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『NEWS23』岸井は放送法違反じゃない、『ミヤネ屋』宮根と日テレ青山の露骨な安倍応援こそ「知る権利」の妨害だ!
「放送法遵守を求める視聴者の会」ホームページより
TBS『NEWS23』岸井成格氏の番組内発言を糾弾し、4000万円以上ともいわれる巨額の金を積んで意見広告を読売・産経新聞両紙に出稿した「放送法遵守を求める視聴者の会」。本サイトでは、岸井氏降板問題、そして「視聴者の会」の隠された政治的背景を報じてきたが、もうひとつ、「視聴者の会」の主張には根本的な誤りがあることを指摘しておきたい。それは同会が事実を操作し、「放送法」と「知る権利」の解釈を恣意的にねじまげ、「表現の自由」をおびやかそうとしている、ということだ。
まず、「視聴者の会」の主張をあらためて振り返ろう。同会が問題視しているのは、岸井氏が9月16日放送の『NEWS23』で発した、こんな言葉だ。
「メディアとしても(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」
岸井氏の発言に、同会の意見広告では「放送法」第4条をもち出して〈岸井氏の発言は、この放送法第四条の規定に対する重大な違法行為〉と非難。〈TBSが、新聞や雑誌などと違い番組編集権準則を踏まえなければならない放送事業者〉であるのに、ニュース番組のキャスターという〈局を代表〉する立場から岸井氏が〈「法案廃案」を全国の視聴者に拡宣しようとした〉ことは〈放送法違反〉だと述べている。
また、同会は『NEWS23』が〈法案成立までの一週間、法案反対側の報道のみに終始しています〉と指摘し、〈ここまで来ると、偏向報道と言うよりも、国民の知る権利を蹂躙するプロパガンダであって、報道番組とは見なし難い〉と批判している。
だが、こうした「視聴者の会」の主張は、あまりに作為的で、事実とかけはなれたものだ。
その典型が、〈法案反対側の報道のみに終始し〉たという主張だろう。今回の意見広告には、『NEWS23』だけでなく、各局の報道番組における「安保法制両論放送時間比較」というデータが掲載されていて、「視聴者の会」によれば、NHK『ニュースウオッチ9』、日本テレビ『NEWS ZERO』テレビ朝日『報道ステーション』、TBS『NEWS23』、フジテレビ『あしたのニュース』では、取り上げられた賛成の意見はごくわずかで、圧倒的に安保法制反対の意見が取り上げられていたという。
彼らの調査では、『NEWS23』ならば「反対93%(4109秒)/賛成7%(325秒)」、『ニュースウオッチ9』でさえ「反対68%(980秒)/賛成32%(463秒)」となるらしい。
だが、これは本当に根拠のある数字なのか。試しに本サイトでもVTRをもっていたNHK『ニュースウオッチ9』で放送を再度確認、時間を計測してみたが、たとえば16日の放送で安保法制を報じた時間は12分54秒、そのなかで反対派意見(反対デモ参加者のインタビュー)はたったの22秒だった。これのどこが“偏っている”というのか。デモの規模と国民の大多数が国会での採決に反対していた事実を踏まえれば、むしろ少ないくらいだろう。
同会は同調査について「発言者や場面ごとに賛否についての判断を行い、複数調査員により、複数回調査し平均を出しました」と説明しているが、前回の記事でも指摘したように、このデータを提供したのは、「視聴者の会」事務局長の小川榮太郎氏が代表をつとめる「一般社団法人日本平和学研究所」なる“身内”の団体で、一体、何を賛成意見・反対意見と分類したかはまったく不透明だ。彼らが割り出した秒数から察すると、反対コメントだけでなく、反対デモの様子や、この期間に行われた中央・地方公聴会における野党推薦人の口述までも反対にカウントしているのではないか、という疑問さえ浮かんでくる。
しかも、この調査が作為的なのは、調査日が「9月14日〜18日」に設定されている点だ。ご存じの通り、この期間は安保法制が委員会および本会議で採決された週で、連日、大規模な反対デモが国会前で繰り広げられていた。あれだけの規模の市民デモが起これば、国会内の情勢と合わせて報道するのは当然の話である。
逆に、あれだけのデモが起きているのに、それを無視して報道しなかったり、あるいは100人規模の安保法制賛成デモを同じ扱いにしていたとすれば(実際NHKのようにそうしていた番組もあったが)、それはもはや、反政府デモや政府批判を一切伏せて報道している中国国営テレビとなんら変わることはない。「視聴者の会」は日本を中国並みの情報統制国家にしたいのだろうか。
さらに、同会がクローズアップする岸井氏の「メディアとしても廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」という発言についても、取り上げ方が非常に恣意的だ。「視聴者の会」は、岸井氏があたかも党派的に法案に反対で、メディア業界に廃案運動を呼びかけたように解説しているが、これは意図的に発言の文脈を無視したものだ。
安保法制は、その法案内容への賛否以前に立法上の手続きが問題になっていた。11の法案をひとまとめにして審議・採決しようとする前代未聞の乱暴な国会運営、安倍首相はじめとする政権側の二転三転する答弁、新3要件のあやふやな基準。首相の側近から飛び出した「法的安定性は関係ない」という問題発言。そして、与党が国会に招致した長谷部恭男教授をはじめとする大多数の憲法学者による「安保法制は憲法違反」とする声──。こうした状況の中で、安保法案は強行採決された。
岸井氏はこうした憲法や民主的手続を無視する行為に対して、批判の声をあげ、廃案にして一から議論をし直すことをメディアの立場から主張したにすぎない。
違法な行為をしたのはむしろ政権の側であり、それを非難した岸井氏の主張はむしろ法治国家の報道機関として当然の発言と言っていいだろう。もし、これが許されないなら、テレビ局は、犯罪やテロに対しても、賛否両論併記をしなければいけなくなる。
ようするに、「視聴者の会」は、政権のやったことについては、それがどんなに犯罪性があろうと批判してはならないといっているに等しいのだ。
しかも、連中が悪質なのは、そこに、「放送法」や「知る権利」を歪曲する形で持ち出していることだ。
彼らは岸井氏が「放送法第4条違反だ」と喚き立て、総務省に対して見解を変更して圧力を強めること要求しているが、先日、放送界の第三者機関であるBPO(放送倫理・番組向上機構)が意見書で政権による番組への介入を「政権党による圧力そのもの」と非難した際、明確に示されたように、放送法とは本来、放送局を取リ締まる法律ではない。逆に政府などの公権力が放送に圧力をかけないように定めた法律だ。
放送法は第1条で「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保すること」と定めているが、これも政府に対して表現の自由の保障を求め、政治権力の介入を防ぐ規定である。
「視聴者の会」が持ち出した第4条には、たしかに、放送事業者に対して〈政治的に公平であること〉を求める規定がある。だが、その規定についてメディア法の権威である故・清水英夫青山学院大学名誉教授は著書『表現の自由と第三者機関』(小学館新書、2009)でこう解説している。
〈そもそも、政治的公平に関するこの規定は、当初は選挙放送に関して定められたものであり、かつNHKに関する規定であった。それが、「番組準則」のなかに盛り込まれ、民放の出現後も、ほとんど議論もなく番組の一般原則となったものであり、違憲性の疑いのある規定である。〉
〈かりに規定自身は憲法に違反しないとしても、それを根拠に放送局が処分の対象になるとすれば、違憲の疑いが極めて濃いため、この規定は、あくまで放送局に対する倫理的義務を定めたもの、とするのが通説となっている。〉
つまり、第4条は放送局が自らを律するための自主的な規定にすぎず、これをもって総務省ほか公権力が放送に口を挟むことはできないということだ。むしろ第4条を根拠に公権力が個々の番組に介入することは、第1条によって禁じられていると考えるのが妥当だろう。
しかも、第4条の〈政治的に公平である〉というのはイコール、政府の政策について賛成反対を同じバランスで紹介するということではない。
「両論併記こそが公平中立だ」というこうした主張は、「視聴者の会」だけでなく、ネットやメディア関係者の間でも口にする人が多いが、そこには、政府と国民の間にある情報の発信量の差、政策に関する情報はもっぱら行政の側だけが発信、コントロールできるという認識がすっぽり抜け落ちている。
実は、日々、メディアで報道されているストレートニュースのほとんどは発表報道、つまり権力が自分たちに都合よく編集したプロパガンダ情報なのだ。これがただタレ流されるだけになれば、政策や法案にどんな問題点があっても、国民には知らされず、政府の意のままに世論がコントロールされてしまうことになりかねない。
「表現の自由」の研究で知られる憲法学の権威、故・奥平康弘東京大学名誉教授は、国民主権を保障し、国民が国政に参加するためには「表現の自由」とそれが内包する「知る権利」が不可欠であるとした上で、こう述べている。
〈知る権利は、現代国家における行政権優位の現象に、国民の側がかろうじてバランスをとるため不可欠な防禦策として登場したのである。知る権利がなければ、国民はただやみくもに巨大な権力に支配されるままになるであろう。〉(『知る権利』岩波書店、1979)
そう。だからこそ、国民の「知る権利」を守るために、メディアは政策、政府の流す情報を監視し、その問題点を指摘する必要があるのだ。発表報道の膨大な量を考えれば、スタジオ解説で政府の政策の問題点を徹底的にチェック、批判し、反対意見を重点的に紹介して、ようやく政治的公平が担保されるといってもいい。
安保法制も同じだ。国会や政府の動きを伝えるニュースのほとんどは、政権側の立場に立って編集し、政府の主張をそのまま流すものだった。さらに、南シナ海での中国軍の活動や自衛隊機のスクランブル発進など、間接的に「安保法制の必要性」を示唆する発表報道も次々流され、これらを含めれば、賛成意見の放送時間が圧倒的に多かったといえるだろう。
そんな中で、『NEWS 23』や『報道ステーション』は放送法違反どころか、キャスターやコメンテーターが安保法制の問題点を指摘し、反対デモを取り上げることで、政治的公平を担保し、国民の知る権利を守ろうとしていた数少ない番組だったのだ。
むしろ、問題があったのは他のテレビ番組のほうだろう。あれだけ問題の多い安保法制をほとんどなんの批判もしないで、安倍政権の代弁のような解説を垂れ流し続けたNHK、そして日本テレビ、フジテレビの一部の番組は国民の「知る権利」を明らかに妨害していた。
その典型が安倍首相が出演した9月4日の『情報ライブ ミヤネ屋』(読売テレビ)だろう。この日、司会の宮根誠司とコメンテーターを務めた日本テレビ報道局解説委員・政治部副部長の青山和弘氏は徹頭徹尾、安保法制を肯定し、安倍首相を擁護し続けた。
たとえば、安倍首相が出てくる前に、まず、青山解説委員が「憲法改正するのが筋道ですが、日本国憲法は非常に憲法改正手続きのハードルが高いんですね」とフォロー。長谷部恭男教授が国会で「憲法違反」と証言したことについても、宮根と青山解説委員は多くの憲法学者が違憲だとしていることにふれず「キャスティングミス」との一言で片付けた。
安倍首相が登場すると、このフォローはもっと露骨になる。安倍首相が砂川判決を持ち出すと、宮根が「改正というよりも憲法の中に(集団的自衛権を使って国民を)守らなくてはいけないということが入ってるんですね」と相槌を打ち、青山解説委員は「違憲か合憲かよりも、この安全保障環境の変化にどう対応するか」「中国、北朝鮮の脅威について、どこまで説得力ある説明ができるかにかかっているのに、外交上の配慮があってできないところに、もどかしさがある」とその言い分を代弁する。
そしてきわめつきは、番組終盤、宮根から「これから国会審議をどうやって見ていったらいいでしょうか」とふられた青山解説委員がこう発言したことだった。
「たとえばこのあと、この法案が廃案にされては困りますので、うまくこう、巻き込んでいく。その努力の姿を見ていく必要がありますよね」
「廃案にされては困る」とはもはや、政権側の代弁者であることを自ら表明しているようなものではないか。しかも、青山解説委員はただのコメンテーターでなく、日本テレビという放送局の政治報道を代表する存在なのだ。これこそが、国民の知る権利を妨害し、放送法の理念にもっとも反する行為だろう。
ところが、「視聴者の会」はこうした安倍擁護の側の発言には一切触れず、『NEWS23』と岸井氏に対して〈偏向報道と言うよりも、国民の知る権利を蹂躙するプロパガンダであって、報道番組とは見なし難い〉とがなりたてるのだ。
この事実ひとつとっても、彼らの目的がもっともらしく主張している“公平なテレビ報道”などではなく、たんに、安倍政権に批判的な番組をつぶすことにあるのは明らかだ。
だが、由々しきことに、ネット上では同会のこんなインチキな主張に騙され、「TBSは偏向している」「岸井は降ろされて当然」という声も目立つ。いや、彼らとは無関係に、多くの人が「放送における報道の役割」を履き違え、両論併記が公平だと信じ込んでいる。それは視聴者だけでなく、報道に携わる人間でも同様だ。
前出の清水英夫名誉教授も前掲書の中でこんな指摘をしている。
〈最近のメディア規制の特徴の一つは、それが国民に支持されている、と公権力側が信じていることである。そして、それが必ずしも彼らの誤解・曲解ではないところに、実は本当の危機がある。BPO(放送倫理・番組向上機構)には、放送番組に関して、毎日多くの意見や苦情が寄せられているが、注目すべきなのは、その中に、公権力による放送取り締まりの要望と必要性を主張する意見が、少なからず含まれるようになったことである。〉(前出『表現の自由と第三者機関』より)
だからこそ、いまは繰り返して言わなければならない。公正な報道とは、両論を取り上げることではない。ましてや政権の言い分をそのまま垂れ流すことなどでもない。権力を監視すること、報道への権力の介入を許さないこと、それが大原則なのだ。
(編集部)
最終更新:2016.06.19 02:19
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