40歳以上のひきこもり100万人以上!高齢ひきこもりの社会復帰を阻むもの

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『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探してる人たち』(講談社現代新書)

 情報番組『あさイチ』(NHK)で特集されたこともある、「SNEP」という言葉をご存じだろか? 「solitary non-employed persons」の略で、2012年に東京大学社会科学研究所教授の玄田有史氏が提唱した、「20歳以上59歳以下の未婚の無業者のうち、普段ずっと一人でいるか、一緒にいる人が家族以外にはいない人々」を指す言葉だ。就業できないという問題も含んでいるが、「SNEP」が特に問題視されるのは、周囲から孤立していることである。社会との接点がないために存在が表面化しにくかったが、7月には大手掲示板に「18歳から、42年間ひきこもり還暦を迎えた」という男性がスレッドを立てて、自身の人生を「42年間、三食食べてテレビ見て雑誌読んでビデオ見てみたいな生活の繰り返し」と後悔し、ネット民に大きな衝撃を与えた。

 スレ主が本当に「42年間ひきこもり還暦を迎えた」のかを確かめる手立てはないが、そうした人が実在することを裏付けるような数字が各自治体から発表されている。2013年に山形県が公表した調査結果では「ひきこもり」に該当する1607人中、40代〜60代以上の中年が717人と約45%を占め、島根県が14年に公表した調査では該当者1040人中、40代以上が521人で53%とひきこもりの半数が中年であることが明らかになってきた。内閣府は10年に「『ひきこもり』70万人、潜在群155万人」という調査結果を出しているが、『大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探してる人たち』(講談社現代新書)の著者・池上正樹氏は、内閣府は39歳までの人しか調査していないことを指摘し、各自治体の調査比率をあてはめると、40歳以上のひきこもりは少なくとも100万人(潜在群含む)に上ると推計している。

 中年のひきこもりというと、「働きたくないという極度の甘え」「経済力を持っている親がいるからできること」といった偏見により特殊なケースだと思われがちだが、実際は誰にでも起こり得る状況なのだ。自身の病や親の介護のために退職したり、リストラに遭って、再就職が困難なまま月日が過ぎているケースが多いようだ。若年層であれば再雇用も比較的容易で、就業支援を受けることも可能だが、中高年の再雇用は非常に難しい。にもかかわらず、健康状態に問題がなければ生活に困窮する状態であっても、生活保護や高齢者福祉の対象外・もしくは「当てはまらない」と言われることが多く、いわば「セーフティーネットの狭間で置き去りにされてきた」存在なのだ。

 ひきこもりが孤立化・長期化しやすい原因は、「迷惑をかけるな」という風潮が強いため、本来必要な人が生活保護の申請をせずに家にこもってしまったり、ひきこもりの子を「家の恥」として隠すあまりに家族が支援の情報を阻んでしまったり、さまざまな要因が複雑に絡み合っていることも多い。また、求職に前向きな人でも、違法まがいの怪しい求人や、語学力や資格などの“神様スペック”を要求する非現実的な企業の求人、待遇の悪さで離職率が高く何度も新規案件で回ってくる“カラ求人”など、機能していないハローワークが「ひきこもりからの『立ち直り』を阻害する」と、池上氏は指摘している。

 では、ひきこもりの「立ち直り」を促すには、どうすればいいのか。本書には、ひきこもり状態の人を対象に訪問診療を行っている静岡県の医療チームや、「ひきこもりの人や障害のある人などの社会復帰のために就労支援や機能訓練、地域の人たちとの交流の場」となる施設「こみっと」を開設した秋田県藤里町の取り組みなどを紹介している。もちろん、こういった専門家や行政の支援というのは、必要不可欠だろう。しかし本書を読んでいると、一番意識を変えなければいけないのは、ひきこもりの復帰を受け入れる社会の方なのではないかと感じさせられる。本書に登場する、元大手金融機関社員の男性は、社会復帰の際に身をもって知った感覚をこう話す。

「私が感じたのは、一旦、仕事を離れると人としての価値が下がったような扱いをされることです。理想的なのは、大学を卒業してから現在まで仕事が一貫していて、転職の回数も少なくて、途中のブランクがないこと。石油やガスのパイプラインじゃないですけど、継ぎ目がちゃんとつながっていて、途中で漏れていないことなんです」

 もともと日本は、退学・退職といった“社会からのドロップアウト”に非常に厳しいと言われている。しかし、いじめなどによる小中高生の不登校件数は17万件を超え、今から迎える大介護時代では「介護離職」も急増するという予測もある。人生において“空白”の時期がないという人は少なくなっていくだろう。社会から一時離れてしまった人を柔軟に受け入れる意識が浸透することが、彼を支援する制度を促し、孤立状態を脱する手助けになるのではないだろうか。
(江崎理生)

最終更新:2014.12.18 07:16

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