女優だったことも言いましたよ。私、性格的に隠しごとできないんですよ〜! 隠していても絶対にいつかバレるから、だったら最初から自分で言っちゃおうと思った。店長もすごくいい人で『そんなこと気にしないよ。やる気があればうちで働いて!』って言ってくれました」
残念ながら、現状の日本では、このような偏見のない姿勢で見てくれる企業ばかりではない。昨年、「週刊現代」(講談社)2016年6月11日号で報じられた、ゴールドマン・サックスから内定をもらっていた女性が大学時代にAV女優として活動していたことが明るみになり内定取り消しとなったニュースは大きな話題となった。記事では、AV出演の過去を知った後に会社が内定者の周辺情報を改めて洗い直したところ、私生活で就業規則に反するものがあったことからの内定取り消しであり、直接的にAV出演が原因ではないとされていたが、そもそもAV出演をきっかけに周辺情報の洗い直しが行われたということ自体が疑問で、その説明には何とも腑に落ちないものがある。
こういった例は枚挙に暇がない。AVに出演していた過去(といっても、本人はAVではなくバラエティ番組のようなものだと認識させられており、内容もただ飴を舐めているだけなのだが)が明るみになり出演番組をすべて降板、勤めていたテレビ愛知からも去ることを余儀なくされたアナウンサー・松本圭世氏の騒動、過去のAV出演歴が発覚して人目につかない管理部門の部署へ配属になった小学館の新卒女性社員のケースなど、現在でもまだまだAVに携わった人々をまるで犯罪者のように扱う偏見はなくなってはいない。
そんななかでも、特に矢面に立たされたのが、日本経済新聞の元記者で、現在は社会学者として文筆活動をしている鈴木涼美氏だろう。彼女はAV女優として70本以上の作品に出演していた過去を「週刊文春」(文藝春秋)に書き立てられ、大きな波紋を呼んだ。
鈴木氏が日本経済新聞社を退社したのは、「文筆業との両立に時間的/立場的にやや無理が生じたため」であり、会社側からの懲戒処分ではないとしているが、それでもAV出演の過去が発覚したときは、かなりきつい言葉を浴びせられたと雑誌のインタビューで答えている。
「私も週刊誌に過去を暴露されたときは親に迷惑をかけたり、元勤務先からも『日経のブランドに傷をつけた』など、やっぱりいろいろ言われました」(「SPA!」16年3月8日号)
昨年10月に当サイトが行ったインタビューでは、AV出演者の人権を守るための団体「表現者ネットワーク(AVAN)」代表で、元AV女優・官能小説家・怪奇作家の肩書きをもつ川奈まり子氏が、自らの体験談も交えつつ、AV女優が社会のなかで受ける偏見や差別についてこのように訴えていた。
「AV女優たちの一番の悩みはヘイトクライムです。住んでいるアパートを追い出されるとか、仕事をクビになるとか、職場でイジメに遭うとか。会社でAV女優だった過去がバレてレイプされそうになったという相談すら受けたことがあります。
私もライターとして連載させてもらっている媒体から『川奈さんがAVに出ているなんて知りませんでした。今後の取引は中止させていただきます』と言われたり、編集部は大丈夫でもスポンサーからNGが入って仕事がなくなったりと職業差別を受けてきました」
このような偏見がまかり通っている状況についても、もっと注目されてしかるべきなのではないだろうか? AV女優として活動するのみならず、最近では小説家としても注目を集める紗倉まなは『MANA』(サイゾー)のなかで、AV女優としての自分の仕事の意義についてこのように綴っていた。
〈「AV出演=人生崩壊」というイメージを払拭できたら。偏見という厚い鉄製の壁を壊す作業を、今はアイスピックくらいの小さい工具でほじくっているような気持ちです。ちょこちょこといじるのが私の楽しみであり、仕事のやりがいでもあります。「もしかしたら、何かの拍子にツンとつついたら壊れるかもしれない」と希望を抱けるのも、ある意味で“グレーな領域の仕事”だからこその醍醐味なのかもしれません〉
出演強要に関わる問題を端緒に、現在AV業界に関して多くの議論が交わされているが、こういったAV女優たちが引退した後のセカンドキャリア問題についても前向きな意見の交換がなされればと思うばかりである。
(田中 教)
最終更新:2017.11.21 07:41
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