横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」⑤

慰安婦“少女像”に過剰反応する安倍首相の差別思想! 慰安婦を“嘘つき”よばわり、「キーセンは韓国の日常」と暴言

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安倍晋三公式サイトより


 札びらと形だけの謝罪で「慰安婦問題は最終決着」と楽観視していた安倍首相が、自ら墓穴を掘ろうとしている。

 2015年12月28日の日韓外相共同記者発表で、安倍首相は元慰安婦に対し「心からお詫びと反省の気持ちを表明する」と間接的に伝え、財団設立への10億円拠出も発表。翌年1月の通常国会では「韓国とは慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認し、長年の懸案に終止符を打ちました」と自画自賛した。

 しかし今回、釜山の少女像設置に対して駐韓大使一時帰国という強硬手段に出たことで、韓国世論は反発。野党も日韓合意撤回や再協議を主張し、春に予定される大統領選の大きな争点となることは確実だ。このことで、さらに慰安婦問題は長期化し、日韓関係悪化を招く可能性さえ高まっている。

 安倍首相はなぜ、日韓関係悪化を招く“国賊的愚行”に走ったのか。その根底には、元慰安婦への差別感情があるように見える。未だに謝罪も撤回もしない過去の暴言に目を向けると、「嘘つきが多い元慰安婦に10億円出したのだから黙っていろ!」という安倍首相の本音が透けて見えるのだ。

 安倍首相の若手議員時代の“本音トーク”が収録されているのは、1997年12月に出版された『若手国会議員による歴史教科書問題の総括 歴史教科書への疑問』(日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会編)だ。高市早苗総務大臣や下村博文元文科大臣や根本匠元復興大臣らも登場する“お友達”発言集である。

 この本の編集をした「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(以下、「議員の会」)が結成されたのは、97年。中学校歴史教科書に従軍慰安婦の記述が載ることに疑問をもつ若手議員が集まり、歴史教育のあり方について真剣に研究・検討、国民的議論を起こすことなどを目的に設立されたが、当時当選二回の若手議員だった安倍氏はこの会の事務局長を務めていた。

 そして6回目の勉強会では「河野官房長官談話に至る背景」をテーマに河野談話当時の内閣官房副長官だった石原信雄氏が説明した。安倍氏はこの時、戦後46年間の沈黙を破って元慰安婦が名乗りを上げたことに対し、いくつもの言いがかりをつけたのだ。

 まずは北朝鮮の拉致問題と重ね合わせた強制的連行否定論だった。

「実態は強制的に連れていかれたということになると、本人だけではなくて、その両親、そのきょうだい、隣近所がその事実を知っているわけですね。強制的にある日、突然、拉致されてしまうわけですから。横田めぐみさんみたいに連れていかれちゃう。そうすると、周りがそれを知っているわけですね。その人たちにとっては、その人たちが慰安婦的行為をするわけではなくて、何の恥でもないわけですから、なぜその人たちが、日韓基本条約を結ぶときに、あれだけ激しいやりとりがあって、いろいろなことをどんどん、どんどん要求する中で、そのことを誰もが一言も口にしなかったかというのは、極めて大きな疑問であると言わざるを得ない」(前掲『若手国会議員による歴史教科書問題の総括』より)

 日韓基本条約が締結されたのは65年だが、元慰安婦の金学順さんが初めて名乗りを上げたのは91年。そこで安倍首相は、26年経ってから声を上げたことをあげつらい、「北朝鮮の拉致問題と同様、強制的連行なら恥ずべきことではないから、もっと前に名乗りを上げるはず」という疑問を投げかけたのだ。

 現代の日本社会でさえ、レイプされた被害女性が名乗り出ることをためらうケースがたくさんある。強制されて慰安婦になったら堂々と名乗り出ているはずだ、などと平気でいうのは、女性の人権への意識がまったくないとしか思えない。しかも、慰安婦は当時、韓国を植民地支配している日本軍の行為なのだ。それを、いきなり行方不明になった北朝鮮の拉致犯罪と同列に語るというのは、話のすり替えもいいところだろう。

 二番目に飛び出したのは、富山に慰安所がなかったことを根拠とする“元慰安婦嘘つき発言”だった。

「私は慰安婦だったと言って要求をしている人たちの中には、富山県に出ていたというようなことを言う人だっています。富山には慰安所も何もなかった。明らかに嘘をついている人たちがかなり多くいるわけです。そうすると、ああ、これはちょっとおかしいな、とわれわれも思わざるを得ない」(前掲『若手国会議員による歴史教科書問題の総括』)

 この元慰安婦とは、カン・ドッキョンさんと考えられる。しかし、カンさんはNHKの番組「戦争――心の傷の記憶」(1998年8月14日放送)に登場し、その中で「『いい仕事がある』と言われて日本に来たら、富山の軍需工場で働かされる羽目になったが、脱走した時に軍人に強姦された後、大本営の移転先として工事中の長野県松代の慰安所に連れていかれた」という足取りが紹介されているのだ。つまり安倍首相は、こうした経緯をよく調べずに「富山に慰安所はなかったから嘘つき」と決めつけた可能性が高い。嘘を言い張ったのは安倍首相のほうなのだ。

 三番目が、儒教思想国家を否定する“韓国売春大国説”に基づく疑問呈示だった。講師の石原氏が戦後46年間沈黙したことについて「非常に儒教思想が強い韓国では性の問題については非常にナーバス」「たとえ強制されたとはいえ売春のようなことをしたことを認めることは非常に恥」などと説明をしたのに対し、安倍氏はこう反論したのだ。

「ですから、もしそれが儒教的な中で五十年間黙っていざるを得なかったという、本当にそういう社会なのかどうかと。実態は韓国にはキーセン・ハウスがあって、そういうことをたくさんの人たちが日常どんどんやっているわけですね。ですから、それはとんでもない行為ではなくて、かなり生活の中に溶け込んでいるのではないかとすら私は思っているんですけれども」(前掲『若手国会議員による歴史教科書問題の総括』)

 ここでも安倍首相は、“韓国売春大国”で沈黙し続けたのはおかしいという疑問を投げかけたのだ。安倍首相の思い描く“元慰安婦像”が明らかになっていく。それは「元慰安婦=キーセンハウスで働く売春婦=強制性のない商業的行為(ビジネス)だから問題なし」というものだ。

 同じような見方をするのは、安倍首相だけではなかった。「(若手)議員の会」幹事長だった衛藤晟一参院議員も「今だってまだ世界のいろいろな売春組織があったり、大変失礼な話だけれども、韓国にもついちょっと前までキーセンというシステムがあった」(前掲『若手国会議員による歴史教科書問題の総括』)と発言した。

 日韓合意直後にも、桜田義孝衆院議員が「(慰安婦は)職業としての娼婦、ビジネスですよ」「キーセンパーティーは韓国の外交、商業活動」と似たような主張をしていた。

 また橋下徹・大阪前市長も13年5月、「(沖縄で)米兵は風俗をもっと活用するといい」と言い、従軍慰安婦肯定論を展開。国内外から批判が殺到しても、橋下氏は「風俗業を否定することは自由意志で選んだ女性に対する差別」と反論した。慰安婦を商売と捉えて開き直るのは、安倍首相と重なり合うのだ。

 安倍首相の20年前の“本音トーク本”を詳しく紹介したのは他でもない。2001年に起きたNHKのETV特集番組改変事件をはじめ、14年の日韓合意から今回の少女像撤回要求に至るまで「慰安婦=売春婦」という見方は引き継がれているとみえるからだ。

 14年9月16日、参院議員会館。慰安婦問題に関する朝日新聞バッシングを考える集会で、元NHKプロデューサーの永田浩三・ 武蔵大学教授は、安倍氏のキーセンハウス発言などが載った本を手でかざしながら、「ETV2001問われる戦時性暴力」における番組改変事件を振り返った。

「NHKは『自主的に変えた』と言っていますが、政治介入があったとらえた方が自然です。放送の前、伊東律子番組制作局長(当時)が“黄色本”(『歴史教科書への疑問』)という本のページを開き、『言って来ているのはこの人たちよ』と告げました。そこには『議員の会』の前事務局長だった安倍首相らの名前が列挙されていました。伊東局長は『政治家が言って来ているのだから、分かってね』と恥ずかしそうに伝えました。『そんなことは許されない』という現場感覚がまだ錆びついていなかったのでしょう」

 元「慰安婦」問題を扱ったETV 2001は、安倍氏らの圧力を受けたと疑われるNHK幹部の指示で内容が劇的に変わった。放送予定前日、当時官房副長官だった安倍氏ら国会議員との面会を終えて松尾武放送総局長(当時)と野島直樹総合企画室担当局長(当時)が戻ってきた後、番組内容の改変が指示された。元慰安婦や元日本兵の証言などが削除され、放送時間も4分縮められてしまった。

「当時、こんな押し問答もあった」と永田氏は振り返る。

「安倍氏と面会をした野島氏は慰安婦についての表現を『ビジネスで慰安婦になった人たちですと言えないか』と提案、私が『事実と違う』と拒否したことがありました。安倍首相はいまだに過去の発言を撤回していませんが、オランダの飾り窓を引き合いに出して慰安婦問題は解決済とした籾井勝人会長の就任発言を聞いた時、97年当時のキーセンハウス発言が時計が止まっていたかのように蘇りました」

 既に韓国メデイアは安倍首相の暴言を取り上げ、07年に韓国の国会議員であるウリ党のユ・キホン議員も来日、外務省に抗議書を渡した。日本でも、阿部知子衆院議員(現・民進党)が07年5月7日と11日に国会で追及したこともあった。

 今回の少女像撤回要求で、安倍首相の暴言批判が再び噴出しても不思議ではない。すでに日韓合意直後から反発はあった。韓国の支援団体は「被害者や国民の願いを裏切った外交的談合だ」と非難。合意翌月の昨年1月26日、韓国人の元慰安婦が来日、両国政府の合意は「間違っている」と批判したのだ。

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来日した元慰安婦の姜日出さん(左)と李玉善さん(右)


 直接謝罪しなかった安倍首相への怒りを露わにしのは、ソウル近郊広州市で元慰安婦が暮らす「ナヌムの家」から来た李玉善さんと姜日出さんだ。彼女たちは戦時中に旧満州(中国東北部)で慰安婦をさせられた女性である。

「私たちは強制的に連れて行かれて全身傷だらけになって帰ってきました。それなのに安倍首相はなぜ、私たちを無視して後ろに隠れてばかりいるのでしょうか」(李玉善さん)

 安倍首相の暴言については、姜さんも「ウソをついているのは(安倍首相ら)日本政府の方です。ウソをつきながら(私たちを)嘘つき呼ばわりしているのです」と怒った。

 いまだに過去の暴言を撤回も謝罪もしていない安倍首相の本音を、韓国民はこう見抜いているのではないか。「アメリカの要請で札びらと形だけの謝罪で日韓合意にこぎつけたが、本音は謝罪する気は全くない」と。

「ナヌムの家」にはカン・ドッキョンさんの追悼碑がある。安倍首相はここを訪ねて、嘘つき呼ばわりをしたことを謝罪するべきだろう。過去の暴言を撤回し、心からの謝罪がない限り、慰安婦問題の真の解決はあり得ない。
(横田 一)

最終更新:2017.11.15 06:13

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